眠り姫3
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行きとは比べ物にならない程早く感じる馬車の中、私は外の景色を眺めながら我が家への帰路を辿る。
家に着き、華麗に馬車から降りた私は真っ先に父上の元へ向かった。
父上の書斎には母上も来ていた。
入らないほうがいいかな、と一瞬躊躇したものの許可降りてるしいいかと、堂々と入っていく。
どうやら、私の両親は私のことについて話しているらしかった。
私の存在を目に映すと、二人はあからさまに空気を柔らかくした。
・・・心配して、待っていてくれたのだろうか。
それならどうして、今まで私に冷たく当たってきたのかしら、この両親は。
しかし、そんなことを考えている余裕もない。
新月の夜まであと二日しかないのだ。
「お父様、お母様。私の言葉をよく聞いていてください。」
そう、前置きをしてからゆっくりと『予言の言葉』を紡ぎ出していく。
最悪な未来を変える為の、私の言葉。
「新月の夜、深夜二時に裏口から一人の男が侵入。男爵家のあの、紅茶に毒を持った令嬢の父親です。
単独で、王家から向けられた刺客ではありません。──目的はお父様の暗殺です。
父上の身辺の警備を強化してください。」
我ながら、レポートみたいな言葉になってしまった。
部屋に長い沈黙が満ちる。
父上が、大きく息を吐いた。そして、ポツリと呟く。
「・・・夢見の才、か。」
「そうね。」
その呟きに、母上も静かに同調する。
二人の反応が怖くて、下を向いてじっとしていた私は、その言葉を聞いて弾かれたように顔を上げる。
てっきり、精神科医(この世界にあるのかどうか怪しいけど)的な何かに連れて行かれるかと・・・。
二人は、私の能力について知っている・・・?
「まさか・・・まさか、レティシアに夢見の才が発現するとは思っていなかったよ。」
心底、驚いたとでもいうように父上は深い息を落とす。
「えっ、あっ・・・えぇっ?お父様とお母様は夢見の才を知っていたのですか?」
動揺を隠しきれず、そう問いかけると二人はこちらがびっくりするほどあっさりと頷いた。
「・・・あぁ、レティシアにはまだ話していなかったね。
リザリスの家系は何代かに一人、夢見の才が発現するんだよ。・・・それも、高確率で女性に。
前回、目覚めたのが四代前だからレティシアあたりに来るかもしれないと思っていなかったわけでわないのだが・・・。
大体、発現するのは平均的に十五歳あたりなんだ。
だから、まだ話すのは早いて思っていたんだよ・・・。」
私は、とんでもないスピードで目覚めさせてしまった・・・と。
な、なんかそう言われると、変な罪悪感が・・・っ!
すると、今度は母上が真剣な声音で話し始めた。
「いい?レティシア、夢見の才の魔力は、睡眠時間に直結しているの。
だから、人より多く眠らないと体調を崩すわ。
魔力が安定するまでは強制的に眠りにつかされると思うけれど、気をつけなさい。
・・・あと、これはきっと貴女に一生ついて回る言葉だわ。
『眠り姫』。夢見の才のもう一つの呼び名よ。覚えておいて。」
眠り姫・・・夢の魔術師に次いでそそる名前だわ。
でもなんだろ・・・それが私に次いた名前なんだと思うと、すごく恥ずかしいんだけど!
にしても、なんで二人はこんなに詳しいの?
それを私が二人に問いかける前に父上が笑って言う。
「うちに代々伝わる文書があるんだよ。家に娘が生まれたら必ず目を通すようにと伝えられているものだ。」
へぇ・・・そんなものがあったのね。
「さぁ、レティシア。今は発現してから間もないもの。
早く部屋に戻って眠りなさい。」
母上の言葉にしっかり返事を返す。
そう言われてみれば、少し眠いかも・・・?
あくびを噛み殺す。
両親に促されて、私は書斎を出た。
部屋に戻ると、やはり急な眠気に襲われた。
・・・こ、これか!眠り姫!
こんな急激な眠気きたら、たとえ陛下に睨まれていても寝られるわ。
そういえば、フローリアに能力とかなかったよね?
そもそも、カナ花の世界に魔法やらの概念があったかどうかも怪しいし。
そう考えると、やはり私は結構イレギュラーなのだと思う。
・・・改めて、私ってなんなんだろう。
深く考えようとして、やめた。
それより今は、ちゃんと眠ろう。
いろいろ考えるのはその後でもいい。
私は、そうして深い眠りについた。
目覚めると、もう日は昇り、次の日の朝になっていた。
まずい。着々とお茶会への時間を浪費している・・・っ。
とは言いつつも、今やらなければいけない準備があるわけではなく。
のんびりと一日を過ごすことにした。どうやら、人より多く眠らなければならないのは本当らしい。
私の生活リズムはガラリと変化した。
眠くなくても眠れてしまうし、そもそも眠くなりやすい。
おかげで、ここ最近毎日寝ている気がする・・・。
今日も、父上と母上に挨拶しに行った時、「纏っている空気が変わった」と言われた。
なんだか、空気が柔らかくてふわふわしているんだと。
・・・というか、それっていつも眠そうってこと!?心外!
はっきり元気に挨拶を!
最近の私のキャッチコピーです。
そういえば、と気になってあの予言についての対策を聞いてみたら、
「完璧だよ。現行犯で捕らえてみせるさ。」
と、父上から自信満々な返事が返ってきた。
具体的な話は聞けなかったけれど、なんか大丈夫そう。
父上の目は完全に捕食者でしたからね。私は心配しません。
母上はそんな自分の夫に苦笑い。
昔からちょっとSっ気があったとかなかったとか。
昔は二人仲がよかったんだね。・・・あれっ?今も意外と仲良い?
まぁ、何はともあれ明日父上が元気でいてくれればそれでいい。
心配はしてないんだけど、やっぱりちょっと恐い様な・・・。
私はそんな弱気な考えを必死に振り切り、庭園に向かう。
完璧に仕上げた庭園。
それを見渡して、私はニンマリと満足げな笑みを浮かべた。
みんなに驚いて欲しくて、我ながら結構頑張ったと思う。
雨になったら嫌だなぁ、と思った私。
心配症な私は、カーテンの裏に大量のてるてる坊主を隠していた。
無数のてるてるが干し柿状にぶら下がっているのは少し面白かった・・・。
うん、完璧だよね。
私は晴れた青い空を見上げ、明日に想いを馳せた。
誤字脱字、内容の矛盾(日付など)ありましたら宜しくお願いします。
ごめんなさい、今回ちょっと心配なんです・・・