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逆転の秘策

「なんだ!?」

 あたしの義手と義足が爆発し驚愕するダレル。狙い通り、爆発によってあたしを拘束していたバインドは砕け散った。今こそ魔術を発動させるチャンスだ。

 地面に伏したままではあるけど、あたしはすぐさま全体魔術を発動させる。

「我の前に平伏せ!」

 発動されたのはあたしの得意な「闇」属性の魔術だ。クーデタ発生当日に勇者パーティに勝負を挑んだ時と同じように、広い範囲に半球体の黒いオーラが発生し、その中に囚われた人間に高重力による圧力が襲いかかる。そしてそれにより、この場所にいるすべての人間が地面に伏すことになった。

「この! こ、小賢しい真似を!!」

 地面に倒れこみながらもなお、ダレルはあたしに襲いかかろうとする。一方あたしは手足を失いもう動くことはできない。しかしバインドがなくなった以上、あたしを縛るものもまた何もないのである。

「来て! あおい!」

 あたしは万感の思いを込め彼女の名前を呼ぶ。すると、なんとあおいが突如として空間の狭間から現れたんだ!

「シーラあああ!!」

 一体どうやって彼女がそんな芸当をしているのかは分からない。もしかしたら、あたしと彼女の魔術核が僅かながら繋がりを持ったからこそこんなことが可能になったかもしれなかった。

「シーラ!? いったい何が!?」

 あたしの前に現れたあおいは、手足を失い、更に服を引き裂かれているあたしの姿を見て混乱の渦に飲まれる。しかし、あたしに手を伸ばそうとしているダレルを見て大体の状況を察したのか、一転して怒りを露わにした。

「貴様の仕業かあ!?」

 あおいはその美しい琥珀色の目を最大限に鋭く尖らせ、あたしに襲いかかるダレルに怒声を浴びせる。そしてそのまま、惨めに地面を這う巨漢の男目掛けて刀を振り下ろす。

「ひいい!?」

 恐怖のあまり情けない叫び声をあげるダレル。なんとか彼女の刃を躱そうとするが、やつをあおいが見逃すわけもない。そしてあおいは思い切りダレルの腹を切り裂いた。

「うげえええ!?」

 腹から血を噴くダレル。しかしやつのあの分厚い肉壁は、多少斬りつけたくらいでは致命傷にならない。怒りに震えるあおいは、尚もダレルに斬りかかろうとする。

「よくもシーラを! 私の(・・)シーラを傷つける者は何人たりとも許さん!!」

「や、やめてくれええ!?」

「黙れ! シーラは本当に優しくて、美しくて、温かい方なんだ! そんな方に、貴様ごときが触れていいわけがない!」

 怒れる彼女のまっすぐな言葉があたしの心を打つ。

 あたしの魔術の効果が切れ、血を撒き散らしながら必死に逃れようとするダレルをあおいが追い詰めていく。そんなダレルを守ろうと衛兵が群がってくるけれど、その程度はあおいの敵じゃない。

 目を瞑り刀を構えるあおい。するとあおいの身体を碧い光が包んだ。そして、

「邪魔をするな!」

 気合いの一声と共にあおいは力を解放した!

 刀から衝撃波が放たれ、衛兵たちは悉くその波に飲まれていく。それによりあっという間に多数の衛兵が戦闘不能になる。

 しかし肝心のダレルは、なんと衛兵を盾にして辛うじて攻撃を避けていた。それでもやつはさっきの斬撃による出血が酷いのか、あおいの攻撃が一旦止むとその場に倒れこんだ。

 もはや、やつはまともに逃げることもできないのは間違いない。だがそれでもあおいの怒りは全く収まる気配がない。

「覚悟しろ!!」

 あおいは尚、鬼の形相でダレルの息の根を止めようとする。あたしはそんな彼女に向かって叫んだ。

「待って! あたしは大丈夫だから!」

 あたしは必死に声を張り上げあおいを止める。するとあおいは急いであたしに駆け寄ってきた。

「で、ですが、この男はシーラを傷物に……」

「だ、だから大丈夫だって! 襲われそうになったけどギリギリ大丈夫だったから! あと手足は自分でやったの」

「え? 自分でというのは、どういう……?」

 あおいはあたしの言葉がイマイチ理解できないのか首を傾げている。すると、突然別の男の怒声が響き渡った。

「お前たち! この女が殺されてもいいのか!?」

 視線をそちらに向けると、なんと衛兵の一人がセシリアに刃物を向けていた。

「セシリア!?」

「シーラ、私のことは、いいですから……」

 自分の命が危険に晒されているにも関わらず、セシリアはまたしても自身よりもあたしたちのことを優先しようとする。男はそれが気に入らないのか、そう言うセシリアを更にキツく締めようとする。

「黙れ! お前ら、この女を殺されたくなかったら武器を捨て……」

 しかし、次の瞬間男はセシリアを放し、その場に崩れ落ちていた。

「な、何が起こったの?」

 あたしが困惑していると、男がいたところに祖母が立っていた。セシリアを助けてくれたのは彼女だったんだ。

「アリス!? いつの間に!?」

「今よ、今。あおいが突然消えちゃうからビックリしたけど、どうやらあなたたちの魔術(コア)の繋がりのおかげで空間転移が可能になったようね。ね、あたしの言う通りにして良かったでしょ?」

 祖母はウインクをしながらそんなことを言う。彼女はいつも一見するとあまり意味のなさそうなことをしつつも、最終的にあたしたちにとって本当に役に立っていることがほとんどなんだ。エルフである彼女がわざわざ人間に変装してあたしを助けてくれている理由は未だによくわからないけど、祖母が仲間にいてくれるのは本当に心強かった。

 まあ、掌の上で転がされているようでちょっと悔しくもあるのだけど……。

「あ、アリスさん、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか……」

 セシリアは涙を流して頭を下げる。そんな彼女の頭を祖母が撫でてあげる。

「怪我がなくて何よりよ。あ、そうだシーラ、少し手と足に触るわよ」

 そう言って今度はあたしの近くで屈むホットパンツ姿の祖母。六十代のくせに相変わらず健康的な太ももだ。これで見た目の若さに関してはほとんど何もいじっていないのだろうから恐れ入る。と、そんなことを気にしているうちに彼女の手から光が発せられ、次の瞬間にはあたしの義手義足は元どおりになっていたんだ!

「ええ!?」

「こ、これは!?」

 同時に驚愕するあたしとあおい。一方祖母はニカっと笑う。

「さ、セシリアのお母さんを探すわよ!」

「いやいや、今のを流すのは無理があるんじゃないかな……」

「細かいことはいいのよ! さっさと行くわよ!」

「全然細かくないのですが……」

 あんぐりした様子のあおいたちを残して祖母はスタスタ歩いて行ってしまう。

「シーラさん!」

 すると、向こうで敵を片付けてくれていたステラがこちらにやって来た。あたしの魔術の手伝いがあったにしても、これだけの数の敵を戦闘不能にしたステラのハンマー捌きはやっぱり圧巻だ。あたしはそんなステラを迎えようとする。しかしその瞬間、ステラは顔を真っ赤にさせこんなことを言った。

「し、シーラさん! お、おっぱいが見えちゃってます!?」

「え? ……うわあ!?」

 すっかり忘れてた!? さっきダレルに服を破られて胸が出ちゃってたんだった!? あたしは急いで身体を抱きしめ胸を隠す。

 ……やっぱり、あそこで倒れているダレルにトドメを刺してもいいんじゃないかとあたしも思い始めていたけど、あいつにはまだまだ聞きたいこともある。残念ながら今は殺さず捕らえるのが得策なんだろう。うん……。

「シーラ」

 不意に、あおいがあたしに上着をかけてくれる。それはブレザーというものらしく、あおいの体温で温かくなっていた。

「あ、ありがとう……」

「いいえこれしき。私はあなたの騎士ですから」

 そう言う彼女が少し顔を赤らめていたのは、多分気のせいではなかったと思う。

 あたしはこっそり、その服の温かさを確かめる。彼女のおかげで、さっき絶望を抱きかけたあの時と今とでは身体の温かさに雲泥の差があった。まだ敵の本拠地にいるとはいえ、あたしはようやく少し心を落ち着けることができた。

「さて、セシリアのお母さんたちを捜しに行く前に、とりあえずあの男は拘束しておいた方がいいわね」

 祖母の言葉にあたしは頷く。できることならもっと酷い罰を与えてやりたいところだけど、今は勘弁しておこう……。

「アリス、お願い」

「おっけー」

 そう言って、祖母はダレルの手足にあたしが食らったものと同じバインドをつけた。これで簡単に逃げることはできないはずだ。

「よし。奥様を捜しに行きましょう」

「はい!」

 あたしの言葉に対し、あおいたちは力強い返事をくれる。そしてあたしたちは奥様を捜し始めた。

 しかしそれからすぐに外にいた衛兵も中に押し寄せ、なんとあたしたちは彼らと乱戦になってしまった。それでもあたしたちは全員の力を合わせ、なんとかその悉くを退けていく。だが、倒した衛兵に奥様のいる場所を聞き出そうとするも、やつらはなかなか口を割らなかった。するとそんな中、衛兵の一人に対し、祖母があまりに予想外の行動を起こしたんだ。

「あなたはセシリアのお母さんがどこにいるか話したくて仕方なくなるぅ」

 そう言いながら、なんと祖母は、なぜかその男に自分の胸を揉ませた!

「ちょっ!? 何してんの!?」

「まあ、いいから見てて」

 驚愕するあたしをよそに冷静な祖母。すると男は向こうを指差し、「あっちの部屋だ」と教えてくれた。

「ど、どうして喋ったの?」

「性的興奮を高めることで自制を失わせる魔術をかけたの。このまま放っておくと本当に襲われかねないけど、こうしておけ、ば!」

 祖母は男を思い切り殴りつける。すると男はあっさり気を失ってしまった。

「さ、あっちの部屋よ。早く行きましょう!」

 その鮮やかすぎる手口にあたしたちはまたしても呆れてしまう。変装していようと、やっぱり相変わらず彼女は無茶苦茶なのであった。

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