楿子とジョークグッズ
今回、ちょっと長めです。
こんにちは、最近色々なエナジードリンクにハマっており、色々な商品に手を出している中野です。
5月も終盤に差し迫り、来たる雨季に気が滅入りそうになりますが、その気候が過ぎ去ったら夏休みです。心がウキウキしますね。雨季なだけに。
しかしながら7月の前半に期末テストが予定されており、つい先日中間テストが終わったのも束の間。改めて嫌な通過儀礼と存じております。やっぱりそう簡単にはウキウキにはなれませんね。雨季なだけに。
「さて、次の時間の準備するか…」
午前中最初の授業は体育でした。朝から運動するのはちょっと辛いですが、私たちが通う紅茶の水学園は最寄り駅が片道約2kmとそれなりに遠く、登下校がなかなかのウォーキングになったりします。理由は簡単、この学校が超のつくお嬢様学校で広大な敷地を有しているからです。
というより、電車通学をしている生徒は割合珍しく、大体は自家用車で送り迎えをして貰ったり、仲の良く比較的家の近い生徒同士でタクシーに相乗りして登下校しているそうです。そして庶民派の私は勿論電車通学です。
そう言えば私の自己紹介を殆どしていなかった様な気がします。名前は省略しますが、年齢は15歳の1月生まれ。この学校には高校から編入した為、地元の公立中学を卒業しました。
実家は輸入系雑貨の商店を営んでおり、両親は買い付けに海外を飛び回っている為、基本的に家に帰ってきません。3〜4ヶ月に一回くらいひょっこり帰ってきます。
実際、お嬢様学校に通わせられるだけの学費を納められるくらいなので、実家の羽振りはそれほど悪くないと思うのですが、普段の生活費を気が向いた時に気が向いた金額しか振り込んでくれない為、いつも金欠です。まぁどっちにしろ送り迎えしてくれる人も居ないので、親がくれた脚を使って通うつもりでしたけど。(というか、高校編入組の私にとってはそれが当たり前なんですが…)
とまぁ、簡単な自己紹介を済ませましたが私が言いたいのは、私が当初思っていた以上にこの紅茶の水学園はメンツを重んじる慣わしがあります。学園の模範となるべく日々を過ごさなければいけないわけで、学園の内外問わず常に見られているという意識を「ぷっはぁー!運動終わりのキンキンに冷えたモンエ○は脳髄に効くぜぇ〜!!」切らす事が無いように気を付けなければ…。
ん?いま何か聞こえた?
次の授業の準備に取り掛かろうと鞄の中を確認する。すると見慣れない物が入っており、心当たりがない為取り出して確認する事にした。
鞄に入っていた物
☆タバコ(中身入り)
☆瓶ビール(330mlの小瓶)
…ナニコレ?
取り敢えず、落ち着こう。
「ふぅ〜」
まず、これらは私のじゃない。
でも対応を間違えると、かなりヤバい。私が疑われたら確実に退学だし、持ち主が所持していた事が公になるとその人もこの学園を去る事になるだろう。
現状、私の知り得る限り、この学校に不良生徒はいない。思い当たる人物も居ない。
次に考えられるのは私の鞄を自分の私物だと勘違いして中に入れた人物。周囲を見渡すが、該当者は居ない。楿子も私の隣席に居るには居るが、コイツはそういうタイプの問題児ではない。(問題児ではないとは言ってない)
周囲の誰かに相談するのも手ではあるが、うっかり口を滑らせる可能性も微レ存の為、極力他人の耳に入る事は避けたい。
であるならば、本日の終礼まで私が預かっておいてこっそり処分する事も考えたが、抜き打ちの持ち物検査が入るとその瞬間私の学園生活が終わるナリ。事後報告で信頼を勝ち取る事はほぼ不可能だろう。
やはり誰かに相談するべきだろうか。適材として考えられるのは前の席に座るおさげ髪の委員長。しかしドの付く生真面目の為、絶対先生に報告する様言われるだろう。既に展開が見えている。私は出来れば事なかれを貫きたいのです。
次に考えたのは楿子とは逆方向の隣席に座るボブカットの神田さん。神田さんに目線を向けると、日本史の教科書を食い入る様に眺めながら『秀吉攻め信長受けは最高カプ。ヒデノブてぇてぇ…ハァハァ…』などと漏らしていた。
コイツはヤバイ。
消去法で該当するのが楿子。よくよく考えてみると先生達は楿子をアホの子だと認識している節があり、仮に口から漏れたとしてもそれほど問題にならない気がしてきた。
モン○ターエナジーを飲み終え、けぷっと噯をしている楿子に相談する事にした。
「楿子、今大丈夫?」
「うん?どったの?」
「私の鞄にこんなの入ってたんだけど、どうすれば良いかな…?」
楿子にしか見えない角度で私は危険物を見せる。
「あっコレ私のじゃん」
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
教室中が私の方を向く。まずいと思い、大げさに「ぇぇぇぇぇぇぇぇ」の部分をビブラートを効かせて誤魔化す。
…何とか誤魔化せたっぽい?
周りに聞こえないくらいの声量で、こっそり楿子に訊ねる。
「(アンタ、未成年がこんなの持ってて良いと思ってんの?)」
「大丈夫だよ、これ中身違う物入ってるよ」
「へ?」
頭に3点リーダーが浮かぶ私。どういう事?
「これ、お父さんの知り合いの駄菓子メーカーの人に作って貰った本物ソックリのお菓子だよ。このタバコみたいなのは中身ココア○ガレットだし、瓶は炭酸ジュースだよ。まだ試作品だからパッケージは丸々本物に似せて作ってるけど」
「はぁぁぁぁぁ、びっくりした。寿命が縮まるかと思った」
ふぅ、とひとまず胸をなでおろす。ホントに良かった…。
「っていうか、何でそんなの持ってんのよ」
「いやぁ、イタズラに使えるかなって思って」
「普通に度を超えてるわ!」
タチが悪すぎる上に、ヤケに凝ってる分余計に始末が悪い。
「取り敢えず、返しとくねコレ」
「あっゴメンゴメン」
出来るだけ人目を避ける様に、私は先ほどの2点を楿子に手渡した。
「あっ、今日持ち物検査あったらアンタヤバいよ?」
「大丈夫だよ〜。高等部に上がってからまだ1回もやってないし」
「ふーん、なら良いけど」
ガラッと、次の授業である倫理の先生(生活指導担当)が教室に入ってくる。
「皆さん着替え終わりましたか?いきなりですが、本日の今から素行調査を兼ねて荷物検査を実施します。授業をする時間が減るのは勿体無いので、今すぐ始めたいと思います」
「「…………。」」
これ、終わったな。
結局私は楿子に付き添って先生に正直に説明をし、誠心誠意の謝罪をして事なきを得た。そして楿子は今年度初めての反省文を書いた。
貸し、1つな?
委員長…学年主席。真面目の中の真面目。将来の夢は裁判官。
神田さん…腐の人。実は女性カプもイケる?
倫理の先生…生活指導部の長を務めるバリバリのデキる女性。授業でわからない事を質問しに行くと、とても丁寧に分かるまで教えてくれるなど生徒思いな一面もあり、厳しそうな見た目に反して意外と優しい。