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敗北…?

「がはっ!?」

 複数の矢があおいの身体を刺し貫く。

「あおいぃ!?」

 あまりに衝撃的な事態にあたしは一気に冷静さを失い、あおいの元へ駆け寄ろうとする。だがあたしにもセシリアは躊躇いなくアイスアローを放ち、進路を妨害しようとする。

「セシリアああ!?」

 怒りに我を忘れたあたしは、この手足を動かす程度の魔力しか残っていないくせに、セシリアに対し高威力の魔術を発動させようとした。しかし案の定、この手からは何の攻撃を放つこともできない。

「ああもう! なんであたしは……」

「シーラさん伏せて!!」

 そんなぐちゃぐちゃな状態のあたしを思い切り地面に伏せさせたのはステラだった。彼女はあたしに向かってきていたアイスアローをハンマーで砕き、そのままセシリアに向かって突撃していこうとする。

 あたしは倒れ込みながらも、向こうで血だらけで地面に横たわっているあおいの姿を捉えていた。あの血の量は、明らかにまずい……。あれほどの血が流れてしまっては数分ともたない可能性もある。あたしは堪らず、あおいの方に向かって戦場を突っ切ろうとする。

「行かせない!」

 しかしやはりセシリアの妨害にあい、あたしはそこから一歩も前に進むことができない。

「あおい! あおいぃ!」

 あたしは半狂乱になりながらも必死にあたしの騎士の名前を叫ぶ。

 こんなこと、とてもじゃないけど許せるわけがなかった。あたしが不甲斐ないせいで、あおいがあんな目に遭うなんて絶対にあってはならないことだ。

 彼女は絶対に死なせない。もう自分がどうなろうと構うものか。セシリアのアイスアローに貫かれることを覚悟の上で、あたしは彼女の前に飛び出そうとした。

 しかし、そんな絶体絶命のピンチに、またしても予想外の事が起こった。

「そこのハンマー持った子! 今すぐ離れなさい!」

 突如として響き渡る女性の声。なんとこの戦場に突然、その手にロッドを携えた銀髪の女性が現れていた。彼女は黒のジャケットに下は同じく黒のホットパンツといういで立ちで、その長い銀髪を振り乱し、手のロッドを前方に向けこう叫んだ。

「駆けろ、業火!」

 ロッドの先端からは宣言通り猛烈な炎が放たれ、一直線にセシリアへと向かっていく。

「アイスアロー!」

 セシリアは急いでその女性の攻撃に応戦しようとするも、炎相手に氷魔術では分が悪いのは明らかだ。炎は悉く氷を飲み込み、セシリアを射程に収める。

「きゃあああ!?」

 セシリアはその炎のあまりの勢いに、跳びのきながらそれを避けることしかできない。彼女はなんとか炎を躱そうとするも、彼女のワンピースの片袖に火が燃え移ってしまっていた。

「いやあ!?」

 セシリアは火を消そうと必死にもがく。そしてなんとか火を消すことには成功したようだったが、どうやら腕に火傷を負ってしまったようだった。

「ぐっ……」

 焼けただれた腕があまりにも痛々しい。彼女の細くて綺麗な腕を知っているだけに、その光景はあたしにとってあまりに辛いものだった。

「セシリア!」

 あおいをあんな目に遭わせたのに、それでもあたしはセシリアを助けようと身体が本能的に動きかける。しかし、そんなあたしに対し、銀髪の女性は声を荒げてこう言った。

「何やってるの!? 早くあの子のところに行きなさい!」

「え? は、はい!」

 女性が喝を入れてくれたおかげであたしは我を取り戻す。そして彼女の言葉に従いあおいの元へと駆けた。

「い、行かせ、ない……」

 痛みに顔を歪めながらも、セシリアはあおいが倒れているこの状況を逃すまいと再起を図ろうとする。

「無駄なことよ!」

 だがそんな動きを見過ごすような彼女ではない。銀髪の女性はまたロッドを掲げ、再度炎の連続攻撃をセシリアにあびせかけた。さすがにこれだけの圧倒的な魔術攻撃を前に、彼女はこれ以上前進することはできないようだった。

 そして銀髪の女性はロッドをセシリアに構えたまま、彼女にこう宣言した。

「これ以上やっても無駄よ。あなたの魔術であたしを倒すことはできないわ」

「ぐ……」

 奥歯をギリッと噛み締め、悔しさを滲ませるセシリア。しかし彼女はもう女性との実力差を理解したようだった。

「それでも私は、絶対に諦めません!」

 セシリアは最後にそう言い残しその場から走り出す。火傷した腕を抑えながら、彼女は女性の攻撃の射程圏外へと逃げていき、そしてそのまま一気にあたしの目には見えないところまで走り去ってしまった。

 それを見送ると、あたしは急ぎ、あおいの元へと駆け寄った。


「あおい!」

 あおいに呼びかけるも、彼女がそれに応える様子はない。この出血量では命が危ないことは明白だ。

「は、早くなんとかしないと……」

 あたしは無理やりにでも心を落ち着け魔力生成に取り掛かる。そしてなんとか三個の魔力石を造ったあたしは今度は回復魔術に取り掛かった。

 正直なことを言えば、あたしは回復魔術は魔力生成以上に苦手だ。と言うのも、前衛で攻撃一辺倒だったあたしは仲間の回復どころか、自分自身の回復すらも疎かにすることが多かったからだ。だが今はそんなことも言っていられない。

 意識を指先に集中させ、あおいの傷口に手を近づける。傷を治癒させる黄色い光があたしの手から発せられるも、思うようにあおいの傷は塞がっていってくれない。

「お願い、お願いだから、傷塞がってよ……」

 上手くいかない現状に気持ちばかり焦ってしまい、尚更魔術は上手くいかない。するとそこに、今しがたあたしたちを助けてくれた女の人がやって来た。彼女はあたしの背中に手を置き、諭すようにあたしにこう言った。

「落ち着いて。ゆっくりではあるけどしっかり効いているわ。あたしも手伝うから、諦めないで施し続けて」

「は、はい」

 女性があたしの背中をさすってくれたおかげで、あたしはようやく落ち着きを取り戻すことができた。あたしが再度回復魔術をあおいに施し始めると、あたしの横で、女性も一緒にあおいに魔術をかけてくれた。

 すると、回復魔術に集中し過ぎていたせいで、手元に魔力石がもう残っていなかったことにあたしは気が付いた。

「しまった、早く生成しないと……」

「魔力石です」

「ステラ!? あ、ありがとう……」

 魔力石が不足してくるタイミングを見計らい、ステラが魔力石を手渡してくれる。

「いえ。あおいさんにここで死なれては困るので……」

 そう言うステラの表情は、本当に心配そうで、あおいの身を案じてくれているのがよく伝わった。あたしは彼女のそんな気持ちがとても嬉しかった。

 ステラが魔力石をくれたおかげで、あたしはあおいに回復魔術を施し続けることができた。そしてしばらくしてついに、あおいの出血は全て止まってくれたのだった。

「よ、良かったぁ……」

 あたしは緊張から解放され、少し気が緩みかける。

「まだ体内の血液は不足しているだろうから、魔術は掛け続けなさい」

「は、はい」

 しかし、女性があたしにそう言った為、あたしはもう一度自身に気合を入れなおした。すると……

「う……」

「あおい!?」

 ついにあおいが意識を取り戻した。そしてあおいは目を開け、あたしの姿を見つけてくれたようだった。

「し、シーラ……?」

「あおい!」

 あたしは堪えきれず、思い切りあおいに抱き着いてしまう。安堵のせいか、あたしの目からは涙があふれてしまっていた。

「良かった、もう、助からないかと思った……」

 あたしはあおいをきつく抱きしめたままそう零す。

 あおいはまだ身体の自由は利きづらいだろうに、子供のように泣くあたしを抱き締め返してくれた。

「心配を、かけてしまったのですね……すみません……」

 あおいは絞り出すようにそう言う。すると彼女は、何やら辺りをキョロキョロ眺めた後、あたしにこう尋ねた。

「ところで、セシリアがいないようですが、いったいどうやって彼女を退けたのですか?」

「この人が助けてくれたの。回復もこの人が手伝ってくれたの」

 あたしはあおいに銀髪の女性を紹介しようとする。その時、今更だけど、あたしはこの人の名前も聞いていなかったことに気が付いた。

「ごめんなさい、あまりにも必死だったからあなたの名前を聞いていなかったわ……。名前を教えてもらってもいいかしら?」

 一方、女性の方もそれをすっかり忘れていたのか、慌てた様子で口を開いた。

「そう言えば名乗っていなかったわね。あたしの名前は、アリシ……ではなく、そ、そう、アリスよ! あたしの名前はアリス! よろしくね!」

「い、今あなた、アリシアって言わなかった……?」

 慌てて言い直したけど、あたしにはそう言いかけたように聞こえていた。ちなみにアリシアというのはあたしの祖母の名前と同じだ。

「い、言ってないわよそんな名前! あたしはアリス! いい! アリスだからね! 分かったかしら!?」

 女性があたしに迫る。明らかに怪しかったけど、そのあまりの必死さに、あたしは彼女の言うことに従わざるを得なかった。

「わ、分かったわよ、変なこと言ってごめんなさい……。よろしくね、アリス」

 あたしはそう言うと、差し出されていた彼女の手を取る。彼女は満面の笑顔であたしの手を握り返してくれた。

 しかし、なお疑念の晴れないあたしは今一度アリスを見やる。確かにこの人の耳はエルフである祖母のように尖ってはいない。しかし、その見た目はかなり彼女に似ており、とても彼女が祖母と無関係とは思えなかったんだ。

「あたしの名前はシーラよ。そしてあおいに、あっちの子がステラよ。助けてくれて、本当にありがとう」

 あたしはアリスに深々と頭を下げる。すると彼女は豪快に笑い、やたらと大きな胸を張りながらこう言った。

「気にすることはないわ。あたしは可愛い女の子の泣き顔が見たくないだけよ。あと、みんなあたしのことは呼び捨てでいいからね」

 アリスはそう言って、少し乱暴にあたしの頭を撫でた。髪をくしゃくしゃにされ、普通であれば不快に思うところだけど、この人にそういうことをされても、なぜか不思議と嫌な思いにはならなかった。

「私からもお礼をさせてください。助けていただきまして、本当にありがとうございます」

 腰を下ろしたままではあったけど、あたしと同様あおいも深く頭を下げた。

「ははは、律儀な子だね。あんたみたいな可愛い子を助けられてよかったよ」

 あおいのお礼に対し、再び豪快に笑って応えるアリス。その一方、あおいの表情は優れず、浮かない表情でこんなことを呟いた。

「あれだけの大見得を切っておいて、また、私は誰も守ることができなかったのですね……」

 あたしは思わずそんなあおいに尋ねる。

「またって、どういうこと? これまでだって、あおいはあたしのことを助けてくれたじゃない」

「それは……こ、この前も、私は魔力切れを起こしてシーラに迷惑をかけてしまいましたし、こんなことがもし次起こったら、今度こそ全員助からないかもしれないと思いまして……」

 何やら引っ掛かりのある言い方ではあったけど、あおいがかなり思い悩んでいるのは間違いないようだった。確かに、この前も今回も、魔力切れのタイミングはかなり悪い。しかし、あれほどの実力を誇る彼女がなぜ唐突に魔力切れを起こしてしまうのか理由が分からない以上、対策のしようがないのが正直なところだ。あたしはあおいを励まそうにも、なかなか適切な言葉が思いつかなかった。あたしは彼女を励ましてあげられない自分の語彙の少なさを嘆いた。

 すると不意にアリスが手を挙げる。

「あのさ」

 そしてアリスは、あたしたちに対しこんなことを言った。

「二人の魔力を同期シンクロさせられれば、シーラから魔力の供給が行われて、あおいが魔力切れになることはなくなるわ。みんなの詳しい事情は分からないけど、なんだか深刻そうだし、やる価値はあると思うんだけどどうかしら?」

「「え?」」

 あたしとあおいは同時に疑問を口にしていたのだった。

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