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転生、そしてフラグ回収2

最近、段々父上と仲良くなれてきている感じがする。

最近の日課は、勉強したり、花を愛でたり、父上とお茶したり(!)だ。

そう、父上とお話することが日課になりつつあるのだ。

今日は、書斎から出たがらない極度の引きこもりである父上にしては珍しく、庭園でお茶である。

そういえば、この庭園の庭師をしているのって、執事のセバスティアンらしい。

うちの執事はとんでもなく万能である。すごい、なんでも出来る。

おまけに、セバスティアンの紅茶は絶品ときた。完璧か。

そんなセバスティアンの紅茶を一口飲んで、父上が一言。

「そういえば、最近カイ公子と会っているらしいね。」

「えっ!」

ば・・・バレてたの!?

確かに、最近はよくカイが遊びに来る──というか庭園の花を見に来る?ので、話すことが多くなった。

「だ、ダメ・・・でしょうか?」

怒られるかな、と思って目を伏せる。

しかし、予想には反して父上の口調は中々に明るい。

「いや、いいと思うよ。話し相手が屋敷外にいるのはとてもいい事だ。・・・それより、レティシア。彼のことが好きなのかい?」

「あ、もしかしてお父様、恋バナ好き・・・」

思わず口走る。

「こい、ばな・・・なんだい、それは。」

あ、そっか、知らないですよね。そんな言葉。

「いえ、なんでもないです。・・・それにしても、うーん、私がカイ様を・・・。」

そう言われると──どうなんだろう。

そりゃあね、私の最推しですし。もちろん好きなんですけどね。

レティシアと同じようにガチ恋勢かと言ったら、ヒロインとのカプでイチャついてるのをにやにやしながら見る方が好きですし・・・。

つまり、言ってしまえばイケメンは遠くから見ていたい方のタイプなんです。

「違うのかい?」

父上はこの上なく優しい顔。──一体、どうしたんですか。

私は、間違えないように丁寧に言葉を選んで答える。

「好きか嫌いかで言ったら好きなんですけど・・・」

うーん、と頭を抱え込んだ私に父上は諭すように言う。

「まだ分からなくてもいいんだよ。いつかきっと答えは出る。焦る必要なんて全く無いんだよ。」

あー・・・うん。

父上、申し訳ないけれど。

私の気持ちは多分、父上が思っているような純粋なものではないですよ?

「あっ!そろそろエレナが来る時間みたいです!お父様、失礼しますね。」

私は立ち上がる。

「レティシア。」

お父様が声をかけてくる。まだ何か?

「はい?」

と、聞き返す。

「そんなに父親に対して固くならなくてもいいんだよ。」

父上はふわりと微笑む。

・・・なんだか父上、優しいぞ?


そんなこんなで、あれから丁度一月が過ぎた。

私は母上の部屋を尋ねる。

「あら、レティシアじゃない。どうしたの?」

美人な母上が微笑む。

私は今、とても緊張している。もう、カチンコチンです。

いよいよ、アレについて母上に話す時が来たのだ。

「母上・・・あの、こっ・・・今月の王家の社交会に、父上と一緒に行くことになりましたっ!」

一気に一息で言い切る。・・・噛まなくて良かった。と、一安心。

母上は険しい思案顔。

「王家・・・そう・・・レティシア。」

「ひ、ひゃい!」

あ、噛んだ。

・・・うぅ、舌が痛い。

「貴女がアレクに行きたいと言ったのね。そうでしょう?」

母上は噛んだことに関して笑ったりはせず、続けて言い募った。

「・・・ドレス、選ぶわよ。」

「・・・えっ?」

あれ?母上?

話が急に飛びましたよね?

「ドレスよ!王家の社交会でしょう?気合いを入れて選ばなくてはいけないじゃない!」

「母上・・・そっ、それじゃあ・・・!」

母上は慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。

「可愛い愛娘が王家が嫌いな私に緊張して、頑張って、怒られる覚悟で言いに来てくれたのでしょう?・・・それなのに、背中を押さない母親がいるものですか!」

その母上の言葉にはとてつもない無限の愛情があった。あはは・・・母上に言うかどうか迷っていたのが馬鹿みたいね。

──なんだ。レティシア愛されてるじゃん。

なんだか無性に泣きたくなった。


「レティシアは肌が白いもの。あまり色が濃いドレスは似合わないわ。」

そう呟き、所狭しと飾られるドレスたちのウォークインクローゼットで、母上はドレス選びを始めた。

「とりあえず・・・五着。レティシア、着てみてちょうだい。」

ニコニコのサラとナディアにドレスを持って迫られる。・・・女子ですね。

二人に手伝ってもらい、まだ慣れないドレスに着替える。

正直、レティシアが可愛くて良かったよ。

こんなフリルドレス、そこらの凡人じゃ痛いだけだわ。

最初は良かったけれど、何十着も繰り返すと流石にきつい。

「お、母様・・・もう流石に疲れました・・・。」

ぐったりとした私がギブアップを訴える。

「そうねぇ。そろそろこの中から決めてしまいましょうか。・・・本当はあと十着は着て欲しかったのだけれど・・・。」

「もう無理ですっ!」

右手で頬を支えながら恐ろしいことを呟いた母上に私は悲鳴を上げた。

母上、鬼すぎる・・・!


結果、淡い桃色のフリルドレスになった。

母上が推してきた背中が大きく開いたドレスとスカートが地面に着くほど長いドレスだけは全力で阻止させてもらった。

絶対、母上面白がってたよね?

小物合わせのためにドレスを身につける。

髪飾りのリボンも頭に括る。

侍女の二人にお願いして、肩くらいの長さがある金髪をポニーテールにしてもらう。

太い紅色のリボンの存在感はすごいが、可愛い。

「お母様!お父様にも見て欲しいです!」

折角の衣装合わせだ。父上にも見て欲しい。

「えぇ。走らないでね。淑女なのだから。・・・いってらっしゃい。」

「はい!」

私は淑女論を解く母上に元気よく返事をして、父上の元に向かった。

庭園前の廊下を歩いていると、

「レティシア!・・・え、と、今急いでる?」

庭園からカイの声が聞こえる。

カイは、いつも入ってくる裏口に続く道のところからピョコっと顔を出していた。

「あら、カイ様!大丈夫ですわ。」

私が言うと、カイは、

「良かった。」

と、ほっとしたように言って誰かを呼んだ。

カイの視線をなぞり、その先を見て──私は叫ばないように舌を噛んだ。

めちゃくちゃ痛いです。

なんでここにいるの!という言葉を飲み込む。

カイ同様、私はこの人を知っていた。

少し癖のある焦げ茶色の髪。深い緑色の瞳は冷たく細められている。

攻略対象の、フィルマン・シモン・マチアス。クーデレ担当。

カイのひとつ上で、本歳十六歳。子爵家の一人息子。

カイの付き人兼兄のような、友人のような存在。

おそらく、レティシア(私)の事を一番快く思っていないのが彼だ。

断罪は我が家族全員毒殺・・・怖っ。

「今日は、フィルを連れてきたんだ。・・・ね、フィル。レティシア変わったでしょ?」

わわっ、凄い懐きよう。私はすっかり蚊帳の外だ。

・・・フィルマンにじゃれつくカイ。

ぶんぶん揺れるしっぽが見えるぞ?

──カイには申し訳ないけれど、フィルマンは絶対私の事嫌いだよ?

ていうか、リザリス家全体が嫌いだと思うよ?

すると、フィルマンは嫌々私に挨拶をした。

「ご機嫌いかがですか、レティシア公女様。──一体どういった心境の変化で?」

私は愛想良く微笑んで、

「少し、思い当たることがございまして・・・。」

と、濁した。

納得してはくれないよね。

変なものを見るような目で私を見るフィルマン。

そういえば!と、カイ。

「レティシア、今日は可愛いドレスだけど、どうしたの?」

はいっ!カイの可愛い頂きました!

待て待て私、カイが可愛いと言ったのはドレスだからね?勘違いしないでよ?

なんでもない顔を装って、

「今度の王家の社交会に行かせて頂くので、その衣装合わせですの。」

と、受け答えた。

全てはヒロイン&攻略対象と仲良くなる為に!

「そっか!じゃあ、そこでも会えるね!」

無邪気に喜ぶカイの横でフィルマンは不満げに顔を顰めた。

「レティシア公女、少し宜しいですか?」

私はフィルマンに連れられてカイから少し距離を取る。

「一体、なんなんですか?急に。」

フィルマンは様子のおかしい私に不機嫌さを隠さずに問いかけてきた。

聞かれると思ったよ。

私は大きく息を吸い、真っ直ぐフィルマンを見据えた。

「私は、フローリア殿下達と仲良くなりたいのです。」

「何故です?貴方が王家派に着く意味は無いし、どう考えてもおかしい。」

分かってる。そんなこと。

でも、私は──

「死にたく、ないのですわ。それに、今まで差別的なこと言ってしまい、申し訳ありません。」

少し震える声で言い、深く頭を下げた。

「なっ、公女様が頭を・・・は、はぁ?一体なんなんですか?」

様子のおかしい私に怪訝な顔をするフィルマンを置いて、私はカイの元へ戻った。

「私、そろそろお父様の元へ行きますわ。」

「うん。・・・あっ、俺も時間だ!フィル、早く!レティシア、またね。」

カイは最後まで忙しない。

「えぇ。フィルマン様も、ご機嫌よう。」

私は庭園を立ち去った。


「お父様、入ってよろしいですか?」

私は木の扉を叩く。

「あぁ。いいぞ──レティシア、どうしてドレスなんだ?」

入った途端、わかりやすく驚いてくれる父上の姿に私は内心ニンマリ。

「可愛いですか?お母様が選んでくれた、社交会用のドレスです。お父様にも見て欲しくて。」

「とても──とても、可愛いよ。レティシア。自慢の娘だ。」

父上は微笑む。

自慢の──娘!

私は嬉しくなってニコッと笑う。

「では、お母様にお父様に褒めていただいたと伝えてきます!」

このまま夫婦関係も戻してしまいたいけれど。

「・・・行っておいで。」

父上は少し浮かない表情。

やはり、こちらはもう少し時間がかかるみたい。

私は再び母上の元へ向かう。

急いでいたせいで、私は少し息切れした。

レティシア、体力無いんだよね・・・。

今度、剣術とか習ってみようかな。エレナが得意だった気がする。

母上のところに着いた。

「お母様!」

母上に満面の笑顔で報告。

「そう・・・アレク、褒めてくれたのね。」

母上は嬉しそう。顔には出さないけどね。

父上はともかく、母上はまだ父上の事好きな気がする・・・私の気のせいかな?

そうならいいな・・・という私の幻想じゃないといいけど。

「レティシア、着替えていらっしゃい。お茶にしましょう。・・・紅茶でいいかしら?」

「はいっ!」

私は元気に答える。

すると、母上が小さくため息をついた。

「どうかされましたか?」

問いかけると、

「いいえ、少し、自分が嫌になってしまったの。娘が紅茶を好きかどうかも知らないんですもの。」

と、眉をハの字にして母上が言った。

何か言おうとしたが、まごまごしている間に母上は元に戻り、着替えるよう促した。


その後、母上とお茶をした。

父上のことを話すと、笑顔で聞いてくれた。

そのほかにも、最近は庭園のパンジーが綺麗であること、侍従のナディアとサラがよく笑顔を見せてくれるようになった事、父上に付いている侍従のアンナが花についてとても詳しい都知った事、社交界にあのドレスで行くことが楽しい事。

いろいろな話をしてから、思う。

「私は、本当に幸せものですね。」

ポロリと口から溢れた私の本音。

心の底からそう思った。

「そう・・・それなら私も幸せだわ。」

母上はふわりと微笑む。


その日の夜、久々に家族全員で夕食を食べた。

嬉しすぎて、ニコニコしながら食べていたら母上に「行儀が悪い」と、お小言を貰ってしまった。

不格好でも確かに家族な私達。

ひとつのフラグは回収出来た?

そして、決戦の日──すなわち社交会は刻一刻と迫ってくる。


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