楿子とお茶
こんにちは、中野です。
葉桜が緑々と生い茂る5月も半ばに差し掛かるこの時期、懸念しておりました毛虫も今年は見る事がなく大変安堵しております。私は虫が苦手なので、助かる所存でありました。
今日のこの時間は茶道の授業を受けております。流石はお嬢様学校と言ったところか、幼少期から嗜んでいる生徒がチラホラ見られており、野点の作法も完璧と言ったところでしょうか。高校編入の私にとっては芸事に馴染みがなく、大変肩身が狭い思いです。
シャァァァ カッカッカッ
「やべぇ溢れちゃった」シュワシュワ
隣でお茶を点てずに、粉末状のメロンソーダを溶いてるお邪魔虫が居なければ、もっと肩身が広かったのでしょうか?えぇ、きっとそうに違いない。
楿子が私に完成したお茶もどきを勧める。
「でけたでけた。はいワタシちゃんどうぞ」
「何でお茶から炭酸湧いてくるのよ」
「混ぜ方にコツがあるんだよ。メレンゲを作るみたいに空気をいっぱい含ませて…あっ、作り方は企業秘密ね?」
知りたくもないよ。
「じゃあアンタのポケットから見えてるそのビニールはなに?」
「企業秘密です」
「アンタが飲め」
「シェフは、作る専門家」
コイツ何言ってんだ?しかもシェフ関係ない。
「オラ、飲めよ。製法隠すくらいの結構なお手前なんでしょ?」
「ちょ、それメロンソーダの他にセンブリ茶とか色々混ぜてるから飲まなくてもマズいってわかるの!」
「お前マジで何やってんの??」
悪ふざけの限度超えてんだろ!
私と楿子が物体Xの押し付けあいをしていると、見回りに来た茶華道担当の先生が反応する。
「あら、流石は板金さん。結構なお手前ね。少し御賞味させていただいても宜しいかしら?」
「あっ、ちょっ、先生」
「どれどれ…うん、、ッゴファ!!」
先生が勢いよく吐き出し、その衝撃で倒れ込んでしまった。
「「先生ーーー!!」」
ヨロヨロと立ち上がる先生。
「…い、板金さん。後で職員室まで来なさい」
「…え、あっ、ハイ」
「(…結構な手前味噌だった訳ね)」ボソッ
後日、みっちりと作法を叩き込まれた楿子の目はどこか虚ろでした。ざまぁ味噌漬け、と言ったところかな?