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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
37/68

第三十七話 対凶賊征圧戦

第三十七話


 十五人の手勢を引き連れて、オレとナルの前に姿を現した名も知らぬ賊の男―――。

「貴公は、そのような訓練も受けていないような雑兵どもをけしかけて、オレ達の相手になるとでも思っているのか?」

 オレは逆に眉間に皺を寄せて、睨み付けてくる賊の頭目の男に問うてみたのだ。

「うん、アルスの言うとおり」

「―――あぁん? 舐めてんのかてめぇら?」

「こいつらを無傷で捕まえるのは、難しそうだから仕方ないよね、アルス?」

 ナルは本当に自然体で男達に近づいていくが、その両腕には蒼白い小さな稲妻がところどころに這うように走り回っているのだ。

「ナルよ、鍛錬の成果を試したいのだ」

「うん? どういうことアルス?」

 その途中でナルが首をかしげながら、オレに振り返ったのだ。

「ナルよ、オレの傍に近こうよれ。離れるでないぞ」

「―――・・・う、うん」

 ナルはおっかなびっくりという表現が近いのか、おずおずとオレの傍まで戻って来たのだ。

「ナル―――」

 オレはそのようなナルの耳元に口を近づけ囁くのだ。

「アルス、こそばい・・・」

 敵に聞かれないように、オレはナルの耳元で、小声でこそこそと囁いた。

「―――うん。分かった、アルス」

 オレ達がばらばらで散開しながら、一人一人敵を撃破していくのではなく、それはオレ達二人で連携を取る戦法なのだ。

「征くぞ」

 オレが鞘から警備刀を抜いても、賊達は全くもって怯む様子を見せなかったのだ。


「―――」

 オレは無言で警備刀を構えた。

「『雷少女(ブリッツガール)』・・・」

 一方のナルはオレのすぐ右に佇み、彼女ナルは右腕を水平に出して構え―――もう一方の左手を顔の前に出して手の平で自身の顔半分だけ覆うのだ。それはケンタの日常の仕草でもある。その仕草はなにかの願掛けの一種だと思えるのだが―――オレもその願掛けの仕草を行なったほうがよいのだろうか?

「奈留たんの秘奥義―――」

 ナルの、水平に構えられた右腕にバチバチと細かい紫電が走っていくのを見ると、故国の草原でよく見た雲の中を走る雷を思い出す。オレ達、草原の民にとって雷とは、天神(テングリ)が成せる奇蹟であり、また天より見舞う罰なのだ。だからオレ達は雷を畏怖し、崇敬するのだ。その天神が行なう奇蹟をこの少女ナルは、自らの身で行なうのだ。

「―――薙雷(ていらい)

 ナルは紫電迸るその右腕を振りかぶり、オレもまた構えた警備刀に氣を籠めたのだ。

「―――!!」

 そしてオレは気合いを入れて警備刀を勢いよく斬り上げ、その斬撃に沿うように氣の斬撃を解き放つ・・・!!

「「―――『大いなる雷撃』」」

 オレとナルの声が重なり合い、オレの氣の斬撃はナルの雷撃を巻き込みながら、空中で一体化していく。

 そうして、その雷を纏った氣の斬撃が―――集まっていた敵の賊どもに雷鳴を轟かしながら直撃する―――!! ナルの雷撃は近距離多数攻撃であり、また銃撃は彼女にとっての遠距離攻撃だが、多人数を同時に攻撃するのには、たくさんの引き金を引かなくてはならない。だが、オレの氣の斬撃と組み合わせると、そこが上手くいくのだ。


「「「「「―――!!」」」」」」


 きっと敵の雑兵どもはその『大いなる雷撃』の威力を知らなかったのだ。閃光と雷鳴が収まるのとほぼ同時に―――五人の敵賊が崩れ落ちるところだった。少し離れた所にいたであろう敵賊三人もこの雷撃を喰らったらしく、しばらくふらついたあと倒れるように地に崩れ落ちたのだ。残る数人の賊は恐れおののき、腰を抜かして地面に尻餅をついていた。


「―――」

 天神の奇蹟たる雷を操ることができる少女ナル―――。このときオレは彼女を手放したくないと思ってしまったのだ。


「きえぇええええいッブーストアタック!!」

 そこへ賊の男一人が鉄棒を振りかざして跳びかかってきたのだ。

「ッ!!」

 ナルもその奇声を発する男を認める。そしてそれはオレの出番でもある。

「そのためにオレがいる」

「アルス・・・!!」


 オレはその鉄棒を持った敵賊の攻撃を右手で握った警備刀で受け止めたのだ。警備刀と鉄棒が斬り結んだ瞬間に火花が散る。

「ぶもッ僕の必殺技が受け止められッ・・・!!」

 賊兵の驚きの声、眼を見開く姿が、斬り結んださきに見えたのだ。


「これが必殺・・・だと? これはただの殴打ではないのか?」

 オレはそのまま氣を籠めて弾き返すように思い切り警備刀を薙ぎ払う―――!!

「ぶもッ!!」

 賊兵の男の顔がオレの視界から滑るように遠くに消えていったのだ。


「うごぉッ!!」

「ぐわッ!!」

「ぐえッ!!」

 オレの一撃で弾き飛ばされた賊の男は自身の仲間数人を巻き込みながら・・・もっともオレが残りの賊が集結していたところを狙って吹き飛ばしたのだが・・・彼らは道の反対側の白い柵ガードレールというもの、まで吹き飛ばされて地面に折り重なるように倒れて戦意を喪失したのだ。


「うるぅああああッ!!」

「うぱぁあああッ!!」


「ふむ・・・」

 賊の奇声が聞こえてきたのでそちらを見れば、オレ達に対して跳びかかってくる一人の賊の掌には火球が点り、もう一人の賊はその手に淡く輝く短刀を握っていたのだ。


「アルス・・・いい?」

「うむ、いつでもよいぞ」

 そこでオレ達は互いに頷き、オレは刀を振りかぶる。一方のナルは少し離れて右腕を差し出して構える。オレの警備刀の鋩も、ナルの指先も、跳びかかってくる賊兵二人に向けて構えられていたのだ。

「「雷光刃―――!!」」

 振りかぶって警備刀を袈裟がけに切り裂いてそれに沿って氣の斬撃を放つ・・・!! オレの氣の斬撃はナルの放った雷撃を巻き込みながら双方一体化して―――それが跳びかかってきていた賊どもを盛大に打ち据えたのだった。


・・・・・・・・・


「・・・終わったな」

「うん。終わった」

「じゅ、十五人の手下達が全滅だと!? バ、バカなッ!! なんなんだッなんなんだッその能力はッ!! なんなんだッお前らはッ!? こんなの聞いてねぇぞッ!!」

 賊の頭目は、オレとナルの征圧戦に恐れ慄いて、激しく動揺しながら一歩、また一歩と後ろへと退いたのだ。

「観念するのだな、名も知らぬ賊の頭目よ」

 オレは右手に握った警備刀の、その鋩を賊の頭目に向けたのだ。無論、声にはどすを利かせてある。軽く控えめに言っては、この者は言うことを聞かない者であるとオレは思ったのだ。

「ヒ!! ヒィッ!!」

 賊の頭目は腰を抜かし、その場に尻もちを付く。

「戦意喪失でよいか?」

 オレは懐から手錠を取り出すと、一歩一歩と賊の頭目に近づいていく。

「アルス」

「うむ、判っているよ」

「・・・ッ!!」

 その刹那、賊の頭目は自身の間合に入ってきたオレを見過ごすわけはなく、懐に手を入れてその『得物』を取り出したのだ。

「バーカッ・・・死ね」

 その見事なまでの滑らかな銀の曲線はまるで三日月のようだったのだ。


「なんだ、その動きは」

 だが、その短刀の斬道を見切っていたオレは、さも当然のように、その弧を描く短刀を最低限の動作で後ろに飛び跳ね、その銀の弧の動きを苦もなく躱すのだ。

「――――――」

 足元を短刀の銀弧が通り過ぎ、短刀の鋩と刃先は本当にオレの脛、僅か一寸程度しか離れていなかった。

「チッ避けやがったか・・・」

 賊の頭目は尻もちを付いていた体勢から素早く立ち上がり、オレと戦うという体勢に入ったのだ。

 その一方でナルはオレの体術・・・といえるほどでもないが、オレが賊の頭目の短刀を避けたその動きに感心している様子だったのだ。

「アルスすごい・・・!!」

「降伏すると見せかけておいての不意打ちとは感心しないな、賊の頭目よ」

「バカかお前は!? んなもんなんでもありに決まってんだろうがッ 不意打ち奇襲。攻撃こそ最大の防御だろうがッ!!」


「・・・そうか・・・、そうだったな。すまなかった、すっかり忘れていたよ―――」

 確かにそれも兵法の一つではある。

「さきほどの短刀を横薙ぎに振った貴公の短刀捌きに無駄な動きはなかった。なかなか見事な三日月の如き銀弧の動きであったぞ。オレがいまだにその地位に就いていたとしたら、褒美を遣わすところだ」

「ケッなんなんだてめぇはッその上から目線のすかした言いぐさは、よッ・・・!!」

「貴公はお気に召さなかったようではあるがな」

「―――!!」

 オレの言葉に男は怒りを覚えたようで再びその短刀を構えたのだ。この賊の頭目の言動に少なからずの憤りを覚えていたオレは、この者に対して皮肉として言っただけだ。実際にこのような賊に褒美を取らすことなどない。


「アルス、向こうから健太と春歌の声するよ。なんか苦戦してそう・・・」

 うむ。先ほどからケンタとハルカの声の他にも刃どうしがぶつかり合う、激しい戦いの音も聞こえてきていたのだ。だが、戦いの音は止まってはいない。故にまだ二人は善戦しているに違いないと、オレはそう思うのだ。

「そうだな。だがオレにはあの二人が敗けるところは想像できないがな」

 オレは男から視線を外さずにナルに答えたのだ。

「うん、私もそう思う。二人は敗けない」


「ハハハハ!!」

「「ッ」」

 賊の頭目の高笑いで再び男を注視する。


「おめでたい奴らだなッ!! お前らの片割れと殺りあってるのはな、俺みたいな『傭兵』じゃねぇよ。正式な第六感社の諜報員だぜ? あいつら今頃マジで仲良く死んでんじゃねぇの?」

「「ッ!!」」

 やはり、首謀者はあの結社であるか。

「一般人じゃぁ企業の傭兵にすらなれねぇわな。そういう俺も能力者なんだけどよぅ、俺がなんの能力者か、お前らに分かるかぁ?」

 男が短刀の峰をベロリと舐めたのだ。なんて下品なおこないよ。

「ルメリア兵より趣味が悪いな」

「趣味が悪いだと? 銀髪のエゲツねぇ電撃とあんたの飛ぶ斬撃よりはマシだっつうの・・・ガリッんぐ・・・」

 その間に賊の頭目の男は、懐から小瓶を取り出し蓋を回して開けると、手の平に何錠か転がしたのだ。それを口に放り込んで、その錠剤を噛み砕いて、ごくりと唾液と共に嚥下する。

「そういえば、あんたら俺をナメきってるよなぁ? ハッ寝言は寝て言え―――底上げされた俺の能力は不可視の斬撃―――そう最強の攻撃能力だッ!!」

 賊の頭目が右手で短刀を握り、何もない空間に翳したのだ。そうしてそのまま銀色の三日月のような弧の形にその短剣を斜めに振り抜いた。

「ッ!!」

 とっさに『何か』・・・殺気とでもいえばよいのか。ともかくオレはそのような気配を感じたのだ。その妙な気配を感じ取ったオレはとっさに右に跳ぶ。しかし、・・・全てを躱しきるのには少し無理があったようだ。

「痛ぅ・・・」

 オレは賊の頭目の男が放った不可視の斬撃を全て避けきれなかったのだ。賊の頭目に、僅かに左腕を不可視の斬撃に斬られたのだ。命中はしなかったものの、その鋭い痛みが左腕に走ったときにはすぅっと紅い染みが、左上腕の警備服に拡がった。

「ッ」

 オレは右手で肩口を押さえた。だが、傷は浅い。

「・・・ッチ、外したか!! 勘のいいやつだぜ・・・!! ペッ!!」

「・・・」

 賊の頭目は唾液とともにその怨嗟をはらんだ言葉を吐き出したのだ。

「アルス・・・!!」

 ナルがオレの傍に駆け寄ってくる。

「大丈夫だナル。ちょっと掠っただけだ」

 そのように慌てたナルを制して一歩前で進み出た。

「でも・・・!!」

「大丈夫だ、オレの言うことを信じてくれ」

「う・・・うん・・・」

「この程度の切り傷など、ニコラウスの斬撃に比べれば、蚊のようなものだよ」

 そうあのときのニコラウスとの戦いでできた傷はこんなものではなかった。彼奴ニコラウスの大岩をも割るような戦斧の斬撃に比べれば、この賊の頭目の斬撃は蚊膨れのようなものだ。

「あれに比べればな・・・」

「アルス・・・」

 ナルが心配そうにオレを見てくれる。あのニコラウスと戦ったときはオレ独りだったのだ。仲間は全て殺されて誰もいなかったのだ。だが今は・・・。オレはナルを見たのだ。

「アルス?」

 ナルはかわいく首を傾げたのだ。


「俺の攻撃がカみたいだと・・・?強がってんじゃねぇよッ!? そらそらそらッ!!」

「―――フ」

 男の短剣の斬道を読み、それを最低限の動きで避けていく。

「そらァッ!!」

「・・・っつ」

 今の彼奴の動きは単調で、大振りで、なおかつ無駄な動きも多いが、やっかいなものが一つだけある。彼奴は通常の振りかぶりに混ぜて飛ぶ刃を飛ばしてくることだ。

「ちょろちょろしてんじゃねぇッ!!」

 だが、彼奴の戦いの技法は全くの素人だ。剣技、体捌きというものが全くなっていないのだ。

「ッ!!」

 来るッそう思ったオレは後ろに跳びのき『五歩以上』の距離を開けたのだ。


「くそッ!!」

 彼奴の弱点はもう解った。彼奴が放つの不可視の斬撃の範囲・・・いわゆる間合いは距離にして五歩だ。不可視の刃はそれ以上の距離を飛ばせないのだろう。はっきりと言おう。ハルカの能力と同じ系統だとしても、彼奴の能力は全てにおいて彼女のそれより数段劣るのだ。彼奴はオレが警備刀を抜けばそこで終わる。

「ケリをつけさせてもらう」

 オレが警備刀の鋩を男に向けた、そのときだったのだ。身体を動かしたせいで彼奴の不可視の斬撃によって斬られた左腕の傷から血が伝い、ポタポタと地面に数滴落ちていき、丸い染みをいくつか作ったのだ。

「アルス血が・・・!!」

「うむ」

「腕を貸して。ちょっと我慢して」

 駆け寄ってきたナルがオレの左腕を取ったのだ。

「・・・んく」

 小さな痛みが左腕に走った。ナルは自身の白い小さな手ぬぐいでオレの肩をきつく縛ってくれたのだ。

「・・・できた。でも、もうこれ以上動いたらダメだよアルス。代わりに私がこいつを仕留めるから」

「ナルよ―――」

「ううん」

 今度はナルがオレの言葉を制する。ナルの眼が、自身の意志の固さをオレに無言で述べていた。こうなったときのナルは梃子でも動かぬのだ。

「ふむ。ナルよ、では任せたぞ」

「うん。・・・それよりも我慢ならないことが一つあるの、アルス」

「ほう?」

 そして、すぅっとナルの温もりが離れていく。一歩後ろへ下がるナル。

「すぐに終わらせるから」

「ナルよ?」

 そうして彼女は半歩右に。先ほどからナルは賊の頭目との距離を測るように、一歩に後ろに下がり、それから半歩右にその足を移したのだ。


「やれやれお前らめんどくさいわ。俺もあいつらのほうが良かったぜ。兵隊はお前らにやられちまうし、強化薬も全部使っちまうし、弱そうなあっちの二人のほうが―――」

 一人で毒づくのは賊の頭目の男だ。

「お前は知らないだけ。向こうで戦っている彼女は犯罪組織では有名人。融通も利かず堅物で、規則規則と口うるさく垂れ流し、粛々と法に則って公務を執行する。ねぇ知らないの?『薙刀女』って?」

「な、なにッまさか・・・!?」

 賊の頭目は激しく動揺する。

「うん。お前が自分で『あいつらのほうが良かった』と言った彼女のこと」

「―――!!」

 ナルの言葉を聞いた賊の頭目の眼が驚愕に見開かれたのだ。

「でも今はそんなことはいい。そんな些細なことより、お前の所為でアルスが怪我をした。腕に傷が残ったらどうするつもりだったの?」

「はぁ?んなこと知らねぇよ―――」

「あぁそっか、そんなことを言うんなら、お前を蜂の巣にする。刀が得物のアルスの左腕を傷つけたのは―――私が絶対赦さない」

 ナルが懐から黒い短筒を取り出して男に銃口を向ける。その途端に男の表情が一気に蒼褪め、余裕のないものに変わった。すなわち、その黒い短筒とは、警備銃ではなくナルの母親アイリが使っていた『本物』の短筒だ。

「じゅ、銃だと!?」


「ナル・・・」

 彼女はオレのことでそこまで怒ってくれるのか・・・。


「あ、や、やめてくれ―――」

「『やめてくれ』? ほんとはお前を生かして捕まえる必要はない」

 ナルが持つ黒い短筒の引き金に人差し指がかかり、徐々に曳かれていく。このような性質の者は『自分が優位に立っている』と思っているときの態度は尊大で、だが一度、相手が自分より強いと解ると、途端に手の平を返したように態度を変えるのだ。

「や、やめろ・・・!! やめてくれッ!! 言うッ!! 言うからッなんでも話すから殺さないでくれッ!! あ、あんたも怪我させて悪かったな。そ、そうだ、あんたからもなんとか言ってくれッ頼む殺されるッ」


「ナルよ。不幸な事故はいつでも起きるのだ」

 オレは当然のことながら、ナルが本気で賊の頭目を殺そうとしているのではないことは解っている。だが、オレは敢えて言ったのだ。彼は先ほどの前科がある、油断などどうできようか。


「ヒッ!! ゆ、ゆゆゆ許してくれッ・・・!!」

 オレからの言葉に希望がなかったことを悟り、賊の頭目の顔はさらに顔面蒼白となっていく。


「―――そういうこと」

 ―――その殺気はオレに向けられたものではない。オレはナルのその冷たい表情に畏怖を覚えると同時に、しかし、なぜかその顔を見てみたいという、そのようなことを思ってしまったのだ。

「バイバイ―――」

 逃げようと身を捩りかけた賊の頭目にナルは躊躇うことなく引き金を引いたのだ。

「ヒ!! ヒィッ!!」

 しかし、その弾丸は賊に直接当たることなく―――地面で跳ね返り見事に賊の短刀を弾き飛ばしたのだ。そしてナルがふたたび引き金を引き、撃った二発目の弾は賊の頭目の頬を掠める。

「―――――――――」

 賊の頭目は、弾が身体に当たっていないのにも関わらず失禁し、崩れ落ちて気を失ったのだ。

「逮捕」

 ナルが賊の頭目の腕に銀の手錠をかける。

「ナルよ、その射撃の腕は見事なものだ」

「ありがとうアルス」

「うむ。その黒い短筒はナルととても似合っておるぞ」

「にへぇ・・・ありがと、アルス」

 さきほどとまるで違うかわいいナルの顔。オレはゾクッとしたナルにも少しの魅力を感じたのだが、やっぱり彼女は笑っていたほうがかわいいのだ。

「持って来ておいてよかった、ありがとうお母さん。・・・それにお父さんも」

 ナルは愛おしそうにその黒い銃を綺麗な布で拭いて懐に仕舞ったのだった。

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