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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
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第四十五話 俺ってそんなに『規格外』なの?

第四十五話


―――Kenta VIEW―――


 今日は任務の日だけど、今は昼の休憩中だぜッ!! 混成隊の隊舎の食堂で、俺はバッと椅子から立ち上がってみた。ふぅ~今日も春歌たんが持ってきてくれた美鈴さんの弁当は美味かったぜッ。

「「「―――?」」」

 俺が急に席から立ち上がったもんだから、春歌、アルス、奈留の三人の目が俺に集中する。俺はここ最近、正直言ってめちゃくちゃ浮かれている。まぁ、でも巡回のときは春歌に怒られるから真面目にやってるよ? でもな、気分は高揚し、心はルンルン気分だぜ!!だから俺は―――

「・・・ぐへ、ぐへへへへっ・・・ぐふふふふっ氷華(ひょうか)たんッ俺と遊ぼう? 俺は・・・俺は―――ついに氷華たんと遊べるようになったんだ。だから俺はもっと氷華たんと遊びたいっ・・・!!」

 俺は両手をわきわきにぎにぎと、開いたり、閉じたり―――だってもうテンションあがりまくりでさぁ、これやりかったんだもん、三人の前で。

「・・・け、健太―――そ、そのいろいろと大丈夫ですか―――?」

 若干、ひき気味の春歌たん。そういう態度もいいぜ。

「にこっ」

 俺は春歌に極上の笑みを返した。

「―――!!」

 すると、ビクッと身体を震わせた春歌は、俺からそそくさと視線を逸らして、食べかけのお弁当を何事もなかったかのように、ぱくぱくと食べ始めた。いやいつも彼女が持ってきてくれる弁当はおいしいと思ってるよ。そんな春歌と同じおかずが入ったお弁当を俺も食べてるんだぜっ。

 でも、そんな春歌の今の顔は、まるで俺のことを、関わり合いになりたくないようなやばい人が近づいてきて、それを避けているような女の子の態度で―――。よし、もっとノリノリでノッてみよう。


「ひょーかたん、だと?」

 今度はアルスか。アルスは少し眉間に皺を寄せている。なんだこいつって言いたげな気持ちかもしれない。

「そうだアルス、氷華たんなんだよ・・・!!氷華たんってかわいい名前だろ?」

 俺の答えを聞いたアルスはさらに眉間に皺を寄せたんだ。それからアルスは自身の隣にちょこんと座っていた奈留になにやらこそこそと耳打ちをした。

「アルスこしょばい・・・」

「すまぬ、ナルよ。だが、オレはあの常軌を逸したような言動のケンタが心配なのだ」


「ッ!?」

 え?アルスってば、俺の言動が常軌を逸してるだと!?バカな? オタクなら興味なもの相手に、俺が言ったりしたりした言動は、どのオタクでもしたり、やったりすることだろうっ!?今の俺みたいな言動はさッ!?


「はぁ・・・アルスが健太のことを心配してるなら仕方ない・・・」

 奈留は菓子パンを齧るのを止めて溜息をつくと、△にした口と、そのじとっとした半眼で俺を見つめてくれた。

「奈留たん。俺は、俺はついに氷華たんを攻略できたんだ―――」

「健太、また頭にお花が咲いたの? ついに二次元と三次元の区別もつかなくなった?」

 いぇーい!!奈留たんノッてくれてありがとぉー!!

「氷華たんはすごい子で俺の言うことだったらなんでも聞いてくれたんだぜッ!? さすがは氷華たんだぜっ」

「―――」

 おふぅ。奈留たんの無言で、その白けた視線は効くぜ。だが、なめてもらっちゃ困る。俺だって伊達にオタクはやってはいない。こんな視線なんて日常茶飯事だったぜ。

「僕は、現実でゲームをしているんだっ。だからゲームの中に出てくるヒロインも現実なんだっ。だから僕はたくさんの女の娘に好かれてるんだっ―――はッしまったッ俺の心の声がダダ漏れだっ!?」


「「「――――――」」」


「・・・あ、いや―――」

 そう、今の三人春歌、アルス、奈留をイラスト風に表すならば、見開き部分でみんなの表情がなくなって、キャラクター達が白黒に固まっている場面そのものだ。

「ち、違うぞ。今のは、じょ冗談だからな? さっきのことも冗談だからなっ!? みんなが思ってるようなことじゃなくてさ・・・!!氷華たんは」

「アルス―――どうしよう・・・? 健太もう薄い世界から帰ってこれなくなっちゃった」

「ケンタお前・・・どこに行きたい?」

 あぁもう、アルスのやつ表情と言い方がいちいちカッコいいな。

「いや、そうじゃくてさ。俺はこの詰め所にも氷華たんを持ち込むことができるようになったんだってばっ!!」

「どういうことだ、ケンタよ。またお前の好きなお人形さんのことか?」

 アルスはすぅっと腕を組んだんだ。アルスってば、ちょくちょく腕を組むよな。アルスのその『お人形さん発言』に今度は春歌が反応する。しかも、春歌ってば、片目をつぶった辛そうな顔をしてさ。

「だ、大丈夫です、健太。私は貴方が、くッ―――この詰め所にいろいろな、その・・・まるで半裸のような格好をした恥ずかしい女の子のお人形さんや水着姿の女の子のイラストが描かれたタペストリーをもっと増やしても―――わ、私は・・・なんとか羞恥に堪えてみせますから・・・―――くッ」

「ッ!!」

 そ、そんなになのか!? そんなに歯を食いしばり、絞り出すような声を出さなければいけないほど、春歌たんは俺の趣味がイヤなのか!?

「やーい、健太。春歌を泣かした」

 さっそく奈留たんがそれに便乗してくるぜ!!

「ハルカを、女子(おなご)を泣かしたのか、ケンタよ?」

 続いてアルスまで。

「ち、違うぞ!! そ、そんな視を俺に向けないでッ違うから!! 取りあえずこれだ、これを見てくれ」

 とりあえず一般人の、春歌と奈留そしてアルスは、俺のオタクな話についていけなくて、話が進まないから取りあえず、俺は詰め所の壁に立て掛けてあった『氷華』を手に取って丁重に自分の机の上に置いたんだ。そこで、やっとみんなの視線が『氷華』に集まった。

「健太、折れた模造刀、なんだっけ・・・む、むむむ―――あ、そうそう夢幻を直したの?」

 奈留たんや、そんなにかわいく眉間に皺寄せてむむむむ、なんてさ。俺の『夢幻』ちゃんの名前すら憶えてなかったのか。ほんとこの子、自分の興味対象外のことは眼中にないよね。アルスのことならなんでも知りたがりなのにさ。

「チッチッチ、見て違いが分からねぇのかい、お嬢チャン」

 それを訊いてきた奈留に、俺は右人差し指を立てて、その指を左右に揺らす―――

「・・・なんかその仕草、バカにされてるみたいでウザい。健太・・・あれ燃えるよね?」

 じとっとした半眼の奈留も右人差し指を立てて、壁にかかっている俺のコレクションを指し示した。

「おう、萌えるだろ?『おれおの』に出てくるヒロインの一人騎士シャインちゃんのタペストリーだぞ」

 やっぱ、オタク系の話は通じるじゃないか、奈留たんや。

「うん。たぶん燃えると思う。チッチッチ、だから燃やそう」

 奈留も俺の見様見真似で右人差し指を立てたまま、その指を左右に揺らした。だから奈留の真似をもう一回してみよう。

「『チッチッチ、だから萌やそう?』―――えッもしかして『燃やそう?』ッ!?」

 ひええッやっぱ奈留たんと俺の話がかみ合ってなかったー!!

「ひ、ひどい奈留たん、ちょっとした冗談だってばー。ま、いつも俺は薄い世界に萌えてるけどな・・・!!」

「ライターどこ? ねぇ、春歌、ライターはどこ?」

「ラ、ライターですか・・・奈留さん?」

「うん。燐寸(マッチ)でもいいよ。健太のタペストリー燃やすから」

 むふっとドヤ顔の奈留たんてば両手で、シュッシュッとマッチを擦る仕草を繰り返してる。エアマッチ。

「いやぁっやめてッ奈留たんっ!! 俺の『おれおの』コレクションの一つ『騎士シャインちゃんのタぺ』に手を出さないでっ!!」

「取りあえず、やめようかナル。ケンタの話が始まらん」

「うん、解ったアルス。ごめんなさい」


 今度は俺がシラーっとする番だ。

「―――」

 なんなんすかね、この差は。アルスが言うとしおらしすぎるだろ奈留たんは。アルスのやつ、このネコみたいな奈留たんをどうやって手なずけたんだ?

「お前らさぁ、ほんとは好き合ってんじゃねぇの?」

 この前はアルスのベッドの中に、なぜか奈留が潜り込んでたしさ。俺のその発言を聞いた奈留は恥ずかしそうに身体を一回くねらせたよ?

「っ・・・その―――そ、そんなことは(てれてれ)っ。―――ア、アルスはどう思う?」

 おずおずと奈留はその期待感に満ちた視線をアルスに向けたんだ。

「好き合う?まさかオレ達が? ケンタよ、想像の産物をまるであることのように言わないでくれるか?」

 お、おう・・・アルス、目がちょっとこわい。

「お、おう。すまん」

「しくしく・・・私は諦めないから」


「・・・・・・」

 あぁあ、奈留かわいそうにな。まぁ、これ以上は、俺は喋らないけどな。

「さて―――」

 じゃあ俺も真面目モードになりますか。俺は今一度丁重に、自ら『氷華』と名付けたこの日之刀をその手に取ったんだ。

 そのとき春歌の視線が俺がその両手に持つ日之刀『氷華』に移った。

「・・・健太、この刀はひょっとして―――」

「うん。『氷』の『華』と書いて『氷華』っていう日之刀」

 春歌の目の色が疑心に揺らぐ。

「『氷華』? この日之刀は保管庫に封印されていた『妖刀-零零五号』ではありませんか?」

「へぇ~、見たことあんの、春歌?」

「はい。一度だけですが・・・」

 へぇ、こんな厳重に封印されていた、この刀を春歌はどうして見たことがあるんだろうな。まぁ、今はそこに触れなくてもいいか。

「そんな『妖刀-零零五号』っていう、いかつい名前だったのか、『氷華』って。でも、なんか『妖刀-零零五号』ってのもカッコいいな。いやな、俺いろいろな銘を考えてみたけど、やっぱ二文字で『氷華』ってのがいいかなと思ってさ」

 俺は愛着の湧いたこの『氷華』と名付けたこの日之刀を、鞘の上から反りに沿ってすぅっと右手で一撫でした。

「それで『氷華たん』だったのですね、納得しました。でも確か・・・私に降りてきた報告によれば、健太貴方に与えられた権限は、この『妖刀-零零五号』いえ『氷華』を行使するにあたって、有事や訓練時にしか使えない『限定貸与』だったはずでは?」

「それがさぁ、なんか完全に俺がこの妖刀を『制御』しているってのが認められたみたいで、綾羽さんと塚本さんが上に掛け合ってくれて俺の権限を『限定貸与』から『正式貸与』?っていうのにしてくれたんだよ。お前のその薙刀と同じ許可のな」

「―――!!」

 俺がなんとなくいつもどおりの普段の会話のように、ふぅっと喋った言葉を聞いた春歌の目が驚きに見開かれたんだ。そんな驚くことなのかな?

「どした?春歌?」

「い、いえ。―――健太貴方はこの『妖刀』を使いこなせる、御することができる、ということが、どれほど凄いことなのか、健太は解っていますか?」

「ん・・・―――どうなんだろうな。俺さ、なんか『氷華』を持った瞬間からこの妖刀を俺の意のままに自由に使いこなせてたからさ。解れって言われてもわかんないぜ・・・はははっ」

「・・・貴方はどれだけ『規格外』なんですか・・・」

 春歌は驚きすぎて、呆気に取られたような様子で、春歌のやつは溜息を吐いたんだ。『この妖刀を使いこなせる』ということが、そんなにチート的なことになるなんて、俺には全くこれっぽちも実感なんてないんだけどな。

「どれどれケンタ、オレも少しその妖刀に触ってもいいか?」

 アルスが組んでいた腕をほどいた。アルスの嬉しそうな表情から察するに、たぶんアルスも刀や剣という武器が好きなのには違いない。

「おう、いいぞアルス。あ、でも気をつけろよ」

「ふむ、気を付けろとは? まさか、鞘の上から切ってしまうわけではあるまい?」

 アルスのその言葉に俺は首を左右に振って、その考えを否定した。

「や、そういうことじゃないんだ、アルス。こいつこの妖刀ってさ、抜き身で持つと、結構アニムスをごっそり持っていくんだよ。だから俺も慣れるまでは苦労したっけ。はい、アルス」

 俺は鞘に納まったままの『氷華』を、両手で持ってアルスに差し出した。

「うむ。ケンタの忠言・・・心得た」

 アルスは静かに、まるで壊れ物を扱うように俺の手から『氷華』を受け取った。あんなに丁重に扱ってくれるのなら、所有者の俺でも安心するやつだ。

「け、健太、アルスランちょっと待ってくださいッ」

 でも、俺達の行動に春歌はハラハラドキドキしているようで春歌は一歩踏み出そうとしたんだけど―――

「ちょっ・・・それは『権限』を逸脱する行為になります―――・・・!!」

「待って春歌―――アルスが任務でこの妖刀を使うわけでもないし、所有するわけでもないから法的規則には抵触しないはずだよ?」

「で、ですが奈留さん・・・しかし」

 でも奈留と春歌が言い合っている間に、俺はアルスに『氷華』を渡し、アルスはその手に『氷華』を取ったあとだったんだ。

「ふむ・・・この妖刀なる刀の重さは刀と同じぐらいだな。刀身は・・・―――」

 アルスは、『氷華』の鞘を左手で握り、右手で柄を握ると、すぅっと鞘から抜き身の美しいその刀身を抜いた。アルスはその銀色に輝く美しい刀身をしげしげと興味深そうに見つめた。

「・・・綺麗な反りで、銀色に輝く鋼の刀身―――刃紋も素晴らしく鮮やかだ。これはおそろしいほどの宝刀の類だろう・・・」

 アルスは目を細めて、その『氷華』の鋩からものうちへとその視線を移し、さらに『氷華』を持ちながら腕を動かすことによって、鎬と反り、棟、唾、柄へとさらにその視線を移していったんだ。たぶん、アルスにもこの『氷華』という刀の素晴らしさを、その価値を理解できるんだろう。

「解るのか?アルス」

「―――あぁ。オレもまた、かつてオレが居た元の世界にあった王都エヴルバリクの宝物庫で様々な刀剣を見てきたが、この刀もそれと同じ部類に入るものだ」

 アルスは自分が抜き去ったあとに残った鞘を手に取った。でも、俺はあることに、あることに興味が湧いた俺はアルスに対して口を開いたんだ。

「アルス」

 アルスも転移者だ。アルスが抜き身の『氷華』の刀身を、その鞘に納めようとしていたときに俺は―――、俺が興味をそそられたことというのは、ひょっとしたらアルスも俺と同じようにこの『妖刀』を制御できるかもしれない、ということだ。それに興味が湧いたんだ。

「なんだ、ケンタよ?」

「そいつに『氣』を込めてみてくれよ」

 俺は、わずかに笑みを含んだ顔でアルスにそう言ったんだ。

「『氣』を、か?」

「あぁ。ちょっと確かめてみたい・・・というか知りたいことがあるんだ。お前の氣を込めてほしい、アルス」

「わかった―――ケンタよ」


「―――」

 俺が見守る中、アルスは無言でそっと静かに眼を瞑った。アルスは『氷華』の柄に、その左手も添え、両手で柄を握って正眼に構えている。

「ゆくぞ、ケンタ―――」

 アルスが氣を発動させたのが見て取れた。アルスの全身が淡く光って―――

「ッ!!」

 やっぱり俺の思ったとおりだった。―――その闘気のような氣はアルスが正眼で握っている両手を伝い、柄から『氷華』へと吸われているみたいに刀身へと流れていく。


「「―――!!」」


 その、『氷華』を行使させゆくアルスの光景を見て、春歌と奈留は目を見開いて驚いていたんだ。『氷華』を持つアルスは、俺のときと同じで、体感できないみたいだったけど、俺も春歌も奈留も、その変化を感じ取る。その変化とは、この隊舎内における気温の変化だ。そう隊舎内の気温はぐんぐんと下がっていってまるで真冬のような気温になっていく。俺達の吐く息も白くなって、ついに『氷華』の刀身に、雪のようなしんしんという擬音があるとすれば、そのとおりに、かの『氷華』の刀身にまるで雪が降り積もっていくかのように霜が降りていく。普通の警備刀は、極低温になればすぐに刀身が脆くなり折れてしまうのに、俺が『氷華』を使って試したかぎりでは、『氷華』はそういうことにはならなかった。でも、さすがにここまで『氷華』を行使させ続ければ―――

「アルス、どうだ?」

 ―――ちょっと、アルスの体調の変化を心配した俺はアルスに尋ねてみたんだ。

「どうだ?とは?ケンタ」

「えっと身体とかだるくならないか?」

「いや、それは大丈夫だ。いつもと変わらぬよ」

 アルスはあっけなくそう語った。俺は納得した。

「・・・そっか」

 これでアルスも『氷華』を使っても、体調に変化なく、またアニムスを吸われすぎて倒れてしまうようなこともなく、平気に『氷華』を行使できるということが判った。やっぱアルスも俺も『転移者』だからかもしれない。自慢するわけでも、高慢になるわけでもないけど、俺達がフィーネさんに選ばれたわけが、解ったような気がしたんだ俺は。

「じゃあやってみてくれないか、アルス。その『氷華』の刃から氣の斬撃を放つ感じで氣の斬撃を行使してほしい」

「―――うむ」


 アルスは言葉少なに、俺達が誰もいない場所、隊舎内の座っていないところの机と椅子に向かって―――『氷華』を上段に構えた。

「アルス。氣の加減はしてくれよ?」

「―――」

 アルスは無言で肯くと『氷華』の柄を両手で握って、『氷華』を上から下に勢いよく振り下ろしたんだ。

「―――すごいアルス―――」

 その光景を見て、奈留がぽつりとその口から漏らした。春歌は驚きに目を見開いたまま、なにも語らず、その光景を見ていた。

 その光景―――アルスの氣を喰らって『氷華』から放たれた『冷氣』の斬撃は、それに触れる空気中の水分を瞬時に凍らせつつ、若干の空気も液化させ、その冷氣の斬撃が触れた机を瞬時に凍らせた。だから真っ二つに切られたはずの机は二つに別れることなく、凍ったままくっついている。

「やっぱり。俺の推察どおり冷氣の斬撃だったか」

 それにしてもアルスの力は凄いよなぁ、氣の斬撃だけで机を綺麗に一刀両断するんだもんな。

「さすがだ、アルス―――」

 俺はその机にまるで吸い寄せられるかのように、歩いていく。そして俺が、真っ二つになった片方の机に右手の指でトンっと触れると、机の原型を保っていた物はばらばらと粉みじんに崩れ落ちた。そこにふわさっとキラキラと輝く粉塵のようなものが舞う。これは凍った水分だ。

「ありがとな、アルス。俺、解ったよ」

 俺の『異能』は霊刀や妖刀を『遣う』ことだ。その曰くつきの刀に秘められた属性を『眼』で見て、『肌』で感じて瞬時に解析する。そして俺が想像することで、それを空想具現化させる能力。このアルスはこの妖刀から『冷氣』の斬撃を飛ばした。つまりこの妖刀の属性は正真正銘の『冷刀』で、俺が刀を視て識った情報どおりに想像すれば、俺はそれを行使できる。『刀が好きなのね』っていう、とんでもない凄い異能を、俺はフィーネさんに与えられた、ということだ。

「そうか。ケンタの役に立ててオレは嬉しく思うよ」

「うん―――」

 アルスは『氷華』を鞘に納めてから、俺にそれを手渡してくれた。まだひやりとする『氷華』のその温度、それを鞘の上から感じて俺は静かに『氷華』を丁重に手近な机に置いたんだ―――。そのとき俺達をじとっとした視線で見ていた彼女がいたけどな―――。

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