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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
回想 或る国の終焉。
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第六十四話 姉が来たりて

 先代クルト・ハンの子でありオレの父君トゥグリル・ハンは黄金の華麗な装飾が成された椅子に座している。あのような華麗な衣服を父はどこに持っていたのだろう。少なくともオレは今、父が着ている金糸銀糸を織り込んだ華麗で絢爛、眩いばかりの父の盛装などをこれまでに見たことはなかったのだ―――。


第六十四話 姉が来たりて


 そんな父は、座すオレの背中より後方に設えた玉座そのような黄金の椅子に座し、眩いばかりの衣裳にその身を包む。

 父にとっての後妻。オレにとって継母であるソフィア・ハトゥンはその美しい髪を靡かせ、父君の隣に静かに座している。そして、父の右側には、四名の者すなわち父の最も信のおける者達、親衛隊隊長の任を預かるイスィクという名の者、同じくヤルバルという名の者、そしてウズン、バルチャの二名だ。イスィクという男はオレにとっては義父(アタ・ベグ)のような存在であり、イスィクはオレにとっても最も信のおける男だ。

 と、しずしず・・・と来る者がいる。

「・・・」

 む、っと思わずオレは面の前を意識した。目線をそちらに、そして意識を向ける。すると、オレや父君の眼前から衣ずれの音が聞こえたのだ。ゆるりゆるり、と父の黄金の玉座に進み出る者が一人とその後ろにもう一人。さきのルメリア国より派遣された使節団の団長の男とその従者だ。

 その使節の長の男は、オレの目の前でその足を止める。それに伴いもう一人の従者の者も足を止めた。彼ら使節の者はオレに対して足を止めたのではない、父上の眼前でその足を止めたのだ。

「トゥグリルさま、このような宴の機会を皇帝の代理である私達のために御開き頂き大変嬉しく思います。きっと我らが主アレクシウス皇帝がこの場におられたら、皇帝もさぞやお喜びになられたことでしょう」

「うむ」


「・・・」

 父の『うむ』という低い声が後ろから聴こえた。そして、衣ずれの音も、たぶん父上は椅子から立ち上がったのだろう。


「我がルメリア皇帝アレクシウス様はその御子であらせられるソフィア皇女に幾つかの贈り物を成されました」

「ほう」

 父上は訊いたのだ、この使節の長に。

 すると、継母ソフィア殿も身を乗り出したのだ。 

「それは?私の父はなにを。父は娘である私になにを贈ると言っておられましたか?」

 継母上の言葉の声色に期待が混じっているように聞こえたのは、オレの聞き違いではないだろう。だが、それよりもルメリアの祖父から娘である継母上ソフィア殿に贈り物とな?

 ルメリアの祖父より継母ソフィア殿へ贈る贈り物―――、それはいったいどのような品だろうか?

「・・・」

 自分の背中より後ろの父と継母ソフィア殿の声だ。オレは礼儀に反する後ろを振り返るということはせず、目の前のこの使節の長やこの場に居並ぶ臣下達を見ていた。耳は父上や継母上が座す後ろに欹ててはいるがな。

 父が娘に贈る贈物、目の前に佇む使節の長の従者が両手を出して水平で持つ箱に入っているやもしれん。その者が持つ箱には煌びやかな金銀銅の装飾が成され、一目でそれが高貴なものであることを見て取れる。きっとあの箱の中にルメリア皇帝からの娘である継母ソフィア殿への贈り物が入っているのだろう。


 使節の長は首を垂れる。

「ははッソフィア様、少々お待ちを。これい―――」

 使節の長は右手を軽く掲げると、自らに付き従う箱を持った己の従者に手で合図をした。しずしず、っとその従者は無言で歩み、、、ちなみに言えばその従者は女子である。顔かたち身体つきその長い髪を髪留めで結った髪型、またその服装でその付き従う従者が女子であることがオレには分かるのだ。

「まぁ、貴女は―――」

 継母上は黄金色の椅子から立ち上がる。それからゆるりと、、、

「はい、ソフィア様―――。お久しゅうございます」

 、、、その使節の女子を抱擁し、またその使節の女子も継母上の抱擁に応えたのだ。


 継母上の笑顔はとても綺麗だった。少なくとも間近にいたオレにはそう思えたのだ。楽しく嬉しそうで、継母ソフィア殿はその使節団の女子といくつか語り合っていた。

「・・・」

 宴の前に執り行われた使節団の長の粋なはからいで、継母上の心はうきうきと弾んだことだろう。

「イスィクよ、近こうよれ」

 父は黄金の玉座に座したまま、従者のイスィクを玉座の傍らに来るように命じた。

「ハハッ」

「料理を持って参れ」

 首を深々と垂れたイスィクに父は言う。

「ハハッ」

 すすっ、っと退室するイスィク―――ついに待ちに待った宴が始まったのだった。


 イスィクと幾人かの従者達がオレの父の玉座の前に、黄金でできた食卓を運んできたのだ。その父の食卓の上に置かれている皿の上には火を通した肉と幾ばくかの麦めし、それに野菜と瑞々しい果物が添えられている。

「・・・・・・」

 じぃっ―――っとオレ達が固唾を飲んで見守る中、父は右手に肉を切り分ける用の短剣を手に取る。

「ふむ。では皆に先んじてハンである私が戴こう―――」

 すっすっ、っと父は右手に持った肉料理を切り分ける短剣を使い、肉を一切れ切り分け、それを口に運ぶ。

「―――、―――、―――」

 もぐもぐ、―――ごくんっ、っと父は火を通した肉を食べる。それを、二口三口と同じように、父は肉料理を口に運んだ。父君はその途中で自分の料理を食べるのを止め、、、

「次なる肉料理を持て―――」

 と言って、手を挙げる。

「ハハッ」

 すぐにイスィクが下がり、、、取って返すようにまたイスィクが父の前に料理を持ってくる。

「うむ。―――」

 父はそのイスィクが持ってきた次の料理の肉を新しい短剣で切り分けて、父はその料理に手を付けず―――、当たり前だ、父が切り分けた肉料理は自分の料理ではないからな―――、それをルメリア国の使節団の長の前に運ばせる。次にまた同じように運ばれてきた肉料理を切り分け、今度は四名の親衛隊隊長に、次に父は継母のソフィア殿に、と。

「・・・」

 そしてようやっとオレや姉上、イェルハの前にそうした料理が運ばれてきて、、、皆にそれ行き渡ってはじめて宴になるのだ―――。


「ふぅ・・・」

 ちと食い過ぎたかもしれぬ。右手で腹を摩り、オレは宴の席で立ち上がる。

「若?」

 下から、若?と座した姿勢のままオレを見上げるのは、オレの従者でもあり、父君の親衛隊隊長の一人でもあるヤルバルという名の黒髪の壮年の男だ。宴の席のヤルバルは今やその山高帽を脱ぎ、それを自身の太腿の上に置いてある。

「供を致せ、ヤルバル」

「はッ、アルスラン様っ」

 ヤルバルは軽く頭を下げてオレに一礼すると、恭しく立ち上がる。

 夜風に当たるために、そして尿意も催したオレは従者のヤルバルを誘い出したわけだ。ヤルバルを伴い祝宴を抜け出して天幕の外に出る。外は松明が灯り、先ほどまでオレがいた天幕の中から聴こえてくる人々の楽しむ声―――、それを聞きながらオレは。

 俺は夜空を見上げた。祝宴が始まり数刻―――日は沈み、青き空は漆黒に点々と星々が煌めいている。そう、空はすでに夜の神が天幕を張り、夜が支配する庭になっている。

「見よ、ヤルバルも―――」

「はッ、アルスラン様」

 ヤルバルもオレと同じように夜空を見上げる。うむ、空は雲一つない漆黒の綺麗な空だ。星々が煌めき本当に綺麗な夜空である。しばし、夜空と星々を仰ぎ見たあと、オレは(おとがい)を元に戻した。ぶるっ、っ夜風がオレの身体を浚う。

「ヤルバルよ―――」

 オレは肩から掛けていた刀帯、それに着いた刀を外す。

「はい、アルスラン様」

 オレはそれら刀帯と刀をヤルバルに差し出した。尿を済ますまで一時それらを従者であるヤルバルに預けておくのだ。ヤルバルは両手で抱えるようにしてオレの刀帯と刀を受け取ってくれたのだ。

 それらを儀に則って行ないオレは用を足した。用を足したあと、オレは同じように今度はヤルバルの刀帯と刀を持ってやり、その間にヤルバルはそれ専用の天幕にて用を足しに行った。

 しばし、

「―――」

 ふむ、ヤルバルのやつ少し遅いな。難儀しているのかもしれぬ。まぁ、よいか、少し待っていてやろう―――。


「・・・」

 そういえば、あの書状、ルメリア国からの使節団の書簡。あの書簡は複数あり、オレも全ては教えられていないが、まず一つ目が父君トゥグリルの前で使節団の前で読み上げた『祝詞と宿望』それとそれへの『返答』を迫る書簡だ。そしてもう一つの書簡があった。それは―――、その書簡の内容は継母上ソフィア殿とその子イェルハの一時帰国を乞うものだった。

 つまりはルメリア国のアレクシウス帝は己の実子で俺の継母に当たるソフィア殿と孫のイェルハ・・・いやルメリア国での名前はフローラだ・・・その二人に会いたいので、少しばかりの彼女達の里帰りを要望するものだったのだ。

 オレの視線は宴会が催されている天幕を向く。

「ふむ」

 ふむ、継母上もルメリア国の使節団の者どもが来てよい感じに盛り上がっているみたいだ。継母上の上機嫌の笑い声とその者らの笑い声が聴こえてくるのだ。

「っ」

 む? 下草を踏みしめる音が徐々に大きくなりその足音はオレのほうに近づいてくる。どうやらヤルバルのやつめ用は足せたようだ。

 足音の主は複数? 確かヤルバルのやつは一人で用を足しに行ったはずだ。―――ふむ、用心に越したことはないか。

「そこにいるのは誰だ?」

 夜の神が張った帳がすっかりと落ちているため、月明かりのない夜は真っ暗だ。オレは音の出所を頼りにそちらへと振り向く。すすっ、っとオレは用心に越したことはない、と左手をすすっと刀帯に差した刀の鞘に持っていく。

「アルスラン」

 その声はオレの姉上だった。

「おっと姉上か」

 鞘を握っていた左手をオレは外した。

「ふふっえぇ、アルスラン」

 そうだ。この落ち着いた優しい、そして時に凛として芯に力を纏う声色は姉上のものだ。

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