転生、そしてフラグ回収3
プロローグ、レティシアの外見について少し修正しました。
ついに、社交会の日がやってきた。
可愛くて少し重たいフリルドレスを身に纏い、父上と馬車に乗り込む。
私の手が少し震えて見えるのは・・・うん。気のせいだな。そうに違いない。
馬車の窓から、母上の不安そうな顔が見えた。
「行って参ります。お母様!」
ニッコリ、元気に微笑み、馬車が進み始めた。
「緊張しているか?」
「もちろんです!」
父上にからかわれ、私は半ばやけくそになって答える。
主に私の緊張と、父上の人に会いたくない気持ちで馬車の中はとても静かだった。
すると、若干の目眩がして視界が濁る。
・・・なんか、嫌な感じ。
「お父様、何かが来ます。・・・気持ち悪い。気をつけて。」
私は、父上に口早に言う。
「何かとは──」
「分からないっ!後ろから追ってきます!お願い!馬車の速度を上げて!」
父上の言葉を最後まで聞かず、私は悲鳴のような声をあげた。
馬車のスピードが上がる。
スピードが上がるにつれ、嫌な気配は薄まっていく。
「き、消えた・・・?」
私の呟きを聞き、父上の合図で馬車の速度が元に戻る。
なんだか震えが止まらない。
凄く・・・命の危険を感じた。
父上に心配されたので作り笑いをしたら、余計に心配させてしまった。
そのあとは、特になにもなく王家の屋敷に着く。・・・いや、これはもう、屋敷じゃなくて城だよね。
大きくて、きらびやか。
ファンとしてはゲームの舞台であるこの場所を見れるのは喜ばしい事だけれど、レティシアとしてみれば断罪イベントの舞台でもあるので中々に複雑。
そんな中、私は父上のエスコートで城へと踏み入れた。
眩しすぎて、立ち眩みそうになったが死ぬ気で踏ん張った。
──私はレティシア、淑女なのよ!
まず、埃一つ無い赤カーペットの上を進んで女王陛下に挨拶をする。
「セルリア・ウィル・ヴィーラ陛下、こんにちは。素敵な会ですね。」
「陛下。こんにちは。」
珍しく愛想よく挨拶をする父上に続いて私も挨拶をした。
「ええ、ありがとう。アレクサンデル。レティシアもね。来てくれて嬉しいわ。」
イケメンな我が父上に微笑まれて、なかなかにご機嫌のいい陛下。
でも、肝心な深い部分に氷のような冷たさを感じてゾクッとする。
「私も陛下にお会いできて嬉しいです。・・・これを。」
父上は優雅なスマイルを炸裂させながら、赤い薔薇に花束を差し出した。
娘から見ても太陽並みにまぶしい。
多束のバラを見て、陛下は顔を綻ばせた。
父上に向けた柔らかい顔のまま、陛下は私に言った。
「レティシア、サロンにってくるといいわ。私の娘や、歳の近い人もいるから。」
サロン・・・そっか、そこに行けばフローリアや攻略対象の人たちにも会える。
父上に行っていいか、目で問う。
「あぁ、レティシア。行ってくるといい。」
父上の許可も下りたので、私はサロンへ向かう。
陛下が、案内役を付けようかと言ってくれたが断っておいた。
一応、場所は分かっていますし。
サロンには、たくさんの人がいた。
あまり、人と話すのが得意ではない私は『リザリスの姫』として向けられる興味の視線にみじろぎする。
見たところ、一番奥の庭園にフローリアたちはいるらしい。
私もそこへ向かおうとしたら、ライアンに引き止められた。
本名、ライアン・オスカー・グヴァン。本歳十四歳。
私の祖父の弟の娘の息子──つまり、私のはとこにあたる人物。
ついでに、ゲームで言うレティシアの婚約者。不本意にも!
今も、婚約しそうになっている状態。何故かって?母親同士の仲が良いからだよ!
「レティシア、君がくるって言うから待っててあげたんだよ。座っても良いけど?」
なんとも、偉そうなはとこ!
青筋を立てないように気をつけながら可愛らしく微笑んでみせる。
「ライアン、少し用があるので。失礼させていただくわ。」
「婚約者より大切なものか?」
「婚約者では無いですし、私の中でライアンの優先順位は低いのよ。」
面倒臭いはとこを撒いて、私は足早に進む。
「レティシア?」
ライアン・・・じゃない!
カイやフィルマンに引けを取らないイケメンボイス。
聞き覚えのあるこの声。最後に聞いたぞ、この声のスチル!
「やっぱりレティシアだ!久しぶりだね。
フローリアにところへ行くんだろ?案内するよ。」
黒い瞳に整えられた黒髪。
貴族らしい風貌では無いが、爽やかな好青年。
少し焼けた肌は健康的だ。
テオール・レノー。十四歳で、ライアンと同い年だ。
レノー子爵家は商会上がりで、割と新しい。
カイのレザ公爵家、フィルマンのマチアス伯爵家と同じく、陛下のお気に入りだ。
あまり話したことは無いけれど、話しかけてきてくれるということは嫌ってはいない・・・?
ゲーム内ではレティシアの嫌味を軽く流せる少ない攻略対象の一人だったけど。
「レティシア、ライアン少しヘコんでたけど大丈夫?」
「愛想を尽かしたということですわ。」
ははっ、と声を上げて笑うテオール。
子爵家次男の彼は公爵家の私に対しても遠慮がない。
それでも悪意を持たれることのない爽やかさ!
「じゃあ、そう伝えておくよ。」
「えぇ。ぜひお願いいたしますわ。テオール様。」
私がとっておきの微笑みを向けると、テオールは驚いて足を止めた。
「どうかしましたか?テオール様?」
振り返り、首をコテンと傾げて見せる。
「いや・・・カイから大体の話は聞いていたんだけど、本当に変わったな、っていうのと・・・今、俺の名前呼んでくれたから。」
あぁ、確かにレティシアって今までテオールの名前とか呼んでなかったかも。
成り上がりのレノー家そもそもを嫌ってたしね。
「行きましょう、テオール様。案内してくれるのでしょう?」
テオールは少しの間ポカーンとしていたが、すぐにニカッと人好きのする笑顔を浮かべた。
「うん、行こう。」
そういって、テオールは私に手を差し出した。
どうやらエスコートしてくれるらしい。
「──テオール様、ありがとう。」
思わず笑みが溢れる。
そんな私を見て、テオールは軽く目を見張ってからほのかに赤く染まった顔でプイっと前を向いた。
照れてるの?可愛いなぁ。
そういえば、今のところちょいS要素ゼロだけど・・・あ、あれですか。
好きな子には意地悪しちゃうタイプなんですか。
私は一人、納得した。
そんなこんなで、私はテオールと共に庭園へ出る。
光が差し込み、色とりどりの花が咲き乱れるこの庭園はうちのものと負けず劣らず美しかった。
ゲームでも度々出てくる庭園を肉眼で拝む日がくるとは・・・。
そんな光の中、お茶をしている輝きに満ちた美麗な男女数名。
にやける顔を必死に抑えながら、挨拶をしに近づく。
まず目に入るのは、ヒロイン──殿下の薄桃がかった金髪だ。
フローリア・レーヌ・ヴィーラ王女殿下。
腰まで伸びる金髪ストレートと共に、アクアマリンの大きい瞳が存在感を放っている。
うん、天使。
そのフローリアの隣にすらりと立ち、紅茶を注いでいるのはフローリアの友人のシャルロット・ジゼル。
伯爵家の娘だ。
肩のラインで綺麗に切り揃えられた雪のように白い髪に、アメジストのような紫色の瞳。
美人な彼女はゲームの進行役ポジション。
そして、フローリアと共に椅子に座っているのがお馴染みのカイとフィルマン。
私とテオールも含めて、ほとんどのメインキャラクターがこの場所に揃っている。
──なんなんだ、この状況。
ファン目線で言わして頂いたら、幸せ以外の何物でもない。
「こんにちは、レティシア。あえて嬉しいわ。ドレスも似合ってる。・・・テオールもエスコートありがとう。」
私は母上が選んだドレスを褒められて、嬉しかった。
ニコッ、と微笑むフローリアの可愛さと言ったら、女神様も真っ青である。
「私もお会いできて、光栄ですわ。」
私も負けじと笑みをたたえてドレスの裾をつまみ、カーテシーを披露する。
カイも笑顔で挨拶をしてくれた。
「・・・それにしても、綺麗な庭園でございますね。」
私が庭園を褒めると、フローリアは嬉しそうにフワッと頬を緩ませる。
「ここは私のお気に入りなの。褒めてくれて嬉しいわ。」
うん、知ってるよー。ゲームで見たからねー。
にしても、可愛い。
「おや、レティシア様。王女殿下に見惚れておられるのですか?」
私があまりの可愛さに固まっていると、フィルマンが嫌味口調で言ってきた。
私は驚いて彼を見つめてから、ツーンとして言った。
「えぇ、何か問題でもございますか?」
今度はフィルマンが目を丸くする番である。
そしてフローリアは私の言葉に顔を赤くする。
「本当に見惚れていたと・・・?」
「えぇ。・・・はっ、フィルマン様ってエスパーですかっ?」
私は思わず口走る。
「え、えす、ぱぁ・・・?なんですか、それ。」
「あ、いえ。こちらの話ですわ。」
うふふ、と笑ってごまかしておく。危ない、危ない。
フローリアに席を勧められて腰を下ろすと、シャルロットが微笑みをたたえながら紅茶を差し出してきた。
お礼を言って受け取るけど・・・シャルロットの目、笑ってない。怖い。
まぁ、生粋の王家派である彼女からしたら、私は敵に等しいもんね。
それはそうと・・・
「フローリア、顔赤いよ、大丈夫?」
「え、あっ、大丈夫よ、カイ。」
カイとフローリアはとても仲がいい。
この画は最高。幸せ。
フローリアはともかく、カイは明らかにフローリアに恋している。
ニヤニヤしていたら、フィルマンにとても怪訝な顔をされたけれど、全く持って気にならない。
「レティシア。」
不意に、テオールに名前を呼ばれて肩を叩かれた。
ビクッとしてしまい、彼は少し申し訳なさそう。ごめんね、妄想の世界に飛んでた。
「テオール様、どうしたんですか?」
私の問いかけに、彼はニヤッとして答える。
「今、ライアンにレティシアは君に愛想を尽かしたらしいよ、って言ってきたよ。へこんでたから、フォローしておいた方がいいんじゃない?」
「・・・そうね。」
でも、フォローしてまた調子に乗ってふんぞりかえられたら腹が立つし・・・。
「愛されてるね。」
何をどう見たらそう見えるのかしら!
絶対、私のこと子分か何かだと思ってるよ、ライアン。
そういうと、テオールは苦笑した。
そして、「頑張れ、ライアン。」と。
どうしましたか?
その後、みんなでお茶会を楽しんだ。
シャルロットは怖いけれど、動作の一つ一つが綺麗でお洒落。
フィルマンは相変わらず嫌味ったらしいけれど、カイの天然ボケへのツッコミは洗礼されていて面白い。
フローリアはとにかく天使だし、テオールも私に明るく接してくれて優しい。
ライアン乱入の時も私がプイッとして追い払ったらしょぼんとして帰っていった。
それにはみんなが必死に笑いを堪えていて、とっても楽しかった。
その後、テオール達男子は揃って席を外し、今は女子会タイム。
幸せだなぁ・・・ん?
さっきの馬車の時に似た、気持ちの悪さと目眩に襲われた。
でも、それより強い悪意を感じる。
もう、一周回って吐き気すら感じるレベルだ。
フローリアの耳元に口を寄せ、
「王女殿下、今、近くに護衛はつけていますか?」
と、問う。
私の鬼気迫る声音と気配から察したのか、フローリアも小声で応じる。
「シャルだけよ。」
「何かがきます。おそらく、殿下か私を狙うものだと。どういう方法で来るのかはわかりませんが、警戒態勢でお願いします。」
「分かったわ。」
フローリアはうなずき、シャルロットと視線を合わせた。
シャルロットの周りの空気が変わる。
沈黙が流れる。
「・・・来ます。」
私は主語を抜いて伝える。
「フローリア王女殿下、レティシア公女様。失礼いたします。」
禍々しい空気を放つのは、上部だけの笑顔をたたえた年の近い少女だった。
大体、十五歳あたりだろうか。
近すぎる殺気と悪意に目眩がし、倒れそうになるのを隣のフローリアが支えてくれた。
「お二方にぜひ飲んでいただきたい紅茶があると、父からでございますわ。」
と、少女はカップを並べる。
この一連の動作が少し不自然だと、本人は気付いていない。
「まぁ、ありがとう。また今度感想を伝えるわ。下がりなさい。」
フローリアが笑顔でいう。
少女が去ると、フローリアは静かに言った。
「シャル、私とレティシアのカップ、それぞれ中身が判るように持っていって調べてくれる?」
「はい、了解いたしました。」
シャルロットがそのばを離れると、フローリアは元に戻った。
王女殿下モードのオンオフがあるんだね。
そして、フローリアは徐にいった。
「これでもし、私の紅茶に毒が入っていたら・・・レティシアは私の命の恩人ね!」
え、笑顔が眩しいです・・・。