第三十話 彼女が弱い俺を庇って怪我をする・・・そんな光景はもう見たくないんだ・・・!!
第三十話
竹刀の打ち込み稽古を行なった道場から出て、定連さんのあとについていく。そして、次に定連さんに連れて来られた場所は、大きなドーム状の屋根が付いた外壁が鉄筋コンクリートの建物だったんだ。
「でけぇ・・・」
その大きな鉄筋コンクリートの建物を見て俺は、ここだったらけっこう大きな、参加サークル数一万以上の同人誌イベントでも開催できる施設じゃないかな、と思ってしまった。天井の高さも高く、フロアの面積もかなり広い。それに床もコンクリート製なのがいい。この床なら同人誌イベントで使う、足が鉄の机や椅子もおけると思う。それにもし、寝技などの練習をする場合でも柔らかいマットを敷けば、完璧だ。
「この建物はアニムス強度A判定の能力発動にも耐えうる設計の警備局訓練場だ。つまり外壁に対アニムス素材が使われている。あぁ、なんでもネオポリスから流れてきた技術が使われてるっていう噂もある。だから、全力で能力を解放しても問題ねぇ」
「能力・・・」
でも俺の能力はまだ目覚めてないというか、あれだけの特訓をしても目覚める兆候すらないしな・・・。
「健太、もう一度言うぞ。お前は強くなりたいか?」
「―――」
その定連さんの真剣な眼を見て、俺は定連さんが本気で言ったんだということが解った。
「はっきりと言えばいいか? もし健太が生半可な気持ちだったら、俺はお前の特訓を辞めようと思ってんだ」
「・・・!!」
ここで俺が退けば、きっと俺は警備局を辞めて日之国の一般市民として暮らしていくんだろう。―――でも俺が警備局を辞めれば、自分はこの日之国で何もかもを喪ってしまう、そんな気がする。―――俺の頭の中で春歌、アルス、奈留の顔が次々とうかんでは消えていく。
「この五世界の現実はそんなに甘いもんばかりじゃねぇんだ。十二年前、俺がまだガキの頃に起きた『イニーフィネ帝国による魔法王国イルシオンの併合』、そして今から七年前の起きた『イニーフィネ帝国による日之国日下への大侵攻』・・・―――『北西戦争』」
「・・・『灰と死刑確』―――」
俺はその言葉をぽつりとこぼした。やっぱあのネットの記事はやっぱり本当のことを掲載したものだったんだ。
「『廃都市計画』? 健太・・・お前なにか知っているのか―――・・・?」
笑みの消えた定連さんの顔が凄味すぎで威圧感を覚えてしまう。
「あ、え、えっとここ日之国に来たての頃、何がなんだか分からなくていろいろと調べたんすよ。『SSCサービス検索』のパソコン使ってネットでいろいろと。えっと確かネット上では『灰と死刑確』とかなんとか、もじって書いてたような・・・」
そうそう、思い出した。確か『灰の子アッシュ』っていう個人?なのかな、なんかその人があげていたんだっけ?
「―――そういうことか・・・。日下で起こった『北西戦争』は凄まじい戦いだったと聞いた」
「え?」
「当時、戦場に乗り込んだ『日之国日夲の援軍』も『警備局精鋭部隊』も一切が消息不明。誰一人として警備隊に帰ってきたやつはいなかった。だからな、健太。もしお前がこのまま正式に『警備局境界警備隊』に入隊すれば危険な任務もある」
危険な任務か―――でも俺が強くなれば、危険じゃなくなるかもしれないんだ・・・!!
「・・・―――じゃあ俺はそうならないよう頑張ります!! せめて自分の身は自分で守れるように。春歌やアルス、奈留の足手まといにはなりたくないんです・・・。春歌が弱い俺を庇って怪我をする・・・そんな光景はもう見たくないんだ・・・!!」
「・・・フ」
定連さんは眼を閉じて納得したように薄く笑う。
「だから俺を鍛えてくれって定連さんに頼みました・・・!!」
「健太、お前の言葉に俺は応えてやる。その代わり今までよりもっと厳しいぞ?」
「はいッそれは解ってるつもりです。でも改めてお願いします、定連さんッどんなに辛い修行にも堪えてみせますからッ俺を鍛えてくれッせめて自分の身は自分で護れるぐらいに!!」
――――――
「・・・・・・・・・」
俺は虚ろな眼で無機質な天井を大の字になって見つめていた―――。天井からぶら下がっている照明が眩しい。くそ・・・竹刀から木刀に変えるだけで定連さんの強さがあんなヤバくなるなんて―――
「強ぇ・・・強すぎるぜ」
定連さんこの人マジでハンパない強さだ。さすがは春歌の先輩隊長だ。
「おつかれさん、健太。今日のところはこれで終わりにしよう。明日は一日しっかり休め」
そういうと定連さんは木刀を袋に収めた。
「あ、はい・・・ありがとうございます・・・定連さん―――」
俺は寝転んだまま、こくりと頷いたんだ。いや、立ち上がろうとしたんだけど、疲れすぎて身体に力が入らなかったんだ。
「それから健太。あいつ来てるぞ?」
「あいつ・・・?」
俺は倒れたまま、なんとか首だけを動かして、定連さんが顎で指し示したほうに視線を持って行った。
「春歌―――・・・」
そこにいたのは、俺の想い人。
「健太、お弁当を持ってきましたよ」
「・・・あ、うん。ありがとな・・・」
でも、今すぐには春歌の持ってきてくれた弁当を食えそうにない。今は胃が飲み物以外は受け付けそうになかったんだ。俺の体力が回復してから食べさせてもらうとするか。
「で、どうでしたか健太?定連隊長の特訓は」
「死ぬかと思ったぜ・・・でも悪くねぇ」
俺はニヤッと口角をつり上げた。
「・・・健太。その口調・・・定連隊長の口癖がうつりましたか?」
俺は力むと震えて力の入らない上体をプルプルと震わしながらなんとか身体を起こして、脚を投げ出すようにその場に座った。
「だって定連さん、マジカッケーんだもん。俺的にはバトルもんのちょい悪キャラをみてる感じっていうの? ほらよくあるだろ?異能バトル系のゲームでも主人公に張り合ったり、敵キャラなのに、なんかいいやつみたいな? 他にもオラオラ系主人公とか。他にも―――」
「おい健太。俺は敵キャラじゃねぇよ。それにオラオラとも言ってねぇし」
「あ、すんません!! 言葉のあやというか、そんな感じっす・・・!!」
「まぁ、いいけどよ」
「はぁ・・・」
でも春歌は俺達の話に呆れたように溜息を吐く。
「それより一之瀬。あいつ中々、筋がいいぜ」
「へぇ・・・定連隊長にそこまで言わすなんて・・・やりますね、健太」
「だろ・・・? 今なら誰にも負ける気がしねぇよ」
俺はニヤリと口角をつり上げながら春歌を見た。
「・・・はぁ」
でも春歌は俺の大言壮語に呆れて、やれやれと言った感じでまた溜息を吐いたんだ。
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二日後
それは、俺が警備局の道場で定連さんと木刀を使った相がかり稽古をしていたときだったんだ。その休憩中―――
「ほらよ、健太」
「おっと・・・!!」
定連さんが俺に向かって放物線状に投げたスポーツドリンクを、手から滑らせそうになりながら受け取った。
「すいません」
俺はキャップを回し取ってその冷たい結露ができたスポーツドリンクを、喉を鳴らしながらごくごくと勢いよく飲んだんだ。
「いい、飲みっぷりだな」
「そうすか?」
定連さんは薄くかっこいい笑みを零すと道場にあった適当なパイプ椅子に座る。
「お前は俺の鍛錬によく堪えきった。正直言うと俺はお前のことを過小評価していた。お前は俺のしごきにすぐ音を上げるだろうと思っていたんだ」
「・・・―――」
俺は喋りたかったけど口を噤んでいた。ほんとは言いたかったさ、昔の事を。昔どれだけ俺がひたむきに竹刀を握って剣豪の親父や祖父ちゃんを目指していたかを。子供の頃のあの経験があったからこそ、今の定連さんの特訓についてこられたんだ。
「もっと強くなりたいよな?健太」
「はいッ!!」
俺は力の入った返事と強い眼差しで定連さんを見つめた。
「よし、いいだろう。この五世界は日之民であれ、月之民であれ、イルシオン人であれ、アニムスを持っている」
「・・・・・・・」
定連さんが小休止をとってなんでいきなりこんな話をしたのか。次はきっと、俺の特訓が異能の段階に入ったってことなんだって。
「日之民の場合、アニムスは無意識下で、自身が持って生まれた超能力に変換されるってことは一之瀬とか塚本さんに聞いてるよな?」
まぁ、それ以外にも、この異世界に来たときに一通りのことはSSCのパソコンで調べたからだいたい解っている。
「あ、はい。日之民は『超能力』で、月之民は『氣』、イルシオン人は『魔法』ってやつっすね」
奈留は電気だ。春歌の異能は確か―――
「―――」
定連さんは、肯定の意味である首を上下に振って示すとまた口を開いた。
「そして、各々の能力者が持つ固有能力は一つだけだ。複数の異能を持っている者は今のところ確認されてはいない」
「はい」
「普通の一般人が固有能力を発現・覚醒させ、能力者になる大きなきっかけだと言われてんのは、心のこもった強い想い、その手の研究者は『想いの力』や『心の力』とかと呼んでいる」
「『想いの力』・・・」
定連さんの言葉を反芻する。
「あぁ、そうだ。『想いの力』は『心の力』であり、昂る感情や純粋で一途な想い、ときには自己中心的な欲望の高まりがきっかけで、ときに覚醒し、能力が開花する・・・らしい。能力が覚醒してからでも、なお稀に何かのきっかけで・・・つまり誰かを護りたいとか、瀕死のときに、まだ死にたくない生きたいと強く願ったりとか、そういうことを強く願ったり想ったりすることでさらに能力が底上げされることもある。理論上ではさらにその次の段階『第二覚醒』まであるって話だ」
「・・・『第二覚醒』っすか? それって―――」
俺の言葉に定連さんは、一度目を閉じて、すぐに開いた。
「―――理論上では、通常の能力行使時のもう一段階上にある能力形態のことだ。日之民がその『第二覚醒』に至ると能力と身体と精神が融合した状態になるらしい。たとえば、発電能力があるやつがいて、そいつが『第二覚醒』に至ると肉体と精神と固有能力が融合し、その者自身が超高熱の球電状態になり、空を飛び、またあらゆる障壁を透過することができるような状態になるらしい・・・理論上な。それを『第二解放状態』と研究者は呼んでいるらしいがな」
「チートじゃないっすかそれ!!」
第二覚醒―――とんでもないチートじゃねぇか。
「そうだな。だが未だそんな事例は確認されていないのが現実だ。所詮は机上の空論だ」
「・・・マジすか。あ、そういえば『月之民』が第二覚醒状態になったらどうなるんすかね?」
俺はアルスのこともあり、ふと疑問に思ったことを定連さんに訊いてみた。
「あぁ、どうかな・・・。月之民の能力発現の詳しいメカニズムはまだ研究段階らしい。でも、一応の推定理論はあるんだ、訊きたいか健太?」
「あ、はい。ぜひ」
「あぁっとな、月之民の能力『氣』だ。彼らは第二覚醒に至っても姿かたちは元の姿と変わらないって言われてる」
「へぇ・・・」
そんなんだ、アルスのやつ。
「ただ、その心身の中から溢れだした氣は、その者の体表を越えて溢れ出し、その者は己の氣を陽炎のようにゆらゆらと纏う状態になると推察される、らしいぞ」
「へぇ・・・」
じゃ、もしアルスが第二覚醒になるとそうなるんだぁ・・・。
「ひょっとするとお前なら第二覚醒に至れるかもしれんな―――」
「え?」
定連さんの言葉は小さくて俺にはよく聴こえなかったんだ。
「いや、なんでもない、戯言だ。ともかくそんな遠い『第二覚醒』の話なんざ、今はどうでもいい。まずはお前の能力覚醒が先決だ」
「えっと、覚醒のきっかけは、つまりなにかを強く想ったりとか妄想するってことっすよね?」
「そうだな・・・俺の場合は・・・どうだったかな―――」
「―――・・・」
きっと深い理由があるに違いない、だって定連さんは影のある哀愁を漂わせながら視線を落としたんだから。
「い、いいっすよ、無理に言わなくても・・・!!」
「そうか、助かる。俺も自分の過去をべらべら喋んのは性に合わねぇ、同情されたくねぇんだ。もし訊きまくってくる奴がいたら・・・そいつは綿毛のように軽い奴だろうよ」
そこで定連さんはカッコよくふぅっと息を吐いたんだ。
「―――!!」
定連さんの仕草がいちいちかっけーッ!! これでこそ漢だぜ・・・!! カーッ定連さんマジシビれさせてくれる人だぜッ!!
「行くぞ、ついてこい健太」
「え?どこにすか?」
定連さんは警備局の道場を出てさらに奥の棟へと歩いていく。俺も黙って定連さんの固い足音に続きながら彼のあとについて行ったんだ。俺は普通の運動靴だから足音はしないけどな。
そして大きなドーム状の警備局訓練場が目の前にある。でも、そこの中には入らず、さらに奥の施設へと向かう定連さんの後ろを歩いていく―――。
あれ?この前行った、その異能を発動しても耐えられるという警備局の訓練場でもないみたい。だってあそこのドーム状の施設の前を横切り、定連さんが向かう先は―――。つまり、警備局は日府の官庁街の一角に、本局があって、そのすぐ西に、歩いて数分ぐらいの距離に警備局道場とドーム状になった警備局訓練場があるんだ。そこは公の施設として市民にも開放しているみたいだけど―――定連さんに連れられて行った建物は、さらにそれの奥にあり、警備局員じゃないと入れないみたい。
「―――・・・」
その白を基調とする四角い建物は、アニメやゲームでよく描写されるような実験棟みたいな建物だったんだ。まさかあの企業のように変な実験とかしてないよな? ま、まぁ大丈夫だろ、ここは春歌や侑那さんが所属する政府の直下の警備局の部署だし。
「ここは、警備局研究課の建物だ。主に犯罪者の指紋や遺伝情報、また残存アニムスを科学的に研究し、犯人特定などを行なう部署だ」
「へぇ・・・」
なんか、俺が居た日本の科捜研みたいな部署だな。
「―――」
定連さんの足がとある一室の前で止まった。そうして定連さんは扉の前にあるインターホンのボタンを押した。
「新田研究官、俺です」
「おや?定連くんじゃないか」
「?」
新田研究官? その名前に俺は聞き覚えがあったんだ。んーどこで聞いたんだっけ。確か誰かがその名前と肩書を言ってた気がする・・・。その新田研究官という人の声は、インターホン越しに聞くかぎり、その声は妙齢のお姉さんのような声色だった。
「久しぶりです、新田研究官。すんません、時期外れの新入りのアニムス強度の測定をしたいんですが、いいっすか?」
「構わんよ、好きに使ってくれたまえ」
「すんません、ありがとうございます」
定連さんはインターホン越しの会話を切ると、俺に振り返った。
「行くぞ、健太」
「はい」
「失礼します、新田研究官。彼が警備隊の新入りです」
定連さんは扉を開くと、白衣を着て、机に座りながらなにやらパソコンの液晶画面をタップしていた妙齢の女の人ところへとまっすぐに向かっていく。その人は、春歌みたいな直毛のポニーテールじゃないけど、少しウェーブがかかったセミロングヘアーを後ろで括って髪留めで止めているお姉さんだった。
「・・・おや君が新入り君かね?」
妙齢のお姉さんが顔を上げて定連さんの後ろに立っていた俺へと視線を向けた。
「あ、はい、よろしくっす、えっと新田さん・・・でしたっけ?」
「おや?きみは私が名乗ったわけでもないのに私の名前を知っていると」
白衣のお姉さん新田さんはゆらりと椅子から降りて立ち上がった。
「きみは中々、精悍な顔立ちじゃないか」
新田さんは俺の側まで歩いてきて、スッと右手を俺の頸の辺りに持っていこうとして―――。
「え?あ、あの・・・?」
「―――相変わらずっすね、新田研究官」
でもその定連さんの言葉で白衣のお姉さん新田さんはすぅっと手を降ろしたんだ。
「・・・冗談だよ。私は笑えない冗談は大嫌いだがね、おもしろい冗談は好きってことは知ってるだろう? 定連くん。ほら鍵だ、持って行きたまえ」
新田さんは白衣のポケットに入れた手を出すと、それを定連さんに向かって軽く放り投げたんだ。
「・・・どもっす」
投げられた銀色の鍵を定連さんはかっこよく空中でキャッチする。しかも右手だけでパシッと掴まえたんだ。
「その新人君のアニムス強度の結果をあとで私にも教えてくれないかね?」
「分かりました」
白衣のお姉さんはニヤニヤ笑いながら定連さんに踵を返すと、再びまた何かの打ち込み作業に戻っていった。
「・・・・・・」
なんか独特の口調のちょっと変わった人だな、新田さんって。と俺は無意識に、パソコンの液晶画面に直接指で打ち込んでいる新田さんを一瞥したんだ。




