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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
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第五十四話 氷の剣士現る

第五十四話


「―――貴女も出て来るといい。そのようなところに隠れていないでその姿を表せ」

「俺は逃げも隠れもしないが―――」

 オレは滲んだ空間の『向こう側』にいるサツキという女子(おなご)に向かって話しかけたつもりだ。だが、その言葉を、ノゾエは自分自身に話しかけられたと勘違いしたのだ。もしくはオレの意図を解っていてわざととぼけているのか、のどちらかか。

「いるのだろう?」

「何を言っているのだ、アルスラン殿は?」

「その滲んだ空間の奥にいる者よ。児戯のような、かくれんぼはもう止せ、貴女の異能は『空間干渉』それをオレはもう見抜いているのだ。サツキという女子(おなご)よ」

「あれ、やっぱバレちゃってる?」

 オレの呼びかけに応じ、滲んだ空間からすぅっと一人のサツキという女子(おなご)が姿を現したのだ。

「まさかオレの呼びかけに応じてくれるとは思ってもみなかったぞ、第六感社の女子(おなご)よ」

 この女子(おなご)―――オレが以前、初めて会ったときと同じ女物の黒服を着込んでこの場に姿を現したのだ。そうしてサツキという女子(おなご)は黒服の剣士ノゾエのすぐ斜め後ろに、僅かな笑み湛えながら静かに佇んだ。

「ううん。私、貴方の呼びかけに応じて出てきてあげたよ?」

「そのようだな―――・・・」

 オレは力の籠めた意志の強い眼差しの視線を、このサツキに向けたのだ。

「わかった、わかったてば、もう・・・そんなにこわい顔で私を睨まないでよ。んぅー、あっそうだっ♪ これから貴方のことはアルくんって呼んでもいいかなっ?」

 本当に笑みの絶えない調子の軽い女子(おなご)だ。だがそれは、サツキという彼女自身の感情を読ませぬ、サツキの『策』であろうな。カツトシの語った二人の少年少女のうちの一人が彼女サツキか。その少年のことは詳しく訊いてはいないが、少女(サツキ)は自身の異能『空間干渉』で、その少年と共に街を覆う紅蓮の業火からカツトシの一団を救ったという。

「好きに呼ぶとよい」

「ありがと、アルくん♪」

「・・・・・・」

 オレの右腕を掴んでいるナルの左手の握力が少し強くなったのだ。それはナルがサツキのことを警戒しているその証なのだろう。


九十歩(くじゅうぶ)殿・・・なぜ出てきたのだ?」

「だってさぁー、のっち。アル君に私の異能がバレてるってことはあちらさんに、私の異能が筒抜けってことだもん、ほら?あの銀髪の子に鉛弾を撃ち込まれる前に―――ね」

「―――・・・」

 サツキのその動向を見てカツトシが、サツキへ示し合せにと僅かに笑みをこぼしたのをオレは見逃さなかったのだ。

「―――」

 そのカツトシとサツキの目交ぜの様子をオレは観て―――カツトシの策士ぶりに舌を巻くのだった。

 この秘匿結社の『灰の子』―――彼彼女らもまた己の目的達成のためならば、手段を選ばぬ者達なのだろうな。

「っ」

 オレが、ノゾエに対して貴公と戦うこともやぶさかではない、などと時間を稼いだ効があったというものだ。そこへ、足音を立てながら、オレの背後より一人の剣士が現れたからだ。それを察したナルはオレの右腕を放してくれたのだ。

「ふ―――・・・」

 オレは、まるで颯爽とまるで風に乗るように聴こえてきた友の足音を耳にして、口角に自然と笑みが零れたのだ。

「―――来たか。ケンタ」

「おう。アルス」

 ケンタは無言で不敵な笑みを浮かべて、オレの傍らまで一歩また一歩と歩いてくるのだ。この場に満を持じて自信漲るケンタが現れたということは、オレの気がかりは要らぬ心配だったということだ。

「悪ぃ、アルス。ちょっと遅れた」

 そうしてケンタは、親しみを込めてオレの腰に軽くシャッと右手を伸ばす。その様子はまるで仲のいいネコ同士のじゃれ合いのように、ケンタはその右手で軽くオレの腰に触れたのだ。

「よせやい、ケンタ」

 だから、オレも開いた右手でケンタの腰を触れ返す。

「へへっ」

 オレの挨拶ような親しみ返しをケンタは悪く思うことはなかったようだ。ケンタの嬉しそうな顔を見れば解ることだ。

「ちょっと手間取っちまってさ、アルス」

「いや、オレは気にしてはいないさ、ケンタ」

 オレは左手に持っていた警備刀を右手に持ち替えると、すぐに鞘に納めた。それを見止めたケンタが不敵な笑みを浮かべて一歩前に進み出た。

「野添 碓水―――あんたと戦うのはアルスじゃねぇ、俺だ」

 ケンタはその腰に差していた氷華という素晴らしい宝刀に手をかけ―――そして、ケンタはゆっくりと鞘より抜き身の氷華を抜いたのだ。ケンタがその右手に持つ刀が素晴らしい刀であるということは、その銀に輝く刀身を見れば、解ることだ。

「ほう・・・」

 ケンタの抜刀を認めたノゾエも己の名刀に手をかけたのだ。

「野添あんたの刀は、俺に触れることなんてできやしねぇよ」

 ケンタのその不敵な笑みにノゾエも中てられようで、ノゾエも不敵な笑みを浮かべたのだ。そうしてノゾエは己の刀を正眼に構えたのだ。

「大きく出たな小剱殿、少しうぬぼれが過ぎるようではないのかね?貴殿は。―――しかし、俺もなめられたものだな、フフ」

 刀を構えながらのノゾエはケンタの大言に、嘲笑を浮かべて半ば呆れているようだ。

「小剱流霞ノ構―――」

 ―――ケンタは流れるような動作で刀を構えを改めたのだ。ケンタが持つ氷華という

その妖刀の刃から鋩は―――つまり刀身の位置はケンタの眼の高さにあり、また柄を握った両手を、その二本の腕を柄で交差させて敵に構えるという独特の構えだ。ケンタのいう『霞ノ構』はオレが育ったエヴル・ハン国では見たこともない刀の構え方だ。

 ケンタの眼光は鋭く真剣なもので、まるで弓を引き鏃を獲物へと狙い射るような眼差しなのだ。氷華の鋩が、まるで鏃の尖端のように敵を必ず射抜くと、オレにはそう見えたのだ。

「ほう、俺が斬り掛かるのを待っているというわけだ、小剱殿は」

 既に考え違いというものに囚われ、常識に拘泥している眼前のノゾエ=ウスイに勝ち目などないのだ。オレは、錘使いを下したときのケンタと今のケンタが全くの別物であるということを解っている。同日の談ではない。このノゾエのように、ケンタを過小評価することなど、どうしてオレにはできようか。

「俺が『氷華』に新たなる『概念』を与える―――」

 なにせオレの友コツルギ=ケンタは『規格外』なのだから。

「氷華ノ箱庭―――『空間凍結』」

 ケンタが祝詞のような言葉を唱えたその瞬間―――ケンタの霞の構えの『氷華』から凄まじい冷気をはらんだ青白い光が噴き出したのだ。その青白い冷光は鋩へと収束していく。そうして青白い冷光は、ケンタの眼前にいる輩どもに向かって放たれたのだ。その青白い冷光はハリサキ、ノゾエとあのサツキを包み込み、まるで彼らをそこに閉じ込める出口のない箱のようなものだ。

「ケンタよ。さすがだな・・・」

 玻璃の透明な杯に氷と水を注いで混ぜたときに奏でるキンっという小気味のいい音と同じ音が最後に鳴り、青白い冷光はそのまま四角く実体化する。

 青白い光と小気味のいい音の後に残されたものは、青白い光が実体化した六面立方体の青白い氷光輝く、氷の箱だ。その氷箱は、大の大人三名がすっぽり収まるほどの大きさの青白い透明な氷箱だ。それが仰々しく出現したのだ。


 つまりはこういうことだったのだ。オレが先日の夜、ハリサキを取り逃がした事から『名案』を思い付いたオレはすぐにカツトシに伝えた。そこからカツトシがオレが考えた名案を実行できる支度を整え、『策』としたのだ。これはハリサキとノゾエを捕まえるための『名案』なのだ。オレがカツトシに『名案』を伝えた時点では、『空間干渉』という異能を持つサツキという女子(おなご)がよもやカツトシの『仲間』であり、第六感社に潜入している間者であったことは全く考えの外だったが―――


「―――」

 オレはその中に囚われた彼奴らに視線を移す。


「う、うそ・・・」

「どうしたのだ、九十歩殿」

「この氷の箱の中だと・・・『空間干渉』が行使できない・・・」

「なんと。ふむ、あの少年がここまで成長しているとは―――やはり血は争えないということか・・・」

「のっち?」

「なに、詮無いことだ―――。ならばこの箱を壊すしかあるまい」

 ノゾエが、その手に刀を握り締めると、肩からめいいっぱいの力で振り落としたのだ。それは弧を描く刀の斬撃で氷壁を斬り下げる一閃の繰り出した。

「ッ!!」

 ノゾエが刀を振った場所に刻み込まれた一筋の罅。

「―――」

 ノゾエが無言で不敵に笑う。


「無駄だぜ、野添」

 そこへケンタが数歩進み出て、右手に持つその『氷華』を軽く構えた。すると、氷華の刀身から煙のような靄が現れてすぅっと氷箱に取り付くと、ノゾエがその刀で与えた罅を瞬く間に修復したのだ。

「いや、やっぱもうちょっと分厚くしたほうがいいかもな」

 ケンタは眼を瞑った。傍から観ているとそれは瞑想をしているかのように見えてくる。

「『壊れたところはより強く修復する』―――よしッ」

 そうケンタが呟くと、氷の箱の氷壁がより分厚くなったのだ。その厚さの氷壁ではいくらノゾエがその刀で斬り掛かろうとも、その刃を弾き返すほどに頑強な氷箱へと変貌したのだ。これで、この氷箱に囚われたノゾエもハリサキも逃げることは叶わなくなったというわけだ。

「―――・・・」

 ノゾエは声にならないような憤りの息を吐いた。

「のっち。この箱の中、電話も圏外になってるの」

「九十歩殿・・・さて、どうするかな」

「それに、なんか寒い・・・」


「健太くん、アルスランくんありがとう」

「あ、塚本さん」

 オレ達のもとへカツトシがゆっくりと歩いてきたのだ。

「第六感社の幹部級の者達を捕まえることができたのはキミ達のおかげだ。深く感謝するよ」

「ちょ、ちょっとやめてくださいよ」

「いや、今の僕達じゃできないことだったからね」

「いやでも頭上げてくださいってば、塚本さん」

 そこへユキナも歩いてくる。

「ありがとう、ほんとに貴方達がいてくれたからこそ。アルスラン君、貴方にはこれからもずっと警備局にいてほしいんだけどね。いろいろあってごめんなさい」

「いや、オレのほうこそ貴女やカツトシには深い恩を感じている」

「そう、ありがとう」

「侑那。あとで侑那に大事な話があるの」

「な、奈留ちゃん・・・い、いいわよ、奈留ちゃん。あとでいっぱい話をしましょ」

「うん」


「さてと、アレはどうするかな・・・」

 カツトシはケンタとの話が終わったようで、氷箱の中でその刀を振り回し始めたノゾエを見やった。サツキのほうは、一生懸命に刀を振り回すノゾエをじぃっと意味深な顔をしつつ傍観していたのだ。

「兵糧攻めのように水と食料を断ち、力が尽きるのを待ったらどうだろうか?」

 オレはカツトシの呟きにそう進言した。

「そうだね、それしかないか。そして頃合いを見計らって健太くんに能力を解いてもらってそこで拘束しよう、侑那もアルスランくんの案でいいかい?」

「うん、ばっちり・・・。その案で行きましょう。というわけでここに簡易の施設を敷設するわ」

///

「ッ!!」

 誰もがその衝撃音を耳にしてそちらを見やったのだ。―――ケンタが造り出した氷の箱の氷壁を一点貫通する一振りの刀。いや、よく見れば、ぼろぼろに刃毀れした刀身だけで、折れた柄だけをノゾエは握っていたのだ。

「―――はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 肩で荒い息継ぎをするノゾエはその刀身が折れた刀の柄から手を放す。すると柄はぼとりと落ちて、氷床の上で何度か撥ねた。ノゾエの柄を握っていた掌から紅い血がぽたぽたと落ちていた。

「のっち。あの人まっさん―――私が空間に繋げた道を・・・歩いてくる」

「・・・そ、それは、俺が・・・はぁ・・・苦労して・・・はぁ・・・外の空間と・・・はぁ・・・繋げた・・・甲斐が・・・はぁ・・・あったというものだ・・・」

 ノゾエは力尽きたかのように、その氷箱の中の氷床の上に倒れ込んだのだ。倒れ込んだノゾエの目は虚ろでぜいぜいで肩を息をしていたのだ。それほどまでに力を揮い続け、心底力を出し尽くしたのだろう。

「そうだね。ここで倒してもらおっか、あの人。そして全て終わりに」

 サツキがカツトシを見てわずかに口角を吊り上げる、カツトシのソレほどまでではないが、まるで哂っているような笑みだったのだ。

「―――さて、仕上げだねぇ」

 カツトシはそのサツキの哂い顔に気が付き、それのサツキに応えるかの如く、カツトシも薄く哂みをサツキにこぼし返したのだ。

 おそらく、カツトシとサツキの関係を知っていなければ、この両者の僅かな目交ぜには誰も気づかないだろうな。だが、オレは知っている。この二人が『イデアル』に復讐を誓う組織『灰の子』の一員であるということに。


「―――・・・一隣亡・・・」

 サツキが造り出した空間の歪みのようなものが復活し、そのさざ波のその場からゆらぁっとした『いちりんぼう』と呟く野太い声が聴こえてきたのだ。


「―――」

 空気が重い。まるであのときの―――『歩兵達よ、さがれ』―――と言いながらルメリア軍団兵の群れを割って現れた彼奴のような、オレの宿敵ニコラウスと同じような雰囲気が漂った声なのだ。


「―――二隣亡」

 そうして滲んだ空間の『向こう側』からその男が姿を現す。そして地面に右脚を出し、続いて左脚―――さらに両の脚で地面を踏みしめたのだ。


「―――まるで彼奴のようだ」

 オレは一人呟いた。オレの頭によぎる者は―――


///


『貴公の勇ましさ、強さを見込んで言おう。アルスラン王子よ、今からでも遅くはない我らルメリア帝国に降るのだ。私から皇帝陛下に貴公のとりなしを行おう。そうして皇帝陛下の臣下となれば、エヴルの王国もきっと滅ぶことはない。だが、貴公が死ねばエヴルの王国も終焉を迎え、民は死ぬ』


///


 この場に現れた男は肩幅の広く体格のいい体つきだった。まるで、その背格好から見るに、この男は、オレを追い詰めたニコラウスの姿と重なって見えたのだ。今、空間を越えてこの場に現れた男もそのような、ニコラウスと同じようなたぐいの男なのだ。

 この者は全身黒ずくめの装束に、黒き外套を纏いて悪辣に重厚にこの場にその姿を現したのだ―――。

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