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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
32/68

第三十二話 俺、フィーネさんの惑星で楽しませてもらってるっす!!

第三十二話


 ―――俺は静かに目を瞑ったんだ。

「―――・・・」

 眼を瞑れば不思議な感覚がすぅっと、どこからともなく向こうからやってくる。上下左右の感覚もなくなって、なにかふわふわと浮いているような変な感覚だ。誰かが近づいて来るような変な感覚―――向こうから近づいてくるのか?それとも俺のほうから近づいていくのか?それは分からない。

 でもそれが『彼女』だということにようやく気付いたんだ、俺は。それは対外的に感じるものじゃなくて、なんかこう内面から、精神で『彼女』に近づいていくような、あー、もう説明しにくいな・・・!!

『健太くん―――』

 そう俺を喚ぶ『彼女』の声―――、俺はこの声の主を知っている。この声の主はフィーネさんだ。お久しぶりですフィーネさん。このフィーネさんの惑星(ほし)で俺は楽しませてもらってるっす。

『それはよかったわ、健太くん。ありがとう』

 こっちのほうこそ俺の喚びかけに来てくれてありがとうっす。

『私が健太くんに与えた特別な力はどう?もう遣い熟せそう?』

 はい。今、フィーネさんに逢えてやっと解ったっす。なんかこうフィーネさんと精神が同調することで解ったんすかね、俺。

『えぇ。そうね、健太くん』

 俺、あのときフィーネさんが言った言葉の意味『刀が好きなのね』がやっと解ったっす。つまり俺は『刀』という媒体を遣うことで、その行使する刀の属性に則って能力を発現することができる能力者なんすね。例えば『雷刀』を遣えば雷の能力者に、『炎刀』を遣えば炎の能力者になるってことで合ってますよね。

『―――ふふ。えぇ』

 フィーネさんは肯定の意味の優しい笑みを浮かべたんだ。ほんとにありがとうっす、俺の喚びかけに応えてくれて、それに解答まで教えてもらって。

『「外」で綾羽が貴方を待っているわ。本当に困ったときにはまた私を本気で喚んで健太くん』

 はい、フィーネさん。今度逢うときはきっと俺、第二覚醒しときますよ。

『ええ、健太くん、楽しみにしているわ。また逢いましょう、ばいばい』

 すぅっとフィーネさんの姿が俺の目の前から姿を消して、その研究室の床に立っているという感覚もまた戻ってきたんだ。

「フィーネさん・・・」

 フィーネさんはかわいい笑顔を残して、俺から去っていったんだ。俺は鎖していたその眼をすぅっとゆっくりと開いたんだ。

「―――・・・」

 俺は仕切り直しの意味を込めて模造刀をいったん鞘に納める。

「―――俺がお前に銘を与える」

 その刀をゆっくりと鞘から抜刀していく。

「今日からお前の銘は『模造刀』じゃない『夢幻(むげん)』だ」

 刀身を全て抜ききり、俺は腰を若干落とすと『夢幻』を握った手を交差させて霞の構えを取る。

「全ての理を一切合切断ち切れ―――『夢幻』」


「――――――」

 そうして唐突にそれは起きたんだ。俺の周りを含めた研究室の光景が一変していたんだ。その光景の中心に『夢幻』を持って構えて佇んでいるのは俺だ。そう、俺が頭の中で浮かび上げた光景―――昔、俺が全てやり終えて、俺がめちゃくちゃハマった思い入れのある作品の―――そのある有名なゲーム作品の最終シーンの光景そのままの描写に。俺が想像したその光景が今、ここに広がったんだ。

「・・・・・・」

 そうして俺が霞の構えで構えた『夢幻』が淡い光を帯びている。


「こ、これは・・・いったい・・・どういうことだろう」

 俺のすぐ近くに新田さんもそのままいて、彼女は驚きを隠せない顔をしていたんだ。


「―――」

 だが、俺はフィーネさんに逢ったことで自身の能力をすでに『理解』している。この光景は俺が『夢幻』という刀を識って行使し、作り上げし幻の世界だ。

「この世界の支配者は俺だ」

 霞の構えの『夢幻』―――よ、光り輝く刀身よ、雷刃となれ―――

「やはりな・・・」

 俺が心の中で念ずれば、『夢幻』は雷の刀となった。これで自身の異能にさらなる確信が持てたんだ。


「ふむ・・・」

 新田さんは眼を閉じて、脚を擦って歩いていた。また目を開けたり、閉じたりを繰り返しながら、荒野となった地面の小石を拾ったりしていた。

「小剱くん」

「なんすか?」

「その・・・夢幻と言ったかいその刀」

「はい。俺が勝手に名付けたんすけど」

「そうか」

 新田さんは真顔で俺のほうへと歩いてくると―――

「ちょっと失礼」

「ちょっ―――新田さんは感電してしまうっすよ!?」

 彼女は雷刀となっていた『夢幻』の峰にその右手を置いたんだ。

「―――やはりね、私の予想は確信に変わったよ」

 新田さんはにやりという笑みを浮かべたんだ。

「え?」

 新田さんは雷刀となった『夢幻』の刀身を感電もせずに平気でぺたぺたと『夢幻』を触ったり、摩ったり、そうしてそこは慎重に刃の部分に触れていた。

「―――」

 そうか、新田さんは『夢幻』を行使したときの俺の能力を看破したんだ。彼女が感電もせずに、平気なのはその証拠だ。


「小剱くん、まずはおめでとう」

 新田さんは笑みを浮かべてそんなことを俺に言った。

「能力覚醒おめでとう。きみの能力名を『幻覚共有』と名付けよう―――」

「―――・・・」

 『夢幻』と名付けた・・・模造刀を鞘に仕舞い、俺が妄想を止め・・・いやいや『夢幻』使用時の能力行使状態を解くと、ふぅっと荒野の光景は消え失せ、そこはさっきまでの研究室に戻った。

「『幻覚共有』―――・・・」

 俺は視線を下げた。つまりこの『夢幻』に備わった『もの』は『幻を見せる』だ。ということは『夢幻』は、使えば幻術を行使できる刀というべきか。

「いやいや、そんな落ち込むことはないさ。極度の催眠状態ではただの金属の棒を、熱した金属と対象者は思い込むことにより火傷のような傷を負ってしまうこともあるんだ」

 俺が落ち込んだ、と勘違いしている新田さんは、俺への励ましの意味も込めてその言葉を言ったに違いない。

「だから小剱くんは、戦いにおいては相手を自分のフィールドに引き込み、『相手にこれは幻術だ』と悟られないことが、一番の勝利であり、そうしてその小剱くんの、自身の幻覚の世界においては、きみは最強の存在だよ、つまりその世界ではきみが支配者だ」

「―――」

「そういえば定連くんにアニムス強度を教えてほしいと言われていたね」

 新田さんは俺に張り付けられたアニムス測定機の端子を取り外しながらそんなことを言った。俺の能力を一目見ただけで理解した新田さんは頭のいい人に違いない。でも、勘違いしてる。だって俺の真の能力は―――フィーネさんが教えてくれたから。

「あ、そうっすね・・・今の俺の強度値はどれくらいっすか?」

 新田さんは表示された液晶画面を見に行った。

「小剱くん―――きみの値はアニムス強度A-だよ、おめでとう」

「そうっすか・・・」

「ふむ、どうしたんだい小剱くん?うれしくないみたいだね」

「ちょっと外の空気を吸ってきていいっすか?」

「いいよ、存分に吸ってきたまえ」

「すぐ戻ってくるっす」




///////////


―――ANOTHER VIEW―――

「―――・・・」

 その男はずっと小剱 健太と新田課長との会話を扉に影に隠れて聞いていたのだ。

「自分のこの強度に自身がないようだな、やれやれだな、健太のやつ―――こんなにもアニムス強度を持っているくせにな・・・」

 そう彼の視線はポケットから取り出したそれに―――ポケットに忍ばせていた『携帯用』アニムス強度測定機の液晶画面に向いていたのだ。

「『アニムス強度A-』―――む・・・!!」

 こちらに向かってくる健太の気配を感じ取った定連 重陽は、足早にその場を去って行ったのだ


ANOTHER VIEW―――END.


―――Kenta VIEW―――


 俺は警備局の道場に戻った。

「―――・・・」

 『夢幻』を足元に置いた状態でさっきみたいに意識を集中し、夢想する。でも、どんなにかっこいいシーンを空想してもなにも顕現することはない。やっぱり俺の能力は、フィーネさんからテレパシーみたいな手段で伝えられたとおりだ。俺は能力行使時に媒体である『刀』がないと、うんともすんともなにも発現することはできない。

「よし、今度は―――」

 道場の真ん中で俺は『夢幻』を腰に差した状態で抜刀する。すぅっという小気味がいい音を立てながら、美しい刃のない銀色の刀身が現れる。

「―――」

 今度は正眼の構えを取った。

「『夢幻』に元から備わっている属性は―――『幻覚を見せる』ことだと言うんなら、『これ』も俺は幻として顕現できるはずだ」

 俺が夢想するのは―――記憶の中の祖父ちゃんだった。その人に会いたかったんだ。


///


「あの、新田さん―――俺。俺のほんとの異能は『幻覚共有』じゃないっす」

 自身の能力を確信できた俺は研究所に取って返した。そして俺は開口一番に新田さんにそのことを伝えたんだ。

「―――小剱くん、それはなにか確証があることかな?」

 フィーネさんに逢って俺の能力を教えてもらったんすって言っても信じてもらえないよなぁ・・・てか、なんも証拠もないんだし。だから、俺は回りくどい感じで説明しないといけないやつだ。それに他の『刀』を使ったときに俺が発現できる能力も試してみたいんだ。

「新田さん、俺は『刀』がないと能力を行使できないんっす」

「なるほど・・・」

「『刀』を持っていないときと、持っているときで能力を行使して試してみたら、持っていないときは全然できなくて。だから他の刀を―――」

「・・・その模造刀夢幻ではない他の『媒体』を使ってみたいということだね」

「はい」

「ふむ・・・」

「あの、名刀とかって、この警備局には置いてないんすかね、もしあるんなら試せると思うんっすよ」

「あるにはあると思うよ。でも私の一存で国宝級の代物を持ち出せるわけにはいかないんだ」

「―――そうなんっすね・・・」

 なんだがっかり。

「そんなに落ち込むことはないよ、小剱くん」

「え?」

「一之瀬くんの薙刀と同じさ」

「そうなんっすか?」

「ま、厳密に言えばあの薙刀は一之瀬家所有の代物だがね。使用許可が政府より出ている時点で同じようなものだよ」

「へぇ、春歌のあの薙刀がねぇ・・・って政府から許可!?」

 マジか!? すげぇ・・・直接政府から許可が下りるとかって。

「私がひと肌脱ごうじゃないか。名刀貸与の要望書を書いて侑那さんに私から提出しておくよ」

「すんませんっありがとうございます・・・!!」

 俺がこの『夢幻』じゃない刀で能力行使すれば、きっと俺の世界はもっと拡がるに違いないぜ・・・!!

「私も、他の『媒体』―――名刀を使った健太くんが能力を行使するところを見てみたいいんだ。どのような結果になるのか、今の私はとても興味をそそられているよ」

「俺もっす。そういえば新田さんって下の名前はなんて言うんすか?」

「私かね? 私は・・・綾羽って言うんだ」

「へぇ・・・」

 フィーネさんは彼女のことを綾羽と言っていた。やっぱり『新田 綾羽』という名前で合っていたみたいだ。フィーネさんがそう言うぐらいだ、ひょっとすると綾羽さんも転移者かもな。なんとなくそんな気がしたんだ。でもそれは訊かなくてもいいか。転移者っていうことを隠している人も多そうだしな。

「こんな研究女に似つかわしくないかわいい名前だろ? 私はかわいい名前より厳つい名前のほうが似合うと自分では思っているよ」

「なに言ってんすか、いいじゃないすか綾羽。綾羽さんって綺麗な人だし、俺は綾羽って名前、いいと思いますよ」

 なんか三文字だし、なんとなく『春歌』に似てるからなおさらいいと思ってしまうんだ。

「か、からかうからならよしてくれたまえっ・・・!!」

「ほんと、今日は世話になったっす!! ミルクティーごちそうさまでした。ありがとうございます、綾羽さんっ」

「・・・ったく、きみという男は―――」

 俺は『夢幻』を手に、綾羽さんに追い立てられるかのように、その研究課から立ち去ったんだ。

Kenta VIEW―――END.


///////////


―――ANOTHER VIEW―――


「ということがありまして―――私も彼が『幻覚共有』という能力であると断ずるには疑問を呈します」

「でも彼は現に『幻覚共有』を発動させたんだろう?」

 新田 綾羽が昨日の、事の顛末を諏訪局長と塚本寮長に報告しているところだった。

「それはそうなのですが、彼の発動能力の概念は根本的に違っているということです。先日彼が発動させた『幻覚共有』はただの副次的な産物であり、本質の能力は違っている可能性が高いと思われます」

「ということは健太くんの能力はただの『幻覚共有』ではないということかい?」

「はい、塚本特別監察官」

「ハハハ、綾羽くんその肩書はちょっと堅苦しいよ」

「じゃあ新田さんは健太君の能力はなんだと推察しているの?」

「諏訪局長。おそらく彼は―――いえ、順を追って説明しますと、彼は単独の状態では全く能力を発現できず・・・いえ、アニムス強度がD判定という結果だったのです。しかし、能力行使時に媒体、彼は思い入れのある模造刀を『夢幻』と呼称しており、―――その『夢幻』という媒体を通して初めて能力を行使させました」


「「?」」


「ただの『幻覚共有』ならば、『媒体』なしに行使できていたはずです。つまり彼は『媒体』を持つことで能力を発現させる能力者。そして発現する能力は媒体の性質・属性によって大きく変化すると想像されます。お二人はこれの意味することをお解りになりますか?」

「どういうこと? もう少し噛み砕いて話してほしいわ」

「つまり、小剱 健太氏は、使用する日本刀―――いえ、日之国の刀、日之刀を変えれば、全く別の能力者になるということです。『夢幻』を用いて能力を行使した際、彼は『幻覚共有』の異能を得たのです―――。さすがは『転移者』であるとしか言えません。彼の能力が私の考察どおりならば、『複数能力者』と言っても差し支えないでしょう」


「「―――ッ!!」」


「一般隊員の持つ普通の警備刀ではない『日之刀』を要求します。そうすれば彼の真の力が判るかと思います。それを小剱 健太氏彼本人もそれを望んでいるのです」

「『妖刀』とか『霊刀』を『倉庫』から持ち出すにはいろいろな手続きがあって、時間経かるし、めんどくさいんだけどねぇ・・・」

「そこをなんとかして持ち出せないでしょうか、諏訪局長、塚本特別監察官!! これは彼のために―――彼のためでもあるのです」

「綾羽くん、きみなぜそこまでして健太くんのために必死になれるんだい?」

「塚本特別監察官それは。彼小剱くんは私と『同郷』だからです。『同郷』の者として私はなんとか彼の力になってやりたいのです」

「う~ん・・・」

「『四天王』」

「「ッ!!」」

 新田 綾羽からその言葉を聞いた侑那と勝勇の顔が強張ったのだ。

「私は、『四天王』の姿を初めてこの目で見たときに、四大天使の降臨のように思いました。その四大天使は悪夢に囚われた私に救いの手を差し伸べてくれたのです」

「―――綾羽くん」

 勝勇は目を閉じ―――

「!!」

 侑那はハッとして目を見開いたのだ。

「私を第六感社の『転移者実験体』という悪夢の境遇から救ってくれた貴方がたを見込んでお願いしたいのです」

「!! ・・・分かったわ、なんとかやってみるわ、綾羽さん」

「ありがとうございます、侑那さん・・・!!」

 新田 綾羽は深々と頭を下げたのだ。

 そうしてややあって勝勇は口を開いた。

「・・・『日之刀』じゃないとダメなのかい?」

「はい、おそらくは。・・・塚本特別監察官」

「その根拠はなんだい?綾羽くん」

「さりげなく小剱 健太氏の素肌に触れたときに、いけないと思いつつも探究心に負けた私は自身の能力を行使し、彼の能力を『覗き視た』のです」

「「!!」」

「彼は『刀を遣う者』です」


ANOTHER VIEW―――END.

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