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アトレア城強襲

過去回想②

 現在の季節は冬だ。街中の木々はすっかり葉を落とし、寂しさを滲ませる。それに加え、クーデタの影響で人々は極力外出を控えているせいか街はすっかり閑散とし、この物悲しさに拍車をかけているようにすら思える。

 このまま勇者パーティの暴挙を許せば、街は本当にゴーストタウンになりかねない。五年あまり住んでいる愛着のあるこの街を勇者の好きにさせたくないとあたしは思う。

 アトレア城の周辺は勇者側についたであろう衛兵が殺気立った雰囲気を醸し出し、実にものものしい雰囲気に包まれていた。やはり外を出歩いている一般市民はここでもほとんどおらず、皆の混乱ぶりがよくわかった。そんな中、あたしたちは迷わず城を目指して進んでいく。

「待て! アトレア城に何の用だ?」

 案の定、あたしたちは二人の門番に呼び止められる。マントを深々と被り、怪しさ満点の人間が勇者のいる城に現れたとあれば、警戒するのも当然だ。あたしたちは彼らの呼び止めに応じ、一度その場に立ち止まる。

 門番は剣を構えたままこちらにやって来る。抵抗すれば斬り捨てかねないほど彼らは殺気立っている。しかし残念ながら、あたしたちはこんなところで止まるつもりは毛頭なかった。多少強引な方法を使ってでもここを突破する。あたしはそのことだけを考えていたんだ。

「おい、あんたらここで何を……」

 門番があたしたちに肉薄する。そしてそれこそが合図だった。

「ステラ!」

 あたしが彼女の名前を呼ぶと、あたしたちは同時にその場から走り出す。

「なっ!?」

 動揺する門番たち。彼らは急いであたしたちを捕らえようとする。

 それに対し、ステラはまず前方に向かって両手を突き出した。すると何もないところから、その手に柄の長さが身の丈ほどはある鋼鉄製のハンマーを出現させた。

 ハンマーを手にしたステラは一度ギロリと門番を睨みつける。彼らはステラの眼光に僅かにたじろいだものの、そのスピードをほとんど緩めず、尚もこちらに突撃してこようとする。

「沈め」

 彼女はそんな門番二人に向かって行き、そして容赦なく銀色に輝くそれを彼らに向かって振り抜いた。

「ぐえ!?」「うぐぉ!?」

 吹き飛ばされる門番。いくらこの城の門番だろうと、パワーが自慢のステラのハンマーを食らって無事でいられるわけもない。男たちは完全に意識を失い、その辺りで卒倒していた。

 見張りのいなくなった門を、あたしたちはそのまま走って通り抜け、城門の内側へと侵入した。

「侵入者だ!」

「王家の差金かもしれん! すぐに捕らえろ!」

 あたしたちの後方で怒声が聞こえる。恐らく、あたしたちが不法侵入したことはあっという間に方々に拡がるだろう。このまま呑気にここにいたら、城中の衛兵が集まってくるのは目に見えている。敵に囲まれてしまったら、あたしたちが勇者の元へ辿り着くことは難しくなってしまう。

「ステラ! もっと急いで!」

「は、はい!」

 あたしはなんとか敵が集合する前に勇者の元へと辿りつこうと焦る。ステラだって全力で走ってくれていることは分かっているけれど、焦りはあたしから冷静な判断力を奪っていく。

 そして努力も虚しく、あたしたちは最も避けたい状況に陥ってしまった。

「シーラ!」

 勇者パーティの面々が五人、その姿を現す。あたしに向かって声をあげたのは、五人のうちの一人、勇者の懐刀であるアスカ・エリオットだった。

 アスカは長いブラウンの髪が特徴的な美人剣士で、あたしが勇者パーティにいた時、彼女は実力的にはNo.3だった。

 正直な話をしてしまうと、あたしは彼女のことがあまり得意ではない。というのも、当時あたしがユーリの婚約者となった後、明らかに彼女があたしに対して冷たい態度を取るようになったからだ。あたしは、多分彼女はユーリのことを好きなのだと思ったけど、問い詰める機会もなかったので、結局真相は未だに闇の中となっていたんだ。

 アスカは長いブラウンの髪を振り乱し、あたしにこう問いかける。

「あなた、いったい何しに来たの? あなたにはもうここに来る資格はないはずよ!」

 アスカはあからさまにあたしを見下しそう言う。あたしはそんな彼女の態度にイラつきながらも、なんとか感情を抑えてこう言った。

「そんなこと分かっているわ。あたしはクーデタなんてふざけたことをやめさせに来たのよ!」

 するとそんなあたしに対し、アスカは思い切り睨みつけながらこう切り返す。

「戻りなさい! あなたには関係のないことよ!」

「関係なくなんてないわ! いくら今は一般人でも、あたしはこの国の国民よ。あたしは仕えるべき君主はアトレア王家と決めているの。その王家を滅ぼそうだなんて、そんな勝手なマネは許さないわ」

 あたしの言葉にアスカは更に表情をキツくさせる。よほどあたしの言葉が気に入らないのだろう。

 あたしと彼女は、はっきり言っていがみ合っている。そんなあたしたちが今更互いにわかり合うことなんて不可能なんだ。

「あたしが、力ずくでもあなたたちを止めるわ!」

 だから、あたしにできるのは、もはや実力行使しかないのである。

「……いいわ、そういうことなら受けて立つわ。そして我々には敵わないということを思い知りなさい!」

 あたしに止まる意思がないことが分かると、彼女らは一斉に攻撃態勢をとる。

「シーラさんには触れさせない!」

 すると、敵が攻撃を仕掛ける前に、すかさずステラが先制攻撃を仕掛けた!

 ステラは頭上に十数個の光の球を出現させる。そしてハンマーでそれらを一斉に打ち出した。

 ちなみに、その光の球は魔術弾と呼ばれるものだ。魔術弾とは魔力で造り出されている。それらはステラによって、それぞれ一直線に敵へと放たれた。

 敵はそのあまりの速さに、それらを紙一重で躱すことがやっとのようだった。

 ところで、この世界で「魔術」を発動させる為には何が必要だろうか。

 魔術には大きく分けて二つの工程がある。まずは空気中に霧散している「魔力」をかき集める必要がある。そしてそれを結晶化し、魔術の素となる「魔力石」を造り出す。その作業をあたしたちは「魔力生成」と呼んでいる。

 ステラはものの数秒でその作業を完了させ、素早く魔力を体内に取り入れてみせた。彼女は取り入れたその魔力を、魔術弾の生成の為に使用した。このように魔力を消費し魔術を行使する為の行程を「魔術変換」と呼ぶ。

 魔術の実力は以上二つの行程、「魔力生成」並びに「魔術変換」がいかにスムーズに行えるかで測ることができる。要は、このスピード感でこれだけの魔術攻撃を行えるステラの実力は言わずもがな高いということになるわけだ。

 ステラの攻撃を辛うじて避けた勇者パーティの面々は、今度は反撃に転じようとする。

 あたしはその隙を与えないよう攻撃態勢に入る。

「シーラさん!」

「助かるわ!」

 ステラが再び素早く生成した魔力石を受け取り、あたしは魔力を補充する。そしてロッドを構え、体内に流れる魔力をロッドの先端に集中させこう叫ぶ。

「我の前に平伏せ!」

 発動させたのはあたしの得意な属性「闇」の魔術だ。これは広い範囲に半球体の黒いオーラを発生させ、その中に囚われた人間には高重力による圧力が襲いかかるというものだ。

 あたしはその魔術で五人の内の二人を重力の檻に閉じ込めることに成功する。しかし残りの三人にはそれを突破されてしまった。

「シーラ!」

「ぐっ!?」

 アスカの剣とあたしのロッドがぶつかり、激しく火花を散らす。

 かつてなら、いくら高い攻撃力を誇るアスカの一撃でもあたしは容易く跳ね返せたっていうのに、魔導士としての戦闘経験の浅い今のあたしでは彼女の攻撃を防ぐことは、正直な話全然容易じゃなかった。しかしあたしは意地でもここから退くわけにはいかなかった。アスカたちを倒し、勇者のところまで辿り着く。そしてこのふざけたイベントを終わらせる。あたしはその為にこれほどの無茶を犯したのだから。

 アスカは剣を押し込み、あたしをロッドごと切り裂こうと力を込める。

「もう諦めなさい! あなたはもう、あの時のような最強の魔術師ではないわ! あなたの時代は終わったのよ!」

「そんなことはない! あたしは戦える! 最強の名は、まだ捨てたりなんて……」

「まだそんな戯言をぬかすか?」

「え!?」

 気付いた時には、視界には槍を持った新たな敵の姿があった。なんと、現在の勇者パーティにおけるNo.2のあのアスカは、あたしをおびき寄せる囮だった。そしてやつらの狙いは、まさにこの瞬間を生み出すことにあった。

 しまったと思った時には遅い。槍使いの男、アレフはあたしの心臓目掛けて槍を突き立てていた。

「シーラさん!」

 それでも、咄嗟にステラがアレフに攻撃を入れてくれたおかげで、その槍は辛うじて致命傷にはならずに済んだ。でも少なくとも、その槍はあたしの右腕を抉っていた。

「ぐ……」

 切り裂かれた右腕に耐えられないくらいの激痛が走る。あたしはこれ以上右手でロッドを握ることが不可能になってしまったのだった。

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