深夜二時の予言
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今回ちょっと短めです。
三人称ですのでご注意ください。
新月の夜。時計の針が二時を告げた。
予定通り、裏口から侵入した中肉中背の男──グアム男爵は信じて疑わない。
ヴィーラがこの国の真の頂点に君臨し、リザリスが滅亡してその家紋が物語の中だけのものとなる事を。
だから彼は何にも気づかない。
この屋敷の不自然さと、男爵を狙う静けさに。
彼は不思議でたまらなかった。
今、リザリスとヴィーラの姫君同士が同じテーブルに座って微笑みあえるほど仲がいいこと、リザリスとヴィーラが敵対していないことが。
だから、わざわざ自分の娘に毒紅茶を持たせるという大きな足がかりを作ったのにも関わらず、未だに何も無く二人は微笑みあっている。
可笑しい。こんなの、本来あっていいかたちでは無い。
──そうだ、元凶を社交界から消してしまえばいい。
だから彼は、目的と在るべき未来のために人を殺める。
娘を仕向けたその時から、男爵の中に倫理観なんてものは存在していなかった。
──目当ての部屋まで行き着く。
地面を擦るドアの音一つ立てることなく、部屋に踏み入れた、彼は。
「上手くいくとでも、思ったか。──グアム男爵。」
彼の後ろから聞こえた、低く、恐ろしく冷たい声。
男爵が気づいた時にはもう、首元にナイフが突きつけられていた。
抜け出そうと藻掻く男爵に、
「動くんじゃねぇぞ」
と一声で制した彼は、ナイフを突きつける手を少しだけ強くした。
紅く、細い線が刻まれ、少しだけシャツを染める。
「た・・・頼む、命だけは助けてくれ・・・」
状況をやっとの事で飲み込んだ男爵の口から、震えた言葉が零れる。
それに対して、ナイフを突きつける彼はふっと小馬鹿にしたように嗤う。
「人を殺そうとした人が命乞いなんて、馬鹿らしいにも程があるんだよ」
そういい、彼はさらにナイフを強く突きつける。
紅い線はさらに太くなり、男爵のシャツの襟の色も広がる。
その時、不意に男爵の前にリザリス公爵が立ち塞いだ。
公爵が起きているなんて思っていなかった男爵は、動揺に目を見開く。
混乱した男爵の脳内に残っていたのはただ一つ、最初の目標。
『リザリス公爵を殺せ』
何も考えず、男爵は公爵に向かって持っていたナイフを振り上げる。
「・・・馬鹿だな。」
そう呟いたのは、公爵か、それとも男爵を捕らえる彼か。
「ご苦労だったな──セバス。」
その日以降、グアム男爵を見かけたものはいない。