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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
序章『・・・ある日常の終焉』
17/68

第十七話 俺を日之国の警備局境界警備隊に入れてくれッ!!

第十七話


 ちょうど朝の九時ぐらいだったと思う、俺がいるこの病室に昨日の黒服を一撃で倒した青少年と銀髪の女の子が来たのは。そしてもう一人、三十代から四十代くらいの眼鏡をかけた理知的な男の人も、その二人と一緒に来た。

「や、おはよう。昨夜はよく眠れたかい?」

 眼鏡を掛けた三十代から四十代くらいの、その男の人は物腰柔らかに俺に訊いてきた。

「あ、はい。もうばっちりっす!!」

 直感で解った。この眼鏡をかけて俺に話しかけてくれた優しそうな男の人はたぶんいい人。それから銀髪の女の子はこわい人。だってこの子、ずっと無表情でなにも喋らないんだもん。昨日の黒服達が乗っていたワゴン車を、しかも俺も乗っていたのにためらいもなく銃をぶっぱなした女の子だし。

「それは良かった。そうだ、僕の名前は―――」

「塚本じゃま」

「―――おっと・・・ごめんごめん奈留」

 銀髪の女の子はこの優しそうな男の人が俺に話しかけているのに、そんなのおかまいなしに、割り込むように入ってきたんだ。やっぱこの女の子、こわい人かも。

「・・・ん。はい」

「え?」

 ずいっと、その無表情の銀髪の女の子は言葉少なく俺に白いトレイを差し出した。その白いトレイの上には菓子パンと牛乳パックのようなものと、あとから揚げやらデザートなどが並べられていたんだ。

「お、俺にくれるんですか?」

「うん。まだ朝ご飯、食べてないでしょ?これが貴方の朝食だから」

 あれ?この銀髪の女の子、意外と優しい女の子かも。俺はこの銀髪の女の子から朝飯が乗った白いプラスチック製のトレイを受け取り、それを病室にあった机の上に置いた。

「食べながらでいいんだけど、僕達の話を聞いてくれるかい?」

 それを見届けた優しそうな眼鏡の男の人はふたたび口を開いたんだ。

「あ、はい。いいっすよ」

 俺は白いトレイの上に置かれていた菓子パンを手に取った。

「本題に入る前に、さっきの続き自己紹介をしようかな。僕は警備局直下の警備局学校の寮監をしている、塚本 勝勇(かつとし)と言います。以後よろしくお願いします、えっと―――君の名前は?」

 俺は菓子パンにかぶりつくのを止めて、代わりに声を出す。

「あ、すいません。俺の名前は小剱 健太っす。健太って呼んでもらってもいいっすよ」

「ありがとう、健太くん。ところで健太くんの元の世界は―――」

「塚本焦りすぎ。まずは私達の自己紹介を彼健太にしたい。おっさんは黙ってて」

 でも、互いに話をしていたそんな俺達に、この銀髪の女の子はまたまた無遠慮に割って入ってきたんだ。

「ごめんごめん、僕としたことが気づかなかったよ」

 すっげー塚本さん、怒ったりいさめたりせず、さすが大人の対応。

「―――」

 銀髪の女の子は無言で塚本という人をジトっとした目つきで一瞥した。邪魔とか言われたり、おっさん呼ばわりとか・・・なんか塚本さんかわいそう。それから銀髪の女の子は俺の目を見た。

「私の名前は羽坂 奈留―――・・・警備局学校に通いながら、一応警備局境界警備隊の副隊長をしてる」

「え? 学校に通いながら副隊長をしているの?羽坂さんって」

「うん、まぁ」

 銀髪の女の子改め、羽坂さんはこくっと頷くと、俺から視線を外して今度はもう一人の、部屋の隅っこに佇んでいた彼のほうを見た。その彼とは昨日、刀の柄頭を使い、黒服を一撃で倒したその人だ。

「我が名はオテュラン家のアルスランだ。貴公と同じく元居た世界からこの五世界にやってきた『転移者』だ」

「え、ほんとっすか?」

「あぁ、そうだ。よろしく、ケンタ」

 彼は軽く俺に一礼をした。

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 俺も軽く頭を下げた。俺はあのときこの人が黒服を一撃で倒したところを見て、このアルスランという人に訊きたかったことがあったんだ。

「あの、アルスランさん」

「なんだ?ケンタよ」

「俺あのときのこと・・・アルスランさんが黒服を倒したときに思ったんすけど、なにかの剣術でもやってたんすか?アルスランさんって」

「いや、オレの場合は我流だ。だがまぁ、一応、刀の使い方は親衛隊の面々に教わった」

「親衛隊・・・っすか?」

 親衛隊ってなんだろう? どこかの王族の護衛部隊のことで合ってるのかな?

「あぁ、それとだな―――オレのことを呼ぶときは畏まる必要はないぞ。オレのことはアルスランと気軽に呼んでくれてかまわない。代わりに貴公のこともケンタと呼ばせてもらってもいいか?」

「あ、はい―――じゃなくて、解ったアルスラン」

 すると、彼は口元に微笑を浮かべた。

「それでいい。―――特に幼少の頃から成長するまでの間、父王の親衛隊筆頭のイスィクという名の男から、彼の一族ぐるみで世話になった。刀を持ったイスィクは強かったぞ、今のオレでもやつに敵うかどうか分からん・・・フフ」

 彼は不敵な笑みをこぼした。

「へぇ・・・って父王? アルスランってなんかその違うよな、なんて言ったらいいんだろう? よく分からないけど雰囲気が俺らと違ってるというか・・・」

「ふむ・・・」

 彼はそこで腕を組んだ。

「オレの故郷は、この日之国では『月之国』と呼ぶ場所と同じような場所になるらしい。確かにオレの故国であるエヴル・ハン国ではそのように光る板、電話というものは存在してはいなかった。通信手段は狼煙や駅伝制を用い―――」

 そこでアルスランは人差し指を上に向けて、天井のシーリングライトを指したんだ。

「また灯りは薪を燃やすか、家畜の脂を燃やすことで得ていたのだ」

「―――・・・」

 たぶんそれは中世だ。昨日ネットで調べたら、月之民の人々は文化的水準において古代~近世の人々と同等って書いてあったな。ということはアルスランの故郷の惑星はまだ中世の段階の星だったんだな。

「まぁ、でも日之民も月之民も同じ人間だし、別に気にすることないか。てか俺のいた地球だって千年前はアルスランのとことなんら変わらなかったもんな」

 西暦1000年ぐらいの日本は平安時代だ。当然も自動車も電話もないし、移動手段と言えば、徒歩か馬か、もしくは手漕ぎ船だった。

「そうか―――・・・」

 アルスランは口数こそは少なかったんだけど、なんか嬉しそうだった。俺はそこで紙パックにストローを刺してチューっと牛乳を飲んだ。ついでに菓子パンも一口―――あ、中身に着いた。これはアンパンだ。


「ねぇ、健太」

「ん?」

「健太はさっき『日之民』や『月之民』って言ってたけど、健太はこの世界のことをどれだけ知ってるの?」

「あ、あぁ―――」

 むしゃむしゃ、ごくんと俺はアンパンを一口飲み込んでから、そこで俺は昨日『SSCサービス検索』というオンラインシステムが導入されていた図書館のような施設を使ってこの惑星イニーフィネのこと、五世界のこと、日之国のことなどを調べたことを羽坂さんに話した。すると塚本さんが右手で自身の頭を押さえながらこんなことを言ったんだ。

「あちゃー健太くん、あのサービスを使ったのかぁ・・・。あちらさんの動きが早いとは思っていたけど、そういうことか。納得したよ」

「はぁ、健太は最悪だ」

 羽坂さんまでどんよりと大きなため息を吐いた。

「え?俺なんか悪いことしたんすか?」

「健太・・・SSCってなんの略だか解る?」

「羽坂さん?」

 えっとショートセキュリティ・・・かな?なんだろう?

「第六感社―――SIX SENSE COMPANYの略だよ?」

「えぇッマジでッ!!」

 あぁ、そういえば。一番、最初に現れた能力開発なんたらの怪人がなんか言ってたな。当社のサービスがなんとかかんとか。

「あの企業は街中にあのサービス網を敷いていて、今なにを誰が検索してるのか、とか誰がどのサイトでアカウントを使ったのか、とか一般の国民から情報を吸い上げてるの。これからは気をつけて。だから私達警備局員はあのサービスコーナーを使わない」

「お、おぅ・・・俺あそこでこの電話の充電までしたぞ・・・。そんなやばい企業だったのかって―――俺、誘拐されかかったんだったわ」

 俺はこの世界では使えない電話を取り出して机の上に置いた。なんかあの怪人にハッキングされた電話なんて薄気味悪くて、もうあんまり使いたくなくなっていた。

「健太くん、一応言っておくと、あの企業は一概に全ての所業が悪いとは言えないよ? 彼ら第六感社は日之国日夲の能力系の技術革新を成し遂げ、政界との関係も深いんだ。それからこんにちの、警備局も導入している『アニムス強度測定機』を開発したり、民間から能力者やそうでない者も広く集めて教育する『第六学園』という学園も運営しているんだ。特待生や困窮生は寮費や学費なども免除されるらしいよ」

「へぇ・・・なるほど光と影があるわけなんすね」

「うん、まぁね」

「塚本は甘い。第六学園は、奴らにしてみれば、単なる優秀な実験体を集める牧場にすぎない」

「まぁ、奈留の言うとおりだ、っていう人も中にはいるね」

「へぇ・・・いろんな意見があるんすね。でもなんか俺はいいっすわ」

 俺は面倒そうな顔をして首を横に振った。俺は第六学園に入れって言われてももうなんか母体の会社の印象が最悪だから、絶対に入学したくない。

「この世界の日之国に来て、いきなり第六感社の変な黒服達に誘拐されそうになるし、怪人は出るし、だから俺はなんとなく羽坂さんの意見に賛成っすわ」

「「怪人?」」

 塚本さんと羽坂さんの声が重なった。

「あ、はい」

 俺は塚本さんに、最初に出会った能力開発なんたらのおっさんのことを話して聞かせた。

「・・・なるほど、針崎さんねぇ・・・一応、警備局の上にあげておくよ」

 塚本さんは思案顔で俯いたんだ。そのとき彼の掛けている眼鏡に光が反射して彼の目元が見えなくなった。でも、真がよくやるみたいな仕草、右手で眼鏡をくいっと上げたことで、また塚本さんの目元が元に戻った。


 俺はデザートのプリンを食べ終えてからアルスランに話しかけた。

「そういえば、アルスランも警備局に入っているんだよな? 入って長いのか?」

「いや、オレはまだ半年ほどだ。こちらの日之国で彼女達に返しきれないほどの恩を頂戴した。そのためにオレは警備局に入ったのだ」

「ふーん。で、アルスラン」

「なんだ?」

「警備局ってアルスランから見て楽しいとこか?」

「無論だ。オレは存分に楽しませてもらっている」

「じゃあ元の世界に帰りたいとか思ったりは?」

「―――オレは元居た場所に帰ることはできないことをナルやここにはいないハルカという者達から聞いた。命の恩人である彼女達の言葉をオレは信じることにしたのだ」

「―――」

 元の世界に帰れないか・・・。やっぱりな、なんとなくそんな気がしてたんだ。

「それになぜだかな―――元の場所に帰りたい、という気持ちが湧かないのだ。それにこの世界での食は未だかつて食べたことのない料理ばかりでとても美味いものばかりなのだ」

「―――・・・」

 元の慣れ親しんだ世界に帰れない、という言葉を聞かされて普通の人は悲しくなるかもしれない。でも俺もアルスランと同じで、帰れなくても別にいいや、と思っていた。俺は昨日羽坂さんがその能力『電気』を使って黒服を一撃で倒した様子を見た。ひょっとしたらこの惑星イニーフィネに転移してきたことで、自分も超能力者になってるかもしれないんだぜ? せっかく来た異世界、楽しまなきゃ損ってもんでしょ。


「ケンタよ。オレはこの世界で彼女達に命を救われた。だからオレは彼女達が属しているこの警備局に恩を返したいと思ったのだ」

「―――そっか」

 それが転移者であるアルスランが警備局に入った理由か。

「ううん。違うよ、アルス。アルスに助けられたのは私達のほう。アルスに警備局に入ってほしいと頼んだのも私達のほうだよ?」

「いいのだ、ナル。それは些末なことだ。オレはナルにはとても感謝している。もちろんハルカやユキナ、カツトシにもだ」

「アルス―――」


 そこで羽坂さんがアルスランを見つめた。羽坂さんがアルスランを見つめるキラキラとした眼差し―――それを見て俺はピンときた。それは、俺の幼馴染である天音が敦司を見つめる眼差しと同じだったんだ。だから羽坂さんはたぶんアルスランのことが好きに違いない、と俺は思ったんだ。

 そして、俺の気持ちも固まったぜ―――

「あの―――」

 俺は意を決して腰かけていたベッドから降りた。

「今のアルスの話を聞いて決心が付きましたッ俺もアルスみたいに警備局に入れてくださいッ。お願いしますッ」

 俺はベッドの側で立ち上がると、腰を直角に曲げて三人にお願いをしたんだ―――。

「俺もアルスみたいにこの日之国日夲の警備局になにか貢献したいんだ―――」


Kenta VIEW―――END.

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