011.全てが変わって
俺は奴らをなめていたのだと思う。
たかが宗教団体だと、しかしながらそれは大きな間違いだった。宗教どうこういった話なのではない、別に俺は宗教を否定したりはしないのだが、奴らはその域を超えている。
奴らと対峙するまでは分からなかったことすべて理解することができた。
簡単にまとめてしまうのなら、異能力者集団と呼ぶべきだろう。異能力と言ってもたった一つ、生きることを否定する能力。
発動させている最中に触れられれば、死は免れない。それは俺たちも同じだ。
そして、早く不死教徒を全滅させたいという思いで1ヶ月で世界中から集まってきたのだが、この1ヶ月で全てが変わってしまった。
5月10日にカレンと別れ次の日、カレンから呼び出しをくらい、シッピングモールに行っていた。
「カレン、何のために呼び出したんだ?」
あの翌日となると疲れは全く取れていないのに呼び出されたのでいつもより口調が荒いのは自分でわかっていたのだが、直すことはできない。
「た、ただの買い物よ」
荒いのに驚いたのか、いつもみたいな堂々とした喋り方ではなかった。
「何を買うんだ?」
「服よ服のためだけに呼び出して悪かったわね!」
逆ギレされたが、疲れが残っている俺にはそのあとどうしたらいいかわからなかった。
洋服屋にて。
「こ、これ似合うかしら?」
とあまりカレンには似合わない満面の笑みで訴えかけてきた。
「まあ、似合うんじゃないかな」
似合わないと思ったが、こうしてみるととても可愛かった。と思いながら頬を掻いていると後ろから声がした。
「コロス」
その言葉で何となくは察しがついた。
不死教徒、コロスと言った奴の合図で周りが一斉に囲まれた。生きるためにはあれを使うしかない。
「「イモータルブレイカー起動!」」
カレンと声が揃った。
奴らは変に歪んだ笑みを見せてこう言った。
「邪魔者は消さなきゃ」
その言葉に身構えるが、一斉に散り関係のない人達を殺し始めた。
「キャーーーッッッッッ!」
聞いたことのある声だ。
全力で走る。この声はり……え?
「航く……ん」
「は、は。な、なんでなんでなんで!
なんで凛恵が死ななきゃいけないんだ!
ふざけるな!凛恵、凛恵……」
目の前で凛恵が殺された。
そこから俺は我を失い不死教徒、関係のない人と無差別に意味もなく殺していたと聞いた。自分のなかにはその記憶はない。自分のことが怖くなる。
全てを終えると凛恵を抱きしめながら泣き叫んでいたのだという。現実を受け入れたくなくて記憶がなくなったのか、それとも。
その後、気がつくと車の中にいた。
「なあ、カレン。なんで凛恵が死ななきゃいけなかったんだ?」
悩んだ顔をして少し時間が空いてから喋り出した。
「人は常に何かを代償にしながら生きていかなければならないの。何もしていないときだってそう。自分の命を代償に生きている。きっと、その代償が大切な人の命だったってだけよ」
「何を言い出すのかと思ったら!ふざけるな! 凛恵をなんだと思っているんだよ! 」
カレンに悪気はなかったのだろうが、俺は今まで人生の中で一度も出したことのないような声で怒鳴った。
「ごめんなさい。私なんて言っていいかわからなかったの!」
目の前でカレンまで泣き出してしまった。
「私だって悲しいわよ。だけどこれがIBを使うものとして通らなければ行けない道なのよ」
そんな。やめてくれ。そんなこと言わないでくれ。わかってはいる。これを使う限り死はつきものだという事も。
「そもそも、どうやって人を殺しているかわかる?」
そんな話今はどうでもいい。
何も考えられない。
カレンは喋り続けている。
「つまり、不老不死の薬は体内のときを止めて永遠の命を保つというものなの。
それを時間を動かし、殺すことを可能としたのがIBよ。綺麗に言えば人に戻してあげてるとも言えるわね」
もうわかっている。何度もその話は聞かされた。
「不老不死の薬なんてなければこんな世界にならなかったのに」
俺は誰にも聞こえないような声で呟いた。
つもりだったがカレンには聞こえていたらしい。
「なら、多分あなたは存在していない。
不老不死の薬が作られたから、あなたという存在が作られたんだと思うの」
もう、何があっていて何が間違っているのかわからないじゃないか。
人を殺すことには変わりないし、悪魔みたいだな。
いや、悪魔か。不死教徒寄りもタチが悪いとさえ感じてくる。
外を見ると夜だった。
「はあ、夜は嫌だな。人生の終わりみたいじゃないか…………」
ショックで学校を休み。結局は高校を中退してしまった。
「何でこうなったんだろ」
一人夜の空に呟いた。
読んでいただきありがとうございました。
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