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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
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第五十八話 月之国へ 二

第五十八話


「・・・オレが生きてきた世界はこの世界―――日之国と違って、いつ生きるか死ぬかも判らないようなところだ。オレの『目指すもの』にケンタを巻き込みたくはないのだ。それに、あの第六感社という結社の動向も気になる。ケンタはオレが帰ってくるまで、日之国で待っていてはくれないだろうか?」

「アルス・・・お前まで。そうかそうか最弱の俺がいても所詮邪魔者だもんな・・・あ~あ、わぁったよわぁったよ・・・ケッ」

 ケンタはいじけを通り越し、ついには拗ねてしまったようだ。ケンタの言動を見たオレは、やれやれと思いながらオレはなんとか説得する言葉を考える。

「それは違う。よいか、ケンタよく聞いてくれ。オレが生きてきた世界はひとたび戦乱となれば、力のない者は何も守れぬ世なのだ―――」

「だからだよ!! 俺も少しは強くなったと思ってるし、もっと強くなりたいんだッ!!頼むッ自分の身は自分で守る。アルスには迷惑をかけない。だから俺も月之国に連れていってくれッ頼む!!」

 ここまで強情なケンタは初めて見たのだ。

「・・・だが、しかし、ケンタよ・・・」

 今度はオレがハルカに援けを求めて視線を送る番だった。オレのこの目は、もはやここまでしっかりと自分の考えを述べるケンタを月之国に連れていってやったほうがいいのかもしれない、と意味も込めた視線と表情だ。

「アルスランには肉親や領民を捜すという大切な目的があります。しかし健太は・・・そうですね、なぜ月之国に行きたいのですか? もう一度、私にその理由を聞かせてください」

 だが、ハルカは諦めることなく、ケンタの望みを打ち砕き、断ち切るつもりでいるのだろう。ハルカのこの信念を曲げぬ心と不屈の闘志にも感服するものがある。

「だから、何回も言ってるだろ・・・!! 俺はもっと強くなりたいんだってッ。そしたら絶対に自分の身も護れるようになるし、仲間だって護れるようになるんだぜ?それに俺は春歌お前だって護れる強い男になりたいんだよ・・・!!」

「―――え?」

 ハルカは口元を左手の甲で押さえたまま固まったのだ。おそらくケンタは深く考えることもなく、今の自分の言葉を発したのだろう。

「春歌どした? おーい春歌?」

 ケンタは春歌の眼前でその右手を軽く左右に振ったのだ。

「お~い春歌ちゃ~ん」

「ッは、春歌ちゃん!?」

 うむ。ケンタのその言葉でハルカの金縛りは解けたようだ。

「戻ってきたようだな、春歌。さっきの続きだけど、俺、さみしいんだよ。もう俺達四人アルスと奈留とそれに春歌お前は俺の中では欠けてはいけない、もうそんな存在になってるんだよ」

「健太―――・・・」

「混成隊が解散になったら、春歌は警備隊の任務ばっかで俺の相手はしてくれなさそうだし、奈留はアルスと一緒に月之国に行っちゃうからさ、俺だけぼっちかよ・・・俺だけのけ者か?」

「な、奈留さんはアルスランについて行くのですか・・・!?」

「うん。そだよ春歌。私はアルスと一緒するから」


「知らなかったのか、ハルカよ? ナルはオレと一緒に月之国に行くらしい」

「ううん、アルス。らしいじゃなくて、私はアルスと一緒に行くの。もう侑那の許可は取ってある」

「す、すまない。そうだったな、ナルよ」

「アルスの生き様を見届ける―――(ふんすっ)」

「ふふ―――そうであったな、ナルよ」

 オレの口元には自然と笑みがこぼれていたのだ。

「奈留さんがアルスランと一緒に月之国に行くなんてそんな話、私は諏訪局長より伺っていませんよ・・・!!」

 ナルは、驚愕の事実を今まさに知ったハルカを後目に得意げに語り出したのだ―――

「アルスが、私だったらついてきてもいいって言ったから。ね?アルス」

「う、うむ・・・」

 ずいぶんと端折ったものだな、ナルよ。その前後のことを全く語っていないではないか。主に捨てられた子イヌのような顔をして―――アレは泣き落としに近いものがあったな、ナルよ。オレは―――すでにナルという存在が大きくなってしまっているのだよ。だから、あのような表情を見れば、オレは折れるしかなかったのだ。

 それにオレはあのあとに思ったのだ、ナルを独りにするほうがよっぽど危険だということに。『ナルよ。オレの傍にずっといろ』―――などという文句を彼女に言ったことはないが。此度の月之国のことはそれに近いことだったのかもしれない。

「アルス、早く月之国に行こ? 月之国には何を持っていったらいいか、私に教えて?」

 食の席から立ちあがった彼女がオレの服をくいくいと引っ張る。

「う、うむ・・・」

 ふむ。最近、ナルのオレへの接触の度合いが今までにも増して濃くなった気がするのだが、気のせいだろうか・・・。あぁきっとあの夜の戦いのおりに彼女ナルに語ったオレの言葉―――オレを信じよ―――などとナルに囁いた所為だろう。ふとしたナルの身体の動きに彼女の美しい銀髪が舞う。

「・・・・・・」

 そのときに一緒にふわりと彼女の『匂い』が漂ってくるのだ。

「ッ」

 だが―――、何を考えているのだオレは。オレは何を成しに月之国に行くというのだ、イェルハや姉を見つけに行くのだろ? オレは自問自答をする。

「ねぇ、アルス」

 ぐいっと彼女に上位の裾を引っ張られたのだ。オレは心の動揺を努めて顔に出さないようにする

「おっと・・・!!」

 ナルに右腕を取られた状態に姿勢を傾けながら、彼女に答える。

「・・・ごめんなさい、アルス。痛かった?」

「いや、大丈夫だ。椅子半分になったが痛くはない」

「じゃぁ、こうしよ・・・?」

 半分空いた椅子の部分にナルがちょこんと座ってきたのだ。

「う、うむ。まぁよいが・・・」

 ナルの女性らしい柔らかな腰や尻がオレの身体に当たったり、当たらなかったりを繰り返すので、オレは努めて平静を装いながら、ナルに接するのだ。草原の民の男は、たとえ好意がある女だろうとも契りを交わすまでは触れてはならぬのだ。

「ねぇ教えてアルス、服装はどんなのがいいと思う?」

 彼女は電話を操作し、その画面に映し出された衣装をオレにほれほれとばかりに見せてくるのだ。

「―――ふむ。そうだな」

 その場で椅子から降りて立ち上がったナルは、まるで舞踏を嗜んでいる者のようにくるりと彼女は回った。う、うむ―――ナルの匂いが漂う―――いかん、いかんぞ。

「ではオレと同じ、草原の民の服を着てみるか?ナルよ」

「うん。それがいい・・・。あとそれからアルスはどんなごはんを食べてたり―――あと、飲み物は? 義妹はどんな子?前にざっと聞いたけどもう一回詳しく私に教えて」

「食べ物・・・ふむ、そうだな・・・。羊肉や乳酒や乳製品の醍醐をよく食していた。あとは農耕民から手に入れた穀類をだな」

「ふ~ん、私はリゾットもチーズも好き―――」


「にやにや。奈留たんにやにや。いやぁ~いいっすねぇ」

「―――健太なにかおかしいことある・・・?」

「いやぁ、別に~」

「まぁいい。今の私はすこぶる機嫌がいい。健太も早く仲を進展させるべき、私が代わりに言ってあげる。(ふんすっ)」

「え、奈留たん? なにそのムフっとした笑み―――?」

「健太が好きな人は、春歌―――」

「は、はい。その・・・父母・・・それに家の者にも健太のことは紹介しました。その報告が遅くなってすみません・・・奈留さん―――・・・」

 その恥ずかしげに、面映ゆくさせるハルカとその彼女がこぼした言葉に、ナルの眼はじとっと、そして口は△になった。

「う、うん。実は。俺は春歌に紹介できる両親はいないけど・・・さ」

「・・・意外と二人の仲は進展してたのか」


 おほんっと咳払いのケンタ。やはりオレとナルに知られるのは恥ずかしいものがあるらしい。

「取りあえず奈留はアルスと同じ服か。じゃあ俺は和装の袴でいいか」

「ちょっと待ってください健太。貴方は、警備局局長そして境界警備隊隊長の私の許可なく、警備局を辞めるなどということはできませんよ。警備局を辞めて勝手に月之国に行くなどと、健太貴方はここ日之国に残るべきです―――」

「おっと春歌―――そんな脅しで俺を止めても無駄だぜ。俺は月之国に行く。俺はもっと強くなるために。俺は月之国で剣聖を目指すぜ・・・!! だから春歌はこの日之国で俺を待っていてほしい。必ず今よりも強くなって帰ってくるから・・・!!」

「あ、あのですね・・・健太。お願いですから行かないでください。私の話をよく聞いてください。貴方は日之民なのです―――」

「ふぅ、仕方ないね。健太くんも行ってくるといいよ、月之国へ」

 そのような四名での賑やかな会食の場に、カツトシがひょこっとその姿を現したのだ。

「マジっすか塚本さん!! やったぜッ!!」

「ちょっ塚本さん・・・!!」

「春歌くん、たぶん彼は止めても無駄だよ。ほら稲村くん(かれ)もそうだったじゃないか」

「た、確かにそうですけど・・・」

「きみはどうする?春歌くん。月之国へ行ってみるかい?」

「わ、私は。し、しかし、私には警備局境界警備隊の任務が―――」

「実は春歌くん。これを侑那から預かっていてね」

「この白い封筒は―――辞令ですか?」

「うん。春歌くん、それを今ここで開けてほしい」


「アルスッ月之国に行ってもよろしくなッ!!」

「う、うむ・・・よろしくだ」

 ケンタのその高揚さに若干圧されながら、オレは差し出されたケンタの右手をがしっと握るのだった。

「健太。強くなったかの試験にパスしないとダメ」

「絶対に奈留たんの試験に受かってやるぜッ俺も少しは強くなったからさッ!! あとで俺の奥義を二人に見せてやるッ」

「わかった。じゃ健太の奥義を私達に見せて」

「おうッ!! あッそうだ、アルス」

「ん? どうした」

 目をきらきらと今のケンタはまるで水を得た魚のようだった。

「明日、俺とあいがかり稽古をつけてほしいんだ」

「え?」

「強くなった俺を見てくれないか?」

「ふッ」

 自然と笑みが零れたのだ。あの氷華という刀とその氷箱をオレは見た。今のケンタはオレより強くなっているかもしれんな。

「ケンタよ、お前が強くなりすぎていて、手は抜けないかもしれんぞ?」

「おうッ、俺だって見せてやるぜッ」

「それ、私も一緒に行っていい?健太」

「おう、奈留もぜひきてくれよ」

「わかった」

「ね、ね、アルス。私も一緒していい?」

「う、うむ。だが、お手柔らかに頼む」

「ひぇー、ら、雷磔は勘弁してくれよ?奈留たん」

「むふ」

「うわぁ。そのやばい笑み絶対やる気だー!! た、助けていいんちょいいんちょ。いやーッ無視しないで春歌っ!!」

「健太はほんとに春歌が大好きだ」

「は、春歌ってば。―――ってなに読んでんだ、春歌?」

 ハルカが食い入るように読む書状を、ケンタがひょいっと覗き見する。一方のハルカもケンタの覗き見を咎めようとはしない。

「―――」

「『一之瀬 春歌を『特別監察官とする』貴女の新たなる任務は『月之国の内情視察』。ルメリア帝国がもし月之国を統一している場合、その先の次なる矛先の『調査』と『境界警備隊員アルスランの目的遂行の補佐を、羽坂 奈留副隊長と共に行なうこと』って春歌―――・・・これ」

 ケンタはその書状の内容をゆっくりと読んだ。

「は、はい。健太、諏訪局長から私に出された辞令は・・・」

「ちなみ春歌くん。泰一さんと美鈴さんからはきみの月之国行きの許可は貰ってあるからね? 学業のことを心配してるんだったら、それは大丈夫だから」

「―――。塚本特別監察官。では私は。いえ、諏訪局長から辞令が出た以上私は月之国に行きます」

「行っておいで春歌くん。きっときみは月之国で今よりも数段―――いや、もっともっと強くなれるはずだよ」

「そ、そうでしょうか・・・?」

「あぁ、彼らもいるし、きっとね。三人のことをよろしく頼むよ。一之瀬 春歌隊長改め一之瀬 春歌特別監察官」

「は、はいッ・・・!!」


Arslan VIEW―――END.

/////////


―――ANOTHER VIEW―――


 これより先、彼彼女ら四名。すなわちオテュラン家のアルスラン、羽坂 奈留、小剱 健太、一之瀬 春歌の四名は日之国を旅立ち、月之国へ向かったのだ。


 そして、彼彼女らの旅立ちをこっそりと見送った者が一人いたのだ。影からこっそりと見送った一人の者に対して、後日遠路はるばる一言言いにきた男がいたのだ。

「お師匠様はこちらです」

「ありがとう」

 その男の名は『月之国』行きをアルスランに進言した者にして、廃都市計画の生き残りで結成された『灰の子』の構成員の一人塚本 勝勇だ。塚本はわざわざその者が居を構える日之国西部にある日宇州のとある片田舎まで足を延ばしてやってきたのだ。

 その塚本が用のある者は、この自然緑豊かな日之国の片田舎に庵を構えていた。その者は近くに簡素な道場も拵えている。熱心に自分に食い下がった者、その者唯一人しか己の弟子とせず、自給自足でその者は暮らしてはいる。

 塚本はその庵の主であるその初老の男に口を開く。その初老の男は、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようないでたちをしており、日本の時代劇に出てくるような、日本刀を腰に差す剣客が着るような和装姿だったのだ。塚本はお膳の前に正座をすると、さっそくその庵の主に声をかけた。

「本当にお孫さんに会われなくてもよかったのですか?愿造(げんぞう)さん」

「塚本君。それには及ばぬよ」

 初老の男は茶の入った湯呑の傾けた。

「健太くんは、いつも祖父である貴方のことを自慢げに語り、ずっと貴方に会いたがっていましたよ?」

「ほう、我が孫がそんなことをのう。―――それはあの子の祖父としてはとても嬉しいことだ。だが、ふむ塚本君」

「なんでしょう?」

「剣士、という者はな、剣士を続けている限り、いずれ己の力では越えられぬ『壁』ような者と出遭うのだよ。強さを追い求め続ける剣士は己の力が及ばぬ者もいることをその身で識るのよ」

「ほう。すると、愿造さんもそうだったのですか?」

「うむ、儂の場合もそうだった。己の強さを追い求め続ける剣士は、必ずや己の眼前に立ち塞がる壁と相対するときがやってくるのだよ」

 初老の男は右手に持つ湯呑を静かにお膳の上に置いた。

「今、儂が我が孫に会うたしよう。さすれば、健太のためにはならぬ」

「厳しいですね、剣士の矜持というものは」

「これより先、我が孫健太が強さを追い求めて、剣士の道を進み踏み征く者ならば、必ずや己の眼前に立ち塞がる壁というものに出遭うだろう。健太は己の力の限界を知るときがくるのだよ」

「―――・・・」

「そのとき我が孫健太が己が進むべき道を諦めず、その壁を超えたいと望むのならば。もし、そのときに健太が儂を必要だと言うてくれるのであれば・・・儂は喜んで健太に逢おうぞ―――ふふっ」

 初老の男小剱愿造は、嬉しそうに口元を緩める。

「健太には渡さねばならぬ、小剱の家宝の刀もある。そのときが愉しみだわい。のう、塚本君」

「・・・そう、ですね。ふっふふっ」

 塚本は思わず、吹き出すように笑みをこぼしたのだった―――


ANOTHER VIEW―――END.


第一章 かくも優しきこの日之国で

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