初秋のある日
清涼感とそよ風が吹く居心地の良いお昼過ぎ、とある郊外の田園にて。
私の家はなだらかな丘陵を覆う、大規模なブドウ畑を営んでいた。
毎年大量のブドウを出荷している、この辺りでも自慢の農園だ。
私は昔からこの農園を継ぐのが夢だった。
だから15になって学校を卒業してすぐ、ここの農場を継ぐことにしたのだ。
(といっても、まだまだ見習いで、親のお手伝いさんみたいな感じだけど・・・。)
青々とした背丈ほどもあるブドウの木々が、人二人分くらいの通路を挟んで植えられている。
規則正しく植えられたそれは、遠くから見ると綺麗なストライプを丘に刻んでいた。
私は青のオーバーオールに白シャツ、白いハンチング帽子、作業ブーツを身に着け、
大きな木のバケツを抱えてブドウの収穫を行おうとしていた。
ブドウの身は丁度膝くらいの位置にもなるので、屈まないとまともに収穫ができない。
しかし収穫のために何度も腰を屈め、広大な農場を巡るのはかなり重労働だ。
しかし私は幸か不幸か背が結構ちっちゃいので、あまり負担もなくブドウをもぎ取ることができる。
おかげでよく両親から「このブドウ畑を継ぐにはそうでなくちゃな」
と褒め(?)られる。とっても嬉しいことである。
バケツを通路の真ん中におき、その中に入っていた麻袋を取り出して
紫色にずっしりとなったブドウを房ごと丁寧にいれていく。
麻袋がブドウで一杯になればバケツに入れていく。
この作業を何日か繰り返して全部のブドウを収穫するのだ。
大変ではあるが、このために家族みんな頑張ってブドウを育てて来たのだ。
格別の思いである。
しかも今年は粒が大きくて出来がいい!
思わず顔がほころんでしまうなぁ~。
ふと、荷馬車が丘の向こうからゆっくりと走ってくるのが見えた。
布の垂れ幕から運転手の顔が見えそうな距離までくると、
「おーい、アニーター!今年も来てやったぞ~!!」
垂れ幕からヒョコっと顔を出した女性。彼女が私を呼ぶ。
この時期はもう1つ嬉しいイベントがあった。
従妹のミア姉ちゃんが外国から遊びに来てくれるのだ。
「はいはい!ここだよ~!!」
私はブドウを麻袋にしまい、駆け出した。
姉さんはた金髪の長い髪を掻き分けながら、こちらに駆け寄ってきてくれた。
腕に包み込まれた。草の臭いと、それに交じって甘い匂いがふわっと香る。
そして、そのままギュッとされた。
「私が1人でここまできたのは、お前のためなんだぞぉ~!」
髪をわしゃわしゃされる。正直とってもくすぐったい。
「ちょ、ちょっと~!髪がメチャクチャになっちゃうよ!」
「ははっ、ちょっと髪が跳ねてる位の方ががかわいいぞ?」
「も~!」
私より頭1つ分背が高い姉さんは、いつも私を子ども扱いする。
それは嬉しいけれど、私はもう17歳なんだよ~。
「おかえり!お姉ちゃん。」
「ただいま、アニー。」
私とお姉ちゃんは馬車に手を振り見送った。
「あ~疲れたなぁ!とりあえず一休みしたいよ。」
「わかった、じゃあ先に家に入っててよ。後で取れ立てのブドウをご馳走してあげるから!」
「ん、オッケー!んじゃ先伯父さんに挨拶してくるよ~。」
「早く来てよ~?」
お姉ちゃんは大きめのバッグをひょいっと抱えて、背で手を振りながら私の家まで入っていった。
さて、早くブドウを持って帰ろう。
お姉ちゃんが待っていてくれてるんだから!