プロローグ
頑張って書いていくつもりです。
文章力ございませんが、よろしくお願いします。
「はぁ・・・」
私は、電源を切ったスマホの暗い画面を見つめ、余韻に浸りながら幸せなため息をこぼして、ソファ に身体を沈めた。
「全ルート制覇・・・もっかい周回しよっかな・・・」
最後のルートである竜騎士ルートをクリアして、若干の喪失感に囚われる。
私がやっていたのは、大好きな乙女ゲーム、『カナリアに花束を。』(略してカナ花)。
私も流行りに乗ってやってみただけだけど、今では二次創作を漁るほどのオタクっぷり。
ドラゴンや妖精が存在する世界の『キルリス』という国が舞台。
平民から陛下に養子として娘となった既にシンデレラなヒロイン、フローリア・レーヌ・ヴェーザが四人の攻略対象と恋に落ちるというテンプレ系。
でも、このゲームは乙女ゲーム界で随一の人気を誇る。
その理由はズバリ、キャラの良さ!
まず、攻略対象の殿方がかっこいい。
無邪気で優しい王子系、クールでツンデレな頭脳系、爽やかでちょいSな竜騎士、一匹狼で少し病んでるはとこ、など・・・。
全ルート制覇済みの私の贔屓キャラは王子系のカイ・サムル・レザ公子。 サラサラな銀髪に黄色い瞳。
フローリアの幼馴染で、よく懐いている。
無邪気ながらも時に見せる大人っぽさがヒロインを惑わせる。
かっこいいし、可愛いのね。
抱きしめスチルは気絶するかと思った。
人気キャラクター投票はだんとつの一位。
二位はヒロインで主人公のフローリア。
そして、三位は──悪役令嬢、レティシア・フルール・リザリス。
これも、人気の理由の一つ。
このゲーム、サブキャラに凝っている。
だから、どちらかと言うとサブキャラに分類されるレティシアが人気になるのだ。
レティシアは、凄くビジュアルがいい。
レモンみたいで艶やかな金髪。空色の大きな瞳。白い肌に薔薇色の頬。 整った鼻筋、細くてしなやかな身体。
お前はヒロインか!というレベルの可愛さ。
声優も有名な若手さん。なんという優遇具合。
しかし、めちゃ切ない。
王家の次に位の高い公爵家に生まれながらも、両親から愛されず、唯一愛してくれた婚約者にも先 に死なれたレティシアは、みんなから愛されるフローリアに嫉妬して犯罪紛いの嫌がらせをする。
寂しいのは分かるけど、これは流石に・・・ね?
唯一、レティシアの心情を汲んだカイは彼女に寄り添うが、レティシアは彼を邪険に扱う。
しかし、この時レティシアは優しいカイに恋してしまっているのだ。ツンデレである。
両親からの愛より、カイからの愛を求めたが、結局、どう転んでも孤独な死亡ルート。
断罪は避けられないのである。
そして、家は必ず没落する。
ビジュアルはめちゃいいのに、切なくて不器用。
報われない。 そりゃあ、ファンが付くのも仕方がない。
まぁ、でも私はヒロインとカイのメインカプ推しなので。
私はカイレティとか認めない。
「よーし、明日からカイルートもっかい行くかぁ・・・。」
私は呟く。
もう一度、カイのスチルを拝む気満々だったのに・・・。
だって思わないじゃない? 次の日の会社帰りに交通事故で死ぬなんて。
「やはり、私は貴方に愛されないのですね。」
今日はレティシアの断罪日。
嫉妬が行き過ぎるあまり、フローリア殿下の食事に毒を入れたのだ。
毒消しを服用していたフローリアは大事には至らなかった。
今日、レティシアは国外に追放される。
フローリアと並び立つ無表情のカイを見て、レティシアは顔を歪める。
──今までの行いを悔い改めようなどとは思わない。全てがもう手遅れなのだ。
しかし、無理矢理笑顔を作ると、隠していた小刀を取り出した。
そして、自らの胸に矛先を向ける。
──愛されることはないのであれば、せめて貴方の心に残ってみせましょう。
カイは、無表情を崩して苦痛を浮かべる。
いい気味だ。レティシアは内心ほくそ笑む。
意図せず、涙が零れた。刀を持つ手先も、細い脚も震えている。
それは死への恐怖か、愛されなかった悲しみか。
両親はきっと今頃、爵位を剥奪されているのだろう。
一瞬であっても構わない。貴方に愛されたかった・・・
そんな言葉は涙と一緒に飲み込んで、レティシアは言う。
「さようなら。」
それが、レティシアの最後の言葉。
白いタイルに赤が飛ぶ。
笑顔のまま、涙を流して倒れるレティシア。
時が止まったように、誰も動けなかった。
「っ!」
声にならない悲鳴をあげて、私は目を見開く。
今のって、カイルートのレティシア断罪場面──別名レティシアルートだ。
大人しく、国外追放されておけば良かったのに、自殺してしまうグロめルート。
なんであんな、気分が悪くなるような夢?それに、やけに心理描写がリアル・・・ん?
大きな違和感を感じた。
そしてその正体にすぐ気がつく。
此処、私の部屋じゃない。何処?
なんだかとても広い部屋。
あれっ?なんで私、生きてるの?
今、私が寝ているベッドもびっくりするほど大きくて、柔らかい。
全くだるさを感じない、軽い身体を起こして部屋を見渡した。
白で統一された家具は高級そうで、まるでお姫様の部屋みたいになっている。
(寝癖がついていないか、確認しなくては。)
「私」は大きなベッドから降りる。 私の目線がいつもより低く感じる。気のせいかな?
「私」は、大きな姿見の前に行く。
鏡を前にして、私はポカン。とした。
だって、鏡の中には、目を見開いてレティシア様が立っていたのだ。
本来あるはずの腰まで伸びる髪は鎖骨ほどの長さだし、ゲームよりは若干幼く見えるけれど。
「なんで・・・レティシアがいるの?」
私の口から出たはずの声は、鈴のような可憐で可愛らしい声だった。
その時、私の頭の中に洪水みたいに記憶が流れ込んで来た。
頭がズキンッと痛む。
(なんという間抜け面!慎みなさい!)
頭の中に響く高い嘲りの声。
レティシア様・・・そんなこと言われましても。
「ウソ、でしょ・・・。」
鏡の中の私・・・の代わりに映るレティシアは引きつった笑顔を作った。 夢、かな?
うん。きっと疲れてるんだよね。
ゲームのし過ぎで徹夜ぶっちぎってたし。
仕事もピークで忙しかったもん。
私は再び布団に潜り込む。
そして、そのまま気絶したように眠った。
混乱によるものか、私は三日間熱にうなされた。
四日目の朝。
私は再び姿見の前に立つ。
しかし、姿見に映るのは、相変わらず現実離れした可愛さを誇っているレティシア様で・・・。
──どうしましょうか。
死んで、生まれ変わったら乙女ゲームの悪役令嬢、レティシアになってしまいました。