眠り姫2
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父上と、母上のいる書斎に向かう途中の廊下で私はふと、足を止めた。
・・・なんだったの、さっきのあの夢。
生々しいあの夢を見て、飛び起きて・・・うん、とっても怖い夢だった。
夢・・・本当に?ただの夢だった?
もしも・・・あれがもしも正夢なら
そう考え始めたら、悪寒が止まらない。
私はいてもたってもいられなくなって、踵を返して歩き出す。
すれ違った侍女のアンナを呼び止めて、私は不安を悟られないように言い放つ。
「アンナ、今すぐ馬車の支度をして。図書館へ行くわ。」
私の目を見たアンナは、何も言わずに頷いた。
「はい、お嬢様。」
部屋に戻り、質素なワンピースに着替える。
髪は軽く結えて大きなつばひろ帽子の中に突っ込む。
姿見の前に立つと、青い瞳以外は普通。
ちょっと裕福なお嬢様に見えるくらい。
すると、丁度いいタイミングで部屋のドアが軽くノックされる。
「お嬢様、準備ができました。」
「えぇ、ありがとう。」
急いで外へ向かい、馬車にのりこむ。
その時、私の顔がよほど思い詰めたように見えたんだろう。
手を貸してくれていたセバスティアンに、
「大丈夫ですか?・・・何があったのですか?」
と、心配そうに声をかけられた。
「大丈夫よ。すぐ戻るわ。」
私は少し強張った笑顔を向ける。
仕事の関係上、私についていけないセバスティアンは、心配で仕方がないらしい。
眉間にシワがよっている。
しかし、渋々ながらにも送り出してくれた。
彼の代わりに、今回はアンナがついてきてくれる。
彼女もセバスティアンに次ぐ武術派なため、安心だ。
そんなこんなで馬車が動き始めた。
「行ってきますね。セバスティアン、お父様に私は出かけたと伝えて頂戴。」
「・・・かしこまりました。」
走り始めた馬車の中、私とアンナは会話ひとつ交わさずにいた。
馬の走る規則正しいリズムだけが心地よく響く。
馬車の中から揺れる景色を眺める。
決して気を抜くことのないように、自分でも分からないけれど、何処か遠くをじっと見つめる。
空気を無駄にピリピリさせておきながら、私は特に何かを考えているわけではなく。
ただただ、早く図書館に着くことを願っていた。
目的地までは半刻もかからずに着くはずなのに、とても長く感じる。
押し寄せる、無力さと自分に対する苛立ちを制御しながら耐え切った私はすごいと思う。
馬車が止まるなり、早足で館内へ向かう。
「おっ、お嬢様!お待ちください!」
お嬢様呼びはよくないな、とか思ったけれど訂正できるような余裕もなく。
館内に入るなり、私はある文字を探した。
「あった・・・」
私はある並びを見つけ、小さく声を漏らした。
『魔術・魔法・神話』
少しだけ、聞いたことがあったのだ。
どうやらこの世界には、一般的に知られてはいないけれど、魔術が存在するらしい。
──もし、私のあの夢が魔術で見たものだったら?
私は、それを確かめたくてここ(図書館)に来たのだ。
その棚にあっためぼしい本を数冊掻き集め、椅子に座る。
そして、その本を片っ端から読み始めた。
夢に関わる話を見逃さぬよう、神経を研ぎ澄ませて。
私だって、前世はOLだ。
集中力は高い方だと自負している。
そんな私の隣には、適当な本を読む──フリをしているアンナ。
本に目を落としてはいるものの、ページをめくる手は完全に止まっている。
・・・っと、いけない、いけない。
意識を本に向ける。すると、ある文章が目に入り、ピタリと私の手が止まった。
『夢見の才』
・・・これだ。
文章に目を通したわけではない。それなのに、なぜかそう思った。
続きの文章も読み進める。
『夢見の才──この世に存在する予言の一種。上流貴族に発現者が多い。
歴代でも発現者がとても少なく、的確な予言を行う。』
「あった、あった・・・っ。」
思わず、小さな声で呟いた。
その声は隣のアンナにも聞こえないような小さな声だけど、喜びと興奮が滲んでいた。
『夢見の才を持つ者は、本来映像では読み取れない情報も夢から読み取ることができる。
細部の情報まで夢で引き出せる為、夢の魔術師とも呼ばれる。』
最後まで読み切り、一度本をパタンと閉じる。
・・・どうしよう。胸が高鳴って仕方がない。
夢の魔術師なんて・・・っ、私の若い心をくすぐるわ!
好きなのよ、こういうの。
でも、まさか自分がそういうのを持つ側になるなんて・・・。
そこで、はたと思い当たる。
私の夢、「新月の夜」というのはいいとして「深夜の二時」という時間まで解ってるのはどう考えてもおかしい。
これは、確定だ。
ゲーム内の私にはその描写はなかったし、今の私にのみこの力は発言したと考えられる。
多分だけど・・・私があの社交界に行ってなかったら、この夢見の才は発現していなかった。
これは、没落しない平和なルートへ向かっていると思っていいのかな?
ちゃんと、フラグ折れてるのかな?・・・そうだといいなぁ。
どっちにしろ、破滅回避に繋がる大きな切り札を手に入れたことは確か。
不完全であったとしてもね。
それが分かれば、もうここに留まる必要はないわ。
「お嬢様、百面相なんてしてどうされたのですか?」
「アンナ、言わないでよ。」
これからは2000字程度で行こうかな…