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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
56/68

第五十六話 新たなる『理想主義者』

 だがこの女子(おなご)の外見以外の『もの』をオレが観るに、この女子から醸し出される『雰囲気』が異質で妖しいのだ。どういう仕組みなのかは判らないが、おそらくこの女子は見かけどおりの年齢ではあるまい。やはり、この女子は幼女の・・・いや少女のなりをしているものの、妖女と言うべきかもしれぬ・・・。


第五十六話


 まるで見た目の年齢とはかけ離れたような言葉を遣うこの妖女に、オレは面と向かって訊いてみることにした。

「貴女は『イデアル』の一員で合っておるな?」

「うむ、そのとおりじゃよアルスラン」

 言葉、態度でなにも隠すこともなく、あっさりとこの妖女は自身をそうと認めたのだ。

「では、貴女の目的は、オレを仲間にするということで合っておるか?」

「うむ。・・・のう、アルスラン主よ、儂と一緒に来ぬか?」

「―――・・・」

 やはりそうか。この妖女も『イデアル』の一員であり、オレは見かけでは年端もいかぬこの妖女の目的が、クロノス達と同じだということを理解した。あのとき、この五世界に転移したばかりのオレをクロノス達は掻っ攫うことができず、ふたたび別の者がオレの前に姿を現したということか。

「儂は、針崎を唆してお主を『イデアル』に招くという、まどろっこしいやり方にはもう飽いたのじゃ・・・。のう、主よアルスランよ、儂と一緒に来てほしいのじゃぁ」

「いいや。かわいくお願いされてもだめだ。オレは貴女とは一緒に行けぬのだ」

「なぜじゃ? なぜ儂と一緒に来てくれぬのじゃ?」

「オレは何をおいても成すべきことができたのだ」

 オレは月之国へと赴き、成すべきこと成さなければならないのだ。故国を滅ぼした者どもをこの手で滅する。そして義妹イェルハや姉、臣民を取り戻すのだ。

「儂らならば、お主の成すべきことを叶えてやることは造作もないことじゃが」

「己の成すべきことは、己の手で成し遂げることに意味があるのではないか? 違うだろうか」

「ふむ・・・じゃがのぉ。アルスランよ―――」

 オレのその言葉に、ついにこの年端もいかぬ妖女は初めて戸惑うような声色になった。


「まさか、きみが出て来るとは思ってもみなかったよ―――」

 だが、カツトシにとっては焦れて我慢の限界がとうに訪れていたようで、この妖女の言葉を遮るようにして、カツトシ自身は妖女の言葉の上に自身の声を被せたのだ。そうして、カツトシはゆっくりと前に進み出てくる。

「第六感社を統べる者。―――第六感社総帥『水木 千歳』―――いや、混濁の徒の生き残りにして『イデアル十二人会』の一人、『流転(るてん)のクルシュ』」

「塚本君・・・?」

 ユキナがカツトシを怪訝な表情で見つめたのだ。そして、カツトシにクルシュと呼ばれた、この年端もいかぬ妖女はカツトシの割り込みに対して明らかに、まるで嫌いな食べ物を出された稚児のような不満気な顔になった。そのクルシュという妖女の顔は、先ほどまでの、あどけなくオレと話していたときとは全く別物の顔になっていた。

「なんじゃ、無粋な小童(こわっぱ)め。今は儂が喋っておるのじゃ。身をわきまえよ、小童」

「僕は前々からきみにどうしても訊きたいことがあったんだよ、クルシュ」

「わきまえよ、と儂は言うたのじゃ。儂は今、アルスランと話しておるじゃろう? 見て解らんのか、無粋な小童めが」

「それはきみの事情だ。そんなこと僕には関係ないよ。それに―――」

 そのときカツトシがオレを一瞥した。

「アルスランくんの答えはもう出ているはずだ。きみ達のような『理想』ばかりを追い求め、(うつつ)を抜かす夢見がちな人間じゃないんだ、彼は。―――混濁の徒『流転のクルシュ』きみは長く生きてきてそんなことも解らないのかい?あの『イデアル』の十五人の中でも特に度し難い愚か者だな、きみは」

「ほう・・・。『灰まみれの小童』が、いけしゃあしゃあとよく言いよるのう―――」


「『灰まみれの小童』・・・?」

 オレのすぐ傍らに静かに佇んでいるナルが、ぽつりと自身が疑問に思うことをこぼしたのだ。ナルの小さく呟いたその声が妖女クルシュに聞こえたようで、その妖女クルシュの視線がカツトシからナルへと移るのが見て取れた。

「ほう、お主は?」

 妖女クルシュの表情が怒から楽に変わったのが見て取れた。このクルシュという女子は、本当に感情がころころと移り変わるのが早い。妖女クルシュは目を大きくさせ、それまでのカツトシとのやり取りで見せた表情がまるで嘘のようだ。クルシュはにぃっと笑みを浮かべながらナルをじぃっと興味深く、まるでなめ回すように観つめたのだ。

「―――っ!!」

 妖女クルシュが自身をなめ回すような、その視線に堪えかねたナルは、オレの右手を取りぎゅっと握りしめた。ついでにナルの左手もオレの上衣の裾をぎゅっと握り締めている。そのように、怯えたような態度を取るナルなどオレは初めて見る。

「ナルよ・・・?」

 ナルはすすっとオレの背中に隠れるように回り込んだのだ。

「―――こわい」

 普段のナルであれば、寡黙な強い瞳で相手を見返すというのに、今のナルはまるで猛獣を前にした羊のような様子でオレの背後に隠れたのだ。


「―――ふむ。そちも颯希と同じで少しばかり混じっておるようじゃ」

「アルス―――・・・」

 にぃっとした笑みを浮かべた妖女クルシュの言葉に、ナルはますます怯えたようにオレの背中にくっついたのだ。

「混じってる、とは?どういうことなのだ―――その・・・お主を呼ぶときはクルシュでよいか?」

 だから、オレはこのクルシュという名の妖女に訊いたのだ。

「うむ、お主ならばそれでよい。つまりじゃ、お主の女は日之民のいくつかある(やから)の中でも、中々に特異な日下(くさか)(やから)のようじゃの」

「―――」

 日下の族とな? だがオレは、そのようなナルの出身部族のことよりも、―――ナルがオレの女・・・だと。少なくともこの妖女クルシュの目にはそう見えたということだ。

「・・・っお、おんな・・・私が・・・アルスの―――・・・」

「―――・・・」

 見れば、ナルは頬を紅らめ、恥ずかしそうに俯いている。ふむ、やはりナルもオレと同じように思ったようだ。

「かっかっかっかっ初のう娘よ。―――確かに儂も昔そんな時があったような気がするわい」

「クルシュよ。まさか貴女は、本当はオレ達をからかいにきたのではあるまいな?」

「どうじゃろな。それよりおぬし奈留と言うたか。その『銀髪』がなによりの証じゃ。それは気にしなくともよい、むしろ誇ってよいことなのじゃぞ?」

「―――っ!!」

「儂は今、至極愉快じゃ。どのような性質(たち)の輩がアネモネを竦み上がらせ、クロノスを二振りで沈め、グランディフェルを消し飛ばしたのか、それも知りたくここへ来たのじゃが、お主アルスランとその銀髪の娘奈留―――予想以上の収穫であった。かっかっかっか・・・!!」

「――――――」

 クルシュはふぅっとまるで凪ぐように高らかな笑いを止め、これまでのようなあどけない顔でもなく、カツトシに対して見せた憤懣やるかたない顔でもなく、また満足げな顔でもなくなった。此度は本当に真剣な顔と眼差しでオレを見つめたのだ。

「アルスランよ、主の前にはいずれ主を消そうと『十二人会』の誰かが現れることじゃろう。じゃがもし、主が心変わりを起こしたときには、遠慮なく儂の名『流転のクルシュ』の名を出すがよい」


「アルス・・・」

 ナルがオレの右手をぎゅっと握ったのだ。

「大丈夫だ、オレは『イデアル』の兵には敗けぬ―――」

 ナルを不安にさせてしまったようだ。だが、その代わりにオレはナルを安心させようと、手を握り返したのだ。

「・・・ううん。私が言いたいのは、そうじゃなくて―――」

「―――・・・」

「―――お主が月之国でなにかを成したときには、『儂ら』もまた日之国の主となっていよう。儂が『導師』にお主の執り成しをしておこう。帰ってくるときは安心して日之国に帰ってくるがよい。では―――さらばじゃアルスランよ」

 そのとき、カツトシが身を乗り出す。

「待てクルシュ。僕の話は終わってはいない。あのときの『計画』はお前が―――」

「無駄な血が流れ続ける北西戦争は早く終わらせる必要があったのじゃ。―――・・・ほれ、そのようなことも解らぬ無粋な『灰まみれ』には褒美をやらんとな」

 妖女クルシュが丸い球をころころとカツトシに向かって転がすと、それが強烈な光を放ったのだ。

「ッ!!」

 オレは咄嗟に目を閉じて、顔を背ける。

「アルス・・・―――ッ」

 ナルの声。

「く・・・閃光弾か・・・!!」

 カツトシの声。

 その隙を突いてマツモトが炎を纏う右腕を出して、ケンタが造り出した氷の箱に触れたのだ。ジュウっと焼けた石に水を垂らすような音が盛大に聞こえ、また水が蒸発して多量の霧のようになった蒸気がオレ達の視界を覆う。

 そのような中、オレは腕を翳しながらわずかに薄目を開ける。すると―――

「ッ」

 妖女クルシュ率いる者どもはこの場から逃げようとしていたのだ。


「ゆくぞ、颯希よ」

九十歩(くじゅうぶ)殿、逃げるぞ」

「私。あの人を呼んでいないのに・・・どうして」

「どうしたのだ、九十歩殿?」

「え?のっち。う、うん。なんでもない」

「逃げるぞ、九十歩殿」

 ノゾエが倒れているハリサキを担いだのだ。

「・・・うん」

「では主ら。儂はイデアルの秘宝を遣う。皆の者儂に触れ、離れるでないぞ」

 妖女クルシュは宝玉のような珠をその右手に持ち、それを天高く掲げたのだ。その瞬間にその珠に何かの仕掛けがあるらしく、閃光とは別の何かの光がその珠から僅かに放たれたのだ。


「―――・・・」

 おそらくこれだ。これを使って妖女クルシュはオレとマツモトの間に現れ出たに違いない。サツキの『空間干渉』とは違い、さざ波立つようなことも、歪んで見えるようなこともなかったのだ。

 クルシュ、マツモト、ノゾエ、それから気を失ったハリサキ、間者のサツキの五名は、そうして彼奴等は瞬きする間もなくオレ達の面々の前から姿を消したのだ。

 彼奴等第六感社の者どもが逃げ去ったあとには、ノゾエの折れた刀と柄しか残されていなかった。



「―――まんまと逃げられたようだ・・・」

「くそ・・・僕としたことが―――」

 こうしてオレとカツトシの名案は、『イデアル』の構成員妖女クルシュという女子の出現によって打ち砕かれたのだった。だが、オレがあの女子に毒気を抜かれたのも事実だ。『イデアル』の中には説得で解ってくれるような者もいるかもしれない、今のオレはそう思っていたのだ。

Arslan VIEW―――END.


―――ANOTHER VIEW―――


「針崎 統司所長、おとなしく投降してください。そうでないと我々『第六感社捕縛課』は所長の貴方に武力行使を行なわなければなりません。我々はそのようなことをしたくはありませんッ。お願いですからそこからおとなしく投降してください―――」

「退れ」

「ッ!! ま、松本諜報部取締役―――っ」

「私はお前が入社した頃より、・・・優秀な針崎 統司・・・お前を目にかけていた。第六病院から脱走したお前を捕縛したくはない。さぁ、もう逃亡は止め、そこから出てきてはくれないか? でないと諜報部は逃亡したお前を武力を用いて拘束せねばならん。頼む針崎所長よ、素直に投降してはくれぬか?」


「颯希のよく言う『まっさん』登場ですか。・・・ふ・・・私もここで終わりか。はぁ・・・」

 針崎 統司は疲れたように長い溜息を吐いた。ビルとビルの間にある細い谷間、そこはゴミなどが散乱しており、また側溝からは腐ったすえたような臭いが漂ってくる。そのような中で針崎 統司は、第六感社諜報部率いる捕縛部隊が己の身に迫る中、なんとかよろよろとしながらもその身をゆっくりと起こしたのだ。逃亡を続けて早五日―――彼針崎 統司の顔には無精髭がちょびちょびと生えており、また風呂にも入れず、洗濯もできないその針崎 統司が着ている病院服はところどころ擦り切れ、また埃や泥が付いていてところどころ茶色く汚れていた。

「やれやれ・・・ですね―――」

 自分に向かって近づいてくる複数の足音。針崎 統司の、死を覚悟した最期のひとときというのは美しいものではなく、まるでただ側溝からすえた臭いが漂ってくる閉所の暗い隙間でただ死にゆくドブネズミのようだった。

 針崎 統司はよろよろとした動きで脚を投げ出し、背中を汚いビルの壁に預けた。そのような体勢から垂れていた首部をやや力なく持ち上げ、その街の明かりに薄明るい夜空を見上げたのだ。夜空と言ってもビルとビルの間から見える、細い空からは満点の星空など見えぬものだったのだ。

「くくくく・・・最期はこうですかッこうなるんですかッ私はドブネズミのようにこんなところで死ぬんですかッ!! おのれぇ・・・副社長め、社長め、会長めッ。一時は我々開発・育成部の計画に乗ってきたというのに、なぜだ、なぜなんですか!! くッくくくく・・・研究室に戻れないこと、それは私にとっては死と同義なんですよ。さっさと私を殺せばいいのですよ―――」

「・・・??」

 と、針崎 統司はその己の思いの丈を叫び切ったのだ。だが、それが――。ふと、自分を拘束しようと向かってきているはずの捕縛隊のその複数の足音が静かなものであることを怪訝に思ったのだ。

 針崎 統司は隙間から見える細い夜空へと見上げていた視線を、眼前のビルとビルの細い隙間に戻したのだった。

「・・・?」

 針崎 統司は疑問に思いつつ息を殺して耳をそばだてた。追手ならばその足音は走っているように忙しなくばたばたと騒々しいことだろう。だが、ビルとビルの細い隙間を自分に向かって『ゆっくりと止まることなく歩いてくる』のだ、この足音は。

「―――」

 疑心がさらに深まった針崎 統司が周りをきょろきょろと探り出すと、自身に近づいてきていた足音がぴたりと止まったのだ。

「はじめまして、針崎 統司さん」

「ッ!?」

 静寂を切り裂き、自身の名を呼ぶその突然の声に、針崎 統司は驚きおののいてバッと声がしたところへ顔を向けた。すると、自分が座りこんでいる数歩先に、自分の名を呼んだであろう男が静かに佇んでいた。男のすぐ後ろに追随する一人の女も静かに佇んでいた。

 どうして、この男は自分の名前を知っているのだろう? だが、針崎 統司はあまりの疲労に、飛び退いたり、逃げたりできる元気はなかった。

「―――?」

 針崎 統司が自分の目の前に佇んだままの二人の男女を認め、ややあって冷静になったとき彼、針崎 統司に最大級の疑問が生まれたのだ。

「君達はいったい―――・・・?」

「私は貴方が思っているような第六感社の捕縛部隊ではありませんよ。私はとても優秀な貴方を第六感社より引き抜きに来た者です」

 この男の表情は乏しいのか、それとも豊かなのか、針崎 統司には分からなかった。それは今が夜のせいで見えにくいということもあっただろう。だが、この男は自分に穏やかに話しかけるときに、薄く笑みをこぼしたりすることはある。

「私を引き抜きに来た?どういうことかね?」

「はい。私のその言葉どおりの意味ですよ、針崎 統司さん。貴方はとても先見があり、また優秀です。日之国の未来を憂える針崎 統司さん。確かに日之国は他の世界と比べて能力者が少なく、またそれに引っ張られるように脆弱です。私は貴方のような考えの人が欲しかったのです。ですから、私はこの場まで脚を運び、貴方を第六感社から我が組織に引き抜きに来たのです」

 彼は自分の考え方を解ってくれる。共感者だ、彼は。能面のような表情の男のその言葉に、針崎 統司は興味を惹かれたのだ。


「・・・・・・」

 一方で、この話しかけてくる能面の男の後方で『控えている』ような雰囲気を出す女のほうは何も喋らずに、ただそのどこか冷めたような眼差しで針崎 統司を見つめているだけだった。

「私を引く抜きたいという理由については解りました。では、・・・君達は何者だ?どこの非合法組織かね?」

 自身の生きる目的を失いかけ、ただ力なく地面に腰を落としていた針崎 統司の目に生気が戻ったのだ。そして、針崎 統司は意志の籠った強い眼で、汚い場に座り込む自分を見降ろすこの能面のような男を見上げたのだ。

「えぇ。以前から私は、同志のクルシュという者から貴方のことを聞き及んでいたのです。そして警備局の者達に貴方が語った『()()』。それに私は深く感銘しましたので、改めてここに脚を運ばせていただいた次第です。優秀な貴方を我が組織に迎え入れるために」

「『理想』―――・・・?」

 針崎はその単語を反芻するように呟いた。

「はい。私どもは『理想(イデアル)』です。私もその同志クルシュという者も」

「・・・曰く、選ばれし者が絶望しせるとき、彼らがどこからともなくやってくる。そして導かれるのだ―――『新たなる五世界』を成すための十二士として―――」

 針崎 統司はまるで思い出したかのようにその文句を唱えたのだ。

「ッ!!」

 そして、彼は思い至るのだ、自分のもとへとやって来たこの者の正体に、その思惑に、その思考に。

「ま、まさか、あの都市伝説は本当のことなのですか―――!?」

 針崎 統司の眼が驚愕の事実に見開かれたのだ。その視線が見つめる先にはこの能面の男と、後ろで退屈そうな顔をして佇む一人の女。

「はい。針崎さんのご察しのとおりですよ。我々は『世界統一化現象』を機に誕生し、『理想』を成すために古より連綿と受け継がれてきた『もの』。我々は『争いのない理想的な五世界』を造るために、この『五世界』を常に観測し、介入し、改変し、ときには実力行使に出る。―――私達に用意されし三席と―――」

 そこで男は、自身の後ろに佇む女を一瞥する。すると、女は冷めた目で口を開く。

「そこの導師と私は三頭。もう一人はこの場にはいないけど」

 能面の男は後ろの女を一瞥ののち、ふたたびその視線を針崎 統司に戻す。

「―――そして、私が集わす十二席。合わせて十五名は『理想を成すために我々は在る』のです。七年前あのイニーフィネとエアリスとの間に勃発した、あの無益な北西戦争を終わらせるように当事者に迫ったのも、終止符を打ったのも私達です」

「―――・・・!!」

 針崎 統司は驚愕の真実を知り、驚きのあまりにその口をわなわなとただ震わすだけだ。

「我々と共に歩みませんか?針崎 統司さん」

「―――わ、私は・・・」

 視線を落とし逡巡する針崎 統司の様子を見ていた後ろの女が初めて口を開く。

「貴方自身の理想を貫くか、それともここで『第六感社』の諜報部に捕まるか―――そのどちらにするか早く決めてくれないかしら?時間がないわ」

「同志サナ。あまり針崎 統司さんを脅かさないように。我々は針崎 統司さんの意志を尊重しなければならないのですよ」

「・・・導師―――・・・」

 導師にサナと呼ばれた女は、何か言いたげな眼で、針崎 統司と話し込む男、つまり導師を見つめたのだ。一方の導師のほうは何食わぬ顔で同志サナの冷めた視線を受け流す。まるで、いつものサナですね、と言った具合に。

「貴方達『イデアル』は無条件に私の望むものを与えてくれる・・・のか?」

「貴方が研究を望まれるのであれば、できる限りそれを針崎 統司さんに与えましょう。その代わり貴方も我らが『イデアル』を構成している以上、私は貴方の力をお借りすることもありますよ?」

「私の力を借りる・・・? それはどう言った意味かね?」

 サナは、自身の右人差し指をくるくると髪を絡ませながら退屈そうにその口を開く。

「私は導師に自由に遊ばせてもらっている代わりに対価として『労働力』を提供しているって感じかしらね」

 だが、そのサナの視線は針崎 統司を見ておらず、目は自身の髪の毛を向いていた。

「あら、やだ枝毛が―――」

 まるで、針崎 統司にはなんも興味も持っていないというように。

「・・・あ、そうそう―――針崎 統司。貴方がそこの導師に提供できる『労働力』っていったいなんだったかしらね?」

 サナは軽く言い終えると、針崎にじとっとしたその視線を向けた。

「理解いたしました。・・・条件を呑まさせていただきましょう。いえ、これからも私が研究を続けられるのであれば―――」

 針崎 統司は己の人生においての一大決心を行ない、その眼をカッと見開く―――!!

「私、針崎 統司は喜んでその条件を呑ませていただきたい・・・!!」

 ややあって針崎 統司は、導師とその従者サナの二人に深く頭を下げたのだった。

「針崎 統司さん―――」

 その針崎 統司の様子を認めた導師はゆっくりと彼に近づいていった。導師がその右手を、座り込んだままの針崎 統司の頭の上に軽く乗せ―――

「―――」

 そして、導師は小声でなにやらぶつぶつと呟いたのだ。それが終わると

「解りました。歓迎いたします、針崎 統司さん。では私とその我々が掲げる『理想』と共に歩みましょう」

「よろしくお願いします、えっと・・・」

 針崎 統司の視線が目の前の導師の顔に向いた。

「私のことは『導師』と呼んでくれてかまいませんよ。そして彼女は私の腹心の従者の一人であり、同志の―――」

 導師は腹心の従者の一人であるサナにその視線を向け、次を促したのだ。

「私のことはサナと呼んでくれていいわ。針崎 統司」

「新参者ゆえ。よろしく頼みます、サナ」

 針崎 統司は頷き―――、そうして導師とサナは針崎 統司を連れて夜の闇へと、その姿を消したのだった―――


ANOTHER VIEW―――END.

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