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02.窮地に駆けつける少女、そして




「冗談は止めろよ老人。そんな死に体で俺らに勝てる訳がない」



 兵士たちは嗤う。

 奴らの目にはさぞ滑稽な老人として映っているのだろう。


 ……滑稽という認識は間違っていない。

 だが、勝てるかどうかなぞ、やってみなくともわかり切っている。



「儂の最期に血は見たくも無い。せめて……そうだな、五体満足で返してやろう」


「そうか。では恨んでくれるなよ。お前ら! やれ!」



 その号令と共に兵達は一斉に儂に向かって飛びかかるように攻撃を仕掛ける。


 多対一。


 たしかに戦闘におけるセオリー、定石ではあった。

 スチールの鎧はさぞ動きやすい事だろう。


 相手が老人ともあれば、殺気なぞ放つまでもないのだろう。


 

「……遅いな。貴様ら」



 儂は振り下ろされる三本の剣のその全てを右手で、白刃取りを行い、攻撃を無効化した。


 兵達はヘルムの向こうで唖然と目の前の光景を見る。



「なにやっているんだ! 相手はただの死にかけだぞ!」


「し、しかしバギ隊長! 剣が一向に……動かず!!」


「バギとやら、この光景を見てもまだ……戯れを止めるつもりはないかね」


「くっ、物理が駄目なら魔法だろうが!! ささっとしろ!」



 兵士達は剣を捨て距離を取り、詠唱を始めた。


 魔法はその詠唱の長さで威力や規模がある程度分かる。

 その詠唱が長ければ長い程に、それは強力な魔法だという証。


 

「ファイヤーボール!」


「アクアカッター!」


「サンダーボルト!」



 兵士たちの手から放たれる魔法はありふれた初級魔法。詠唱も一節で済むとても簡易的なものだった。


 ……その炎の玉も、水の刃も、雷の槍も、散々儂が見てきた。

 学生の頃、何度も何度も放った、懐かしい魔法だ。



「無駄だよ、諸君」



 だからこそ、その魔法の構造、成り立ち、どんな呪文で成り立っているか瞬時に判断できる。

 なれば……魔法自体の攻撃を、消してしまう事さえなんともない。


 兵は動揺も最早隠し切れておらず、目の前の光景すら信じられてはいなかった。



「どうした! 魔法が消されたのなら何重にも放て! 相手は死に体なのだぞ!!」


「た、隊長! 駄目です! 詠唱が成り立ちません・・・・・・・!!」


「馬鹿な……そんな事、ある筈がない!!」


「何を狭い世界で語っておるのだ。詠唱が成り立たぬという事は、その詠唱を妨害されておるという事に他ならぬ」


「……詠唱妨害……ッ!? そんな筈あってたまるか! 詠唱妨害なんて賢者……いや、大賢者レベルの所業ではないか!!」



 詠唱そのものを妨害することは基本的に不可能だ。

 それは発動後の魔法を消す事よりも、ずっと精密な動作……莫大な知識と経験の上で漸く成り立つことが出来る高等技術。


 人生の大半を魔法に費やす愚か者でなければ到達できぬ領域。


 驚くのも無理はない。



「くっ、ならば俺も戦闘に参加する! 立て直すぞ!」



 バギとやらは勇んで儂に剣の切先を向けた。

 その表情には儂を侮っていた時の余裕さはひとかけらも無く、目は血走っている。


 しかし……その声は無駄に無用に響くだけ。

 


「無駄だ。既に奴らは夢の中よ」



 儂は目の前で無残に寝転ぶ兵の頭を軽く蹴り上げる。


 こつんとヘルムが外れると熟睡した愚かな兵の顔が良く見えた。



「な、馬鹿な……!!」


「安心せよ、じき起きる。もっともそれまでに貴様が立っている事はないだろうが」


「い、一体何が……何が起きている!? 状態異常だと!?」


「惜しいな。それでは……大きな分類でしかない。これは『毒』だ、これが儂の魔法、愚かな熱意の結晶ともいえよう」



 毒魔法の大賢者。

 それが儂の肩書。他の賢者が得意分野があるものの、広く浅く魔法を会得するのに対して……儂には魔法の才覚が無かった。


 だからこそ……唯一扱える『毒魔法』を徹底して鍛える他に、大賢者へと至る道は無かったのだ。



「恥ずかしながら、儂は毒魔法以外はてんで使えぬ。故に、これから劇毒を以て貴様を骨すら残さず消して見せることも可能だが。これでもまだ戦うかね?」


「毒魔法……高等技術……その圧倒的な力……やはり……『あの人』の言う事は本当だったのか」



 リーダー格は恐怖をたたえた震える身体で、驚きに目を見開き、怯えた様に言った。



「毒魔法のテスカ……まさか、死んだはずでは無かったというのか!」



 儂は……俗世を離れている間に……そうか、死んだ事になっていたか。


 ……まぁ今も死んでいるようなものだ。大した違いなど無い。

 


「安心めされよ。もうじき死ぬ。ただその屍が少しばかり増えるやもしれんが」


「ひ、ヒイっ!!」



 儂は無詠唱の毒魔法で、向け続けられる剣の切先を溶かし武装を無力化する。


 もう戦闘継続意思は残っておらぬようだ。

 儂は弱い者をいたぶるような趣味は持ち合わせてはおらぬ、早々にお帰り願おう。



「最期の問いだ。余生を送りたくば、このまま兵を引きずって逃げ帰るがいい」



 しかし。儂の予想は外れる。

 見立ては完全に予想外の方向であった。

 

 確かに目の前の兵は戦意を喪失している。

 しかし儂は考えるべきであった、このような山奥にまで少女を追っているという事の意味を。



「――――これはこれは大賢者様、お目にかかれて光栄です」



 兵が四人だけでないと勘繰るべきであったのだろう。

 唐突に表れた男の存在は……儂の目を引く。

 

 灰の短い髪によれた皮の上着を細身で羽織った不気味な男であった。


 

「私はバツルと申す者。この兵達と同じ国へ仕える、帝國お抱えの魔術師といったところですね」


「……何をしに来た」


「いえ、少しばかり加勢にね。君たち、下がっていなさい」



 強者の風格を漂わせ、兵の背後から現れたと思えば、眠る兵を回復魔法で治癒し、4名を残さず逃がす。

 ここだけ見れば、儂はその行動を評価しただろうが……。


 今の儂は……炎獄の如き怒りを抑えるので必死だった。


 

「毒魔法の大賢者の話はよく聞いています。その功績も、栄光も、まさに貴方は英雄です」


「…………それだけか。言いたい事は」


「おや怖い顔をなさらないで下さい。私は貴方に。世界に絶望し隠居生活を送っている貴方に交渉を持ち掛けようとしていますよ」


「……交渉だと?」


「えぇ。数十年前、不幸にもとある国の才女が暗殺されてしまった事件。その『犯人』を、お教えしましょうと言ったのです」



 バツルは粛々に、儂を嗜めるように言った。


 ……あれは、あの事件は儂がどんなに歳月をかけても尻尾すら掴めなかった闇だ。

 それの『犯人』の情報が手に入るのであれば、儂はこの死に体を酷使しても、何を犠牲にしても手に入れただろう。


 この男が、言っているのでなければ。きっとそうしていた。



「まずは貴様を拷問した後、聞きだす。慈悲はもう与えぬ」


「おぉ怖い。その怒りは何ですか? 私なにか粗相をしてしまったでしょうか」


 

 ニヤリと下卑た笑みを浮かべるバツル。

 儂は無言で戦闘準備として魔力を体内で練り上げる。


 こやつは……こやつだけは許さぬ……許してはならぬ……。



「貴様――――ミシアの墓を暴いたか」


「あははは、『死霊魔法』使いとしてはよくやったと思いませんか?」



 男は隣に連れていた、死んだミシアをまるで作品のように見せつける。


 腸が煮えくり返りそうな思いは……その怒りの抑圧は、すでに限界点に達していた。



「私なら! 私の『死霊魔法』こそが大賢者に相応しいのです! それを今から証明してあげますよぉ!!」



 ミシアは死霊魔術により、白骨に腐った肉を付随させられており腐臭を放つ。

 

 あの美しさなぞ見る影もない。

 声すら発せず、人としての尊厳すらも踏みにじられ。



「……今、眠らせよう」



 儂は体内で作り出した魔力を、消えかかった命を極限まで燃やして一振りの『刀』を召喚する。

 それはそこに在るだけで空間を裂くような紅色の刀身をした、我が至高の一振り。


 毒魔法の要素を極限まで練り込んだ儂の集大成……妖刀『ムラマサ』。


 

「ほう、それが、貴方の集大成。かつて全盛期に猛威を振るった呪いの刀ですか」


「そうだ。……老いた身であっても、貴様を屠るには十分であろう」



 儂は下段に刀を構える、ミシアは引き絞った弓矢のように突進。

 愚直に儂の身体目掛け拳を振るう。

  

 儂はその攻撃を避ける事もせず、ただ刀で切り付けた。


 そうしてミシアの身体は呆気なく砕ける。



「あはははあははは!!! 無様ですねぇ!!」



 筈、だった。

 ムラマサはミシアの身体を貫くどころか、その拳を受けるだけに留まる。

  

 連撃に次ぐ連撃。それを儂は紙一重で受け流し、紙一重で防戦を張る。



「死霊魔法の神髄は、対象の人のリミットを超えさせ、さらに強化魔法をエンチャントする事にある!! 今の彼女のその拳は全盛期のそれを遥かに凌駕するでしょう!」


「……ぐっ、小癪な……!」


「無駄なのですよ全て! 全盛期をとうに過ぎさり隠居して衰えた貴方では、私の最高傑作は超えられない! これは必然なのです!!」



 不快な声だ、今すぐにでも黙らせてやりたいが、男の実力は確かに非凡だった。

 今の死に体の老体では、この猛攻を防ぎながら遠距離から毒魔法で、術者を殺すと言った芸当は出来ない。


 純粋にそこまで儂の体力も魔力も残ってなどいなかった。



「それ! それそれそれ! 早く私の強さを証明するのです! たかが死体如きが使われるだけ有難く思いなさい!」


「ぐ……、貴様……許さぬ……!! それはミシアへの冒涜だ……!!」


「よく生きますね、衰えたとはいえ大賢者の肩書は伊達ではありませんか。ですがもう終わりでしょう! あは! あははははは!!」



 視界が霞む、あぁ、手足の感覚すら覚束ない。

 ひどい有様だ……儂は、儂は……この期に及んでまで……ミシアに攻撃することを躊躇っている。


 ついに全てが耄碌したか、なにも成し得ぬのか、このまま無残に殺されるのか。


 嫌だ。

 それだけは、ミシアを冒涜し、あまつさえその人生を踏みにじるようなその所業、許すことなど到底出来ぬ。


 だが。……だがっ!! 儂の身体がもう限界だ……! もはや一刻の猶予もない。


 

「あと少し、あと少しで大賢者は終わる! 汚らしい老害の死体を踏み越えて私は大賢者となるのだ!!」


 

 攻撃、連撃、目で終えるのがやっとだ、受け流すのがもう厳しくなってきた。


 容赦なく時間は進み、容赦なく儂の魔力は減り続け、容赦なく儂の命はつい果てようとする。



「あぁ……いけ!! いける!!」



 遂に。


 ムラマサは砕けた。



「私が大賢者だ!! ぎゃははははははは!!!!」



 そして。

 


「駄目ぇえええええええええ!!!」 


 

 少女の言葉虚しく。


 儂の身体は、腐った右腕に貫かれた。

 

 意識が、閉じる。

 

 最期に見た景色は……あの少女が儂に駆け寄る姿だった。


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