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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
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第四十三話 俺は封じられた新たなる日之刀を持ち

第四十三話


―――Kenta VIEW―――


 それは退院を明日に迎えた、とある日の昼下がりのことだったんだ。

「健太くん、明日の午後の都合はどうかな?」

 病院食の昼飯を食い始めるのを、まるで見計らったかのように、塚本さんが警備局病院の食堂で昼飯を頬張る、そんな俺に声をかけてきたんだ。

「話があるんだ、健太くんに」

「塚本さん? え、都合っすか? はい。大丈夫っすよ」

 いいっすよっと俺は軽めに答えて―――次の日、塚本さんの後ろについて行った先は研究棟の綾羽さんのとこだったんだ。

「やぁ、小剱くん」

 研究棟の、この前に定連さんに連れていってもらったその研究室に着くなり、綾羽さんが白衣で俺を出迎えてくれていた。

「あ、どうも。綾羽さん」

「ふむ。さぁ小剱くん、きみのそのすばらしい力で私を魅せてくれたまえ」

「え? 力を見せる?」

 ちょっ綾羽さん。その雰囲気・・・眼が爛々としていて、息も荒くてちょっとこわいっす。

「ふむ、さぁ、きみの想いの力をこの場で解放してくれたまえ」

「はい?」

 そこへ塚本さんが一歩踏み出した。

「どうどう、綾羽くん。健太くんが面食らっているよ?」

「す、すみません。つい塚本特別監察官」

「まずは順序立てて健太くんに説明してあげるといいよ、綾羽くん」

 ごほんっとそこで綾羽さんが仕切り直しの咳払いをすると、綾羽さんの目の色は爛々としたものからきらきらとした目の色に変わった?と俺は思いたい。

「失態を見せてしまった。私としたことがすまない、小剱くん。さて、以前小剱くんきみが私に見せてくれた、あの『模造刀』確かあの刀の銘は『夢幻』だったかな―――」

「そうっす。『夢幻』っす、綾羽さん。ま、俺が勝手に銘づけただけなんです、けど・・・?」

「さて、どこから話したらいいものか・・・―――」

「?」

 綾羽さんは顎に右手を添えてなにやら、唸るように考えているようだった。

「ふむ。少し語弊があるがね、この惑星イニーフィネに在る『五世界』では『能力』が備わっているのは人だけじゃないんだ」

「―――」

 綾羽さんから聞かせたそれ。でも、俺はそれもなんとなく理解はしている。

「まぁ、あのときの私は小剱くんに『媒体』と言ったがね・・・」

 やや、置いてふたたび綾羽さんは口を開いたんだ。

「そういえば小剱くん。日本で伝説の武器や武具というものは聞いたことはあっただろうか?」

「・・・」

 え?俺は綾羽さんの言葉に引っかかり覚えたんだ。そう、俺の目の前に立っている綾羽さんは『日之国』じゃなくて『日本』って言ったんだよ。

「―――・・・」

 やっぱり、この綾羽さんは俺と同じ日本からきた『転移者』なのかもしれないな。

「小剱くん?」

 気が付けば、俺は綾羽さんにじぃっと見つめられていたんだ。

「えっあ、はい。なんすかっ!!」

「小剱くん?きみは私の話を聞いていたかね?」

「えっ。あ、はい―――えっと・・・」

 俺は綾羽さんの話を聞いてなかったぜ。綾羽さんは困り顔でため息をついた。

「すなわちあれだよ、小剱くん。日本でも伝説の武器という存在のことを話していたのさ」

「あ~ぁ。そ、そう、あったすね。てか、よくゲームとかに採用されてっるすよね? かのアーサー王が使っていた聖剣とか、勇士ウラルが使っていた聖剣とか」

 綾羽さんから『聖剣』という単語を聞いて俺の中で思い浮かんだのは、かの英雄アーサー王が保持していたという『聖剣』だった。俺はあういう伝説の話とかもけっこう好きでいろいろ調べた。他にも日本の中で有名な『刀』は雷を切ったと伝わる霊刀『雷切』や鬼を斬ったとされる『鬼切』とか。他にもたくさん・・・。

「そう、それだよ、私が聞きたかったのは。私も日本からこの『惑星イニーフィネ』にやって来て、それらのような武器が、この五世界にはあると聞かされたときは俄かに信じられなかったよ」

「やっぱ綾羽さんって俺と同じ日本から来たんすね」

「ふむ。まぁ」

 綾羽さんは控え目に肯いた。そんな話より今はこの伝説の武器の話をしたいのかも。

「答え合わせをしよう、小剱くん。―――模造刀は日本の電気街にあるオタクショップで買ったって言っていたね」

「はい。あれっすよ、ほらガラス製のショーケースの中にある中古の高額商品のやつっす」

「ふむ。その模造刀『夢幻』がプレミアものの中古品だということ、おそらく多くのオタクの人々の妄執や妄想といった残留思念が、その『夢幻』に染み付いていたんだろう。そうして小剱くんがその模造刀を買い、日本からこの『五世界』に持ってきたことでその模造刀は『霊刀夢幻』に成ったんだろうね」

「・・・」

「『夢幻』を、小剱くんが持つ『刀遣い』という能力で行使したことで、『夢幻』に備わった『幻覚共有』という異能の発動に繋がった」

「・・・・・・」

 確かに理にかなっている、けど。その綾羽さんが言った『刀遣い』自体はフィーネさんが俺に贈ってくれた異能だ。俺自身にも異能ってあるんだろうか―――。すでにフィーネさんから貰った異能があるから、もし俺がその異能を持っていたとしても、もう発動することはできないんだろうか。ま、いいか。今は『刀が好きなのね』に集中しよう。

「ついでに言うとね、この『五世界』ではそんな霊験あらたかな武具を専門に集めている組織だってあるのだよ」

「へぇ~」

 綾羽さんが言った、なんかそれもほんとに、いい組織ばっかりなのかな? なんか第六感社もそういう武器や防具を集めてそうだよな。

「この『警備局』もそんな組織の一つで―――」

 そこで綾羽さんは後ろを振り返った。

「・・・・・・」

 その長方形の箱に関することかなぁ?その長方形の箱の長さはだいたい一メートルちょっとぐらいの長さがありそう。それは初めから、俺がこの研究室に足を踏み入れたときから、この研究室の長机の上に置かれてあった箱だ。俺の視界にずっと入っていて、俺もさっきから、その箱は気にはなっていたんだけど・・・。

 しかも、その長方形の箱はご丁寧にも紫色の風呂敷に包まれてるんだ。その長方形の長持ちみたいな形の箱の中には何が入っているんだろう。まさか、ただの服が入っているとかじゃないよな?

 綾羽さんは、俺に白衣の背中を見せて、かがむようにその紫色の風呂敷に入った箱に手を伸ばしたんだ。

「これは、普段は警備局の『倉庫』に保管されているものだがね―――」

 綾羽さんは両腕で、大事そうにその紫の箱を抱えて俺に向き直ったんだ。

「こちらへ来るといい、小剱くん」

 綾羽さんは俺に、その長机まで来るように促し、促された俺もそのとおりにした。綾羽さんは俺が長机の側まで行くと、ふたたびその紫色の長い箱を丁重に、慎重に置きなおしたんだ。

「今から、封を解くよ。小剱くん」

 綾羽さんから言われた俺は、無言でそれに頷いた。

「―――――――――」

 綾羽さんが紫色の風呂敷の結び目を解くと―――

「まじか・・・!?」

 俺は思わず声に出してしまったんだ。だって紫色の風呂敷の解いた下にあったのものは、銀色の錆ひとつ付いていない金属製の鎖で巻かれた、そんな金属の箱が出てきたからだ。そして、金属製の鎖にはご丁寧にも三つの南京錠が備わっていた。

「ふむ、小剱くん。ここからが正念場だよ」

「は、はい」

 続いて長い箱を鎖す三つの金属製の南京錠を、それぞれ三種類の違う鍵で外したんだ。そうして鎖を外した。

 今は紫色の風呂敷を取り、鎖の三つの南京錠を外して、金属の箱の蓋を開けた段階。すると、その中にはさらに一回り小さな長い内箱が入っていた。

「また、箱っすか?」

 俺の言葉に、塚本さんも綾羽さんも肯く。

「―――え?」

 またその内箱が異様なもので、さらなる金属の鎖が結ばれ、今度はその鎖は内箱を十字に見えるように、結ばれていた。しかも、またご丁寧に錠まで付いている。この場景は内箱の中にある曰くつきのものを、まるで十字で封印しているように俺の目には見えたんだ。しかも、お札みたいものまで内箱に貼られてあるんだぜ。お札・・・それは神社やお寺であるような一般的なものといってもいい、でも、ただ一つ日本に普通に出回っているお札と違う点は、そのお札には『封殺』という文字が、墨のようなもので記されていたんだ。

 今の段階は、紫色の風呂敷を解き、外側の三つの南京錠の鎖と解き、内箱の十字鎖とこわい『封殺』のお札が見える状態だ。

「ここからは僕がやろう。綾羽くん」

「あ、はい。ありがとうございます、塚本特別監察官―――」

「うん」

 綾羽さんと入れ替わるように、今度は塚本さんがその内箱に手を伸ばした。そうして、俺に向かって。

「健太くん。よく見ていてほしい」

「はい」

 俺は真剣な表情の塚本さんにそう答えた。塚本さんは慣れた手つきで十字鎖のダイヤル式の錠を解き、封された十字鎖を外した。そして、内箱の蓋を外すと、その青い内装の中から出てきた『それ』は鞘に収まった一振りの刀だったんだ。一メートルぐらいの長さで、その長さの刀は太刀に分類されるものだ。

「古刀―――・・・」

 俺がこの刀を観た感じ、その刀の長さや柄の形状は昔、俺の実家の神棚に奉じていた家宝の太刀と同じくらいだと、俺はそう思う。俺が子供のときに起きた祖父ちゃんの失踪―――それと一緒にその小剱家の『家宝の刀』も一緒に消え失せた―――。たぶん祖父ちゃんが家から持ち出したんだろう。でも、あのときの親戚連中の言いぐさはとても酷かったのを覚えている。親戚のおじさんおばさん達は失踪した祖父ちゃんの悪い事ばかり言っていて、子供の頃の俺でも気分が悪くなったほどだ・・・。あの小剱流剣術一筋だった祖父ちゃんが、金なんかに目が眩むわけないだろ。きっと、祖父ちゃんは―――・・・きっと、まだ、どこかで、日本の、たとえば人里離れた山奥で、刀一筋でまだ生きているに違いない。


「―――健太くん?」

 塚本さんの俺を呼ぶ声で、ハッと我に返った。

「―――あ、はい」

 過去の思い出に耽っていて塚本さんや綾羽さんの話をあんまり聞いてなかった。そんな心ここにあらずだった俺にたぶん塚本さんは気づいているだろうな。


「この日之刀を用いて、私と塚本特別監察官にきみの『能力』を見せてほしい。やってくれるね?小剱くん」

「・・・」

 俺は、興味津々に眼をきらきらさせた綾羽さんに無言で肯いて、その鞘に納まっている古刀にその両手を伸ばした。

「この刀は―――」

 その鞘入りの一振りの刀を手に取って感じたことがある。

「―――」

 ―――それはずしりと重いことだ。あの折れてしまった模造刀『夢幻』とは比べものにならないほどの重厚さだったんだ。それはその刀の重さだけではなく、その刀から醸し出される厳かでいて、また剣呑な雰囲気と言ったらいいんだろうか。なんかそんなものを俺は感じ取れた。俺はこの刀の持ち方を変えて―――

「――――――」

 眼前で一文字に持った刀―――。身体の前まで伸ばした両腕。刀の反りの刃の部分を外側に、棟を自分に向けた状態だ。左手で鞘の紐が巻かれた部分下緒を握り、右手で鍔に近い柄を握っていた。

「――――――」

 柄の鮫肌の感触が手に馴染む。

「・・・」

 鞘の反りの形状から見て解る。これは俺が知る日本刀―――いやこちらの五世界では日之刀と呼ぶ日本刀によく似た刀―――その中でも特に業物の部類に入るだろう、この俺が一文字に持つこの刀は。

 誤って足元に抜身の刀を落としてしまえば、大惨事になってしまう。だから俺は―――

「―――」

 俺は無言で鞘を握る手に力を籠めた。それと同様に柄を握る右手の掌にも力を加える。そうして、少しずつ両腕に力を籠めて、徐々に両腕を開くように、静かに少しづつ少しづつ、鞘から抜身の刀身を抜いていく。

 その刀を縦にすれば、刀身に映るは俺の眼差し。銀色に、光を弾き返してその刀身はまるで鏡のように輝いていた。そして、刀身の刃を彩る美しい刃紋―――それを見ていて解った。この日之刀は本当に玉鋼から拵え、鋼と軟鉄を幾度となく重ね合わせ、鍛錬に鍛錬を繰り返して鍛えられた本当に業物の刀ということが、俺の目にも見て取れた。それと同時に、この刀身と刃紋をこの『眼』で見て、俺は、それが恐ろしく冷たいものに感じたんだ。

「―――」

 この刀の銘はなんというんだろう。

「・・・」

 ここまで来るのはほんとに長かった。錘使いとの戦いでアニムスを使い果たしてぶっ倒れた俺は検査を兼ねて入院させられた。その生活は俺をずっと悶々とさせていた。どうすれば強くなれるのか。どうすればみんなと同じ光景が見られるのか―――。でも、入院生活の全てがわるいことばかりじゃなかった。

 その途中、外出許可の出た俺は、春歌の実家に行けた。春歌の家族を知ることができた。一之瀬家前当主の泰然(たいぜん)さん。春歌のお父さんで一之瀬家現当主の泰一(たいいち)さん。お母さんの美鈴さん。お姉さんの夏恵さん。妹の冬音ちゃん。

 泰然さんと泰一さんは見た目は怖そうな人だったけど、話してみると優しいそうな人だだったよ? でも、剣士然としたその雰囲気は感じられたけど。

「さらばだ、『夢幻』―――ありがとう」

 模造刀夢幻を失った俺はずっと悶々としていた。でも、そんな俺にもついに転機がやってきたんだ。

 そして、この俺が両手に、一文字で持つこの日之刀こそが―――俺の新たなる『刀』―――

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