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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
序章『・・・ある日常の終焉』
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第九話 語られし、この五世界

第九話


「とても美味い料理の数々だった、ハルカよ」

 オレは手を置いた。

「それは良かったです。ありがとうございます」

「ふむ。馳走になった」

 すると、ナルがやつれた顔をさせてオレのもとへとやってきたのだ。

「・・・おふぅ―――春歌にいじめられた」

「そうなのか? それはよくないな」

「アルスラン。奈留さんは偏食が多いのです」

「ナルは偏食家だと?」

「はい。貴方からも奈留さんに、いろいろなものをちゃんと食べるように言ってやってください」

「それはよろしくないな、ナルよ。偏食ばかりしていては飢饉のときに食べられずにすぐに死んでしまうぞ?」

「おふぅ・・・アルスまで。そうそう飢饉のときは、アルス達はなにを食べるの?」

「バッタやハチ、木の根を食べ、もしくは樹液や蜂蜜を啜り、それでも足りないときには東や南へ進み、定住の民から馬羊と引き換えに食物を貰う。そして敵から奪うのだ」

「おふぅバッタ・・・ばた」

 ナルはオレの寝台の上に倒れた。そして、顔だけむくっと持ち上げるようにして言ったのだ。

「やばい・・・」

「そういえば、先ほどの食事にあったパンはとても美味かった。おそらくルメリアのパンや南方のパンよりうまいと思う。ありがとうハルカ」

「どういたしまして。アルスランのお口に合ったようでなによりです」

 ハルカはにこりと笑ったのだ。その長い黒髪と相まって彼女の笑顔はとても綺麗だったのだ。


「そろそろ十時ですね」

 彼女、ハルカは言ったのだ。

「じゅうじ?」

「昼の四つ頃です、アルスラン」

「なるほど」

 ハルカは居住まいを正すように真剣な顔で立ち上がったのだ。ナルのほうは相変わらず寝台に座ったままだ。

「先にアルスランに言っておかねばならないことがあります。私と奈留さんはここ日之国日夲の警備局境界警備隊に属している人間です」

「・・・昨日、そなたらを初めて見て思ったことがあったのだ。二人して全くの同じ服装なので、なにかの役に就いている者達であるとは思っていた。警備隊とは主君を護る親衛隊と同じようなものと考えてよいか?」

「はい、それで合っています」

「でも、アルス。今、着ているこの紺色の学生服は境界警備隊の隊服じゃなくて―――」

 ナルは昨日と同じ紺の制服を指で摘んでオレに指し示した。

「―――この服は警備局学校の制服。アルスを助けたときに着ていた茶色い服が隊服なの」

「アルスラン。貴方には我々の上官に会ってもらいたいのです」

「・・・ハルカとナルの上官の―――そなた達、警備局とやらの目的はなんなのだ?」

「貴方の人柄と強さを見込んで、今、窮地立っている警備局を・・・いいえ、日之国日夲を救ってほしいのです・・・!!」

「・・・来たよ」

 ハルカは腰を折ってオレにお辞儀をし、またナルは寝台に座ったまま、扉のほうを見て呟いたのだ。

「―――ふむ。会ってみよう、そなたらの上官とやらに」

 オレにも聴こえているのだ、彼らの微かな、絨毯の上を歩く音が。


「―――」

 ナルは寝台から降りると、とことこと部屋の出入り口の扉に向かった。ナルはその引き戸を少しずらすと、頭だけを部屋の外に出したのだ。

「入ってもいいって」

「失礼します」

 ナルが部屋の扉を全て開けると、一人の女が入ってきたのだ。その女に続いて男も入ってきた。オレが見た限りでは、女も男も歳の頃は壮年の部類に入るだろう。女のほうは、ハルカと同じで、その勝気な眼差しは彼女の意志の強さを感じさせる。男のほうは、その柔らかな表情が、彼の人としての好さを感じさせられたのだ。

「貴方が『転移者』の方ですね。初めまして」

 女のほうが着ているその服は、未だかつてオレが見たことのないような服装で、身体にくっついたような暗色系の服を着込んでいたのだ。下衣はフスタ(スカート)ではなく、(ズボン)を穿いていた。

 彼女は深々と腰を折ってオレに挨拶したのである。女が顔を上げた。

「私は、この日之国日夲の警備局局長の諏訪(すわ) 侑那(ゆきな)といいます、以後よろしくお願いします」

「うむ―――」

 オレは寝台から立ち上がったのだ、礼節を尽くしてくれた者に対して、オレだけが寝台に腰かけたままというのは、礼儀に反するというものだろう。

「オレの名前はオテュラン家のアルスランという。出身はエヴル・ハン国だ。以後お見知りおきを願うスワ=ユキナ殿」

「はい。今後ともよろしくお願いします、アルスラン殿」


「僕は―――塚本 勝勇(かつとし)といいます」

 柔らかな表情の男が一歩進み出た。

「オレの名前はオテュラン家のアルスランだ。以後お見知りおきを、ツカモト=カツトシ殿」

「この日之国日夲の警備局直属の警備局学校―――アルスランくんは学び舎って解るかな?」

「ほう、学び舎とな・・・それはギムナシウムのようなところであっておるか?」

「ギムナシウムとは? 僕はちょっと不勉強で、良かったら教えてくれるかい・・・?」

「よかろう」

 オレは、ギムナシウムというものは、ルメリア帝国帝都バシレイアにある教育機関であるということ。ギムナシウムの建物を中心に街区全体が教育都市になっており、そこでは帝国内から集められた皇帝一族の王子王女達や貴族、平民出身だが有能な者達、または周辺国や属国の王子・王女などが、勉学や心身の鍛錬などを行なう場所であることを、彼に言い聞かせたのだ。

「おおむね、日之国の公的教育機関と合致するね。つまり僕―――僕はその学び舎の寮を監督する者・・・寮監をやらせてもらっています」

「寮監とな」

「うん。健康な人はこの病院内にはずっといられないんだ。アルスランくんの傷が癒え次第、警備局学校の寮へ移ってもらいたいんだけど、いいかな?」

「―――」

 日之国の警備局はオレをどうするつもりなのだろうか・・・? そういえば、先ほどハルカがオレに日之国を救ってほしい、と言っておったな。それにユキナは、転移者だとか・・・、いや、まずはこの日之国なる地についてよく知ることが先決ではないのだろうか?

「―――」

 オレは静かに寝台に腰かけた。

「いや、まずは―――オレを救ってくれてありがとう、貴方がたがオレの生命を救ってくださらなかったら、オレは死んでいたに違いないのだ」

 オレは四名に深々と頭を垂れたのだ。

「頭を上げてアルス」

「ナルよ―――すまない」

 オレはナルに促されて頭を上げた。

「ううん。アルスはここで目を覚ますまでのことを覚えてる?」

「無論だ」

 オレは我が身に降りかかった出来事、ルメリア帝国との戦いの末に国が滅んだこと、身内の多くがルメリア軍団に殺されたことなどを言ってきかせたのだ。

「オレは身内を助けてやりたかったのだが、力が及ばなかったのだ。そして一騎打ちの末、敵将のニコラウスという者に敗れ、目を覚ますとまさにここにいたのだ」

「本当にそれだけ? あのイデアルの三人と戦ったことは覚えてない?」

「―――・・・」

 なんのことだ?オレが三人と戦っただと? 三人とは誰のことだ? 多くの敵兵達と戦ったオレには三人と言われても分かりかねるな。

「解った。まぁでも仕方ない。あのときのアルスは意識を失っていたから、覚えていなくても無理はないと思う」

 ナルはオレに深く訊いてくることはなく、早々に話を切ったのだ。

「すまぬ」

「ううん」

「・・・それはきっと―――僕の推測だけど、アルスランくんが世界と世界を隔てている空間を越えたときに、おそらく強力なアニムスの影響を受け、それにより記憶が曖昧、もしくは忘れてしまったんだと思うよ」

「アニムスとはルメリアの言葉で『力の源』や『生命の根源』という意味だが、日之国でもそれで合っておるか?」

「うん。そのとおりだよ、アルスランくん。きみは、きみが今まで暮らしていた場所で突如、神隠しに遭ったんだ」

 オレは『アニムス』という言葉をカツトシに訊いたはずだ。この目の前にいるカツトシという男は、話をぽんぽんと変える男だ。

「・・・神隠しとな?」

 いや、話を変えるというよりは、確信に迫る文句を言う前に前置きから話し始めるので、話が飛んだように聞こえ、そう思ってしまうかもしれぬな。

「うん、そのとおり。その神隠しを経て今、アルスランくんがいるこの場所はきみが暮らしていた大地じゃない。僕達の惑星―――惑星イニーフィネの大地だ」

「惑星イニーフィネの大地―――だと」

 どこだ、どこでその言葉を聞いたのかは分からないが、その『イニーフィネ』という名は聞いただけで、すとんを腑に落ちたのだ。

「僕達はきみのような、異なる世界からの来訪者のことを、転移して来た者『転移者(てんいしゃ)』と呼んで、僕達の惑星に元から居る住人とは区別するんだ」

「ここはオレのいた『大地・水(イェル・スゥ)(=世界)』ではないというのか―――?」


「アルス。突然こんなことを聞かされて混乱するのは分かるけど、聞いてほしい」

「ナル」

「うん。私達が住む惑星イニーフィネは五つの異世界が同居している惑星」

「五つの異世界―――」

 その言葉と概念に、なぜか既視感を覚えたのだ。

「うん。五つの異世界。この惑星には大きな大陸とそれを囲むように海が一つだけあるの。それぞれ属性が違う五つの異世界―――。『イニーフィネ帝国』『日之国』『月之国』『魔法王国イルシオン』『ネオポリス』があり、その五つの世界はこの惑星を空間ごと五分割している。ここまでは大丈夫?解る」

「ふむ、続けてくれ」

「この惑星イニーフィネに伝わる割と有名な創世神話だけど―――」

 そうして彼女ナルは語り出したのだ。

「―――」

「―――むかしむかし、この惑星イニーフィネには自らをイニーフィネと称する人々が豊かではないが、幸せに細々と暮らしていました。彼らは自分達が住む、この母なる惑星に感謝し、『彼女』を大地母神として礼節を尽くして崇め、敬っていました。そこであるとき、母なる惑星イニーフィネは、女神の姿をとりイニーフィネの人々の前に降臨したのです。『彼女』は自身の惑星に住む正しき心を持った人々に叡智の力を授けました。すなわち『超能力』『氣の具現化』『魔法』『科学力』の四つの聖なる智慧と機構とそれら四つを駆動するための『アニムス』。神の如き叡智の力。『五つの叡智の力』を手に入れたイニーフィネの人々は五つの叡智を組み合わせ、高度な文明を築き上げ、平和な国を興しました。彼らイニーフィネの人々は女神から自身に与えられた『アニムス』を駆使して、『超能力』『氣』『魔法』を行使し、高度な『科学力』を用いてアニムスを駆動源にした機械をも操ることができました。彼らは全てのことを成すことができたため、次第に自分達の惑星イニーフィネに対する感謝や慈愛も忘れ、人々の心は堕落し、驕ったように振る舞うようになりました。そしてついに彼らイニーフィネ帝国の人々は母星をも滅ぼすことが可能な七基の超兵器を創造しました。心を痛め、悲しんだ『彼女』はついに行動を起こしたのです。『彼女』は四人の惑星達に助けを求め、それに応えた四人の『彼女』はそれぞれ自分の『子達』を養子に出したのです。その四人の『彼女』から惑星イニーフィネに送られた子達はそれぞれ、超能力に特化した『日之民』、氣の行使に特化した『月之民』、魔法を行使する『魔法王国イルシオンの民』、そして機械に長けた機人『ネオポリス』の『子達』です。『四人の子達』はイニーフィネ帝国の驕り高ぶった人々から、土地を切り分け、それぞれの国を興したのです。それでこの惑星イニーフィネに五つの『世界』ができました。・・・ちゃんちゃん」


「ふむ。ナルが語った説話は、理には適った内容ではある」

 しかし、オレの心に一つの疑問が湧いたのだ。オレが心での中でうまれたこの疑問を言ってしまえば、彼女達の心象を悪くしてしまうかもしれない。だが、オレは言わずにはいられなかったのだ―――

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