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心強き仲間たち

「なるほど、そんなことがあったのですね……」

 話を聞き終えたあおいが険しい表情のまま言う。

「それにしても、クリスという男は本当に不快な男ですね」

「ホントホント!」

 あおいの言葉に激しく同意を示すニコル。

 あおいは眉をひそめてこう言った。

「彼はいったいシーラのことをなんだと思っているのでしょうか? まさか、本当にシーラに好意を抱いていたのですかね?」

「どうかしらねえ……。あいつに関しては、女なら誰でもいいくらいに思ってたと思うけど……」

 もしかしたら、クリスはユーリに対する当て付けであたしに手を出そうとした可能性は否定できない。その後のガセを広めたのもあいつであった可能性は十分あるわけだし。

「どっちにしろ、あいつのせいであたしが負ったダメージは計り知れないわ。ユーリがあたしを解雇したのも、きっと本当は怪我だけじゃなくてクリスのことも含まれていたんだと思うし。あたしはあの後ユーリに真実を言えなかったから、あいつは、あたしが婚約していながら他の男と関係を持つような酷い女だと思ったのかもしれないしね……」

 とは言っても、もはやそれすらも確かめる手立てはないのではあるけど。

 すると、あおいは腕組みをしてこう言った。

「本当に、クリスに関しては私も怒りの感情しか湧いてきません。勇者にしてみれば、婚約者とクリスに何かあったなどという話が出たら気になるのは、まあ分からなくもありません……。ですが、事実関係も確認せずにいきなり解雇なんてあまりに酷すぎると思います。もし本当に、そんなデマ程度でシーラを解雇したのなら、勇者の器もたかが知れるというもの。クリス同様反吐が出ます」

 あおいの言葉にステラもニコルも深々と頷く。そして今度はステラがあたしに尋ねる。

「シーラさん、そもそも誰がそんなデマを広めたんでしょうかね?」

「分からない。いろいろ調べてはみたんだけどね……」

「あのアスカという女の可能性はありませんか? あの女ならそんな汚いこともやりかねない」

 ステラはよっぽどアスカのことが嫌いなのかそんなことを言う。

「可能性はゼロじゃないけど、明確な証拠は見つからなかったわ……」

 確かにあたしと彼女の仲は悪かった。でも、いくらなんでも勇者パーティの所属する人間がそんな低俗なことをするとも思えない、というか思いたくない……。その為、あたしはその選択肢についてはなるべく考えないようにしていた。

「まあ、犯人が誰であろうと、必ず正体をあぶり出し八つ裂きにしてあげます。もちろんクリス共々」

「こらこらこらこら……」

 またもや真顔で物騒なことを言うステラを窘める。だが、それに対しあおいまでもがこんなことを言った。

「ですが、ステラの気持ちもよく分かります」

「あ、あおいまで……」

「もちろん、問答無用で八つ裂きにするような真似はしません。ですがそこまではやらないまでも、シーラに土下座くらいはさせなければならないでしょう」

 あおいの言葉にステラが再度深く頷く。「土下座程度では生ぬるいですけどね」という言葉を添えて……。

「それにしても、シーラがあの男の被害に遭わなかったのは本当に何よりです」

「うーん、まあ一応無事ではあったけど、正直、あいつに呼び出された時点で嫌な予感はしてたし、予感がした時点でついていかないという選択肢もあったわけだから、正直あの時に戻って選択肢をやり直したい気持ちは今でも残っているわよ」

「お気持ちは痛いほどわかります……。ですが、私はシーラがやつに手籠めにされなくて本当に良かったと思っています。あれだけ辛い目に遭うだけでなく、望まない妊娠などさせられた日には、それこそ二度と立ち直れないかもしれませんからね……」

 あおいは真剣にあたしを見つめながらそう言う。その様子から、彼女が心からあたしを心配してくれているのが分かって、あたしは少し心が温かくなるのを感じていた。

「心配してくれてありがとう。確かに、今こうして無事でいられることに感謝してもいいのかもしれないわね。無事だったおかげでみんなにも出会えたわけだし」

 散々な目に遭ったけど、これだけあたしの身を案じてくれる人がいる今は、きっと幸せなことなのかもしれない。

「みんな、本当にありがとう。話を聞いてもらって、あたしも少しスッとしたわ」

 あたしが笑顔を見せると、ようやくあおいとステラも若干表情を緩めてくれた。

「シーラ、辛いことなのに話してくださってありがとうございます。どんな理由があったにせよ、シーラを酷い目に遭わせた責任を取らせないと、私も気が済まなさそうです」

「わたしもあおいさんと同じ気持ちです。クリスや勇者には、わたしが必ず責任を取らせます。だからシーラさんは、どうかご安心ください」

「私もずっとシーラ姐の味方だからね! 何があっても、シーラ姐はこの村の誇りだから!」

「ありがとう、みんな……」

 心強い三人の言葉。当時のことを思い出してまた不快な気持ちが湧き上がってきてはいたけど、みんながそう言ってくれたおかげで、あたしの心は平静を取り戻すことができたのだった。

 と、あたしがホッと一息ついていると、あおいが今度はこう言った。

「ところでですが、本当にシーラと勇者が婚約していたというのは驚きましたね」

「え? そ、そう?」

 あたしと勇者の結婚について、あおいは改めて驚きを示す。

「まあ、あたしみたいな女らしさのカケラもない人間と勇者の結婚じゃ、驚くのも無理ないわね」

 あたしは肩を竦めながらそう言う。その途端、なぜかあおいが困惑したような表情でこんなことを言った。

「え……? シーラ、それは本気でおっしゃっていますか?」

「は? え? ど、どういうこと……?」

 あおいの言葉の意味が分からずあたしが困惑していると、なんとステラまでもが溜息をつく。そしてやれやれといった様子でこう言った。

「シーラさんは、ご自身の魅力に気付かれていないのです……。つややかな黒くて長い髪、大きくて宝石のような輝きを放つ紅い瞳、スラっと高い背に魅惑的な膨らみのお胸、そして健康的に締まったお腹……素敵な所をあげればキリがないと言うのに……」

「ちょ、ちょっとステラ!?」

 あまりにステラがあたしのことをベタ褒めするので思わず変な声が漏れてしまう。すると今度はニコルがこんなことを言う。

「うん、みんなシーラ姐の魅力をよく分かってるね!」

「当然です。わたしの主人はこの国でも一、二位を争う美貌の持ち主ですので。もちろん、素敵なのは見た目だけでなく中身もですが。クールでカッコいいのに、意外と情緒は幼くて、ちょっとしたことで顔を紅くされるのがなんとも言えず可愛くて……」

「あーもー! みんなやめてって! そんなこと言われたら、あたしは、あたしは……」

 あまりの恥ずかしさでみんなを直視できなくなる。くそぉ、戦闘面だけじゃなくて、もう少しこっち方面も鍛えておくべきだった。今更後の祭だけど……。

 からかい過ぎたと思ったのか、あおいは若干慌てて言う。

「す、すみません、柄にもないことをやりすぎました……。ですが、容姿については全て本音なのです。気に触るようでしたらこれ以上は言わないようにしますが、とにかく私は別にシーラが女らしくないと言いたいのではなく、勇者と婚約していたという事実に単純に驚いているだけなのです」

「よく、分かったわ……」

 あたしはそう答えるのがやっとだった。

「あともう一つ気になっていることがあるのですが、その腕と足は相当な怪我ですよね? ですが、今のシーラは普通に手足を動かしているように見えるのですが?」

 あおいはあたしの鋼鉄製の手足を指さしながら尋ねる。

「手足は魔術で動かしているわ。まあ、糸で操る人形みたいな感じかしらね。さっきから定期的に魔力を補充しているのは、ただ歩くだけでも魔力を消費してしまうからなのよ」

 魔力の消費量自体は大したことはないが、連続使用はそれなりに体力を要するので意外と楽ではなかったりする。あたしは手足を動かす為、実は小さ目の魔力石を一日五個くらいは摂取していた。備蓄ができたら楽なのだけど、魔力石は生成してものの三十分程度で空気中に霧散してしまうので、その都度魔力生成を行う必要があった。まあ、ステラと出会ってからは基本彼女が魔力石を造ってくれてはいるんだけどね。

「なるほど。やはりあれだけの怪我を負っては、色々と大変なことも出てきてしまいますよね」

「まあね。でも、あの怪我でこの程度の代償で済んでいるのだから、まだマシだったと思っているわ。この義肢の職人も優秀だしね」

 そう言えばもう一ヶ月以上メンテナンスに行っていないし、たまには行った方がいいんだろうな。彼女らに顔出す意味合いでも、今度寄ることにしよう。

「でもこれだけ好条件が揃っても、やっぱり義手義足じゃ緻密な動きはどうしても満足にできないのよ。だから、その辺りはあおいにお願いすることになると思う……」

 あたしは躊躇いがちに言う。いくらあおいがあたしの騎士なんだとしても、何でもかんでもお願いすることにはやはりまだ抵抗があった。でも、あおいはそれに関して特に気にした様子は見せなかった。

「はい、お任せください。シーラの名誉を回復させる為にも、私はこれからもお二人と一緒に戦います。ですので、これからよろしくお願いします」

 あおいは語気を強める。その言葉だけで十分、あたしはこの話をして良かったと思った。

「こちらこそ、よろしく頼むわ!」

 あたしは笑顔でそう返すのだった。

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