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Re:searchX(レクス)の思議

作者: 風月

 初夏を思わせる香りが周囲を漂い、梅雨らしい湿度が辺りを包み込む昼下がり。

 雑然とした小部屋では、超常現象を追うサークルの活動が今日も行われていたーー


「うぁっついよぉ。この時期に30度ってさぁ……っは! これこそ超常現象じゃんっ!」


 と、もうすぐ床に滑り落ちそうなほどに、だらりと椅子に身を預けている色白女子は、北河(きたがわ) アリス。


「超常現象とは説明出来得る事象には使えない言葉ですよ、アリスさん」


 とアリスのはす向かいでノートパソコンに向かい合う、金属質なメガネが似合う顔立ちは、進藤(しんどう) ハルキ。

 アリスはのそりと座り直す。すると今度は机に突っ伏しながら


「いいのっ。アリスにとってはもうこれがね、超、超常現象なんだよ。むぅぁ、机もあったかい……自動で冷える机とかないのかなぁ」


 ぺたりとスライムに化したアリスの横で漫画を読む、褐色肌が健康的なボーイッシュは、石動(いするぎ) エミル。

 エミルは一笑すると


「そんなもん、ねこ型ロボットでも持ってないだろうな。ってか、そんなもんあったら電気代やばいだろ、だいたい冬はどうすんだよ」


「冬はさ、温かくなればいいんだよ。そうすればさぁ、こうやってるだけで快適でしょ?」


「えっ、その度に机に突っ伏すとか……。それこそ怪奇現象、ってかある意味ホラーだわ」


 アリスは、むくりと起き上がるとエミルに徐に近寄っていく。その気配を感じたエミルは不意に体を構えたが、既に遅かった。


「おいっ、何やってんだよ近づくな暑い。は、な、れろぉ」


「えへへ、やだぁ。いや、少しでも気を紛らわそうと思ってぇ……」


 そう言うと今度は、エミルをくすぐり始める。


「ちょっあはは、や、やめっ……やだ」


「おぉ、どれどれここかぁ?」


「あっははっやだ、やめ……やめっ」


 そして部屋に


ーーパンッ!


 と高い音が鳴り響く。エミルが手に持つ漫画でアリスの頭を思いきり叩いたのだ。


「やめろっつってんだろ……!」


 と、息絶え絶えに叫ぶ横でアリスは


「いったぁ……痛いよ!」


 と頭を押さえうずくまる。


「知るかっ、それは自業自得だろ」


 するとアリスは、何故か不敵な笑みを浮かべ


「ふふ……そうか、私は怒ったよエミル。今日からアリスは……!」


 目をギラっとさせたかと思うと、エミルめがけて突っ込んでいく。そして


ーードタッ!


 逃げようとするも椅子ごと倒され


「痛って……! ちょっ、何やってんだよお前。うわ、や、やめろばかあっははは!」


 またくすぐり地獄が始まろうとしていた。その時、ガチャリと扉が開く音。

 そこに現れたのは、低身長を気にする癖っ毛の小ぢんまりしたリーダー、(じん) ショウタだ。

 はしゃいでいる二人に呆れ顔で


「二人とも、この暑い中何やってんのさ……元気だなぁ」


 エミルは、隙を見てアリスを向こうに突き放すと、片手で服をパタパタさせ


「いや、こいつがくすぐってきたんだよ……ったく汗かいてきたし」


 アリスは、スパッと起き上がり


「おぉっカミ降臨だ! なら仕方ない、今日のとこは勘弁してあげるけど、覚えてなさいエミル!」


 それはこっちのセリフだと一蹴するエミル。それを横目にショウタは肩を落としながら


「だからカミって呼ぶな、ジンだ。小学校の頃からどれだけ馬鹿にされてきたことか……。

 それはそうと、もうみんないるのか?」


 ハルキがキーボードを打つ手を止めて


「いえ、スズさんがまだですね」


 と、眼鏡の位置を直す。


「そっか、まぁ始めるか。たぶんいつものだろうしなぁ、そのうち来るだろ」


 いつもの、というのはファンクラブ対応である。スズはミスキャンパスのためファンクラブがあるのだ。

 するとアリスはエミルの胸をジト目で見つめ


「スズちゃん人気だもんねぇ……おっぱいでかいしね」


 それに気づいたエミルはムスッとして


「おいこっち見んなっ、お前も似たようなもんだろ!」


 するとショウタは深いため息を漏らして


「小さい……。そうだよな、身長高いもんな。スズより低い俺って……世の中、理不尽なもんだよな」


 これにエミルはフォローしてやらねばと慌てて


「え、い、いやまぁ大事なのってサイズじゃないだろ。中身だよ中身!」


「そうだな……さて、早速始めるか」


 こうして定期ミーティングが始まった。ここでは各メンバーが超常現象の類の話を持ち寄り、合議して調査対象を決めることになっている。

 その後、結果を考察したうえで、その報告を運営サイトに乗せるという流れでサークル『Re:searchX(レクス)』は活動しているのだ。



ーー報告が終わると次に合議の時間が始まった。ショウタは団扇でパタパタとしながら


「んん……どう思うハルキ」


「ふむ、やはりショウタさんの廃校にまつわる話が現実的かと……」


「そっかぁエミルは?」


「私は一つ言うなら、アリスのは無いな」


 するとアリスは頬を膨らませ


「何それぇ。いいじゃん小旅行みたいに思えばさぁ!」


「いや、小旅行じゃねえし北海道の最果ては」


 そこに付け加えるようにハルキが


「交通費だけで片道約8万はかかりますね」


 ショウタは顔を青ざめさせて


「は、8万!? いやいや無理だ、やめようそれは」


 その時だった。またガチャリと扉が開き誰かが入ってくる。


「ごめん遅くなって! ミーティング始まってるかしら」


 現れたのは、長い髪と端正な顔立ちの副代表、三条(さんじょう) スズだ。

 アリスは、待ってましたと言わんばかりに勢いよく立ち上がると


「はっ、来たな……! 我らが敵、人類の敵、おっぱいセイジンめっ」


「たしかにおっぱいはあるけど、そんな異端の者になった覚えはないわよ私」


 その場に泣き崩れるアリス。それを横目にショウタは


「あぁちょうど良かったよ、いま報告が終わったとこなんだ。でも今回パッとしなくてさ……」


 スズはお洒落なカバンをテーブルに置き、飲み物を取り出すと


「そうだったのね、私も聞かせてもらっていいかしら?」


「うん、もちろん。ハルキお願いしていい?」


「はい。こほん……では僕から、報告概要を説明しますねーー」



 説明を受けたスズは、あははと苦い顔で


「あはは……ううん、たしかにそれは悩むわよね……。今回は試験期間と被ってもいたからね、仕方ないわよ。あ、でもそれならかえって良かったかも。実はね、面白い話があるの」


 これに、一同が首を傾げた。


「実は、最近知り合ったアイドルの子がいるんだけど、その子に相談を受けてね、話を聞いたらーー」



 スズの話は2年ほど前にSNSで爆発的に拡散され話題となった動画に係るものだった。

 その動画とは舞台セットのような廃村が映り、撮影者が散策するように歩いていく。ところが、1分程で悲鳴が入って不自然に終わるという奇妙なものだった。

 当時、その奇妙さと雰囲気のリアリティさゆえ、場所を探し当てようとする者が続出した。しかし、タグで市町村までは分かっているのに、誰も探し当てることができず……。

 やがて拡散され過ぎた情報は、尾ひれが付き出所も分からない状況になってしまった。挙句、それ以降、次々と動画が削除されてしまったのだ。次第に諦めムードとなり熱りは冷めたーー

 


ーーなんとこの動画撮影者が、そのアイドルらしいのだ。これにハルキは冷静な面持ちで


「なるほどですね。つまり例の怪動画の真相を解明でき、ロケ地も分かる一石二鳥の案件……」


 ショウタは前のめりに


「ちょ、ちょっと待って、本当にその子が本人なの?」


「ええ、間違いないわ。元動画の日付は間違いなく2年以上前のものだったから」


「うわぁまじか……でも、なんでそんなことをスズに?」


「それが少し複雑な話で、詳しい話は本人から聞いてほしいのよ。みんなこの後の予定は?」


 ということで一同は、エアコンの故障した小部屋から、市街のオアシス、カラオケボックスへと場所を変えることにーー



 部屋に入るとアリスは真っ先にエアコンの温度をマックスまで下げ、嬉しそうにソファに転げると


「天国だぁっ! アリスはオレンジジュースねっ」


 エミルは、カバンをポンっと椅子に投げて


「こんな下げんなよ、もう冷えてるだろ。ってか、ドリンクバー行く気全くないのなお前」


「だってエミル優しい子だもんねぇ? だからアリスのもお願いっ、この通り」


 拝むように合掌するアリスに


「ったく……はぁぁ、わあったよ。ハルキは?」


「あ、僕は水で」


「え、水かよ……。ショウタは何がいいの?」


「あぁ俺も行くよ。スズは電話で呼んでくれてるしさ、来る人のも用意しなきゃじゃん」


「おっ助かるよ、サンキュー」



 その後、部屋で皆が涼んでいると、清純そうな見た目の女子が現れた。例のアイドルだ。

 まだ高校生くらいだろうか。そして軽く皆の自己紹介が済むとスズは


「ーーミチル、悪いけどもう一度、あの話をしてくれるかしら?」


 ミチルは手をもじもじさせて、こくりと頷くと


「うん……あの、今日はわざわざすみません、集まってもらって。改めてまして、私は林松(りんしょう) ミチルです。実はあの動画はーー」


ーー話によると当時ミチルは若手アイドルの肝試し企画のため、もう一人のアイドルとスタッフ3人でロケに出ていたらしい。

 その場所は人形供養で知られる寂れた山岳寺院。雨の中、撮影を無事に終えた一行は車で山を下るのだが、その途中とあるものと遭遇する……それが例の廃村である。

 急遽そこでもロケを決めたクルーは撮影準備を始めた。その待機時間にミチルは初企画の記念にと、廃村で例の動画を撮ったようなのだ。

 その後撮影を済ませて廃村を後にしたのだが、車を出して少し経った頃、ミチルはふと妹の形見を落としたことに気づいたという。そのため、車を止めるようにお願いしたのだが……直後、なんと土砂崩れにあい車ごと押し流されてしまったらしい。

 それからの記憶は曖昧で、気づけば少し下ったあたりの道路に倒れていたという。それから幸いスマホがあったことで意識が朦朧としつつも自力で救急を呼び、助かったようだ。

 そして付近には連日、捜索隊が入るのだが……結局、死体だけが見つかるという事態に。

 それからミチルは、自分だけ不自然な形で助かったことや、無くした形見を探したい思いから、あの時立ち寄った廃村を自分で調べ始めたという。

 しかし寺院の場所は分かれども、偶然見つけた廃村に関する情報は有力なものが何一つ出て来ず……。

 そこで思いついたのが、例の動画を流し廃村があると思われる周辺を往来してもらおうということ。ところが話題にはなったものの、廃村はなかなか見つからない上、なぜか次々と動画が削除されてしまうという事態に。

 それでも未だに諦めきれずにいるミチルは、スズが謎の事案を追うサークルに所属していると知り、密かに話を持ちかけたようだーー

 スズは軽くため息をついて


「ーーということなのよ。正直、私達なら協力できるかなって思って提案してるのが本音。でも、もし村が見つかればスクープにはなるわ」


 ショウタは驚きを隠し得ないで


「あの怪動画にそんな経緯があったんだ……」


 アリスはストローを甘噛みしながら、上目遣いで


「なるほどぉそうだったんだぁ……。

 ねぇ、ミチルちゃん。妹さんの形見ってどんなものか聞いてもいいの?」


「あっはい、ロケットです。妹のコハルは一緒にアイドルを目指していたんです。でも持病が悪化して夢をあきらめざるを得なくなって……。

 その時、お互いの誕生花を押し花にして中に入れたロケットを交換したんです。いつも一緒に頑張ろうって。残念ながら3年前に他界してしまいましたが……。

 だから私にとってはとてもとても大切な物なんです……」


 ミチルのスマホで動画をチェックしていたハルキは不意に顔を上げ


「……あの、聞きたいことが二つほどあるのですが」


 ミチルは思いつめた表情のまま


「……はい、なんでしょうか」


「この動画の最後の悲鳴はいったい?」


「それは私の声です。あの時ユリに……あ、えっと一緒にいたアイドルの子なんですけど。彼女に脅かされて声が出たんです。ロケットはたぶんその時に落としたんだと思います」


「なるほど。では次に動画の途中、ここの人影はいったい誰ですか?」


「え……人影、ですか?」


 ハルキはミチルに切り出した画像を見せる。そこには微かにだが人影が確認できた。ミチルは目を見開き


「っそんな……あの時たしかにクルーは車の側にいました。近くには、この直後に後ろから脅かしに来たユリだけしかいないはずですが……」


 思わず皆もこぞって画面を覗き込む。ショウタは目をしかめ


「マジか、前見た時気づかなかった……」


 アリスは固まりながら


「えっ……こ、これもしかして幽霊なのかな……」


 エミルは後退りして苦笑。


「い、いや本当にいたらヤバいだろ。別に怖くねぇけどさ……」


 ハルキはふむとやや俯き


「まぁ、いずれにせよ、調査しないとこれ以上はわかりませんね」


 ショウタはメロンソーダを一気に煽り


「まぁでもそんな大切な物なら探してあげたいよ。それに廃村撮影できるだけでも株も上がるしね。みんないいだろ?」


 全会一致で調査することが決定した。



 迎えた調査2日目。ミチルも同行している。

 場所は長崎県山岳地域、周辺はかなり人っ気がなく寺院や民家などの家屋はかなり離れて点々としていた。

 1日目は周辺へ聞き込み調査を行い、下調べと地理確認を行った。

 土砂崩れがあったとされる場所は現在、既に復旧されているようで他の道に合流する形で、山の上の寺院へ繋がっていた。そのため、今日はミチルの記憶を頼りに、より正確な場所を絞り出す予定だったのだが……結局のところ、それらしきものは一切見当たらず。何ら収穫の無いままホテルへと戻ることになってしまった。



 ホテルの一室、テーブルに資料がいろいろと並べられる前で、エミルはため息混じりに天を仰ぎ


「あぁマジかよ、なんでこんな探してんのに見つかんないんだ……」


 スズは手元の資料をまとめながら


「ううん、そうね。小道にも入って散々探したのに、おかしいわね。どうしたものかしら」


 アリスは手元いっぱいに広げた地図を指でなぞりながら


「ううむ……っあれ。寺院って裏手の道合わせると3つも道あるんだねぇ。今日行ったっけ?」


「え、何言ってんだよ2本しかないだろ。こことここ」


 とエミルは首を傾げ、自分の地図を手に指差す。そこで急に


「そうだっ!」


 とハルキが声を上げた。皆は一斉に驚いてハルキへ視線を向ける。

 スズは身構えた体を解きながら


「ちょっとやめてよ急に、びっくりするじゃない」


 ハルキはアリスの地図をいきなり手に取ると


「アリスさん、これどこで?」


「えっ……聞き込みの時におばあちゃんがくれたの」


 するとハルキは不気味に笑いだす。その姿にアリスはドン引きしながら


「どしたの、ハルキンきもいんだけど……」


 エミルも顔をしかめ


「そうだぞ、どうしたお前疲れたのか?」


「いえ疲れてません。それよりみなさん見てください」


 そう言って飄々と二つの地図を並べ始める。すると確かに、道の数は上りは同じだが寺院から出る下りの数が違っていた。


「なぜ未知の本数が違うのか。それはエミルさんのは最近発行されたもので、アリスさんのは昔のものだからです」


 エミルはぽかんとして


「新しい方が正確だろ。カーナビにもこの道しかなかったし」


 ショウタがハッと何かに気づき


「そうか……そういうことか」


「そうです。つまり地図の道の本数の違いは土砂崩れの前か後かです。

 おそらく当時ミチルさんが通った道は土砂崩れの後、既存の道に合流させる形で復旧されたんです。

 その証拠に上りの道は途中まで一緒ですが、古い地図は途中から違う方向へ伸びています」


 そこでミチルが咄嗟に


「あっ……確かにあの時通った道は、もう少し傾斜があったような気はします」


「それはおそらく、寺院の裏へ続く3本目の道だったのでしょう。僕たちは気づかずに当時無かった道でひたすら探していたんです。新しい地図をもとに……これでは見つかるわけもありません」


 これに一同が希望に満ちた表情へ変わる。ショウタは意気込んで


「おぉし、これで決まったな。明日は寺院から旧道路を捜索するぞ!」



ーー迎えた最終日。

 住職に聞いたところ裏道となる未舗装裏道があり、古くに作られた近道という。土砂崩れによりかなり被害を受けたらしいが、途中までは下っていけるそうだ。

 また裏道周辺一帯は私有地らしく、今の所有者は2代目となり完全放置という。所有主からは立ち入り許可をすぐにもらうことができた。

 しかし気になる言葉を所有者が残した。それは赤い印より先は所有者不明で立ちいらない場所だということ。

 ともあれ、こうして一行は車1台分ほどの幅員の裏道を徒歩で進むことに。そして休憩を挟みつつ1時間ほどが経過した時。


「おいっあれ見て……」


 とエミルが指さす先には古い小屋が。ハルキが咄嗟にカメラを向けて撮影を始めた。驚く中、ミチルが徐に近づいていく。


「こ……これです。あの景色間違いありません!」


 奥に進むほど見えてくる廃村の姿。入る途中には例の赤い印。少し傾いた石碑のような佇まいで先端が赤く塗られている。それを見たエミルは


「どうするよ、行くか?」


 アリスは先陣を切り


「行こうよ、だって形見探さないとでしょ」


 ショウタは覚悟を決め


「形見を探すのはそこに行かないとできないしな」


 ミチルは希望を胸に、ありがとうございますと皆に頭を下げた。


 そして例の動画の撮影場所へ到達すると、廃村の様子を撮影するのはハルキに任せ、残りで必死に周囲を探すことになった。しかし、形見は一向に見当たらなかった。


「たしかにここで落としたはずなのに。時間経ってるし、もうなくなっちゃったかな……」


 悲しそうに肩を落とすミチルにスズは


「諦めないで、もう少しだけ探してみましょうよ」


「でも場所は分かったし……あの、本当にみなさんありがとうございます」


 その言葉に皆がやるせない表情を浮かべた。ショウタは仕方なしと


「もう日が暮れるから長くはいれない。でも、後5分だけ探してみよう」


 それからしばらくして、全員がもう無理かと諦めムードとなった時だった。

 見るからに真っ青な顔のアリスが


「あれ……ゆゆ、幽霊っ……!」


 と声を裏返してドサッっと倒れこむ。それに気づいた周囲がその方向を見ると、夕暮れ時で輪郭はぼやけるが、確かに白装束をまとった子供と思える姿が確認できた。

 一同が思わず息を飲む中、子供はすぐにさぁっと走り何処かへ行ってしまう。ショウタは唖然としながら


「そんな、どうしてこんなところに……」


「な、なぁ。赤い印って呪いとかじゃねえよな……」


 とエミルは後退りしながらアリスを起こす。ショウタは子供が走り去った方に目をやりながら


「たしかに立ち入らない場所と言われたけど……」


 全員しばらくその場で固まる他なかった。そして気持ちを整え引き返すことを決めて皆が歩き出すと、きゃあっ! と悲鳴が響く。

 ミチルが足をくじいてしまったようだった。スズが手を差し伸べ


「大丈夫? 足元悪いから気を付けないと、ほら立てる?」


「ごめんね、ありがとう」


 するとその後にまたも悲鳴が。今度はアリスだった。


「ね、ねぇこっちに来てるよ……?」


 と泣き顔で指差す先には子供と大人と思える人影。しかも明らかにこっちに向かってきているではないか。

 エミルは泣き顔で


「まじかよなんで増えてんだよ……!」


 アリスはエミルに引っ張られながら


「やだぁまだ死にたくないよ……ぐす」


 全員が一目散にその場から逃げようとするが、ハルキが急に立ち止まる


「ちょっと待ってください、本当に幽霊ですか?」


 ショウタは焦りながら


「何言ってんだよ、早く行くぞっ!」


 とハルキの腕を引っ張る。今度はスズが息を切らしながら


「でも、言われてみれば幽霊ってこんなはっきりと見える?」


 これに全員が覚悟して立ち止まり、追いかけてくる方に目を向ける。

 すると、近づいてきたのはなんと紛れもない人間だった。小学生ほどの女の子と父親のようだ。

 そしてこの後、父親の話によりあらゆることが明らかにされた。


ーーどうやら彼らは隠れキリシタンの末裔で、世間には知られていない小規模集落で独自の信仰を続け、原始的な生活をしているという。

 このことを知る者は麓の村の一部だけ。廃村は大昔に隠れキリシタンが焼き討ちにあった場所で殉教地とされているそうだ。

 例の土砂崩れ当時、父親たちは兆候を感じ廃村の方へ避難する途中だったらしい。そこで娘がミチルを見つけ、父親は避難を勧めようか考えたが、自分たちの存在を知られることに躊躇い、声をかけられなかったという。

 その後土砂崩れが起きると、ミチルたちの身を案じた父親は翌日に現場に行った。

 すると押し流された車の中で数人が既に死んでいたそうだ。そして放り出される形で倒れていたミチルは意識こそ失っていたが、息をしていた。

 そこで助けようとするが、集落には入れることができないうえ、寺院や民家までは距離がある。やむを得ず、昼時に地元民の車が往来の増える道まで担いで運んだそうだ。

 ロケットはその後、娘が拾ってきたらしい。見れば押し花と写真が入っていてすぐに分かったという。娘は、それを助かっていればまた来るかもしれないと大事に保管していたそうだ。

 そして今日ミチルを見つけ、落とし主だと気づいた娘はロケットを渡すために取りに帰り、父親はそれを受けて土砂崩れ時に助けることができなかった謝罪をしに来たというわけであるーー

 一同が愕然とその話に聞き入る中、父親は申し訳なさそうに


「ーー引き返すよう言っていれば、あんなことにならなかったのに。申し訳ない……」


 そして娘は恥ずかしそうにロケットをミチルに差し出した。ミチルは腰を落とし


「ありがとう、大事なものを守っててくれて」


 娘の頭に手を置いた。そして徐に立ち上がり


「そんな事情がありながら助けて頂いてありがとうございました。謝る必要はないと思います。だから悔いずに過ごしてください」


 そう言って涙を浮かべ微笑んだーー



 その後、地元へ戻ると皆一様に感慨深い表情だった。話し合いの結果、廃村での出来事は伏せて別の話題を記事にすることを決めた。騒がしくさせてはいけない、そう結論したからだ。

 そして翌日、早速新たな調査のために部屋で集まることになった。

 スズは大きく伸びをして


「ーーなんかびっくりだったわね、本当に超常現象体験したかと思ったわよ。でも良かった、良い話で幕が下りて」


 ショウタはスマホでニュース記事を見つつ


「そうだな、まさかあんなオチになるとは」


 エミルは失笑して


「あん時のアリスの顔っ、ぷふっ」


 それにムスッとしながら


「エミルだって泣いてたもんっ!」


 そして、ショウタの目にある記事が留まる。


『2年前の長崎土砂災害事故、遺族団が西州テレビに勝訴』


 その記事を読み進めると遺族代表の林松(りんしょう) アカネという人のコメントが。


『昨日の夕、意識不明となっていた娘のミチルが旅立ちました。

 でも生きているうちに報告ができたので、きっとミチルも報われたと思います』


「え……これ、一体どういうことだよーー」

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