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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
39/68

第三十九話 全ての理を一切合切断ち切れ―――『夢幻』。この世界は俺が支配者だッ!!

 なら、俺も―――この錘という鈍器を使う、スキンヘッドで黒いサングラス姿のおっさんとおっぱじめますか―――!!


第三十九話


「いいだろう―――」

 俺は自分と向き合うスキンヘッドの錘使いのおっさんを注視する。よし、春歌と野添っておっさんが名乗りを上げたみたいに俺も―――

「我が名は小剱 健太。惑星(ほし)に導かれし―――え!?」

 このスキンヘッドの錘使いのおっさんってば、俺が言い終わる前に、その錘で殴り掛かってきた・・・だと?


「ッ!!」

 錘使いのおっさんの錘を持った右腕がぶぅんと唸りを上げる!! その錘は俺の脇腹を狙っての右から左の一文字の横薙ぎ―――!!

「うおッいきなりなにしやがッ―――!!」

 俺は慌ててしゃがんでその凶悪な錘の一撃を避け―――

「い゛ッ・・・!!」

 でも、錘使いの腕の動きは止まることなく、すぐに腕は、まるで『十』の字を書くように上がり、錘は上から下へと振り落とされる―――!!

「ちょっ待ッ―――!!」

 俺は、その錘が自分に直撃する前に、両手も使ってしゃかしゃかしゃかとその場を逃げる。傍にいる春歌が俺を見ていたら、さぞかしかっこ悪く見えたことだろう。ダサい、と実際に戦っていない人が、俺のことを罵りたければ罵ればいい。実際に今の俺と同じ状況だったらみんなそうなるっての!!

「ふぅ~、助かったぜぇ・・・」

 安堵の息を吐きながら、ようやっと立ち上がって、この錘使いのおっさんを観る。

「大丈夫ですか?健太」

「お、おう。なんとかなったぜ・・・」

 俺は、横目で俺の様子を観てきた春歌にそう軽い調子で答えた。

「健太。しっかりと相手のその体躯とその動き、それをしっかりと観ながら戦うのです。定連さんに鍛えてもらった貴方ならそれができると私は信じています」

 春歌のその言葉。それで俺は決心する。

「―――。解ったよ、春歌」

 俺は錘使いのおっさんの動向をよく観察する。


「―――」

「ん?」

 俺があれやこれやと思案している間に、錘使いは腰に差したままのもう一つの錘を外した。その錘も、すでに右手に持っていた錘とおんなじ形をしている。

「げ・・・二刀流かよ」

 そう、錘使いが左手に握った武器は―――もちろん二つ目の錘だ。

「ッ!!」

「そ、そんなマラカスみたいな形の鉄の塊を二つも持つなんて反則だろ、おっさん!?」

「―――」

 俺が何を喋りかけても、錘使いのおっさんはその表情をぴくりとも変えずに、何も答えることはない。

「―――くそ、完全に俺をなめてるってことかぁ?」

「―――・・・」

 観れば錘使いのおっさんは無言で、古流系の拳法の構えのように、右の錘は顔の横、左の錘は後ろに構えてる。さらに錘使いのおっさんは自身の腰を落とつつ右脚を前に、後ろに引いた左脚はいつでも俺を迎撃できるぞ、と言ってるみたいだった。


「―――・・・」

 ―――背中側では春歌と野添という剣士が斬り結び、絶えず剣戟の響く音が聴こえるんだ。野添と斬り結んでいる春歌を一瞥すれば、彼女の顔は本当に真剣で、両手で薙刀を振り回し、それに対する野添も両手で刀を握り締めていた。

 春歌は本当に生きるか死ぬかの戦いをしているんだ―――、警備局の名に賭けて。俺がもし、この場で錘使いの前に倒れてしまったら―――春歌は。


「―――・・・」

 それで俺の覚悟が決まった。定連さんも言っていた、『健太、もしお前がこのまま正式に『警備局境界警備隊』に入隊すれば危険な任務もある』と。だが、俺はそれを承知して定連さんに鍛えてもらってるんだ・・・!! 今度は絶対に、春歌に俺は庇わせない・・・!!


 今の俺には模造刀『夢幻』しかないのが、心もとないけど、きっとやれるはずだ。

「―――」

 俺は一瞬目を瞑った。

「全ての理を一切合切断ち切れ―――『夢幻』。この世界は俺が支配者だッ!!」



 眼を瞑り、俺が思い想うのは―――あのとき、初めて俺の能力が覚醒したときに夢想したのと同じ光景ではなく―――俺の国、日本でよくある『春』の美しい和風庭園だ。その情景を頭の中で思い描き、その和風庭園の中で俺と春歌で敵と戦うんだ―――。


「む・・・これは―――」

 野添は周りの街並みの光景が一変した様子に驚いて攻撃の手を止めた。そうして周りの景色とその様子を見渡しているようだった。


「美しい、これは日之国日夲の伝統的な庭園ですね―――・・・」

 春歌も薙刀を振るうのを止めて、野添と同じように周りの光景を観たんだ。

「あぁ。それに俺の中のイメージでは春歌は和装の武人なんだ。ずっとそう思ってたんだ」

「武人ですか・・・私が?」

「―――あぁ。春歌には日之国の伝統衣装・・・着物がよく似あうと思う」

「私には着物がよく似あうというのですか・・・健太は?」

 俺は春歌に肯いたあと、静かに目を瞑った。春歌は警備服より、和服を着ていたほうが絶対に似合う。彼女が着る着物の色柄は、その『春歌』という名に似合う春の桜花を基調とした優雅で鮮やかなもの。その桜色を基調とした着物のところどころに桜の花が舞う、そんな春が歌っているような艶やかでいて清楚な着物―――。春歌にはいつかは本物の着物を着て俺に見せてほしいけれど、今は俺が『夢幻』で春歌に着せた、解けば消える『仮初』の姿。

「―――」

 俺はそっと目を開く。

「―――ッ」

 春歌は、今まで自分が着ていたはずの警備服を観たんだ。ふっ春歌のやつ、驚きに絶句しているようだぜ。

「け、健太これは―――、この美しい着物を私に―――?」

「あぁ、春歌に似合うと思ってさ。でも、それは見せかけだけのただ『幻』だから、薙刀を振るっても身のこなしに変わりはないはずだ」

 と、背中合わせに近づいていって彼女にだけ聞こえる小声で囁いた。

「・・・健太・・・―――」

 春歌は神妙に応えた。

「―――」

 俺は清々しい笑みをこぼしてすぅっと春歌から数歩離れて、俺の眼前にいる錘使いを睨むように見つめた。


「・・・」


 それでも錘使いのおっさんは無表情で微動だにせず、本当にこいつは俺達と同じように血の通った人間なのだろうか、とそんなことを俺は思ってしまう。

「―――いいだろう、なら見せてやるッ。俺の覚醒した真の能力をッ!! 後悔するなよ・・・錘使いッ!!」

 俺は手にした『夢幻』を顔の前で一文字に構える。『夢幻』の刀身は銀色に輝いて俺の顔、目元を映し出す。さぁ、『夢幻』よ、この錘使いに儚き幻想を見せてやれ―――

「―――」

 竜虎相打つという故事もある。この『夢幻』という刀は『幻を魅せる刀』―――俺は『夢幻』を正眼に構え直し、最大限に、最高の『想い』を想像し、夢想する―――。

「炎刃炎龍・・・―――!!」

 俺は炎刃を夢想し、炎の刀となった『夢幻』から真っ赤な炎が迸り、その刀身から噴き出した炎が炎竜の姿となりて、俺の頭上高く飛翔する。

「雷刃雷虎・・・―――!!」

 今度は雷刃を夢想し、雷の刀となった『夢幻』から紫電が迸り、その刀身から噴き出した雷が雷虎の姿となりて、俺の周りを跳ね回る。

「錘使いよ。俺の幻獣『炎龍』『雷虎』を倒せるというなら、打ち倒してみるがいいッ―――!!」


「―――!!」

 錘使いのおっさんが頭上から自身に肉薄してくる炎龍をその右手に持った錘で左から右に思い切りぶん殴った。すると、一瞬だけ炎龍のいかつい顔が四散する。そして錘使いは続いて地面を駆けながら襲いかかった雷虎をその左手に持つ錘で凶悪なまでの上から下への振り下ろし。またしても雷虎が四散するも、炎龍と同様に再び、集まってまたその実体を取り戻す。

 二体の炎と雷の『幻獣』にそのような物理攻撃を繰り出しても無駄だ。そもそもこれは『夢幻』を媒体にして顕現させた、俺の妄想の産物であって、現実には存在していない。行使者である俺と対象者の相手にしか見えず感じずの『夢幻―ゆめまぼろし―』なんだから。


「―――・・・!?」

 俺の『幻術』の虜に陥っている錘使いのおっさんは、今自分が見ている二体の幻獣が己だけにしか見えていない幻覚とは気づかずに、二振りの錘を振り回す。でも、その行為はまるで霞を殴るようなもの。なにも知らない人が傍から見れば、おっさんが一人で二つの錘をぶんぶんと、ただの素振りをしているようにしか見えないはずだ。

「―――なぜだ」

 錘使いのおっさんが初めて話した声はまるで抑揚も感情もないような声だった。ひょっとしたら彼も第六感社の強化薬みたいなものを使っているのかもしれない。

 そして、そのまま二体の幻獣、炎龍と雷虎は錘使いのおっさんに噛みつくように跳びかかる。

「―――ッ!!」

 そう、その存在は俺とこの錘使いだけにしか見えない幻。俺が見せている夢幻の世界。でも極度の催眠下では、見ているとおりのことが現実で起こるんだ。俺が造り出せし夢幻の獣炎龍に咬まれれば現実で『火傷』する。また、雷虎に咬まれれば現実に『感電』することだろう。

「この世界は俺の世界。―――俺がこの世界の主だ―――」

 フッ、決まったぜ!! 完璧に決まってるぜ、俺。


「―――!!」

「―――終わりだぜ、錘使い。さぁ行け『炎龍『雷虎』―――!!」

 もうこのおっさんは完全に俺の幻術の虜になって『俺の世界』から抜け出せない。俺が幻術で生み出したまやかしの幻獣『炎龍』『雷虎』に焼かれて喰い殺される、そんな幻を見ているはずだ。

「ッ!!」

「幻獣に喰われて―――幻と消えろ・・・!!」

 俺は静かに呟いて模造刀『夢幻』を鞘に仕舞う。キンっと刀の鍔が発する小気味のいい金属音。決まった!!またも完璧に決まったぜ・・・!!

 俺が『夢幻』を鞘に収めると、それまでの和風庭園の風景は消え失せ、もとの夜の街の景色に戻った。

 

「―――」

 錘使いは道路の上に仰向けで倒れており、幻獣も消え失せていて、この場はシーンと静まり返っていたんだ。

「お、終わった」

 倒れて気絶した第六感社の錘使いも確認したし、あとは春歌の様子を確認するだけ―――俺は春歌に振り向き―――

 一発の銃声―――

「カハッ!!」

 あまりの衝撃に俺は膝から頽れた。俺の胸からは一筋の白い煙がすぅっと立ち昇る。たぶん警備隊の防弾衣を着ていなかったら、今頃俺の胸に風穴が開いていたはずだ。防弾衣を着ていても、かなりの衝撃があったし、結構痛かったんだ。


「健太ッ大丈夫ですかッ!?」

 その銃声を聞きつけた春歌が野添との戦いを中断して血相を変えて飛んでくる。

「あ、あぁ・・・」

 俺は、それに軽く手を上げて自分の無事を春歌に告げる。


 倒れたままの錘使いのおっさんが俺に拳銃を向けており、拳銃の銃口から煙がゆらぁっと立ち昇っていた。そして、俺達の目の前でゆらぁ~りとその巨体を左右に揺らしながら起き上がったんだ。

「―――」

 錘使いのおっさんは無言で拳銃を胸ポケットに仕舞うと、今度はベルトにつけてある革袋に左手を突っ込んで俺に見せつけるようにそれを取り出した。

「鉄球か―――?」

「―――」

 そうしてそれらを掴んだ左手を軽く上に放り投げたんだ。―――右手には一振りの錘―――。それで俺は悟ったんだ、この錘使いが何をしたいのかを。俺の傍には春歌がいる―――。

「ま、待て―――ッ!!」

 こいつマジでやばい!! 春歌が危ないッ!!

「―――散弾かッ!!」

 錘使いは左手を素早く錘まで持っていき、錘を構えて、その二本の野太い両腕、その両手に握った金属製の錘を振りかぶり、上から落ちてきた、たくさんの鉄球をカキーンっと振り抜く。

「ッ!!」

 ほんとにシャレにならない、まるで散弾銃と一緒じゃねぇか・・・!! 次は絶対に春歌に怪我なんてさせねぇから・・・!! と、俺はバッと春歌の前に躍り出て手足を広げて大の字の格好で彼女を庇う。

「け、健太ッ!!」

「ぐ・・・ッ!!」

 錘使いが錘で打ったいくつかの鉄球が俺の腹や胸に命中―――そうして俺は何歩か後ろによろめいてその場に頽折れ―――でも、背後から支えてくれた春歌のおかげで倒れることはなかったんだ。

「春歌無事だったか・・・?」

「えぇ、私は。し、しかし健太貴方は―――」

「防弾防刃衣・・・春歌に言われて着ててよかったぜ・・・」

 俺はニコッと力のないを笑みを浮かべた。


「ッ!!」

 その瞬間だったんだ。錘使いのおっさんが凶悪な二つの錘を振り上げて、体勢の崩れた俺と春歌を狙って跳びかかってくる。俺は咄嗟に両手を使ってドンっと春歌を後ろへ突き飛ばす。好きな女の子ぐらい護れなくてどうするってんだッ!!

「健太ッ!!」


 ごめんよ、春歌。乱暴に突き飛ばしたりしてさ。

「―――・・・」

 おわった・・・。こ、今度こそ終わった・・・俺死ぬ。俺は体勢の崩れたままで、かの錘使いを迎撃することは叶わず、怒りの顔で跳びかかってくる錘使いのおっさんをぼうっと眺めながら―――自分の死を―――・・・

「―――――――――」

 嫌だ、まだこんな歳で死にたくない―――


 まだやりたいこととか、やり残したこととか―――


 子供の頃、大好きだった祖父ちゃんのこととか―――


 最期に俺はもう一度祖父ちゃんに会いたかった―――


 春歌のこととか―――


 春歌に想いを告げたかったこととか―――


 俺は春歌を護れるような男になりたい―――


「ッ」

 一瞬、右手の指先が固いものに触れたんだ。

「――――――」

 これは・・・模造刀の柄頭―――

「―――祖父ちゃん。力を貸してくれ―――好きな子を・・・春歌を護りたいんだ―――」

 その刹那、俺の脳裡が白い光に塗り潰され―――

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