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五世界幻想譚-The Fantasy of Five Pieces-  作者: 高口 爛燦
序章『・・・ある日常の終焉』
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第十六話 俺が境界警備隊の少年少女の姿に憧れたいきさつ

第十六話


「行けッ」

「ちょッあんたら正気か!? 道の先には女の子が立っているんだぞッ!!」

 女の子の姿を認めた運転手は一瞬だけ車の速度を落としたんだけど、俺の右に座っている黒服の『行け』の言葉にまたぐんぐんと車を加速させていく。

「おいッ止めろッあの立っている女の子をひき殺すつもりかッ!!」

 俺の必死の叫び声にも黒服の連中は何も言わなかったんだ。猛スピードの車が立ったままの女の子に近づくにつれて、みるみるうちに女の子の姿は大きくなっていく。すると彼女にこの車のハイビームライトが当たり、その少女の髪の色が黒髪じゃなくて、なんか色素の薄い、あぁそうだ銀髪をしていることが見て取れた。


「――――――」


「え?ウ、ウソだろ・・・!!」

 銀髪の少女がすぅっと右腕を前に出したんだ。その彼女が右手で握っている『もの』―――それは銃だったんだ。彼女は右手に左手を添えて―――

「ッ」

 たぶん、その銃の引き金を引いたんだと思う。銃口から明るい閃光が四回見えたのと同時に―――

「うわッ!!」


 運転手やそれ以外の黒服も苦悶の声を上げながら、車が左右に大きく蛇行を繰り返し―――制御不能になった。たぶんこの車のタイヤを狙い撃ちしたんだ。


「くッ」

 そうしてそのまま路側帯を乗り越え、街路樹にぶつかって止まった。車のフロント部分は街路樹にめり込み、やばそうな白い煙を上げている。そして、街路樹のほうはというと、車がぶつかった部分から縦に大きく避けて、根っこから後ろに傾いてしまっている。やばい・・・!! これ絶対やばいやつだッ!! もし漏れたガソリンに火でも点いてみろ。そしたら爆発的に炎上するやつだ。たぶん生木の街路樹であろうとも燃え尽きてしまうかも。

「やべぇ・・・マジでやばい・・・!!」

 俺は自分のシートベルトを外して、助手席の模造刀ちゃんを回収すると―――左で伸びている黒服を下敷きにしながら、衝突の衝撃で開いた車のドアからなんとか這う這うの体で抜け出した。

「やばかった・・・。でも俺助かったんだよな―――」

 街路樹に手を付き後ろを振り返ると、後部座席の黒服四人はシートベルト着用を守ってなかったみたいで、四人とも頭から血を流して伸びていたんだ。俺はシートベルトをちゃんとしていたから特に傷を負うことはなかった。

「大丈夫?」

「え? 君はさっきの―――」

 俺に声をかけてきたのはたぶんさっき銃を構えて撃った女の子だ。その証拠に彼女の髪が銀髪だったから。たぶん歳の頃は俺と同じぐらいだろう。そんな女の子が銃を持ってるんだぜ? 日之国っていったいどんな国よ?

「あ、うん、俺は大丈夫―――」


「くそぉッ くそくそッ!!」

 伸びていたはずの黒服の一人がバンっと前のドアを勢いよく蹴破って車外に出てくる。やめてくれッそんなにドアを勢いよく蹴るなよ。火花が散って、漏れたガソリンに火が点いたらどうすんだ。

 そのリーダー格の、さっき運転手の黒服に課長と呼ばれてた男はそうとう頭にきてるみたいで怒りの形相だったんだ。

「警備局の税金泥棒がッ」


「―――」

「あ、お、おいってば―――」

 銀髪の少女は無言でとことこと数歩、そのキレてる黒服に近づいた。彼女が着ている茶色の服はどこかの軍隊かなにかの制服かもしれない。その服の内ポケットに手を入れて一枚の紙を取り出すと、男に向かってピラッと放った。一枚の紙はひらひらと男の足元に落ちる。


「警備局境界警備隊より―――逮捕状。罪状は『転移者法第一条転移者保護・報告等義務違反』ならびに『誘拐罪』、『転移者隠匿未遂罪』、さらに『武器準備集合罪』でお前達を逮捕する」

「逮捕する?学生部隊のガキが粋がるなッ!!」

「粋がるな、はそっち。第六感社ごと私達警備局に潰されたくなかったらさっさと警棒を手放すことを勧める、さもないと傷害容疑もおまけでつく」

「なめるなッ!!」

 男は足元に落ちた、その逮捕状の罪状が記された紙を踏みにじりながら、警棒を取り出すとそれをジャキンといわせて構えた。


「遅れてすまなかった、『転移者』よ」

「―――!!」

 声を掛けられるまで全然、彼の気配を感じなかった。俺のすぐ横にはいつの間にか一人の少年が立っていたんだ。少年というよりも、もう少し年上な感じだった。たぶん歳は俺より少し上かもしれない。

「もう少しだけ待っていてほしい。この場を制圧する」

「は、はい・・・」

 そうしてその彼もまた警棒をチラつかせる黒服に近づいていった。え?でもたった二人だけだよな? 二人だけで警棒を振り回す犯人を捕らえられるのか? 俺が住んでいた日本じゃ考えられない。


「さっきその逮捕状を踏み破ったから、『公文書毀損罪』も追加する」

「このガキッ!!」

 黒服がその警棒を銀髪の少女に振り上げたとき―――さっきの彼がその間に割って入ったんだ。

 金属同士が激しくぶつかる甲高い音―――

「ッ!!」

 俺は見た。黒服の警棒を受け止めた彼の日本刀のような『刀』を。

「―――女に手を上げるのは感心しないな。そういう奴には遠慮がなくなりそうだ」

 さっきの青少年の目がすぅっと細くなる。


「・・・」

 かっけー。なんか知らないけどこの人、めっちゃかっこいいんですけど。男の俺でも惚れてしまいそうだぜ。


「アルス、犯人を殺しても半殺しにても一応だめだよ?」

「分かっているよ、ナル。だからこうする―――!!」


 彼は無言で黒服の警棒を刀の刀身の反りに沿っていなし、その黒服が振り下ろした警棒の軌道を綺麗な動作で躱した後、右手を反転させて―――

「ガ・・・ッ!!」

 刀の柄頭で黒服の鳩尾にドンと打ち込んだんだ。たぶん、めちゃくちゃ苦しかったんだと思う、黒服は右手からカランコロンと警棒を落とし、くの字になって悶えた。

「―――これがお前の限界だ。潔く縛につくことだな」

 彼はキンっという小気味のいい音とともにその刀を鞘に納めた。


「―――」

 マジでめちゃくちゃかっこいいじゃねぇか!! これが。この人達が警備局なんだ。彼は刀で、さっきの彼女は銃使い。話すせりふもめちゃくちゃかっこいいし―――

「まじでかっけぇ」

 ―――マジで警備局の人ってこんなにかっこいいんだ―――・・・


「ふんっこのようなもので」

 それから彼はしゃがんで男が落とした警棒を拾い上げた。

「ナルよ。ナルに怪我がなくて本当によかった―――っナル後ろだッ!!」

「え?」

 ゆっくりと、『なる』と呼ばれた銀髪の少女が振り返った。そこにいたのは黒塗りの警棒を構えた黒服だ。

「一万ボルトだ、死ねッ・・・!!」

 その声の主はさっきまで伸びていた黒服の一人だった。

「ッ」

 俺は一目見て解った。あの黒塗りの警棒はただの警棒じゃない!! 俺も背中に押し当てられたスタン警棒だ。

「あ、危ないッ!!」

 俺の叫び声も空しく、その黒服はバチバチと紫電が走るスタン警棒をあの、なると呼ばれた銀髪の少女の露出している頸筋に押し当てたんだ。

「―――」

「くくく・・・ハハハハッ―――俺達を逮捕するだとバカめッ!! おっと近づくなよ?この女がどうなってもいいのか―――!?」

「お前にはほんと同情するよ、オレは」

 さっきの彼はやれやれといった感じで肩を竦めたんだ。なんで? なんでこの警備隊の男の人は仲間の銀髪の少女が危ないというのに、こんなにも冷静なんだろう? そのことが俺には理解できなかったんだ―――。その黒服も俺と同じようなことをたぶん考えている、と思う。

「はぁ?なに言ってる―――」

 そのとき、頸筋にスタン警棒を押し当てられていた銀髪の少女がゆらぁっと身体を動かしたんだ。そうして、銀髪の少女はスタン警棒の黒服に向き直った。

「え?」

 俺は気の抜けたような声を出していた。まさか、あのスタン警棒は電池切れか?そうこう俺が思っている間にその銀髪の少女の白い左手が黒服のスタン警棒をゆっくりと掴んだんだ。

「私、それ効かないの―――」

 銀髪の少女がにぃっと嗤う。

「ひ、ひぃッ!! な、なんで動けるんだッ!? 大型動物でも昏倒する一万ボルトだぞッ!! なんなんだッなんなんだお前はッ!!」

「さっきのお返し―――」

 彼女の左手はスタン警棒を握ったまま、それから彼女の白い右手がすぅっと上に向かって伸ばされる。彼女銀髪の少女のその右手は黒服の喉元を掴んだ。

「うぐ・・・」

 俺の見た感じではその右手に握力はこもっていないはず、なのに黒服は苦しそうな声をだし、顔も引き攣った。

「バイバイ―――」

 もうすでに日が沈み、夜になろうとしているからよく見えたのかもしれない。彼女の全身から、まるで雷が光ったときみたいな紫色の光とバチっという電気がショートしたような音が一瞬だけ放たれたんだ。

「カッ―――・・・!!」

 銀髪の少女にスタン警棒を押し当てた黒服はグルンと白目を剥いた。それから、銀髪の少女がその頸を掴んだ右手を話すと、黒服はドサッと銀髪の少女の足元に崩れ落ちたんだ。


「―――――――・・・」

 俺は言葉を失っていた。たぶんこの電撃が銀髪の少女の異能に違いない。黒服の男にとっては相当な量の電力と電圧だったみたいで、倒れてもなお男はビクンビクンっとその全身を痙攣させていたんだ―――

 そのあとの手際もすごくよかったんじゃないかな。ぞろぞろと制服をきた警備局の人達がやって来て倒れていた黒服五人をパトカーみたいな車数台に押し込んで連行していったんだ。


「すまないが、貴公も事情聴取したいのだ。警備局まで来てほしいのだが、いいだろうか?」

「え?あ、はい」

 一人でポツンと立っていた俺に、さっきのリーダー格黒服を倒した青少年が近づいてきてそんなことを言ったんだ。元々警備局に用事があった俺は素直に頷いた。

「すまない。ではこちらにきてくれ、参ろう」

 背中を軽く押されて俺はその彼についていく。それにしてもこの人はさっきからなんか、古めかしいというか、かしこまっているというか、なんかそんな言い回しが多い人だな、と俺は。そのときの俺はそんなことを全然深く重要視していなかったんだ。


///

「私達は今夜、貴方の警護を兼ねて向かいの部屋で休む。もし何かあったらすぐにこれで電話して。このボタンを押すだけで私達に繋がるから」

「あ、うん。分かった」

 俺は銀髪の少女から渡された昔の携帯電話のような通信機を受け取った。すると、今度は黒服を刀で倒した人が口を開いた。

「コツルギ=ケンタと言ったな」

「あ、はい」

「オレの名前はオテュラン家のアルスランだ、これからはオレのことはアルスランと呼んでくれてかまわない」

「あ、はい。分かりました」

 へぇ、彼の名前はアルスランというのか。てっきりこの日之国日夲は俺の日本と同じ印象だったから、彼みたいな名前の人もいることを知った。

「明日の朝また来る。では、おやすみだ」

「おやすみ」


 そう言い残すと、黒服を刀の柄頭で華麗に倒した彼と銀髪の少女は引き戸を閉めて部屋を出ていった。

「―――おやすみなさい」

 ポツンと俺は一人になってしまった。変な黒服達の魔の手から俺を助けだしてくれた警備局の人達に警備車という車で連れられてきた場所は病院だったんだ。なんでもこの病院は警備局直下の警備局病院というところで警備体制が抜群にいいということだったんだ。

「ふぅ・・・」

 満腹になった腹をさすった。俺のために飯まで用意してくれた警備局の人達―――ただのおにぎりとコンビニ弁当だったけど、今の―――腹ペコだった俺にとってはとてもおいしい夕飯だったんだ。一応、警備局の人達からは、この病院の食堂を自由に使ってもいいとは言われている。

「さて―――」

 俺はさきほど渡された携帯電話と自分が持ってきた電話を枕元に置いてからベッドの中に潜り込んだ。

「―――」

 薄暗い部屋の中、天井を見上げる。今頃、敦司や真とか幼馴染達はどうしてるんだろうか? そういえば真のやつ成績のことで悩んでいたよなぁ。大丈夫かな―――あいつ。

 ベッドの脇には俺がオタク街の中古ショップで買った模造刀が立て掛けられている。

「―――ふ、ふふふ」

 思わず笑みが漏れてしまった。俺もこれを手に、あのアルスランという人みたいに凶悪犯をバッタバッタと薙ぎ倒していって―――、そういえば、この惑星イニーフィネの日之国の日之民は超能力が使えるって書いてあったよな? 現に透明人間みたいに声だけ聞こえた女もいたし、あの銀髪の少女も黒服を電撃一つで倒していた。―――俺もなにかの超能力を持ってるかも。そんなちょーかっこいい俺の自己妄想は布団の中で果てしなく続いていく。

 それにしてもほんとに、―――あの黒服を倒したときのあのアルスランという人の体捌きはめちゃくちゃかっこよかったよなぁ。それとあの銀髪の少女が雷のような電撃能力を使い黒服を一撃で倒したやつも。そういえば、あの銀髪の彼女の名前はなんて言うのかな? 

 もし、この日之国日夲で仕事に就くなら、こんな異能を駆使できる職業に就いてみたい。だってさ、いやたぶんこの日之国でもサラリーマンとか運転手、倉庫内作業員とかいう職業もきっとあるに違いない。でも、そういった職業は日本にもあったし、できれば異世界でしかできないような異能を、超能力を活かした仕事に就いてみたいっしょ? だから俺はフィーネさんに連れられてこの惑星イニーフィネに来たはずだ。

「うん?フィーネさん・・・?」

 フィーネさんって誰だっけ? ふとその顔や声を思い出したような・・・? 誰だっけ?でもその直後に思い出しかけたものはふぅっと霧散して消えていったんだ。

「ま、いっか・・・」

 そうして、俺は疲れていたせいもあるだろう・・・ゆっくりと・・・その瞼を閉じたんだ。

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