表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
55/68

第五十五話 敵の大将は

 この場に現れた男は肩幅の広く体格のいい体つきだった。まるで、その背格好から見るに、この男は、オレを追い詰めたニコラウスの姿と重なって見えたのだ。今、空間を越えてこの場に現れた男もそのような、ニコラウスと同じようなたぐいの男なのだ。

 この者は全身黒ずくめの装束に、黒き外套を纏いて悪辣に重厚にこの場にその姿を現したのだ。


第五十五話


 空間を越え、この場に出でた新手の男は自身の身体に、真夏の陽炎のようなゆらめきを常に纏いそれをゆらゆらと漂わせていた。この場に出でたこの名も知らぬ男は氷の箱に囚われたハリサキ、ノゾエ、サツキという第六感社の者達を悲しそうな眼で見つめる。

「すまぬな、私の所為で。こうなったのは上司である私の判断間違いだ、全ての責任はこの私に在る」

「ううん。まっさんの所為じゃないよ」

「松本殿ッく―――俺の力が弱い所為です」

 大将の出現に士気が高まったようで、ノゾエはその場によろよろと立ち上がる。だが、オレが見るに、彼奴は体力のほうは取り戻せていないようで、ノゾエは若干ふらつきながらも懸命に立っているようだ。

「よい。颯希、碓水―――私がなんとかしよう」

 第六感社の大将の男がゆらりとオレ達へ、第六感社の面々と対峙するオレ達へとその身体を向けたのだ。大将の男は厳しい顔をしつつ―――こちらの策士カツトシへとその悪辣な眼差しの視線を向けたのだ。


「―――」

「塚本 勝勇―――いや『哂いメガネ』よ。私のかわいい部下達が世話になった。礼はたっぷりとさせてもらうぞ」

「松本 三輪鉾―――きみの部下達を取り返しにきたのかい?」

 だが、カツトシは不敵な笑みを浮かべたのだ。この第六感社の大将の男の名はマツモト=サンリンボウという長ったらしい名前であるらしい。

「それが彼らの上司である私の責任だ」

 そこへ数歩脚を踏み出す者がいた。それはこの警備局の頭目であるユキナだ。

「私達が素直に返すとでも思っているの?貴方」

「お前もいたのか―――諏訪 侑那」


 そこに突如として―――

「ッ!!」

 ―――パンっという乾いた一発の銃声が。音のしたほうを向けば―――ナルが両手で短筒を構え、マツモトという男の足元に向かってその引き金を引いていたのだ。だがナルはわざと狙いを逸らしたらしく、弾は地面に当たると火花とともに跳ね返り、どこか遠くへと飛んでいった。

「―――」

 ナルが両手で構えている銀色の短筒の筒口からは、すぅっと一条の白煙が立ち昇っていた。その存在を見とめたマツモトはカツトシから視線を外し、ナルを見つめたのだ。

「ほう、お前は―――あの男『銀髪』の娘か。・・・その髪の色、そしてその眼差し。確かにあの男近角 信吾の面影がある」

 ナルの容姿を一目見ただけで、ナルの父親を言い当てたのだ。やはりこのマツモトという男は前もってナルの身元調査を行なっていたに違いない。それに、もしかするとマツモトはナルの父親と何かしらの因縁があるのかもしれないな。

「ふ―――ッ」

 立て続けにナルは数発の弾を発砲する。ナルはこのマツモトという敵将を生かして捕らえるつもりようだ。なぜなら、ナルは致命傷となるべき場所は外し、男の肩を標的としている。そのナルの持つ短筒の筒口の向きでだいたいの狙撃場所は見当がつくのだ。

「―――くだらぬぞ『銀髪』の娘」

 重くまるで腹の底まで響くような声色だ、この敵将マツモトの声は。その声の主、敵将マツモトがゆらぁっと自身のその右腕を上げると、敵将マツモトの右手から右肩にかけて、ごわっという発火音と共に炎が(ほとばし)る。その直後にナルが撃った鉛製の弾が、マツモトの肩に着弾し、命中―――する手前。その炎の炎熱に中てられた弾はジュッという音を立てて、蒸発し、空気に溶け込み消え失せたのだ。敵将マツモトが操る焔は、きっと恐ろしいほどの高温の炎熱に違いない。

「ッつ、チート・・・!!」

 ナルは悔しいのと、腹立たしさが入り混じったような顔でその眼で、敵将マツモトという男を睨む。

「二隣亡―――」

 その、にりんぼうという自身の掛け声で敵将マツモトは左脚を半歩前に、そして腰を落とし、右の二の腕を下げて肩から後ろへ引き絞る―――。すると敵将マツモトの右手から右肩にかけて迸っていた炎が一瞬消えたのだ。

「燃えよ、『銀髪』の娘」

 重厚なる敵将マツモトの声。そのすぐ後のことだ。今度の炎の範囲は先ほどより、より広く敵将マツモトの右手から右腕、肩、胸へと激しく燃え盛る炎が点ったのだ。


「!!―――」

 オレはそれを見て直感したのだ。この敵将マツモトという男は炎と徒手空拳を自在に操る者であると。オレはお主などにナルは殺させん―――!!


「燃えよ、『銀髪』の娘―――掌底・炎打ッ」

 その瞬間のことだった、敵将マツモトは掛け声とともに引き絞っていたその炎纏う右腕を、掌底打ちと同じ動作で右手の掌から炎の塊をナルに向かって打ち出したのだ。

「ッ!!」

 ナルは身に迫る危機的状況を理解しているものの、ナルは目を見開いたまま一歩もその場から動くことができないようだ。それと、同時にハルカの『ナルさん・・・!!』やケンタの『ナルッ!!』と叫ぶ声がオレの耳にも届いていた。

「ッ!!」

 オレはダッと勢いよく地面を蹴って駆けだし、ナルの前へと躍り出る。

「アルス―――・・・!?」

 そう。あのときアネモネが土石魔法で創り上げしあのゴーレム兵団を、オレがこの手で壊滅させたときと同じように。ナルを護るべく、オレは彼女の護るべくマツモトの前に立ちはだかるのだ。

「―――」

 オレとナルを焼き尽くそうと、眼前に迫りくる朱い炎の塊―――

「―――」

 その状況の中で、オレはあのイデアルの三名と戦ったときのことを、より鮮明に思い出す―――。ただ、憶えていることをもう一度、思い起こすだけではない。あのときの自分はどのようにして自身の『氣』を行使し、またどのようにして『氣』を自在に操り、敵を追い詰めたか。

 ただの氣の斬撃の形で氣を放出するだけではない。自身の氣を己の身体で纏い、速力・膂力(りょりょく)・それらの合力と、氣をいかにして行使し、敵の力を跳ね返すための防御力に換えたのか―――、そのようなことだ。

「アルスッ・・・ダメッ―――」

「ナルよ。オレが信じよ」

「・・・うん。アルスを信じる」

 オレはナルを一瞥し、すぐにまた目を、その敵将マツモトが放った炎塊にその視線をふたたび戻したのだ。

「―――ふむ」

 オレはグランディフェルが剣から放った炎を右手で受け流したが―――。

「―――さて、やるか」

 オレは一人呟くと、―――オレは念ずることにより全身に氣を籠め、その氣を籠めたその自身の右腕、右手の掌を迫りくる炎の塊に向けて差し出したのだ。

「此度は受け流さん」

 オレの眼前に迫りくる炎塊―――それを受け止め、敵将に投げ返すという形象を心の中で描く。みるみるうちに眼前が朱色の炎に染まる。だが、その炎塊がオレの身体に直撃する寸前―――氣を籠めた右手でそれを受け止めたのだ―――

「だが、この程度か―――お前の炎は」

 グランディフェルの炎のほうがまだ手ごたえがあったぞ―――。

「な、なぬ・・・!! 私の炎打を受け止めた・・・だと!?」

 オレが炎塊を、氣を籠めた自身の右手で捕らえると、敵将マツモトの顔が驚愕の色に染まったのだ。

「彼奴の『炎煌剣パフール』の炎に比べれば易いものだ。お前に返すぞ―――ッ」

 オレは炎の塊を、氣で纏った右手で掴み、球を投げるのと同じ動作で。それを思い切り、敵将マツモト目がけて投げ返したのだ。

「ぬうッ!!」

 敵将マツモトは自身のその両腕に炎を点し、両腕を勢いよく薙ぐことでオレが投げ返した炎の塊を弾き返した。だが、オレに当て返すことは叶わず、炎の塊はあらぬ方向へと飛んでいく。そして遠くに着弾すると轟音と炎を周りに撒き散らしたのだ。たとえ、オレに当てたとて、あの程度の炎など取るに足りぬものだ。

「どうしたのだ、マツモトよ?お主の眉間に皺が寄っておるぞ」

 だが、敵将マツモトはオレが投げ返した炎塊を完全に受けきって弾き返すことはできなかったようだ。マツモトの表情からは先ほどまでの余裕がなくなっているように思えた。

「―――ぐう・・・」

「これで終いか?マツモトよ。先ほどまでの威勢はどこにいった?」

「私の炎を投げ返すか、『月之民の転移者』―――。三隣亡―――ッ」

 敵将マツモトの気合いの入れた掛け声で、彼奴の上半身を覆う炎は火勢を増して業火となり、カッカと灼熱に燃え上がったのだ。その身体はまるで、灼けた鉄か、真っ赤に熔けた岩のような熱と光を放つ。

「ふむ。先ほどとの違いがオレには分からぬが?何か変わったのか?敵将マツモトよ」

「この私を舐めるな・・・!!」

 それでもなお、敵将マツモトのこの炎熱は、グランディフェルがその生命を賭して放った『炎煌剣パフール』の最後の炎撃の威力よりは数段劣っているようにオレには感じたのだ。

「貴公の力はもう見切ったのだ。貴公の力ではオレには勝てぬよ―――」

 その程度の炎撃でオレを焼き尽くすことができると思い込んでいるこの敵将を、オレは完膚なきまで降し、この敵将マツモトの心をへし折るしかあるまい。

「私の力を見切っただと?ふん、戯言を。ではお前を私の炎で焼き尽くそうぞ」

「やれるものならな」

「後でほえ面を掻くなよ。―――炎鉾」

 敵将マツモトの上半身を覆う灼熱のカッカと燃ゆる炎が、沸々と右腕に集まりゆく。その炎はやがて敵将マツモトの右手で、炎燃ゆる一振りの鉾のような炎となったのだ。

「普通の鉾では、私の炎に負け、熔け落ちてしまうのだ。月之民の転移者よ」

 オレは自身の腰に差していた警備刀を抜いた。

「こい」

 ナルを消そうとした敵将マツモトよ。お前にはここで消えてもらうぞ。オレは宿敵ニコラウスに、どことなく似るこの者に手加減などできそうにないのだ。念じてオレは右手に持つこの警備刀に氣を流し込んだ。すると、警備刀の刀身は氣を纏いて淡く輝く。

「よくぞ、アルスラン―――ッ」

 敵将マツモトはダンッと地を蹴り、その炎鉾でオレを真横に薙ぐように跳びかかってきた。

「―――だが、この程度か」

 オレはこの者が持つ炎鉾の穂先を、氣を籠めた警備刀の刃先で易々と受け止める。

「な、なんだと・・・ッ!! なぜ、私の炎鉾を受け止められる!? なぜお前は炎熱で熔かされぬ!?」

「ここにきてやっと焦りの表情を浮かべたとて、もう遅いぞ。敵将マツモトよ」

 それは、警備刀と同じくオレ自身も氣を纏いその熱気を阻んでいるからだ。そう、かの炎騎士グランディフェルの特大の火球を氣の領域で全ての熱気を阻んだのと同じやり方だ。また氣は実体化していないものでも触れることができるからだ。それはゴーレム兵団を滅したときに、オレが氣の刀でアネモネの魔力ごと切り裂いたことと同じ要領だ。

「グ―――」

 敵将マツモトはダッと勢いよく地を蹴ってオレから距離を取るように、一度後ろへ退却したのだ。

「ふむ、逃げるのか?」

「―――今一度・・・!!」

「芸がないな、敵将マツモトよ―――」

 ふむ。敵将マツモトが何をするかと思えば、今度はその炎鉾を横薙ぎにしての『炎撃』ではないか。

「『炎鉾』―――」

 敵将マツモトは自身の炎鉾を肩から振りかぶり―――

「―――」

 そうして敵将マツモトは無言でためを置き、眼を見開いてオレに向かって斬撃の斬道に沿った炎撃を放とうとした―――まさにそのときだ。それが起きたのは―――

「ッ!?」

 氣を籠めた警備刀を構えるオレと、炎鉾を握り締めてその厳しい顔でオレを睨む敵将マツモトとの間に、突如年端もいかぬ女子(おなご)が現れたのだ。そして、その年端もいかぬ女子(おなご)は、敵将マツモトにゆるりと振り向き―――

「―――やめよ。松本」

 と、きつい厳しめの声色で、有無を言わさず声で敵将マツモトを諌めたのだ。


「―――・・・」

 ふむ。この場にいたオレが見ていた限りでは、その年若の女子(おなご)は本当に、気づけばこの戦場にいたようにしか思えず、本当に突然オレの目の前に現れたのだ。サツキが異能を行使させたときのような空間がさざ波立つような変化もなく、この女子(おなご)は本当に気づけばこの場にいたとしか考えられなかった。オレ達の認識外になっていたのか、それとも本当になんらかの方法で、瞬時にこの場に現れたのか。

「―――あ、貴女がッなぜここに!?」

 敵将マツモトが驚きながらも、その言葉を発した様子から察するに、マツモトはこの年若い女子(おなご)のことを知っているに違いない。

「松本よ。お主ではこの者アルスランには到底敵わぬ」

「し、しかし―――」

「儂は松本 三輪鉾(さんりんぼう)に止めよ、と言うたのじゃ。早うその炎装を解け―――」

「で、ですが―――・・・」

 敵将マツモトは逡巡したのだ。

「お主はいつから儂に口答えできる身分になったのじゃ?」

 女子は、背筋も凍るような冷たい蔑んだような視線をマツモトに向けたのだ。

「く、口答え・・・などと、私は―――」

「では、儂がはっきりと、松本のその頭に解り易くよう言うて聞かせてやろう。彼アルスラン殿は儂の同志達、イルシオン五候家レギーナ家候女『アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオン』のゴーレム兵団を瞬殺し、日之国三強の一人、剣士『先見のクロノス』を追い詰め、イニーフィネ帝国近衛騎士団元団長『炎騎士グランディフェル』をその炎ごと消し飛ばした男じゃぞ? お前がどうしてアルスランに勝てようか。アルスランを儂の賓としてもてなすのじゃ、松本よ」

「ははッ」

 マツモトは炎を解いてこの女子にひれ伏す。

「―――・・・」

 だが、オレはこの年端もいかぬ女子(おなご)の『言葉遣い』とその『容姿』に隔たりを感じるのだ。なにか、そう、人としてうまくかみ合っていないのだ。底が知れぬ女子(おなご)だ―――というよりも、この女子(おなご)の声が発した、同志『アネモネ』『クロノス』『グランディフェル』という三人の名で、オレはこの女子(おなご)の正体を解したのだ。

「ふむ」

 炎を解き地に膝を付くマツモトの慇懃な態度に気分を良くしたのか、この女子(おなご)は己の臣下であろうマツモトに向けていた先ほどまでの冷笑を改める。

 そうして、この女子はオレへとゆっくりと、視線と顔を向け―――

「―――!!」

 この妖しい女子(おなご)は―――オレには、にこっとしたそのかわいらしい上目づかいの笑みを浮かべ、その笑みをオレに向けたのだ。

「・・・のう、アルスランよ」

 この女子はイデアルの一員である。それはよく解っている。そして、この妖女の懇願するような上目づかいの視線と、この妖女のかわいらしい猫撫で声―――。

「っつ・・・!!」

 だが、いけない。『義妹イェルハ』と、この女子を同じくして視てはいけないと思いつつも、この女子(おなご)の『かわいらしい』顔での上目づかいを見とめて―――。オレは自身と今生の別れとなってしまった大切な義妹イェルハがよくしてきた、あのかわいらしい上目づかいの面差しを思い出してしまったのだ―――

「のう―――すまぬ、転移者アルスランよ。儂の部下の粗相じゃ、そなたも儂の顔に免じてその刀を収めてはくれまいかのう?」

 この妖女の前髪はほどよく切り揃えられていて、また後ろ髪は長く、少し色の付いた髪と眼をしている。背丈はというと低いだろう、少なくともオレの胸下くらいの背丈しかない。オレを見るその上目づかいの視線と、その顔にかわいらしさあどけなさが少し残るその面立ちから察するに、この女子(おなご)がオレの見た目どおりの歳ならばハルカやナルよりいくらかさらに若い歳だろう。この女子(おなご)の服は警備服や黒服といった類の服は着ていない。かと言って簡素な服でもない。うむ、どことなく―――あぁ、そうだ、以前ハルカがケンタに見せていた着物という服に似ている気がする。

「―――・・・」

 だがこの女子(おなご)の外見以外の『もの』をオレが観るに、この女子(おなご)から醸し出される『雰囲気』が異質で妖しいのだ。どういう仕組みなのかは判らないが、おそらくこの女子(おなご)は見かけどおりの年齢ではあるまい。やはり、この女子(おなご)は幼女の・・・いや少女のなりをしているものの、妖女と言うべきかもしれぬ・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ