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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
序章『・・・ある日常の終焉』
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第五話 理想主義者炎騎士の殉死

第五話


 グランディフェルはその炎を纏った『炎煌剣パフール』を背中から担ぐように構え―――彼はアルスランの間合いの遠くから炎を纏った『炎煌剣パフール』を勢いより振り下ろすッ―――!!

 その瞬間『炎煌剣パフール』から特大の火球が放たれ、地表を焼き払いながらアルスランまで一直線に飛んでいく。

「―――」

 一方のアルスランは無言で(クルチ)を左手に持ち替えて、空いた右腕右手をすぅっとその火球に向けて差し出した。

 その直後、アルスランを焼き尽くそうと彼めがけて飛来する火球。閃光と火と熱気を周りにまき散らしながらその火球はアルスランへと直撃する。


「「―――!!」」

 ―――アルスランとグランディフェルの人知を超えた激しい戦いを動けずに見つめていた春歌も奈留も、物理攻撃以外の間接攻撃の前にアルスランは無事では済まないと思っていた。


「バ、バカな・・・!!」

 最初に声を発したのはグランディフェルその人であった。


「は、春歌見て・・・彼を―――」

「は、はい・・・私の目にも見えています」

 ばらばらにされた元・ゴーレム兵の岩陰に移動していた彼女達はその光景を見ていたのだ。すぅっと薄っすら赤い炎が下火になっていく。すると視界に入ってくるのはアルスランの影。

「―――」

 彼、アルスランは全くの無傷で右手を前に差し出したままの姿だった。彼が右手指の先から作り出した流線形の氣の防御領域内は全く焼けておらず、グランディフェルが『炎煌剣パフール』から放った火球の炎も熱気も全く通さなかったのである。

 それでもなお、彼グランディフェルは厳しい表情をしつつもその『炎煌剣パフール』を両手で握り直し、今度はその灼熱に鈍く輝く赤き鋩をアルスランに向けた。


「我が名は『イデアル十二人会』の一人、元・イニーフィネ帝国帝室近衛騎士団団長炎騎士グランディフェル―――『炎煌剣パフール』よ、その清炎をもってこの者もろとも宿業を焼き祓え―――」

 その剣はグランディフェル自身のアニムスを喰らい、刀身から鋩へと炎が纏われていく。さきほどの一振りの火球の非ではなく、自身の生命を削って作り出す彼グランディフェルの技の中でも最強の攻撃である。

「ルッカーイッ!!」

 グランディフェルがルッカーイと叫ぶと、『炎煌剣パフール』から途方もない量の熱気と焔が噴き出し、それがアルスランを襲う。

 一方のアルスランもその手に握る自身の氣の刀の鋩をグランディフェルに向けた。

「・・・イェリン・ウマイ、メンゲ・クチュ・ベルトゥク―――」

 アルスランが自身の言葉でなにやら呟いた。するとその直後、アルスランの身体から立ち揺らめく氣の勢いが増していき、その流れは彼の握る刀へと集束していく。

「―――バスキンジ」

 グランディフェルが『炎煌剣パフール』から放った炎気。アルスランの自身の氣と『彼女』から与えられた氣。その双方の斬撃がちょうど両者の中間でぶつかり合ったのだ。

 両者の渾身の一撃は激しく衝突し合う。しかし、それも束の間のことだった―――

「お、俺の清炎が敗けるだと―――・・・!! バ、バカな―――」

 アルスランの氣は、まるでグランディフェルの炎を襲うかのように呑み込み、それでもなお勢いは減ずることもなくアルスランの『氣』の斬撃はグランディフェルの姿をも呑み込んでいく。

「す、すま・・・ない『導・・・師』、―――チェ・・・ス・・・ター―――皇子―――・・・」

 そうして、多量のアニムスを凝縮することによって形成された氣の斬撃をまともに喰らったグランディフェルはその炎剣もろとも、地形の一部ごと消し飛んだのだ。

「―――、―――、―――」

 アルスランは、はぁ、はぁと肩で息をしていた。自身の氣と『彼女』から与えられた氣を使い果たして、彼の折れた刀も氣刃の部分は解除され、元の折れた刀へと戻っている。

「ぐ・・・くぅ―――」

 アルスランが苦悶の表情を浮かべて、ニコラウスに斬られた胸を押さえる。

「かは・・・ッ―――!!」

 その瞬間―――身体と精神を限界以上に酷使し続けた反動か、傷が開いてその場に紅い血しぶきを噴いた。


「ッ!!」

「ちょっと待ってくださいッ奈留さん・・・!!」

 それを目の当たりにした奈留は春歌の制止も聞かずにアルスランのもとへと駆け出した。

「し、しっかりしてッ!!」

 奈留はアルスランの血が警備隊の隊服に付くのもおかまいなしで、血しぶきを吹いて倒れたアルスランを抱き起す。

「き、君は―――」

 まだ虚ろな眼とはいえ、光の戻ったアルスランの眼が奈留の姿を捉える。

「き、気が付いた?」

「オレは・・・君達を―――護ることができただろう・・・か―――」

 彼アルスランの身体からガクッと力が抜けた。

「―――え?」

 その直後、アルスランは気を失ったのである。

「ちょっとしっかり―――死んじゃだめッ私は貴方に訊きたいことがたくさんあるからッ」

「な、奈留さん」

 そこへクロノスに斬られた傷を庇いながらよろよろと春歌が近寄っていく。

「春歌。春歌―――彼死んじゃった・・・」

 春歌も奈留の傍らにしゃがみこみアルスランの様子を観察し、また呼吸の様子を確かめた。

「よ、よく見てください。か細いですが、彼の息はまだあります。すぐに救護隊を呼びましょう」

「え、ほんと・・・?」

 奈留はじっくりとアルスランの様子を観る。

「よ、よかった・・・」

 か細くはあるが、アルスランに息があることをホッと安堵する奈留だった。


///


「よし、負傷者をゆっくり運べ」

 アルスランは警備局救護隊によって担架に乗せられてヘリコプターが入れる場所まで運ばれていく。


「―――・・・」

 奈留は、クロノスの一太刀を浴びて負傷した春歌に肩を貸して、二人はその様子を見ていた。

「一之瀬隊長も羽坂副隊長も救急ヘリに乗ってください、一緒に警備局病院に搬送します」

「わ、私達は―――」

「うん、私もいい。車で警備局病院に行く。それより今は早く彼を助けてあげてほしい」

「なにを言っているんですかッ普通に歩いていますけど、貴女達も重傷なんですよッ!! ほら早く―――。あとで警備局局長に怒られるのは私なんですからね・・・!!」

 救護隊の女性隊員に背中を押され、半ば強制的に救急ヘリコプターに乗せられた彼女達もアルスランと同じヘリコプターで警備局病院に向かったのだった―――。


ANOTHER VIEW―――END.


―――Arslan VIEW―――


「・・・、・・・、・・・」

 あぁ、解る。オレはもうすぐ目を覚ますのだろうってことに。まるで澄んだ川の水底からゆっくりと水面の上からあまねく照らす、明るい太陽を目指すように、意識が覚醒していく。

「・・・・・・」

 そうしてオレはゆっくりとその瞼を開いた。

「うぅ・・・」

 だが、その眩しさにまた目を閉じてしまう。目を徐々に明るさに慣らしていくと、そこは見たこともないような光景だった。

「―――白い箱の中にいるようだ」

 周りをよく見れば、オレの四方は白い壁に囲まれており、その中に置かれた一つの寝台でオレは目覚めたのだ。寝台の寝床の布団は毛氈(フェルト)の類ではないものの、ふかふかで十分暖いものだった。なお、この寝台の寝床も白いものだ。

「そういえば・・・ここはどこだろう?」

 白い寝台に横たわりながら、その白くて平たい天井を眺めた。オレの常識の中では、天井というものは真ん中にいくほど、屋根がよってくるものだ。縦の壁と梁が途中から曲がって屋根になり、ちょうど円錐形の角度が緩いものといえばいいだろうか。それが常識なのだが、オレが寝ていたこの部屋の天井は途中で壁が急に直角に折れて天井になるという、物凄く不思議な天井だったのだ。

「ここは―――どこだ・・・?」

 わからない。わからないことだらけだ。

「オレはあれからどうなったのだろう・・・か?」

 仰向けに寝転がったまま、ここに至るまでのことをよく思い出そうとして、オレは目を閉じた。

 ルメリア帝国軍に断崖絶壁へと追い立てられ、最期のニコラウスとの一騎打ちでその戦斧に斬り裂かれたオレは自ら崖の下へと落ちることを選んだのだ。

 そうして、『いやだ、まだ死にたくない』と、おおよそ草原の民らしくない、勇敢さと賢明さを欠いた命乞いのような願いを、祈りを天神(テングリ)天女神(ウマイ)へ懇願したのだ。

「―――・・・」

 あぁ、聖なる天神、聖なる天女神よ。願わくば―――私をまだあの世に連れていかないでください―――、と。

 あのとき、落ちゆくオレの周りは淡く白く光っていて―――

「――――――・・・」

 その真っ白の中をどこまでもどこまでも落ちていき―――ん? ―――・・・ん? そのあとどうなったのだっけ―――?

「・・・誰かに呼ばれたような・・・。―――誰かがオレの名前を呼んでいたような―――・・・なんだったけか・・・―――、――――・・・?」

 そこから、悶々と、うんうんと頭を抱えても、はっきりと思い出すことは叶わなかったので、ふと視線を横に逸らしたときだった。

 この部屋には一つの窓枠があり、そこから外の空が見えた。透明なものが嵌っており、それはきっと玻璃(はり)とおぼしき材質だろう。そういえば、以前、交易国から税品の一つで玻璃製の玉が納められたことがあった。まだ子供だったオレと義妹のイェルハはそれを投げ合いっこして彼女は手を滑らせて割ってしまった。父王に見つかって、男というだけで、オレだけめちゃくちゃ怒られて・・。オレが怒られたあとで義妹はしゅんと元気なく『ごめんなさい、兄さん・・・』と居心地悪そうに謝ってくれたっけ。

 その玻璃と同じ材質と思われる透明な材質でできた窓の外から見える空の色。その赤焼けの色からしておそらく刻は早朝か夕刻だろう。

「よっと」

 オレは窓から外を見ようと思って寝台から上半身を起こした。

「・・・」

 身体に力が入りにくく、少々ぎこちなかったのは自分自身が長いこと、ここで寝かされていたのだろうということを想起させた。そこから判ること、それはきっとこの屋敷の者がオレを助けて手当を施してくれたのだろう。その証拠に今、オレが着ている白い服を捲って見てみれば、背中から脇腹に刺さっていたルメリア兵の矢が抜かれており、またニコラウスの戦斧の傷があった上半身に包帯が巻かれている。

「オレを見つけ助けてくれた者に、あとで祝礼かなにかができればいいが、な」

 だが、あいにく今のオレには、金貨も銀貨も宝石もなく、なにかできることがあるとすればこの身で恩に報いるということぐらいしかできそうにない。

 足を絨毯が敷かれた床につけ、寝台に腰かけたとき、この部屋に置かれていた一つの台の上に置かれた物に目が留まったのだ。

「あれは・・・姉さんから貰った首飾り―――・・・」

 その瞬間、あのときの光景を鮮明に思い出したのだ。


『逃げよ、アルスラン』

『嫌だ、オレは戦う・・・!!』

 なぜハンである父までそのようなこと言うのか解らなかったのだ。そう思うとオレは反射的に父に掴みかかっていたんだ。

『なぜ姉上はよくて、オレはダメなんだッ!?』

『――――――』

 あのとき父王は唇を噛みしめたまま、眼を閉じたのだ。

『答えてくれ父上ッなぜだ――――――?』

 父は襟首に掴みかかっているオレの背中に腕を回した。姉さんはさらに後ろの背中からオレを抱き締めてくる。

『アルスラン。あなたは私達の希望なの・・・』

 姉さんはオレに息がかかるぐらいの距離で呟いたのだ。

『そうだ、アルスラン。お前は逃げるのでなく・・・力を蓄えて・・・この誇り高きエヴル・ハン国を再興してくれ・・・』

『父上・・・姉上―――』

 オレは身体から力が抜けていくように、父の襟首を掴んでいたオレの手はゆっくりと下に下がった。

『・・・父上、姉上・・・でもやはりオレは・・・』

 オレは最期までルメリア兵と勇敢に戦って死にたかったのだ。

『アルスラン、これを貴方にあげるわ』

 姉さんは自分の首を飾っている金鎖の頸飾りに手をかけた。

『やめてくれ、姉さん。それを渡すってことは―――』

『敵兵に盗られる前に弟である貴方にあげるわ』

 姉さんはいつもの調子で、自分の頸を飾っていた金鎖で繋がった黄金製の頸飾りを外して素早くオレの頸にかけた。

『これ私達の・・・本当のお母さんのやつだから、失くさないでね。そうだ、アルスラン。もし貴方に娘ができればその子にあげて。私がお母さんから貰ったのようにね、ふふ』

『・・・う、その言葉ずるいって』

『フフフ』

 そのとき姉さんは微笑んだのだ。そのときの笑顔をオレは忘れることはないだろう。

『イスィク、ヤルバル、ウズン、バルチャ。我が息子アルスランを頼んだ』

 父が四名の精強なる親衛隊の面々に視線を向ける。

『『『『はッ。我が主君、トゥグリル様の名にかけて―――!!』』』』

 そこで親衛隊の四名はハンである父に向かって臣下の礼を行なったのだ。それでもなお、オレが父と姉さんの後を追おうとすれば、親衛隊の四名はオレを押し留めようとオレの身体を抑え込む。

『ちょっと待てッ離せッ。お前達ッ!!』


『さらば、我が息子アルスラン―――』

『さようならアルスラン、もし生きていればまたどこかで会いましょう―――」

 騎乗の父と姉は最後に残った僅かに残った手勢を引き連れ、敵兵のもとへ―――征く。


『あぁあああああああッ―――!!』

 それが、泣き叫ぶオレが見た父と姉の最期の姿、最期の言葉だったのだ。


 自然と一筋の涙が出てきて頬を伝って、床に数滴落ちたのが分かった。

「・・・父よ・・・」

 それから、ふぅっと我に返って、窓から外を見た。すると窓の外から見える空の色は橙赤色から深い青みがかったものに変わっており、今が夕刻であるということが判った。

 オレは寝台から立ち上がって姉さんから貰った黄金製の首飾りを手に取り、変形しない程度の力で握りしめた。

「姉さん・・・」

 ―――そのとき、オレの腹の虫がぐぅっと鳴いた。そういえば追手から逃げ回ることに必死で、道すがら捥いで食べたザクロやその他の木の実、甘い樹液、湧水以外は口にしていなかったな。よし、この館で食料を探してみるか、とオレはこの部屋をあとにするのだった。


Arslan VIEW―――END.

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