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転生、そしてフラグ回収1

可愛らしいネグリジェから、可愛らしいフリルワンピースに着替える。

私の頭の中には、はっきりとした思いが浮かんでいた。

目指すは破滅フラグ回避。悪役は卒業。

折角、今の私には前世の記憶、レティシアの記憶、そしてゲームの知識があるのだ。 今持っているものをフル活用すれば、フラグ回避も難しくない・・・はず。 いや、分かんないけどね?

でもやっぱり、死にたくないじゃない。

そのためにできることも考えた。

両親と仲良くする。

ヒロインとも、攻略対象とも距離を縮める。

・・・悪意がないことを表さなくてはいけない。

私がいいと思うことは全部実行する。

折れる破滅フラグは全て折る。 折れない破滅フラグは作らない。

私は今、十四歳。 ゲームが始まるのは、フローリアが十八歳になる三年後。

ゲームの期間は二年間。

まだ時間はある。 私にできることは全て行う。

新たに、幸せなレティシアルートを創るのだ。 そのために、私がまずすべき事は──。


私は木の扉を叩く。

「誰だ。」

中から無愛想な声で問いかけられる。

「レティシアです。お父様、少しお時間頂けますでしょうか。」

書斎に招き入れられた私は、父上と向かい合ってソファに座る。 専属の執事、セバスティアンが紅茶を入れてくれた。 いい香り。

お礼を言うと、とても驚かれた。 周りの侍女さんにも驚かれた。

人が変わったと思った?本当に変わったのですよ!

「それで・・・レティシア、なんの用だい?」

「・・・はい。実は、父上にお願いがあるのです。」

私は父上を真っ直ぐに見つめる。

・・・とても、緊張する。

だってさ!薄々感じてはいたんだけど、両親二人はとてもビジュアルがいい。

男性にしては細い身体に一つに括ったレモンみたいな金髪、空色の瞳。

レティシアの男版みたいな父親、アレクサンデル・リュカ・リザリス。

スタイルが抜群で、ウェーブした金髪にエメラルドの瞳。

貴族の証とされる空色の瞳こそ持ってはいないが、とても美人な母親、カミーユ・ミレヌ・リザリ ス。

並んで歩けば誰もが振り返るような美男美女。

でも、政略結婚であったため、あまり仲はよろしくはないご様子。

「私、王家の社交界に行きたいのです。」

「・・・ほう?何故だ。レティシアはデビューもまだじゃないか。」

父上は片眉を器用に上げる。 そんな仕草でさえも絵になってしまう父上って・・・本当にずるいです。

社交会デビューは、正式に決まっている訳では無い。

だが、十四、十五歳位の秋──社交会シーズン──で行うことが多い。

十三のレティシアは、社交会デビューには早いのだ。 まぁ、私の目的は婚約でも踊ることでもないからあまり関係なかったりする。

それはそれでいいとしても、問題がある。

我が実家、リザリス公爵家と王家──ヴィーラ王家はあまり仲が良くない。

どうにもこうにも、昔、王家の座を争ったのだとか。

正直、私からしてみればどうでもいいのだがレティシアを含むリザリスの者達は気にしてい らっしゃるよう。

父上にお願いするのに、

「ヒロインたちと和解して、破滅フラグを回避したい」

だなんて言えない。絶対理解されない・・・。

「私、フローリア殿下と会って、やらなければいけないことがあるのです。」

私は言う。

──お願いです、父上。何も聞かずに協力してくれませんか?

「はぁ・・・。」

父上がため息を零す。

やっぱり、ダメか・・・。

私は俯く。

「なにか考えがあるのだろう?外には出たくはないが・・・レティシアのためだ。努力しよう。」

・・・え?あ、もしかして今いいって言った?

ありがとう。父上。引きこもりなのに・・・。

──待っててね。絶対、没落を防いでみせるから!

ひとまず、やる事をクリアした私の足取りは軽い。

考え抜いた末、母上にはまだ社交会に行くことは言わないことにした。 父上より更に王家を嫌っている母上のことだ。

『王家』という単語が出てきた途端に機嫌が悪くなるだろう。

1ヶ月後には言おうと思っているけれど・・・。

社交会は1ヶ月半後。 そんなに長い間不機嫌オーラをばら撒き続けられたらこっちが持たないよ!

なので、そのことには全く触れずに母上と一緒に朝食を取る。

そして、朝食の後は私の自由時間。 午後になると、家庭教師のエレナがやって来る。 つまり、それまでは数時間暇暇なのだ。

・・・ゲーム無いし。

そういえば、レティシアはいつも、その時間は庭園の花を愛でていたな。

本当に、言動さえきつくなければ可愛らしい姫君だよね。

私は現代っ子なので、花などで暇を潰せるのかとは思ったが、とりあえず庭に出る。

「わぁ・・・っ!」

ごめんなさい。さっきの失礼な発言取り消します。 腕のいい庭師によって整えられた草花達は、陽の光を浴びて幻想的に輝いていた。 私は、このまま駆け回りたい衝動を必死に抑える。

・・・母上に見つかったらお小言言われちゃうからね。

周りを見渡し、ベンチに座る。

風に揺られながら、改めて頭を整理する。

──私は日本で死んだただの会社員。 生まれ変わってレティシアになって、今は二人分の記憶を持っている。

日本の記憶は淡く、レティシアの記憶の方が鮮明に映る。

何となく、いつも通りで喋ろうとしてしまったら多分間違える。

うっかりの言動には気をつけなくちゃ。

春の初めを告げる風が、花と私の髪とスカートを揺らす。

「ここ、君の家の庭園?」

急に、男の子の声がした。若干幼いけれど、聞き覚えがあるような・・・。

声の方を見ると、花々に囲われて男の子が立っている。

白銀に輝くうねりのない髪に、宝石の様に綺麗な黄金に見える黄色の瞳・・・

「っ!」

嘘でしょっ!? と、思わず叫びそうになって慌てて両手で口を押さえた。

彼は不思議そうな顔をして寄ってくる。

「俺は、カイ・サムル──って、もしかしてレティシア?」

(早く立ち去りなさい!汚らわしいヴィーラ派め!)

・・・おっと、危ない。レティシア、黙っていてね。

「・・・ご機嫌よう。カイ公子。」


私は立ち上がり、スカートの裾をつまんで礼をする。

カイ・サムル・レザ──レザ公爵家の一人息子でカナ花の攻略対象。 そして、私の推しである。

こんな所で会うとは・・・原作どうだった?誰かヘルプ!

「全然気づかなかったよ。空気違くて。 ・・・って、あっ!つまりここってアレクサンデル公爵の庭園!?どうしよう・・・。」

驚いたり、笑ったり、焦ったり──忙しいな。

カイは、お花に誘われて迷い込んだらしい。

そんな中、私は結構冷静で。

多分もう、色々ありすぎて感覚おかしくなっちゃってるんだろうな。

私が、そんなことをボーッと考えている間もカイは慌てている。

そんなに慌てるくらいなら立ち去ればいいのに・・・と、思ったけれど私的にはありがたい。

私はなるべくゲームキャラ達と仲良くする必要がある。

もう既に、大体のキャラ達と出会ってしまっている。 そして、確実に暴言を吐いて悪印象を与えている!

ここまで来ると、レティシアってプロだよね。

しかし、そんな中私はマイナスからプラスにイメージを変えていかなければいけない。

もちろんそれはなるべく早い方がいい。

私はカイに話しかける。

「お父様には黙っておきます。・・・カイ様、少しお話しませんか?」

私はにっこりと微笑んだ。


私はカイとベンチに座る。

やはり、カイは少し訝しげ。

そりゃそうだ。 だってこの前まで暴言吐き散らしていた人が笑いかけてくるんだもん。 不思議・・・というか恐いよね。

「なんで急に変わったの?」

カイが聞いてくる。

「私、自分の視野が狭いせいで色々な人に迷惑かけてしまっていることに気づいたのです。 だから、言動を改めようと思いまして・・・。」

「いいじゃん!」

カイが笑う。

「今の方が、レティシアいいと思う。 だって、レティシアはトゲトゲしていなければ可愛いんだから。」

「・・・ありがとうございます。」

あぁ、王子スマイル、心臓に悪い。本当に悪い。

しかも、今の言葉裏を返せば「今は可愛い」ってなるよね? レティシアはともかく、私まで勘違いしちゃいそうになるよ・・・。

「カイ様も・・・かっこいいですわ。」

恥ずかしすぎて、思わず口走る。

すると、カイは

「やった、初めてレティシアが褒めてくれた!」

と笑う。

罪深いですよ!カイ様!そういうところです!

その後、カイと話をする。

カイは花が好きなのかな。

私の話にも目をキラキラさせて聞いていた。

──うん、眼福。

「そろそろ、行くね。」

カイがベンチを立つ。

「あっ、あの・・・っ!」

私はガタッと立ち上がる。 立ち去ろうとしたカイは、私の大きな声にびっくりしながらも振り返る。 「どうしたの?レティシア。」

「まっ、またお話して、くれますか・・・?」

自信なさすぎて、どんどん声が小さくなる。

思わず俯いてしまう。

カイと仲良くなって、おきたい。

だって攻略対象だもん。

悪いイメージは抹消するに限る。

カイはキョトンとしていたが、

「うん!いいよ!」

カイは微笑む。

あー、うん。眩しいです。

カイは笑顔を振りまきながら去っていく。 よし!このまま好感度をあげていけば・・・って、あれれっ?

またお話したいとか──まるで私がカイのこと好きみたいじゃない!?

まぁ、そうなんだけどね!好きだけど!

「うぅ・・・。」

まるで青春の一ページ・・・。

私は頭を抱えたまま、少しの間ベンチから動くことが出来なかった。

カイ様、どうか勘違いしないで・・・。


疲れてしまった私は、そのままベンチで寝てしまった。 それはもう、熟睡です。

イケメンと話すことがこんなにも疲れるなんて・・・。

「レティシア様。起きてくださーい!」

誰かに肩を叩かれる。

「うーん・・・あと五分・・・」

「もう!──時間ですよ!レティシア様!」

エレナの声。──あれ?

「わっ!エレナ、ごめんなさい!」

飛び起きた私の前にはスラリと背の高い女の人。

キルリスでは、背が高いことも美人の条件。 エレナを初め、母上、父上も背が高い。

私ももう少し背が伸びるといいのだけれど──って、違う違う。

エレナ──本名、エレナ・リリス・イヴェット。本年二十歳。

父上の数少ない──本当に少ない友人の一人、アダン侯爵の次女だ。

婚約者が居らず、博学であるため私の家庭教師をしている。

「レティシア様、行きましょう。」

「・・・えぇ。」

もうそんな時間か・・・さては私、相当寝ていたな?

彼女はレティシアの憧れ。

そして私の憧れでもある。 だって、さばさばしていてかっこいいんだもん。エレナ。

そんな彼女の後に続いて、私は屋敷に戻った。

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