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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
第一章 かくも優しきこの日之国で
31/68

第三十一話 俺は異能と剣技を駆使してみんなを護るかっこいい主人公になりたいんだ!!

第三十一話


「こっちだ、健太」

「あ、はい」

 その研究室の奥にある扉をその新田さんから渡された鍵で開けて定連さんはその部屋の電気をつけた。


「ったく、この測定機に『携帯式』があったら、といつも俺は思ってるんだがな」

 定連さんはその機器の上に掛けられていた布をばさっと取り去った。おう、けっこう大きな機械じゃねぇか。

「これがアニムス強度を測定する機械だ。普通は一年に一度、全ての境界警備隊隊員が行なう測定日にしか使わねぇからこんな奥に仕舞ってある」

「へぇ・・・そうなんすね」

「あぁ」

 定連さんはぽちっと機械の電源を入れて、キーボードにタタッと高速で何かのコードを打ち込んだ。すると機械の横にある液晶に光が点った。

「健太。そこに、機械とコードで繋がってる端子が二つずつあるだろう」

「これっすか?」

「その端子二つを右左の手で握って念じてみろ、自身の能力を解放するイメージでな」


 これか・・・。持って握りやすいように、自転車のハンドルみたいな形状になっている。

「・・・―――」

 両手で一つずつ持ち、ぎゅっとその端子を握りこんだ。そして念じて目を瞑った。―――俺の中のアニムスよ、今こそ目覚めのときだ・・・!! ―――俺の真の力を見せてやるぜ・・・!!

「――――――」

 はぁああああああ解き放てッ俺の中のアニムスをッ・・・!!


「おい、健太真面目にやれ」

「へ?」

 その定連さんの呆れたような声に俺はなんで?と眼を開いた。

「俺の能力値は―――」

「一般の日之民並みだな」

「あれ・・・?」

 その数値がデジタル式とそのすぐ横の目盛り式の針、それと一番下の液晶画面に『アニムス強度D』という文字で、俺のアニムス強度の文字が記されていた。

「『アニムス強度D』判定だとよ。もう一回やってみろ、今度こそ真面目にやれ、いいな」

「は、はいッ!!」


「――――――」

 俺はもう一度端子を握りこみ、再び念じた。今度こそ俺の真の力を見せてやるッ!! はぁああああッせいやぁぁああああッ!!

「フーッフーッフーッ・・・ど、どうすか、定連さん・・・!!」

「やっぱ『D』判定だな」

「マ、マジっすか・・・あれ?おっかしぃな・・・♪」

 ひょっとして、俺の能力値って普通の一般人並み・・・なんだろうか。俺の頭の中でズーンっという擬音を奏でた。バ、バカな。この俺は五世界に来たんだから、俺はこの世界に選ばれた『勇者』と密かに思ってたのに、なんでだよ。

「転移者は覚醒前でももっとあるかと思ったんだがな」

 ふと、そこにカツカツとした足音を立てながら、誰かが測定機のある部屋までやってきたんだ。

「―――定連くん」

「唐突になんですか?新田研究官」

「新田研究官―――?」

 俺は声がしたほうに振り向いたんだ。するとそこに、さっきの白衣のお姉さん新田さんが静かに佇んでいたんだ。

「―――ひょっとしてこの子は解放型の能力者ではなく、媒体を使う能力者かもしれないぞ?」

「・・・なるほど、そういうことですか」

 二人で納得されても、俺はその、解放型とか媒体とかいう用語も何一つ分からないんだってば。

「・・・媒体?」

 媒体ってなんだろう?

「ふむ、そうだ。きみも確か転移者だったね? きみの名前はなんと言うんだい?」

 白衣の新田さんに話を振られた。

「小剱っす。小剱 健太っていいます、地球の日本というところから来ました。よろしくお願いします、新田さん」

「うむ、日本・・・か」

 新田さんはその顎に右手を添えてなにか思案してるみたいだった。

「どうかしたんっすか?」

「・・・いや、なんでもないよ。私のほうこそ、これからよろしく頼むよ、小剱くん」

「あ、はい」

「では、小剱くん。きみに訊きたいことがあるのだが、こちらの世界に『来た』ときに、なにか大事な物を持ってきてはいないかな? もちろん『来た』というのは、この五世界に転移してきたときのことだよ?」

「大事な物―――」

 それはオタクのグッズでもいいんだろうか? 俺は指折りで数えていた、確かあのとき・・・敦司、天音、真、美咲、己理、んで俺の六人で放課後の街に遊びに行った帰りのことだった。地元の駅で降りたその帰りしなに真は急に走り出すし。それから白く光る靄みたいのものに包まれて―――。気づいたら俺は日之国の日府という街中で目を覚まして・・・。


「ふふ」

 そうだ、あの日は俺が仲間六人を引き連れてオタク街に行った帰りだった。俺と美咲が厨二発言を連発して、その話を振った真は呆れ顔ででも話に付き合ってくれて、ライトオタクの己理を俺みたいなオタクにするために勧誘しまくって・・・天音は、ほんとは敦司のことが好きなくせにさ、クククク・・・リアルツンデレって美咲と囃し立てたら、ほんとに怒ってしまって、慌てて敦司が止め入って・・・。

「おい、健太一人で何をニヤニヤしてんだ?」

「あっと・・・すいません、定連さん。なんかいろいろ思い出し笑いをしてたんすよ。えっとその大事な物って模造刀でもいいんすかね?」

「「模造刀?」」

 定連さんと新田さんの声が重なった。

「えっと俺の好きなラノベの主人公が使ってる刀の模造っすよ。あんとき連れ達とオタク街に行ったときに中古なのにすっげー美品があったんで思わず買ってしまったんすよ。んでその帰りに変な白くもやもやした光る霧っていうか靄っていうかそんなのに包まれたんす。まぁそのときの話は塚本さんにも話したとおりなんすけど」


「ふむ・・・思い入れのある『模造刀』かね・・・」

 白衣の新田さんは顎に指を当ててなにやら物思いに耽った。


「健太、その『模造刀』を今すぐに持ってこれるか?」

「あ、はい。いいっすよ、定連さん。寮の俺の部屋に大事に置いてあるんで」


///////////


「はぁはぁはぁ・・・ふーっ走ってきて疲れたっすわ」

 俺は急いで自分の寮の部屋に戻り、その足でまた取って返してここまで戻ってきたんだ。

「これっす」

 俺は鞘に入った模造刀を測定機の横に立てかけた。


「ほう」

 新田さんは缶の紅茶を啜りながら、その模造刀をしげしげと見つめた。

「小剱くん、きみも飲むかね?」

「あ、はい」

 走って汗をかいていた俺は、新田さんから冷たいミルクティーを受け取った。

「あれ?」

 そういえば、俺の今の師匠、定連さんがこの場からいなくなっていたんだ。

「あの定連さんはどこに行ったんすか―――」

「あぁ、彼ならつい先ほど諏訪さんから緊急の呼び出し電話がかかってきてね、局に戻ったよ」

「はぁ」

 師匠はいっちまったのか・・・。残念、俺のお気に入りのかっけー模造刀を見せてあげたかったのに。

「で、彼から伝言を預かったんだが」

「え? 定連さんはなんか言ってたんすか?」

「D判定を超えたかどうか、その結果を教えてほしい、だとさ。さ、小剱くん」

「へ?」

 白衣の新田さんは俺の模造刀を手に取り、それを俺に差し出したんだ。

「察したまえ、続きの測定は私が行なう、ということさ」

「・・・!!」


 新田さんは手際よく測定機の端子を握るものから貼るものに取り換えて、ぺたぺたと俺の両手の甲に貼った。あと頸筋に二つ、ちょうど動脈が流れる位置にシールのようなものを張った。そのシールの裏にはなにか銀色の回路のようなものが透けて見えていた。


「これで刀の柄を両手で握れるはずだ。さぁ小剱くん遠慮はいらない、自分の中の力を全て出し切る感じで『想いの力』を解放したまえ」

「思いっきりすね、分かりました」

 ん、俺は鞘から模造刀を抜き、その柄を握って正眼に構えた。

「―――」

 眼を閉じて神経を集中させる。祖父ちゃんに子供の頃に教わった小剱流剣術の心構えを思い出せばなんとかなるかもしれない、と思って。

「――――――」

 子供の頃のセピア色に擦れてしまった記憶を必死になって思い出そうとしても、あの人・・・祖父の顔にはまるで靄がかかったかのように、うまく思い出せなかった。

「ほう・・・『D』を越え・・・『C-』いや、まだゆるゆると上がっていくね」

「マジっすか?」

 やったぜ『D』越え・・・!! 俺はその言葉を聞いてそっと眼を開いてそのアニムス強度測定機に表示されたアニムス強度を見てみたんだ。


「アニムス強度はC+判定だ。小剱くん喜びたまえ」

 新田さんの声を聞いて俺は集中を解いた。

「おうっ!?C+っすか?」

「そうだよ」

「あのっC+判定ってどれくらいの判定というか、基準はなんかあるんすっかね?」

「ふむ、C+判定は警備局の実行部隊に配属できるかどうかの基準値になるアニムス強度判定だよ」

「―――」

 え?割としょぼいよな、俺のC+判定って。思わず黙ってしまったぜ。

「それって―――あ、いや境界警備隊の隊長クラスのアニムス強度ってどれくらいなんすかね?」

「隊長クラスかね?」

「あ、はい。その春・・・―――え、えと一之瀬さんとか定連さんとかの・・・」

 新田さんには面と向かって『春歌』とか下の名前で呼びにくかったんだ。

「二人ともアニムス強度はA判定だが?」

 さも当然のように新田さんは二人のえっと春歌と定連さんのアニムス強度の基準値を教えてくれたんだ。

「やっぱりそうっすよねぇ・・・じゃ奈留―――えっと羽坂さんのアニムス強度はどれくらいなんすか?」

「奈留?あぁ、あの愛莉さんの娘さんかね?すまない彼女の正確なアニムス強度は分からないんだよ。彼女はなぜだか年ごとの測定値に妙な揺れ幅があってね、この年はA+、この年はB-、この年は測定不能といった具合なんだよ。あ、私がきみに話したことは黙っておいてくれよ、小剱くん」

「は、はい―――」

 それでもBとかAって俺より遥かに上じゃねぇか。はぁ・・・溜息を吐きたくなるぜ、俺のアニムス強度値に。

「だが、案ずるな、小剱くん。隊長クラスの皆が最初からそうだったわけではないぞ?」

「へ?」

「上席つまり隊長クラスや副隊長クラスの者は鍛錬や実戦により、強くなっていった猛者ばかりだ」

「え?アニムス強度ってか・・・能力値って鍛錬でも強くすることができるんすか?」

「できるさ、小剱くん。心身の鍛錬も重要だが、精神を統一する瞑想は一定の効果があると証明されている。でもただ瞑想するわけじゃない。自身の異能を発動させながらそれを球のようにイメージし、この星『惑星イニーフィネ』とはなんたるか、『彼女』のことを思い―――」

「『惑星イニーフィネ』とはなんたるか―――?」

 『彼女―――』、『彼女―――』。なぜかは分からない。でも新田さんが口に出した『彼女』という言葉が俺の心に引っ掛かる。なんだったかな・・・

「うむ。我々人間はこの母なる大地。この星―――『惑星イニーフィネ』からしたら、子供になるんだよ?だから彼女に祈りを捧げるようにね、瞑想するんだ」

「瞑想―――」

 そういえば、俺が居た日本でも地球のことは『母』とよく言うよな。母なる大地とか。

「だが、瞑想する必要もあまりなく、初めから天賦の才を持つ者もいるのも事実だ。これはとある人から聞いたんだが、一之瀬くんもまたその人だったらしい。ま、彼女は日之国日夲きっての武門の名家の跡取り娘でもあるから、血筋なども関係するのかもしれないね・・・」

「へぇ・・・凄いっすね春歌のやつ・・・」

 俺は表情には出さなかったけど内心驚いていたんだ。それは春歌のこともあるけど、もう一つは俺と春歌の境遇の類似点だった。何を隠そう俺ん家も室町時代から続く武家の家系で小剱流剣術指南の家系なんだ。でも当主の祖父ちゃんの突然の失踪で俺の家は、あの日本家屋の家だけを残し、没落したんだ。


「さぁ、きみはC+だったからってそう簡単に諦めないでくれたまえよ、小剱くん」

「・・・」

 もう一回、俺のアニムス強度を測ることはできないんだろうか・・・。もう一度、アニムス強度の測定をしてもらいたい。

「あの新田さんッ」

「なにかな?」

「あの、もう一度アニムス強度を計測することってできないっすかね?」

「あぁ、別に構わないが?」

「すいません、ありがとうございます・・・!!」

 新田さんの許可をもらった俺は、ふたたびそのアニムス強度測定機の前に立つ。

「―――」

 今度は刀を抜かずに左手で鞘、右手に柄を握った。これはいわゆる抜刀術の構えだ。

「―――・・・」

 子供の頃に見た祖父ちゃんはすでに剣豪だった。子供の頃の俺は祖父ちゃんのような剣豪にいつかはなりたいと思ってやまなかった。

 それから祖父ちゃんの突然の失踪―――俺は剣士になる夢を棄てた。さっき新田さんは母なる星『惑星イニーフィネ』を想えって言っていた。腰を落とし、本格的に抜刀術の構えを行なう―――。

「『惑星イニーフィネ』よ。俺は―――」

 俺はアニメやゲーム、ラノベとかの主人公みたいになりたいんだ。異能と剣技を駆使してみんなを護るかっこいい主人公になりたい。

 俺もこの模造刀も片手に、あぁいった主人公達みたいに異能を使えたらいいのにな。俺は異能と刀を手に、悪からみんなを護れる剣士になりたいんだ。だから頼む・・・!!俺の異能を教えてくれ―――『惑星イニーフィネ』。

 この俺が立つこの研究棟はこの大地に建っている。その下はこの母なる惑星イニーフィネだ。それも意識しつつ―――俺は―――模造刀の柄を握る手に力をこめたんだ―――

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