転生、そしてフラグ回収4
仕事の早いシャルロットは、男子たちが帰ってくる前に結果を持ち帰ってきた。
彼女が告げたのは、やはり毒入りだと言う事実。
フローリアのカップに症状が出るまで少し時間のかかる毒草の粉末が入っていた。
おそらく、その毒を入れた罪を私になすりつけようとしたのだろう。
あの少女は──紅茶娘でいっか──は、ヴィーラ派の中でも過激派に分類されているグアム男爵家の息女だった。
処罰などは大人に任せ、私たちは庭園に戻る。
怖いですね、と話していると男子たちが帰ってきた。
「レティシア、ライアンの事少しは構ってあげてね。」
と、真剣で哀れみを含んだ顔のカイ。
「・・・いや、むしろこのままでもでもいいんじゃない?」
腹を抑えながら笑いを堪えるテオール。
「グヴァンも可愛そうなものだな・・・。」
フィルマンに至っては、遠い目をしてライアンにエールを送り始めた。
──い、一体何があったの?ライアン、何したの?
「ねぇ、レティシア。このメンバーとライアンの中なら誰が一番好き?」
カイが聞いてくる。ライアンも入ってくるのね。
(貴方では無いことだけは確かだわ!)
レティシア・・・相変わらずのツンデレ女王だね。
にしても・・・
「好きな人・・・ですか。」
──待って待って、なんでみんなそんな真剣に私の方見ているんですか?
い、言いにくい・・・。
推しはカイだけど、本人を前にそんな事は言えない!
そうしたら・・・
「殿下・・・でしょうか・・・」
異性の恋愛的な面は後に響くかもしれないし。
でも、それだけじゃ無いよ?
フローリアって、可愛いもん。流石、ヒロイン。
まぁ、正確にはカイと絡んでいるフローリアが好き。
「フローリアは渡さない」と言わんばかりのカイの視線。
もしかして私、推しキャラに恋敵扱いされそうになっています?
・・・都合の悪い事は忘れよう。
私はお気に入りスチルを思い出して、妄想の世界に飛び立った。
その間、慌てたり笑ったり、フローリアが真っ赤になって倒れかけたり、中々にカオスだった。
すっかり話し込んでしまい、私はかなりの時間が過ぎていることに気がついた。
そろそろ父上がやばいかもと思い、戻ろうと立ち上がる。すっかり放置してしまった。
生きているといいんだけれど。
人と関わることを得意としない・・・と言うか、嫌ってすらいる父上のことだ。
精神的にこの社交界は辛いに違いない。
「もう、帰ってしまうの?」
上目遣いで見上げてくるフローリア。可愛い。
・・・たった今、フローリアが年上だと言うことを思い出した。
「あ、殿下。今度私の家に遊びに来ませんか?ここほどではありませんが、綺麗な庭園があるんですの。」
私は両手を合わせ、ニコッと微笑んで言う。
ごめんなさい、フローリア。逃げの手段です。
「ぜひ、行かせて頂きたいわ。」
フローリアは、花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「俺も!フィルと一緒に行っていい?」
「僕も・・・?」
あー、カイはフローリアと一緒にいたいんだね。
それでも私に微笑みかけてくれるカイ。好きです。
フィルマンもいやそうな顔をしながらも何も言わない。来てくれるのかな。
もちろんです。と微笑むとテオールも、
「俺もいい?興味あるんだ。」
と、名乗りあげた。
庭園に興味があるって、好きなのかな。ガーデニングとか。
「嬉しい・・・。」
幸せな声が思わず口から溢れる。
家に人を呼ぶとか、今世は周りが敵だらけ過ぎて無理だったもん。
みんなが、訳もわからずキョトンとしたので誤魔化すように礼をして立ち去った。
そのまま、父上の元へと急いだ。
案の定、父上は夫人たちに囲まれていた。
もはやアイドルとその追っかけ状態。
──笑顔引きつってる。
むしろ、ここまで無事耐え切った父上すごい!
元々、対人が苦手で引きこもっていた父上。
それでも無理して出てきてくれた。後でお礼をしなくちゃね。
・・・さて、こう言うときはどうすればいいんだっけ。
沢山の、目がハートな貴婦人達。
この国の恋愛関係は中々にゆるいけれど、爵位による階級付や、愛人などについてはかなり厳しい。
だから、既婚者──しかも公爵──に迫ることなんてないよね。
愛人の座を目指したりは・・・。
・・・いやいや、まさか、ね?
こんな時、母上は確か、
「私のアレクよ!横取りなんて許さないわ!」
的なことを言いながらくっついて威嚇してたっけ。
人よけには超万能な母上である。
私もやってみる?・・・恥ずかしいなぁ。
しかし、心に決めて父上の元に駆け寄る。
そのままっ父上の腕にギュッと抱きついて、
「レティシアのお父様なのです!奪わないでください!」
と、頬を膨らませて上目遣いで睨む。
今、私が繰り出せる最大限の可愛いだ。
私の乱入によってできた小さな隙を見逃さずに、父上は優雅に微笑んだ。
「どうやら、私の可愛い娘が嫉妬してしまったようだ。失礼させてただくよ。」
そのまま、私たち父娘は優雅に馬車へと向かう。
その時、父上が私にだけ聞こえる小さな声で「助かったよ。」と、言ってくれた。
少しでも、役に立てたことが嬉しかった。
馬車に乗り込んでしばらくすると、ゆったりと進み始めた。
静かな馬車の中で、私は父上に、やりたい事は達成できたかい?と、聞かれた。
私は、
「はい!大丈夫です!」
と、即答する。
できればこのまま没落回避で、仲良く平和に友好関係を築いていきたい。
その後、いろんなことを父上に話した。
フローリアが可愛かったこと、カイとテオールは明るく優しく接してくれたこと、シャルロットは少し怖いけど仕事ができてかっこよかったこと、フィルマンが時々笑いかけてくれるようになったこと。
テオールは面白がって笑っていたけれど、カイとフィルマンは何故かライアンのことを哀れんでいたこと。・・・あ、父上も哀れんでます?
そして、毒入り紅茶のこと。
父上は相槌を打ちながら真剣に私の話を聞いてくれた。
私の長い話が終わると、父上は、
「大変だったみたいだが・・・楽しかったなら何よりだ。」
そう言って笑ってくれた。
そうだ。
父上は人と会うことを嫌っているのに社交界に出てきてくれた。私のために。
絶対、嫌だったよね。
ごめんなさいの言葉が喉を通りかけたが、慌てて飲み込む。
そして、代わりに、
「今日はありがとうございました。お父様。」
すると、父上は、
「気にしなくていいよ。」
と、にっこりして言ってくれた。
父上、母上の笑顔を見るたびに、心が引き締まる。
私の家族を守るためにも、我が公爵家を没落させるわけには行かないのだ。
その没落を防ぐことができるのは、他の誰でもない私なのだから。
その日の夜、私はボーッとしながらベットに寝っ転がって天外のレースを眺めた。
いつも静かな私の部屋。ここだけ隔離されているみたい。
いつもは気にならないけれど、社交界の騒がしさを感じた後だからなのか少し寂しく感じる。
「もっと、一緒にいたいなぁ・・・。」
いつか、フローリアたちと一緒に寝てみたい。
夜通しおしゃべりをしてみたい。そんな、普通の女の子らしいことを。
そうだ。旅なんてどうだろう。
パッと思いついた考えが、とてもキラキラして見える。
想像したら、自然と口元に笑みが浮かんだ。
それを隠すようにして布団に潜り込む。誰かが見ているわけでもないのに。
そして、そのまま私は眠りについた。
朝起きて広間に出ると、珍しくいつもは書斎に篭りっきりの父上がいた。
「おはようございます。お父様。」
淑女らしく微笑みをたたえて挨拶をする。
「あぁ、おはよう、レティシア。王女殿下からのお手紙だよ。」
と、父上は淡い桃色の可愛らしい封筒を取り出した。
フローリアらしい、愛らしいデザインだ。
・・・なんの手紙だろう。
首を傾げながら受け取る。
「読んでみるといいよ。」
と、父上に急かされ、ペーパーナイフを使って手紙を取り出す。
私は、その内容に瞳を煌めかせる。若干残っていた眠気も吹き飛んだ。
手紙の内容を要約すると、
「誘ってもらえて、嬉しかった。早速、十日後に尋ねさせてもらいたい。」
とのことだった。
どうしよう。顔が緩んで仕方がない。
そもそも、私宛に手紙を送ってくれる人も少なかったから、それだけで嬉しい。
「サラ、便箋は何があったかしら。深い青色がいいわ!」
「分かりました。・・・これなんてどうでしょう。」
上機嫌な私に、サラは笑顔で便箋を差し出した。
レースの透かし彫りが入っていて愛らしいデザインだ。
「えぇ。これにするわ。」
その便箋を受け取り、よく考えながらゆっくり書いていく。
何せ、私は今世でも前世でもあまり手紙を書く事はなかった。
何度も書き直し、やっと納得いく出来になった手紙に私は満足げに目を通す。
そして、本文のラストに追伸、と書き足した。
『この便箋の色、綺麗な殿下の瞳にそっくりです。気に入っていただけたら嬉しいです。』
このための便箋である。
ちょっと口説いてるっぽいけど・・・まぁ、いいか。
サラに手紙を預けて、ふぅと息をつく。
ドレスは何がいいかな。また母上にお願いしよう。
父上にお願いして、庭園を使う許可も取らないとね。
そうすると、まずはセバスティアンに相談かな。
どうしよう、やりたい事、やらなきゃいけないことが多すぎる!
フローリアたちに、沢山楽しんでもらいたいな。
カイとフィルマンは来たことあるけれど、それでも驚いちゃうくらいに仕上げたい。
ニコニコしている私を見て、ナディアが、
「喜んでくれるといいですね。」
と、言ってくれた。
「うん!」
私はナディアに満面の笑みで答える。
よし!まずは母上のところだね。
「──というわけで、母上。またドレスを選んでいただけますか?」
説明をした後、キラキラした目で問いかけると、母上はため息を吐きながらも、
「わかったわ。私に任せなさい。」
と、了承してくれた。
「今回は、招待しての社交界だから、社交界用とは違う方のドレスから選びましょう。」
再び、私という名の着せ替え人形を手に入れた母上は意気揚々とクローゼットへ向かう。
試着ラッシュは少しきついけれど、母上のセンスは間違いない。
今回も頼りにしていますよ。私の母上。
いきなりですが、ブクマ登録してくださっている方、こんな亀さん更新の作品を読んでくださってありがとうございます。プロローグ公開時点でブクマ&評価をしてくださった方がいて(しかも星4!)とても嬉しかったです。
これからも頑張って更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。