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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
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第四十四話 いいだろうッ、俺がお前に銘を与える。今からお前は日之刀『氷華』だ―――!!

 そして、この俺が両手に、一文字で持つこの日之刀こそが―――俺の新たなる『刀』―――


第四十四話


 俺は両手でこの日之刀を、眼前にて一文字に持ち、ゆっくりとすぅっとその美しく銀に輝く刀身を抜いていく―――。その刃紋はまるで、刃に沿って降りた薄い氷の霜の様―――冷たく、刀身の輝きとは違い、その刃紋はまるで淡く鈍く輝く冬日を照らし返す霜の様。でも、本当の霜じゃなくてその刃紋は溶けて消えたりなんかしない。

「―――」

 美しい刃紋を持つこの日之刀の刀身を、俺は鞘から全て抜きさり、その鞘を丁重に研究室の机の上に置いた。俺は抜き身になった、銘も知らないこの日之刀『―――』を見つめた―――。


「小剱くん・・・―――、その日之刀から何か感じたらすぐに教えてほしい」

 そんな俺の様子を、綾羽さんは真剣な目つきで見つめていた―――。普段は冗談も多い俺でもさすがにこのときは、もちろん俺も真剣だ。


「―――、―――、―――・・・」

 銘も知らないこの日之刀『―――』を右手で握って軽く三度、息を吸い込み吐いて、俺は自然体でだらんと腕を降ろして、下段の構えのまま眼を瞑る。フィーネさんの導きでこの五世界に転移してきて、俺は惑星(ほし)の女神によって『能力』を得た―――

「――――――」

 俺が、『夢幻』を用いて行使させたときと同じように、銘も知らないこの日之刀『―――』の柄を握り締めて、夢想するように念じれば―――・・・。

 そして俺は柄に左手も添え、銘も知らないこの日之刀『―――』を正眼になるように構え、改めた。

「・・・―――!!」

 きた『あの感覚』だ―――!! その感覚は『夢幻』のときと全く同じもの。そしてそれはその瞬間に訪れたんだ。俺はこの日之刀の『本質』を探り、悟り当てた。

「―――」

 この『日之刀』は『冷たい』。物理的な寒さや冷たさを身体で、その握る手で感じたわけじゃない。それは感覚的に悟ったものだ。

 俺が『夢幻』を握ったときやその『幻覚共有』を行使させたときに、俺自身が感じた『夢幻』の『昂揚感』ではなく―――なんとも言ったらいいんだろうか。俺が今この手に持つこの日之刀は―――

「冷たさが凝縮された刀―――」

 そうそれだ。

「・・・そのとおりだよ、小剱くん。その妖刀の属性は『冷気』なんだ。温度を下げるメカニズムや機構は判らない。でも、その現象を引き起こすから、警備局の『倉庫』で厳重に管理されているんだ。外には決して出ないようにね」

 俺の『解答』が正しかったみたいで、綾羽さんが補足説明をしてくれた。


「『妖刀』―――?」

 あぁなるほど。いわくつきの刀ってことか。でも、まだ綾羽さんの説明と考察は続いていく―――


「『警備局』のどんな猛者でも、剣士でも、その日之刀を遣いこなすことはできなかったのだよ、その『妖刀』を。その『妖刀』は使用者の『アニムス』を取り込み、それを冷気に換えていることだけは判った。だがね、その『妖刀』を使えば使うほど、使用者はアニムスを根こそぎ奪われるのだよ。そして―――」

「―――綾羽くん。だから健太くんは、綾羽くんが言おうとしたその先のことは気にしなくていいよ。健太くん遠慮はいらない、もし何かあれば僕が止めるから、全力でやってほしい」

 綾羽さんの言葉を制し、塚本さんの声が割って入る。


「―――」

 俺は無言で肯いた。綾羽さんの言いたいことはなんとなく解った。この妖刀は使用者のアニムスを喰らって、それを『冷たさ』に換えるんだろう。フィーネさんと二度目に逢ったときに、俺と精神が感応したときに『彼女』が教えてくれたことがある。

「―――」

 俺はきっとこのような刀でも遣いこなすことができる者である、と―――。だから、俺は『夢幻』と同じときのように―――俺が念じれば、夢想すれば、妄想すれば。きっとどんな刀でも、その属性を能力として実体化させ、顕現させることが俺にはできるはずだ―――!!

「いいだろうッ、俺がお前に銘を与える。今からお前は日之刀『氷華(ひょうか)』だ―――!!」

 フッ決まったぜ。完璧に決まってるぜ俺!! ううぉーッ今の俺を春歌たんに見せてやりたいぜ!! 

「小剱くん」

「な、なんすか、綾羽さん?」

 あ、あぶね俺の心の声がダダ漏れになってはいないよな?

「『夢幻』のときのようにやってくれるね?」

「いいっすよ―――」

 俺は眼を瞑り、ふたたびこの妖刀―――おっと『氷華』だったな。この俺が両手で握る『氷華』に意識を集中させていく。

「―――」

 こいつは氷の刀―――。だったらそれを俺の心に刻みこみ、俺は夢想するだけだ。

「やっぱり」

 想像したとおり、妖刀『氷華』の刀身に霜が降りていく。さぁっとまるで、霜や霜柱の形成を録画した映像を早送りで観ているようなそんな光景だった。


「凄いぞ。これは・・・綾羽くん―――」

「はい、塚本特別監察官ッ。凄いよ小剱くん!! その冷気を『形』にするなんて今まで誰にもできなかったことだよ・・・!!」


「―――」

 興奮気味の塚本さんと綾羽さん。そんなに俺がやったことは凄いことなんだろうか? 俺は普通に苦も無くやっただけだから、そんなに大層なことをやったかなんて、そんなことは分からない。そんな塚本さんと綾羽さんを横目で見て、俺はさらに妄想するぜ・・・!!

「いくぜッ―――『氷華』」

 だったらこの刀から竜の姿をした氷竜を斬撃として顕現させたり、氷柱の雨霰を飛ばせたりできたらいいのになぁ・・・―――なんて。

「そうだッ」

 そのとき俺はそれに思い至ったんだ。つまり、みんな春歌もアルスも奈留も中距離遠距離攻撃ができるんだ。俺だけが、それはできなかったことなんだ。

 だから、俺がこの『氷華』から氷刃を飛ばすことができたなら―――。俺だって春歌やアルスのような飛ぶ斬撃と同じようなことになるんじゃねぇの? 俺にもそんな攻撃ができるようになるんじゃねぇの?

 飛んでいく氷の斬撃のその形状は、凍った氷の三日月型みたいな氷刃。透明な薄氷みたいな氷で、俺が氷華を揮うことによって遠くまで氷の斬撃を飛来させ、そこいる敵を征す。それならもし、敵がヘリコプターとか無人攻撃機を飛ばしてきても、俺が氷華から飛ばした氷の斬撃で、まるで射たかのようにそれを撃ち落とせるっ。そんときの掛け声は―――喰らえッ『氷刃華(ひょうじんか)』―――なんっつてな。

「・・・―――え!?」

 それは俺が頭の中で盛大なその妄想をした、その瞬間に起きたんだ。『氷華』の刀身から恐ろしいほどの冷気が溢れ出したのは。それに中てられた空気中の水分が凍り、研究室の電気に照らされてキラキラと光り輝き空気中を舞う。でも不思議なことに『氷華』の行使者である俺は、寒くも冷たくも感じることはないんだ。

「フ・・・!!」

 自然と俺の口角に笑みが零れ、僅かに吊り上がる。―――フィーネさんが俺に与えてくれた異能『刀が好きなのね』は、俺を万能の能力者にしてくれた。でも、『刀』がないと発動できないけどな・・・。

 それでも、こんなに凄い力を俺に与えてくれてありがとうッ『フィーネさんありがとうッ』って叫んでみたいぜ。

「―――『氷華』―――」

 俺が両手で正眼に構えた『氷華』を振りかぶり、それを袈裟懸けに振り下ろそうとしたまさに、そのときだったんだ。


「健太くん!! 刀を鞘に納めてほしいッ!!」

 突然の塚本さんの焦ったような叫び声が、俺を我に返らせたんだ。

「え?」

 塚本さんの必死の声に止められて、ふぅっと意識の集中を解いた。


「健太くん、研究室の周りを見てほしいんだ」

「え? あ・・・しまった・・・」

 俺が周りを観れば、この俺達がいる研修室の中は霜だらけの極低温。俺や、塚本さん達が吐く息もすぐに白くなる。

「と、止めないでください。わ、私はまだ堪えられます、塚本特別監察官・・・。この寒さなど。それよりも私は小剱くんの能力行使を私はもっと見てみたいんですッ―――」


「―――・・・」

 綾羽さん、そんなあつい顔で、そんなぎらついたような熱視線で俺を凝視されても困るっす。いや、俺にはその―――好きな人がいるんで―――・・・。


「強がりはよしてほしい、綾羽くん」

「し、しかし。塚本特別監察官!! まだ小剱くんの能力の片鱗すら見ていないというのに―――ってあれ?」

「冷気が止んでいる?これはどういうことだろう、綾羽くん?」

「え、はい・・・。塚本特別監察官え、えと―――」

 塚本さんと綾羽さんはきょとんとした顔で、二人して顔を見合わせていたんだ。

 綾羽さんも塚本さんの顔を見たあとすぐに俺に向き直った。

「小剱くん?今は何をしているのかな?」

「え?なにって・・・?綾羽さん」

「だから今は、冷気がその妖刀からは出ていないようだね?」

「え?だって今は俺、自分の能力を行使していないんで?」


「「―――!!」」

 二人とも声には出していないけど、はぁっと息を呑み込み、その表情から俺が察するに塚本さんと綾羽さんがめちゃくちゃ驚いていることが見て取れたんだ。

「あれ、そんなにおかしいっすか?『夢幻』のときもそうしてたっすよ? 『夢幻』のときは能力を解けば、現実の風景に戻ってたし・・・?」


「完全にこの『妖刀』を制御している、ということか―――小剱くん、いやはやきみは凄い逸材だよ」

 なんか照れるっす。

「そ、そうっすか?綾羽さん」

 綾羽さんの言葉に自然と笑みが零れたんだ、ほんとに。こんなに俺を持ち上げてくるからさ。だって、俺が日本にいた頃はただのキモオタだったんぜ?二次元の女の子ばかりにしか興味がないように思われているような。ま、今はその趣味をしつつ、俺は春歌のことを大切に思っているけどな。春歌は俺の好きな人だぜ。でも、ほんとに俺が日本にいた頃は、ほんとにただの一般人だった。学校でも『あいつ、残念オタクだ』ってなんて、けっこう言われてたしさ。でもここの日之国ではどうだ? 俺は少なくとも誰かに必要とされてるんだ!! 春歌だって俺のことをそう思ってくれたら、そう思っていると、俺は思いたい。

「あ、いや。俺ほんと嬉しいっす」


Kenta VIEW―――END.



―――ANOTHER VIEW―――


 定連 重陽は研究室の中へと繋がる扉の外から室内にいる三人、小剱 健太、塚本 勝勇、新田 綾羽の様子を窺っていたのだ。

 健太が、氷華を振りかぶり、袈裟懸けに振り下ろそうとしたその瞬間だったのだ。定連 重陽はポケットの中に入れっぱなしになっていた右手をポケットから出した。そして、定連 重陽は無言で、そのなにやら、液晶画面の付いた端末を見た―――。

「―――な、に―――!?」

 その、端末の液晶画面を一目見た定連 重陽の眼が見開かれ、その顔は驚きと戸惑いの感情が満ちていたのだ。そう定連 重陽の視線は、自らのポケットから取り出したそれに―――ポケットに忍ばせていた『携帯用』アニムス強度測定機の液晶画面が指し示す、その強度判定に釘付けになったのだ。

「『瞬間最高アニムス強度―――測定不能』―――つまり・・・S―――だと・・・!?」

 その『測定不能S』という判定は、日之国においては規格外のアニムス強度で、未だかつて、いやほとんど誰も叩き出したことのないようなアニムス強度だったのだ。アニムス強度に、妙な振れ幅のある羽坂 奈留という銀髪の少女を除いて。しかし、この羽坂 奈留の例外的な判定は彼定連 重陽は知らない。まぁ、そのようなことはさておき。

 その事実を健太の叩き出した『S』という判定の前にして彼、定連 重陽の脚とその意志の籠った視線は前を向く。前というのは健太をはじめとする三人が今いる研究室内ではなく、それとは正反対の方向、つまり研究棟の外へと出る扉だ。そうして定連 重陽は足早に研究棟から完全に外に出たときのことだった。

 定連 重陽はその境界警備隊の隊服の内ポケットから一つの漆黒の板状の通信端末、ある専用の電話を取り出した。定連 重陽は皮手袋を着け、その液晶画面を指で操作しはじめるのだった。

「あの『妖刀-零零五号』を完全に遣いこなす・・・か。能力を抑制する、この研究棟内でこの測定値―――『アニムス強度S』―――」

 定連 重陽は半ば興奮気味に独り言を呟いた。しかし、その声とその彼の表情には、健太への畏れも多分に混じっているように思われる。

「―――『アニムス強度S』―――恐ろしい能力値だ、小剱 健太。―――これが『転移者』の力か・・・!!」

 そうして定連 重陽は完全に警備局の敷地外へと至ったとき、―――道の壁の角、防犯カメラの死角となる位置にすぅっと入り込むと、その漆黒の電話を、己の耳に当てたのだ。

「・・・」

 それを耳に当てPrrrrと、どこかへと繋がるであろう呼び出し音。その呼び出し音が切れたとき、定連 重陽は小声で囁いた―――

「俺だ、颯希。―――急遽、松本さんに報告することができた。俺を迎えに来てくれ、颯希」

 そうして定連 重陽は颯希という女性に連絡をつけたのだった―――

ANOTHER VIEW―――END.

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