第三十八話 だが、断るッ。俺はお前達の行為は決して認めない―――!!
第三十八話
―――Kenta VIEW―――
「健太ッこっちに・・・!!」
「うわッ・・・ちょっ春歌・・・!!」
突然、春歌が俺の手を取り、走り出したんだ。すると貨物トラックは俺達にその標的を変えたみたいだった。春歌は俺の手を取り、走り出すけど、でも車なんかに俺達の走りは追いつけなくて、貨物トラックに先回りされて回り込まれてしまったんだ―――
「おいッなんなんだッ!?ブレーキ故障か?」
「まさか―――ッ!!」
春歌が驚いた顔を見せたのと、だいたい同じぐらいのときだった。運転席のドアががちゃっという音を立て、ゆっくりと開いたんだ―――
「春歌、トラックの運転席から人が出てきたぞ!? あ、でも運転手の人に怪我はないみたいだな。良かった良かっ―――ん?どした?春歌」
でも、なんか春歌はうれしくないみたい。
「くッ・・・」
「どうしたんだよ、春歌?そんな怖い顔をして・・・」
「健太、どうやら私達は罠に嵌められたようです・・・!!」
「わ、罠に嵌められただって・・・!?」
「えぇ・・・」
春歌の薙刀を握る左手に力が込められたのが分かった。ちなみに彼女の暖かい右手はまだ俺の右手を握っている。ふえっ春歌の柔らかい白い手―――あ、ダメダメ考えるな、健太。今は任務中なんだッ俺達は!! などと自制をする。
「そのまさかだ、警備隊の諸君」
黒服を着た強面のおっさんが一人、トラックの運転席から降りてきたんだ。なんかナイスミドルという言葉がぴったりの長身のおっさんだ。しかもその腰には見事な業物の日之刀を差していたんだ。
「貴方は何者ですか?」
「―――・・・」
すかさず春歌が答える。それと同時に俺の右手を握っていた春歌の右手がすぅっと離れていったんだ。ぬくもりが離れていってちょっと寂しく思う。
「はたして我らがその問いに答える必要があるのかね?」
強面のナイスミドルの黒服のおっさんの声は渋い声だ。
「私達、警備局は『第六感社』の下部組織が犯罪紛いの行為を市中にて行なっているとの情報を掴んでおり、末端組織の彼らを順調に検挙しています。見たところ、貴方はその大元の方のようですね」
「・・・ほう? 我らが第六感社だというのかね?」
「ええ、確証しています。ですから私達は捜査をしているのです。そうしてやっと今夜、私達は大物を釣り上げることができました」
春歌がその勝気な笑みをこぼしたんだ。
「その自信満々なところ悪いのだが、俺は貴女に用はない。我々が用のあるのは、そこにいる小剱氏だけだ」
「俺?」
俺の名前が急に出てくるなんて、むしろそれに驚いた。俺はこんな強面で黒服を着込んだおっさんなんかに用を作った覚えはないぞ。
「さぁ、小剱殿。俺と一緒に来てくれるな?」
「え?いや、俺はその・・・こわい人達とは・・・ちょっと―――ハハ」
俺は引き攣った笑みを、強面だけどイケてるおっさんに向ける。
「小剱殿、貴殿が望むものを我々は全て用意できますぞ。また給金も弾みましょう」
「俺の望むもの・・・?」
それはなんなんだろう。俺がほんとに欲しいものが、この人・・・強面のおっさんには分かるんだろうか? 俺はこんなこわそうな人に関わったこともないのに。
「はい。貴殿の望むもの。小剱殿がご執心の二次元の美少女のフィギュアやタペストリー、ゲームや小説、アニメDVD、ラジオCDなども我々が全てご用意させていただきましょう」
「マ―――マ、―――」
「ママ?健太・・・? 貴方はもしやそのような・・・」
春歌は、俺の言葉を聞くと、驚愕に目を見開いて、そのあとは口をぱくぱくとさせていた。
「ほう。小剱殿はそのような趣味があったのですね」
一方の強面のおっさんは口元を僅かに緩めた。あーっ、二人とも俺の趣味を絶対に誤解してるっー!!
「違うってば!! マ、マジでって言いそうになっただけだってばっ」
「ほう。では俺と一緒に行こう、小剱殿。我々ならイベント限定版や受注生産版まで用意できますぞ。一例を出すと―――ほら、このとおり写真をお見せしましょう」
強面のおっさんは黒服の内ポケットから電話を取り出すと、その光る液晶画面を俺に見せたんだ。その写真を見た瞬間―――
「お゛おふぅ・・・!!」
俺は呻くのがやっとで言葉なんて出せなかったんだ。それはまさすぃく―――限定版の超レア品だったんだもん!!
電話の液晶画面に表示されていた、その超レア品はどこかのオフィスビルを思わせる一室の事務机の上に置かれた状態で撮影されたと思われる写真だったんだ。しかも、着せ替え衣装ケースつきで、透明な化粧箱の中に整然と鎮座する。そう、『彼女』は限定版のとおりのビキニアーマー姿で―――
「き、きき着替えの服も・・・付いている―――だと・・・バカなッ!!」
俺は思わず一歩踏み出してしまった。それを見て黒服のおっさんがニヤリとその口角を吊り上げたんだ。
「我々と一緒に来てくだされば、『彼女』を小剱殿に差し上げましょう。もちろん無料でございますよ」
「―――ああ゛・・・それは―――まさすぃく俺がイベントで手に入れそこなった『おれの斧が異世界でホラをふきまくるんだがっ!?』に出てくる『聖剣(美少女)マリーハ』ちゃんの擬人化ビキニアーマー・マリーハちゃんフィギュアじゃねぇーか・・・バ、バカな・・・くそ!! な、なぜそんなものを・・・あんたが持ってるんだっ!!」
「ほかにもこのとおり―――ほら見てください小剱殿」
黒服のおっさんが電話を手元に戻して指で操作し、また俺にその液晶画面を見せたんだ。
「あ゛ー―――そ、それも同じく『おれおの』の『ユリアちゃん』の純白ドレス版フィギュアじゃねぇか・・・っくそ」
あぁ、そうだよ。そうさ。俺もネットで調べて知ったことなんだけど、俺がこっち日之国に来る前に発売された、完全受注生産の『純白ユリアちゃん』のフィギュアの写真だったんだ。彼女、ユリアちゃんは、作品内では、異世界に来た主人公『終夜』の斧のチート能力に助けられて二番目に仲間になる姫ヒロインだ。控えめな彼女は身体があんまり丈夫じゃないのにさぁ。いつも主人公好き好きオーラ全開で主人公のために、主人公が、『いや、居候の俺がご飯を作るよ』、って毎回言うのに、彼女ユリアちゃんはご飯、回復、ひざまくら耳かきといろいろ主人公に尽くしてるんだぜ、ユリアちゃんはよぉ。他にも、一番大人っぽいくせにちょっとおっちょこちょいの魔法使いのミラちゃんとクールな女騎士のシャインちゃんがいるんだが、俺の推しは姫ユリアちゃんだぜっ!!
「そ、そんなバ、バカな・・・なんで・・・そんなものまで・・・あんたが・・・」
俺はあまりのショックにその場で膝を付いたんだ。俺は純白ユリアちゃんを手に入れようと一生懸命に頑張ったぜ。・・・でも、でもな。もうどこにも売ってねぇんだよ!! ショップでもネットでもな・・・!! いや、一応あるんだけど、それはこの警備局境界警備隊から支払われる一か月の給金の数倍もしてるんだぜ? 異常だろ、そんな値段はよっ!! そんなに高いフィギュアを買ったあと、俺はこの日之国日夲での数か月間の生活費をどうすればいいんだよ。俺は元々ここの世界の住人じゃないんだ、『転移者』なんだ!! 貯えもなにもねぇんだッどうしろって言うんだよッ!! ちくしょう・・・。
「ッ・・・マジか。すげぇ―――」
俺は目を虚ろにして、よろよろとその場で立ちあがったんだ。
「さ、どうぞ。乗ってくれたまえ」
強面の、日之刀を腰に差したおっさんは、俺に対して右腕を出してトラックの車内を指し示す。
「―――・・・」
本当に一緒に行っていいのだろうか? 確かにこの強面のおっさんについていけば、『彼女達』を手にすることができるだろう。そしてそれ以外の『彼女達』も―――。だが、この強面のおっさんはあの『第六感社』だぞ?俺が初めて遭ったあの怪人や変な黒服達の仲間だ。このおっさんの言葉と約束を信用するに足る価値は本当にあるのだろうか。自らを針崎と名乗った男は、俺の電話をハッキングし、その中身の個人情報を俺の断りもなく勝手に吸い取った。そして、次に俺を拉致しようとした黒服集団。そいつらとなし崩し的に戦うことになった。その次は第六感社の強化薬を使う民兵達。
そして今、俺の目の前にいるこの刀のおっさんもその仲間―――そんな奴の言葉を信用してもいいんだろうか。
「―――」
いや、否―――俺は彼らを信用できない。しかも、俺は実験モルモットになるだけだろう。
「け、健太・・・」
明らかに春歌は戸惑って動揺しているみたいだった。それは俺の行動を案じているものなのかもしれない。そして俺の一番の決め手は、今のこの彼女春歌という存在だ。俺のことを心配していろいろと心を砕いてくれる俺の大切な存在だ。もう俺の心は揺るがない。
「―――だが、断るッ」
俺ははっきりとこのおっさんに言ってやったぜッ。俺は人として、彼らの裏での犯罪行為は決して認めない―――!!
「け、健太―――」
春歌の顔が今までの不安げなものから一転、ぱぁっと明るくなったんだ。
「俺はお前達、第六感社の犯罪行為は決して認めない―――!!」
「―――貴方を信じていましたよ、私は」
「フッ」
アルスみたいなクールな笑みを俺はこぼした。そうさ、俺がこの春歌の笑顔を曇らせてどうするんだ・・・!!
「我が社がアニメ制作会社に一声かければ、日之国のものならなんでも揃えられるというのに・・・いいのですか、小剱殿? 貴殿の欲しいものが手に入らなくなる、というのに―――」
「一声かければ、なんでも揃えられるだと?」
それはきっと第六感社がアニメ制作会社に圧力をかけての不正入手だろう。あんな超レアグッズなんてそんじゃそこらに出回ってもいないというのに。だから、俺はこのおっさんに言わなくてならない。オタクとしての俺の矜持をな・・・!!
「『自分の嫁』は自分の力で手に入れてこその正義だろッ。俺達オタクはそれのために汗水垂らして毎日働き稼ぐんだ。それをあんた達は会社の威力を使って制作会社から苦も無く収奪するだと? 恥を知れっ恥をッ。片腹痛いわッ!! 俺達オタクのことを勉強して出直してこいッ!!」
俺は力強く自身ありありで、人差し指をずびしっとおっさんの顔に向けた。
「―――交渉は決裂か。では小剱殿、力ずくでご同行願おうか―――!!」
黒服のおっさんの目つきが変わった。雰囲気までもが、まるで研ぎ澄まされたような太刀の刃のようになたんだ。
「ッ」
俺は反射的に自分の得物『夢幻』の柄に右手を伸ばした。春歌もその手に持っていた薙刀を鞘から抜いた。
「警備隊の諸君。日之国日夲の未来を導くのは我々『第六感社』であるということを知るといい」
「―――」
助手席からも、もう一人の全身黒ずくめの服を着込んだ、スキンヘッドのおっさんが無言で降りてきたんだ。おまけに黒いサングラスまでかけているから、その彼の目元は見えない。
「―――・・・」
この全身黒服のスキンヘッドのおっさんを見てすぐ解ったんだ。逆三角形の分厚い胸板と野太い腕は相当の鍛錬を積んでいるという証に違いない。
「―――」
それを見て俺はごくりと唾液を嚥下した。だって筋肉おっさんの黒いサングラス姿は、その・・・サングラスの下で俺を睨んでそうでめっちゃ怖いんだもん。しかもスキンヘッドだし―――もう一方の俺を誘ってきた強面のおっさんも黒服で全身黒ずくめだけど、サングラスはかけてないから、どこを見ているのか、その視線で分かる。
「―――」
だが、恐れるなよ健太。俺は自分で自分を鼓舞する。
「―――健太、状況が変わりました」
「春歌?」
俺の状況を見て春歌の意識がこちらを向いたんだ。
「見たところ、もう一人の者も相当な手練れです。私が健太を庇いながら、二人の相手をするのはとても厳しいものがあります。アルスラン達と急ぎ合流しましょう」
確かに強面のおっさんは日本刀によく似た日之刀を、もうひとりのスキンでグラサンのおっさんは腰のベルトのところに二つの錘をぶら下げていたから。
「―――そうだよな。俺も今そう思ったんだ」
とはいうものの、春歌はしっかりと、俺を庇うと言い切ったんだ。でも、そうならないように定連さんに鍛えてもらってるし、今はせめて春歌の足を引っ張るような存在にはなりたくなかったら、俺は春歌に同意した。
でも、刀のほうの強面おっさんが静かに春歌に向かって一歩を踏み出したんだ。
「貴方がた警備隊を分断させた我らがそうさせると思うかね? 貴女の相手は俺にしていただこうか」
という、刀のほうの強面のおっさんの低い声が春歌の行動を制したんだけど―――。
「あなたの言うことを聞く必要はありません―――」
そこで春歌は俺を向く。
「健太、背中合わせになりましょう」
「おうッ」
「どこに伏兵が潜んでいるか分からない今、こうすれば、健太が攫われる確率は格段に低くなります」
「―――そうだな」
春歌はやっぱり俺を護る意志満々だけど、俺だって自分の身は自分で守りたいし、それにそのもっと先―――春歌のことも俺が護りたいんだ・・・!!
甘言を使い、俺を誘惑してきた黒服のナイスミドルで強面の刀のおっさんはゆらりと自身の腰に差している得物の日之刀の柄に手をかけたのだ。
「俺の名は野添 碓水。第六感社諜報部に所属している」
「私は一之瀬 春歌と言います。警備局境界警備隊の隊長をやっております」
彼女春歌は一礼をしたあと、いつも携えている薙刀を構えてその鋩を、自らを野添 碓水と名乗った男=ナイスミドルの強面のおっさんに差し向けたのだ。
「貴女があの一之瀬家のご令嬢でしたか―――。降参するなら受け付けよう、警備局の美しい女性隊長殿」
「それはできない相談というものです」
「そうか、それは残念だ」
野添 碓水という男は鞘から日之刀を抜き、それを春歌に向かって上段に構えたんだ。
「いくぞ―――」
野添 碓水はダンッと地面を蹴って春歌に斬りかかる。
「せいッ!!」
その鋒刃を、春歌は手にした薙刀を揮っていなす。
「ッ!!」
春歌の気合いの入った『せいッ』という掛け声が聴こえ、その直後、ふたたび俺の背中側で刃同士が互いに鎬を削った激しい金属音が聴こえた。
「むッ・・・なかなかやりますな。さすがはあの泰然殿の御息女ですな」
「・・・私の祖父一之瀬 泰然をご存知なのですね・・・」
春歌の声は厳しく、でも鋭い視線で目の前の黒服の剣士を見つめていた。
「これは、失敬。貴女は泰然殿の御令孫でありましたか」
「―――」
「―――」
春歌と野添は互いの得物を相手にを向けながら、睨み合っているみたいだ。
「―――・・・」
そうか、春歌の祖父さんの名前は一之瀬 泰然というのか・・・。春歌と背中を合わせているから、今の春歌の様子が背中越しで分かる。今や、春歌と野添 碓水というおっさんは互いにじりじりとその期を窺っていることだろう。
なら、俺も―――この錘という鈍器を使う、スキンヘッドで黒いサングラス姿のおっさんとおっぱじめますか―――!!




