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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
36/68

第三十六話 刺客現る

第三十六話


―――Kenta VIEW―――


「ふんふんふん♪」

 妖刀さん♪まだかなまだかなぁ♪、と混成隊での夜警の最中に俺は、隊列から出てくねくねと踊ってみた。俺が綾羽さんに名刀貸与のことを話してからもう一週間以上経ったぜ!! 定連さんにも鍛えてもらってるし、俺の能力も覚醒したし、早く名刀を使ってみたいなぁ♪ それにまたフィーネさんに逢うこともできたし、うれしいぜぇ♪。俺は―――しあわせだなぁ♪。

「ルンルンルンルン~♪くねくねくね」

「―――くねくね健太、イモムシでも飼ってるの?」

 奈留たんってば、そんな白けた視線を俺に向けてこられても困っちゃうぜ。俺はくねくねと踊るのを止め、そんな、イモムシでも飼ってるの?って訊いてきた奈留を見る。

「イモムシって、あの幼虫のこと? この日之国でもイモムシっているのか?マジで!?」

「いるに決まってるよ?」

 奈留は腰を曲げて、地面に落ちている何かを拾う仕草を俺にしてみせたよ? 地面にいるイモムシを捕まえる仕草かも。

「イモムシかわいい?ケンタ。ルンルンルンルン~♪くねくねくねって言ってたよね?」

「ってそれは違うのッ、俺は、イモムシは飼ってないってば」

 奈留ってば、マジで俺がイモムシを飼っているとでも思ってんのかなぁ? 俺が元々居た日本でもイモムシを飼っている人は中々いないって・・・。あ、でもカイコはイモムシかも。アルスも俺達の会話に加わってくる。

「いや、ナルよ。今の日之国では飢饉は起こっていないはずだ。今はイモムシを飼わなくていいはずだ」

「・・・・・・」

 いやいや、そのアルスが言った、イモムシを飼わなくていいはずだ、はイモムシをどうするつもりなんだろう・・・。まさか、食うのかな?

「健太のこと、じゃあ道端で萌える薄い本でも拾った・・・とか?」

「だからそれも違うってばッ!!欲しいけどさッ!!」

「じゃ、なんで健太は最近そんなにも毎日嬉しそうなの?」

「よくぞ、訊いてくれたぜ―――ッ」

「健太―――」

「・・・春歌?」

 一番、先頭を歩く春歌が俺を呼んだんだ。それから春歌は立ち止まり、振り返ってこわそうな表情で俺を見つめた。


「アルス、こっち―――」

「―――?」


「ちょッ!!」

 春歌が怒っていることに気が付いた奈留たんがアルスの手を取り、後ろのほうへすすっと。つまり俺から距離を取ったんだよぉー。俺だけ春歌に怒られろってか!? ま、でも春歌にだったら俺怒られてもいいか♪

「!!」

 その考えに至り―――俺は気が付いた。もう、俺ってばどこまで春歌にメロメロなんだよって。


「健太、最近の貴方は少々浮かれすぎです。今は混成隊の夜警の最中なのです。しっかりと緊張感を持って夜警公務に当たってください、以上です」

「す、すまん、春歌」

 春歌の表情と雰囲気が迫力満点過ぎて、俺はばつが悪そうに謝った。

「では、夜警公務を続けましょう」

 ふぅっと春歌の表情が柔らかくなったんだ。

「あ、うん、ごめん。あぁ・・・」

 人通りが少ない夜とはいえ、こんな街中で春歌にくどくどとお説教なんてもらって、春歌が俺を気にかけてくれてることが、こんなにもうれしいだなんてさ。それにあの柔らかい春歌の表情もいい。なんか・・・安心する。

「―――」

 俺は静かに春歌の後ろについていく。後ろは奈留とアルスだ。前を見れば、後ろになってる春歌の長い黒髪が見える。

「―――」

 その春歌のポニーテールが、彼女の歩みで上下左右に揺れている。

「ッ」

 ―――くそ、我慢するんだ俺。あのゆらゆら揺れる春歌のポニーテールに猫パンチをしてみたいのを・・・!! たぶん俺が猫パンチをした瞬間に、春歌は敵襲かと思ってその、すらっとした綺麗なおみ足から繰り出す後ろ回し蹴りか、それともその右手に持つ薙刀がとんでくる・・・はずだ―――!!

 俺我慢できない→猫パンチ→後ろ回し蹴り/薙刀→俺→死ぬ。きっとこの図式になるに違いない。だが、しかし―――俺はあの華麗な脚から繰り出される春歌の後ろ回し蹴りを見てみたいぞ―――!!

「ッ!!」

 やっべッ!! とっさに俺はビクッとしてしまった。なぜかって?それは、春歌が急に立ち止まったからだ。ま、まさか―――春歌のやつ俺のこの煩悩に気がついた、というのか・・・? 俺が眼前の春歌の黒髪ポニーテールを凝視していなかったら、たぶんつんのめって春歌の背中に後ろからぶつかっていたに違いない。

「健太?」

「ッな、なんでありますかッ春歌隊長!!」

 あっぶねぇ、春歌にバレてるのかと思ったぜ・・・ふぅ。

「健太、どうしたのですか? その慌てようは」

「な、なんでもありませんッ春歌隊長!!」

 俺は春歌にビシッと右手四本を出して敬礼をしたんだ。

「は、はぁ? そういえば、アルスランと奈留さんの気配がしませんが―――」

 春歌は戸惑いつつもゆっくりと後ろにいる俺に振り返ったんだ。

「え?」

 春歌に指摘されて俺も後ろを振り返ったんだ。でもそこにはアルスと奈留の姿がいなくなってて―――いや、でも少し離れた場所に、二人して地面にしゃがんでいた。

「あれじゃねぇか?あいつらあんなとこでなにやってんだ?」

 そのとき、奈留が立ち上がると、右手で俺達を手招きした。

「なにか見つけたようですね、行きましょう健太」

「お、おう」

「なにか発見したのですか―――!!」

「うわ、あっぶねぇなぁ、あのトラック。スピード出しすぎ―――えっ!? 春歌こっちに向かってきてねぇか!?あのトラックッ」

「健太ッこっちに・・・!!」

「うわッ・・・ちょっ春歌・・・!!」

 突然、春歌が俺の手を取り、走り出したんだ。すると貨物トラックは俺達にその標的を変えたみたいだった。春歌は俺の手を取り、走り出すけど、でも車なんかに俺達の走りなんて遅すぎて、貨物トラックに先回りされて回り込まれてしまったんだ―――


「な、なんだんだッ!?ブレーキ故障か?」

「まさか―――ッ!!」

 春歌が驚いた顔を見せたのと、だいたい同時ぐらいに運転席のドアが開いたんだ―――

「春歌、トラックの運転席から人が出てきたぞ!? あ、でも運転手の人に怪我はないみたいだな。良かった良かっ―――ん?どした?春歌」

「くッ・・・」

「どうしたんだよ、春歌?そんな怖い顔をして・・・」

「健太、どうやら私達は罠に嵌められたようです・・・!!」

「わ、罠・・・だと・・・!!」

 春歌の薙刀を握る左手に力が込められたのが分かった。ちなみに彼女の暖かい右手はまだ俺の右手を握っている。ふえっ春歌の柔らかい白い手―――あ、ダメダメ考えるな、健太。今は任務中なんだッ俺達は!! などと自制を。


「そのまさかだ、警備隊の諸君」

 黒服を着た強面のおっさんが一人、トラックの運転席から降りてきたんだ。ナイスミドルという言葉がぴったりの長身のおっさんだ。しかもその腰には見事な業物の日之刀を差していたんだ。


―――Arslan VIEW―――


 それはケンタがハルカに、浮かれすぎです、と忠告を受けてから、しばし経ったのときことだったのだ。

「ッつ!?」

 一番後方を歩く俺の後頭部に何かが当たったのだ。

「・・・いったい・・・?」

 オレは立ち止まって後ろを振り返り、左右をきょろきょろと観てみるが、なにもないし、誰もいなかったのだ。

「立ち止まってどうかしたの、アルス?」

 そのようなオレに気が付いたナルはオレに振り返り、その歩みを止めたのだ。

「・・・うむ、先ほど何かがオレの頭に当たったのだ」

「え? アルス大丈夫? 痛くない?」

「うむ、特に痛いという感じではなく、まるで匂い袋のように、頭に当たって落ちたときパサっと音がしたのだ」

「―――」

 ナルは懐から灯りを取り出すと、地面を照らし始めたのだ。

「―――」

 その様子を観たオレも、夜警の装備の一つである懐中電灯という棒状の灯火を取り出したのだった。この灯火、懐中電灯という明かりは本当に不思議な代物で、灯火のくせに触れても翳しても、熱を感じることはないのだ。

 オレは先ほど自分に何かが当たった付近まで戻ると、明かりが照らしだす道を、夜目を利かせながら、ぱさっといった物の正体を探った。すると―――

「ナル」

「なにか、見つけたの?アルス」

 数歩程度の距離を開けて、探し物を求めていたナルはオレの元へととことこと歩いてきたのだ。

 俺は手の平に包められるほどの大きさの落し物を拾う。それは布袋?のようなものだったのだ。手に取れば、その布袋の中にさらに小瓶のようなものが入っていることが判ったのだ。

「―――」

 オレは耳元でその布袋を開けずに、上下に軽く振ったのだ。すると、布袋の中からシャカシャカという砂もしくは小さな小石のようなものが入っているような音がしたのだ。

「しかし、人の落し物を勝手に開けては・・・」

 だが臭うな、これは。胡散臭い臭いがプンプンする。

「・・・アルス、なにを拾ったの?」

 オレは近づいてきたナルににさっきの拾った小さな布の袋を見せた。

「これは・・・? 貸して、アルス」

 オレから布袋を受け取ったナルは布袋の結び口を解いたのだ。

「「―――」」

 すると、小袋を逆さにしたナルの手の平にころころと玻璃製の小瓶が一本転がり出てきたのだ。

「これは―――」

 その小瓶の中には白い飴のようなものが詰まっていたのだ。ナルは立ち上がってその先でオレ達を待っているであろう、ハルカとケンタに手を上げたのだ。


「「ッ!!」」

 しかし、それは突然のことだったのだ。大きな鉄の車が、曲がり角から突然出てきたのだ。その鉄の車はオレとナルには目もくれず、オレ達の前に二人しているハルカとケンタを目がけて、物凄い速度で迫っていったのだ。危険を感じ取ったハルカがケンタの手を取り、オレ達と真逆の方へと走り出すのが見えた。


「これは・・・!!」

「うん、アルス。私達―――分断された・・・!!」

「見事な陽動作戦だろ? くくくく・・・アハッハッハッ!!」

「「・・・ッ!!」」

 オレ達の背中側からバカでかい愉悦をはらんだ笑い声が聞こえてきたのだ。オレとナルはハッとしてその者に振り向いたのだ。このようなときほど冷静にならなければ、勝ち目は薄くなるというものだ。

「なぁ?お前ら警備隊の割にバカだな」

「バカ?バカはそっち。こんな証拠を残すなんて」

 ナルは先ほど拾ったその小瓶を懐の中に仕舞ったのだ。

「はぁ? それはただの塩飴だよ、バーカッ」

「あ、そう。じゃあすぐに小瓶についた残留アニムスと遺伝情報を調べればいいこと」


「てめぇ―――いいぜ、すぐに取り返してやるよッ」

 男は憎らしげに顔を歪めたのだ。男は自身の懐から小さな玻璃の瓶を取り出し、その蓋を開けるとそれを何粒かを手の平に出した。そうして、その飴のような丸薬を口の中に放り込んだのだ。

「んぐんぐ・・・ガリ、ボリボリ・・・」

 そうしてその小さな飴のような丸薬を、さもまるでオレ達に見せびらかすように噛み砕く。

「ぷはぁ、マズッ」

「その錠剤はなに?」

 ナルはそれを見て、眉を細めて男に訊いた。

「この錠剤はよぉ、一時的に能力を向上させる薬さ・・・ほんとはこの薬の正体を知ってんだろ、警備屋さん? 俺達の仲間をいたるとこで捕まえまくってたもんなぁ、このお役所税金泥棒がよ」


「・・・・・・」

 この者の育ちの悪さにオレはうんざりするよ。


「くくく、それにこの強化薬が効いてる間は痛みも恐怖も感じねぇんだ。クククク・・・ハハハハハッそうさ俺は・・・俺は無敵になれるのさ・・・!!」


「明らかに違法薬物―――侑那が言ってたとおり、こいつが食った錠剤を使えば、一時的に能力を向上するんだと思う。でも、その代償に使えば使うほど精神が壊れていく・・・そして行き着く先は廃人そして死人。以前、侑那も言ってたでしょ?定連が捕まえた少年の話」

「うむ、覚えているよ。その者は死んだのだったな」

「・・・うん」

 ナルはオレを見て静かに肯いたのだ。


 丸薬を飲み込み、その雰囲気が変貌しつつあるその男の狂気と愉悦をはらんだ視線がオレを捉えたのだ。

「この強化薬は確かに身体に負担をかける、でもよ、それよりも見返りがすげぇんだよ。なによりこの自分の能力が高まる、その高揚感がたまらねぇ。―――どうだ、あんたらもこの強化薬欲しくねぇか? ククク・・・やみつきになるほどにいいんだぜ・・・ククク」

 男がくつくつと笑う。だが、オレはそのようなことは認めぬ。

「愚か者め。どれだけ能力が強まろうが、夢見心地となろうが、そのような毒薬を摂ってはならないのだ。そのような毒薬は国を滅ぼすものだ。少なくともオレの国では、そのような毒薬を流布すれば、その者の死罪は免れないぞ」

 オレの強い口調の忠告に男の表情が歪む。

「あぁん?」

 そのときナルが半歩前に進み出て、この男に向かって一枚の紙を提示したのだ。

「警備局境界警備隊より―――逮捕状。罪状は不正能力行使法違反容疑、違法薬物取締法違反、さらに武器準備集合罪でお前達を逮捕する」

「・・・なにぃ?」

「オレ達警備局はたちの悪い薬の出所を追っているのだ」

「私達は、あの第六感社がこの一連の事件に絡んでいると見ているの・・・その錠剤の出所をお前には吐いてもらうから」

「はぁ? 意味分かんねぇなッ銀髪ッ。おいッお前らッ出番だぞッ!!」


 いや、むしろそのような態度では、自分達の行ないを肯定しているものと同じだ。オレとナルは顔を見合わせるのだった。

「アルス―――」

「うむ。戦いとなろう」


「ひひひひ」

「へへへへ」

「きしきしきし」

 この頭目とおぼしき男の号令でぞろぞろと手下達が現れたのだ。

「こいつらを生かして返すなッ!! 場合によっちゃぁ『強化薬』を使えッ!!」



「・・・数が多い?アルス」

「・・・一、二、三―――うむ、十五人のようだな」

 たった十五の兵力だ。しかも彼らを見ていると、以前オレ達を襲ってきた彼奴らと同じく、彼らもまたとても正規軍のようには見えなかったのだ。

「少し難しいかもしれないな、ナルよ」

「うん・・・めんどくさい」

 ユキナやハルカからは、できるだけ無傷で、罪人を捕らえるように言われているのだ。

「いいねぇ、その険しい顔ッ!! くくく無様に這いつくばり、俺の靴の底を舐めれば、殺すのだけは許してやるよ・・・!!」

「―――貴公は何か勘違いしているようだ」

「警備局の方針で犯人は生け捕りにしないといけないから・・・だからめんどうなの」

 オレの言葉に続けてナルは抑揚のない声で呟くように言った。

「―――俺らを生け捕りだと・・・?」

 オレ達の言葉が勘に触ったようで、頭目の男の眉間にぐぐっと皺が寄ったのだった―――

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