第六十六話 義妹 一
第六十六話 義妹 一
数日後―――。
「確か、、、この辺りだったはずだが―――」
オレは宝物庫に来ていた。宝物庫と言っても、煉瓦造りや石造りの宝物庫ではない。宝物を納めておくためのそれ専用の天幕だ。
「ふむ―――」
どこに仕舞ってあるんだったか・・・。
「兄さん」
オレが従者と一緒に宝物庫の中できょろきょろと、手をせっせと動かしながら目当てのものを探しているときだったのだ、オレの背中側から声がかかったのは。
オレの後ろ、背中側から掛かったその声は柔らかい雰囲気を持つ少女の声だ。この声に聞き覚えはある。この少女の声はオレの義妹の声だ。オレはゆっくりと振り返る。姉上に言われたことを―――ちょうどよい機会だ。
オレが振り返れば―――
「ふむ、イェルハよ。よく来てくれた」
―――にこっ、っとイェルハがはにかんだように笑う。
「はい、兄さん・・・っ」
義妹のイェルハはオレより二つか三つほど年下だ。オレや姉とは血の繋がりはない。ルメリア国の帝室バシレウス家出身の継母上ソフィア殿の連れ子であり、生粋のルメリア人だ。そのせいかイェルハはその目鼻立ちの彫がはっきりとしている。そして草原の民であるオレや姉上などと比べると、その眼の色はやや明るい。
イェルハの背丈はオレよりも低い。おおよそいつも見ている感じでは、イェルハの背丈はオレの胸辺りから頸ほどの高さだ。馬に跨っているときもそうだ。イェルハはオレより頭一つか一つ半ほど背は低い。
イェルハの着ている赤の煌びやかな外衣が映え、その下に着ている絹の装いを際立てているのだ。
頭にはオレと同じ毛氈の山高帽。イェルハはその美しい絹のような後ろ髪を辮み、二条の三つ編みとして項から前へ、胸の上を通り、その腰の位置まで垂らしている。
辮まれた二条の美しい髪がイェルハの胸を通り、、、すぅっとオレは視線を下へ、、、腰の位置で赤色の外衣を締める革帯とその黄銅色の帯留め、、、外衣の上からでも推し量れるイェルハの括れた腰、、、。そのイェルハは、自身の革帯に小さな革製の布袋を取り着けている。
ふむ・・・イェルハのやつ―――・・・っ。
「―――・・・っ」
ハッ、っと俺はイェルハを見詰める自身のその視線に気づいて、自分の視線をイェルハの顔へと持っていった。
いくら義妹とはいえ、イェルハの身体を頭の先から頸、肩、胸、腹、腰、脚と上から下へと、じろじろ観るのはよろしくないな。女子は聡いと聞く。自身に向く男の視線の先を女子はすぐに察するものらしい。
「兄さん?」
っ。な、なにかオレの視線に気づいたというのか、イェルハよ。だが、オレがその自身の動揺を顔に出すことはない。
「うむ。イェルハよ。して、そなたはなぜここに、、、いやオレが呼び出したのだったな、イェルハよ」
にこっ、っとオレの問いに義妹は頬をかわいく綻ばせたのだ。
「はい、兄さん―――、っ」
ふぅ、、、どうやら事なきを得たようだ。よしっ、イェルハはオレの視線の先に気づいてはいないだろう。
イェルハは、天幕の入り口を背にして、すこしはにかみ―――、そして口を開いたのだった。
オレの義妹イェルハは父の後妻ソフィア殿の実子いわゆる連れ子だ。父は、後妻をルメリア国の帝室から迎え入れ、その、、、俺から見て継母となる後妻殿にはすでに女の子どもがいたというわけだ。その子こそがこの今オレの目の前に立つイェルハだ。確かイェルハのルメリア国での名前はフローラだったはずだ。オレの父トゥグリルがフローラと同じような意味を持つ『イェルハ』という名を付けたらしい。
「兄さん。二人でお目当ての物を探すより、私、三人で探したほうがいいと思いまして?」
きょとん、っと首を傾げるイェルハだ。イェルハよ、言い出したそなたがなぜそのようにきょとんっ、っと首を傾げているのだ?
「なるほど、、、」
「一人より二人、二人より三人で探すほうが見つけやすいですよね? 兄さんもそう思いませんか?」
「??」
うむ?なぜだイェルハのやつ?? いつもよりぐいぐいとくるではないか。
―――、オレはこの場にいる、オレの従者のバルチャという名の者に視線を持っていく。するとバルチャのやつは、にやっ、っと口角を緩ませたのだ。
「アルスラン様」
そして、すすっ、っとバルチャはオレの側に寄って来る。さっ、っとオレの目の前でバルチャは片膝を天幕の床に着けた。そして、バルチャ自身が被っていた山高帽を脇の下に挟んだ。
そのバルチャの様子を見てオレは彼の前面に立つ。
「ふむ、申してみよバルチャ」
「若、御耳を―――」
どうやらバルチャの話は内々のようだな。イェルハや、イェルハの後ろに控える侍女には聞かせたくない話のようだ。
ふむ・・・、オレはバルチャが話しやすいように、膝をつくバルチャの前面に座した。そして片耳をバルチャに差し出す。
「バルチャよ」
「イェルハ殿は若を―――、・・・、・・・、・・・」
こそこそこそ―――。―――、お前まで姉上と同じようなことを言うのかバルチャよ。
「・・・っ―――」
―――っと、バルチャはオレの耳元で小さく呟いたのだ。
「では、若。私はこれにて」
さっ、っとバルチャは身を引くと天幕の外へと辞していった。
「―――」
バルチャがいなくなり、、、―――、だが本当にイェルハが、バルチャの言ったとおりのことを、、、そこまでイェルハがそのようなことを思い、望んでいるのだろうか?分からない。確かにバルチャが言ったとおりのことを、オレ自身聞かされたことは度々あるが。
「・・・兄さん。そのバルチャさんは・・・?」
っ!! その当人に、急に話しかけられてびっくりしたではないか、イェルハよ。まぁ、オレは顔には出さぬが。
「っ。イェルハよ、見よバルチャは去った」
まぁ、バルチャが去ったということは、ここにいる誰の目が見ても明らかだろう。
「はい・・・?」
きょとん、っと、そのようにイェルハは首を傾げた。
つまり、バルチャのやつはオレに、それとイェルハに気を遣ったのだ。バルチャ本人はオレ達に気を利かせてくれたわけだが、、、。
「よって、イェルハよ。そなたがオレの探し物の手伝いをしてはくれぬか?」
「はい、兄さん―――っ」
破顔一笑。そのようにまばゆくかわゆい顔をしおってからに・・・。
「っつ」
イェルハは顔を和らげてにこりと満面の笑みをこぼした。
こうしてオレは義妹のイェルハと一緒に、金銀、玻璃、瑠璃、刀剣などの宝物がうなるような宝物庫用の天幕の中で目当ての宝物を探すことになったのだ。
「兄さん」
「どうしたのだ、イェルハ?」
とことこ、とイェルハはオレの近くにやって来る。イェルハのその視線はオレの右手に向いている。ということはこれか。オレの手元にある羊皮紙に記された宝物の一覧か。
「―――ひょっとしてこの宝物の一覧か?」
ひらひらっ、っとオレは宝物の記された羊皮紙をイェルハの前に差し出す。
「はいっ、兄さん・・・っ」
にこり、と。イェルハのやつは。イェルハは本当にころころと表情を変える愛らしく明るい娘だ。
「ほら、イェルハ」
オレは羊皮紙を彼女イェルハに渡す。イェルハはオレから羊皮紙を受け取り、
「―――・・・」
じぃ・・・むむむっ、っとイェルハは宝物が記された羊皮紙とにらめっこだ。
「・・・」
ふっ―――、そのようなイェルハもまた愛らしいというものだな。無論、オレは自身のその気持ちは口には出さないがな。
「えっと―――、黄金の櫛に白銀の杯と鉄製の宝刀、それと玻璃の玉ですか・・・兄さん」
羊皮紙とにらめっこのイェルハは、その視線を自身の手元の羊皮紙から視線を逸らすことなく―――、
「うむ、そうだイェルハ」
―――その記されている一覧の品々の名を口にした。そのそれぞれの品々はルメリア皇帝アレクシウス殿へ、オレの父君トゥグリルからの渡す返礼品だ。
ふぅっ、っとイェルハは顔を上げた。
「これらの品々をお祖父さまに、ですか・・・」
ふむ、イェルハのやつなにか浮かない顔だな。
「うむ、、、?」
イェルハはこう、なんと言ってよいのか解らぬように、少し視線を伏せたのだ。
ちなみにだが、ルメリア帝アレクシウス殿には正妻と何人か側妻、そして彼女達との間にできた子息達や息女達が多くいる。正妻殿との間には二人のお子が。長子はステファヌス殿、次子はソフィア殿。イェルハの母親がそのソフィア殿にあたる。
「だって兄さん―――」
ふぅっとイェルハの顔を見るに、彼女はとてもなにか言いたいことでもあるかのようだ。
「ふむ、どうしたのだイェルハ?」
「この品々、、、お祖父さまに本当に使っていただけるものかと思いまして。兄さんっお祖父さまったら本当にひどいんですよっ。お祖父さまは贈られた品々を使うことなく結局、宝物庫に眠らせてしまわれるのですから・・・っ」
「ふむ」
ぷんぷん、だろうか?今のイェルハを現すのであればそうだ―――。




