プロローグ
「撃て!!!」
轟音と共に砲弾が発射される。
しかし砲弾は車体側面の傾斜部に弾かれて、地面へと着弾した。
「着弾確認!!貫通せず!!」
砲手の報告に対し、車長は苛立たしそうに支持する。
「クソ、傾斜装甲には威力不足か・・・。次弾装填急げ!砲手、敵側面、履帯と転輪の間を狙うんだ!」
「了解!」
私はすぐさま抱えていた徹甲榴弾を砲内部へ拳で押し込み、閉鎖機を閉じた。
「装填完了です!」
私がそう叫ぶのと
「敵砲塔が此方を捕らえました!」
と砲手が叫ぶのはほぼ同時だった。
怖かった。私の位置からは外が見えないから。
「さっさと撃て!!」
車長が指示を出す。
轟音が鳴り響き、砲の閉鎖機が自動で開く。
その砲撃で、ただただ敵を撃破してくれたことを祈るばかりだった。
と同時に金属を切り裂く音と衝撃が私を襲った。
車体が大きく揺れて、私は車体後部へ吹き飛ばされ、全身を強く打った、。
「あぁああああああああああ!!!」
「イヤだぁ、まだ死にたくないよう・・・。」
「痛い、血が、」
あぁ、やられたんだな。
私は仲間の悲鳴がだんだんと遠ざかる感覚と共に、意識が薄れていった。
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全身がだるい。焦げ臭い。頭がぼーっとする。
周りからはバタバタと銃声が聞こえるが、どこからだろうか。
とても近くから聞こえているはずなのに、とても遠い所から聞こえる気がする。
四角い鉄の塊の中にいた。
潜望鏡からしか前の様子が分からず、2人入るのがやっとな窮屈な箱。
中は暗く、とっても埃っぽい。
ふと自分が乗る歪な機械のうち、唯一開放的な空を見上げてみる。
空は灰色で、どこまでも淀んで見える。
見ているだけで息苦しくなりそうな曇り空だ。
周りはどうなっているのだろう。
機械の上部から少しだけ頭を乗り出してみる。
周りを見渡せば、至るところで硝煙の漂う荒野。小高い丘。
かつて緑で一杯だったであろう木々は燃え付き、ただ大きな消し炭の如く佇んでいる。
土はまるで大きな巨人に蹂躙されたかのように、穴ぼこで、焦げ付いている。
と、500メートルくらい遠くだろうか。
黒焦げの鉄の残骸の向こう側。
頭でっかちなブリキの機械が1両、ガタガタと音を鳴らしながら彷徨っていた。
戦車と呼ばれるものである。
車体は緑色だった。それは私の味方ではないことを意味した。
突如、そいつは停止した。同時に主砲がゆっくりとこちらに向き始めた。
その四角い砲塔には、砲身は短いが大きな口径の砲が付いていた。まるで虚ろな一つ目。
獲物を狙う怪物だ。
そう、思った瞬間そいつの目が光った。
土煙が見えると同時に爆音が轟く。
おぼろげだった意識が突然現実に引き戻される。
吹き上がった砂と爆発の熱風が顔にふりかかる。
熱い。熱い。
痛い。
息苦しい。
砲弾はこちらに直撃しなかったものの、十数m手前で爆発した。
その衝撃で土は捲れ上がり、黒く焦げている。
慌てて体を車内に潜める。
砲はひしゃげ、機銃があった場所も敵の砲撃でグチャグチャに歪んでいる。
潜望鏡で相手を確認はできても、此方に対抗する術はなかった。
車体から出たって、機銃でハチの巣にされるのがオチだ。
「みんな、私も今から行くね」
そう、諦めて呟いた直後、
突然、怪物が光った。
車体が炎上し、爆発して砲塔がもげた。
味方の誰かが撃破してくれたのだろうか。
緊張が解けたとたんに意識が朦朧としてきた。
たまらず砲手座席に体を預ける。
いつからこんな地獄が始まったんだろう。
それが始まる前の事を想いながら、私は再度意識を手放した。