3.言葉でぶん殴ります
一人で彼ら全員を敵に回して戦う。
そんな立場になってしまったと言っても、私個人としては気分は楽だった。
何しろ『自分に非がない』という真実を誰よりも自分が一番良く分かっているのだ。
自分に罪がない事を立証すれば良いだけの私に対して、彼らはありもしない罪とやらをでっち上げるなり何なりして私に罪がある事を証明して見せなければならないのだから。
そういう意味では、むしろ言いがかりをつけて来ている彼らのほうが、よっぽど苦しい立場に置かれているはずだったのだ。
つまり、私としては言いがかり同然の内容で向けられてくるだろう“濡れ衣”とか“嘘八百”とか“こじつけ”とかいった追求の刃とかいう“なまくら”をひらりとかわして見せるだけでいいのだろうし、突っ込みどころの多い彼らの言動から、そこに潜んでいる粗やら隙を探し出すようにして重箱の隅をつつきまわしてやって、論拠となっている支柱部分をボロボロに崩していってやれば良いだけなのだから……。
そんな頭脳戦を前提とした条件で戦わせてくれるというのだから、たとえ女の身ひとつで全員を同時に相手にすることになったとしても、それほど気分的には辛さはないといえた。
「……良いでしょう。では、お望み通り、貴女の罪を暴かせて頂きましょうか」
そう賢い振りをして最初に一歩前に出来て来た見せしめ君一号こと愚か者な銀髪の優男。クレマチス・テッセンに対して、先手をどうぞとばかりに視線で先を促してやる。
「暴ける罪とやらが、本当にあれば良いのですけれどね……」
「あるでしょうとも。その無駄に豊かに育った大きな胸に手を当てて、よぉ~く考えてみれば、おのずと己が罪の所在は明らかになるというものです!」
さぁて、それはどうだろうねぇ……。
もっとも、とりあえずアンタの罪はコレで一つは確定しちゃったんだけど。
「王族の……。しかも、よりにもよって第一王子の婚約者に対して、性的な侮辱を含んだ発言ですか。……挑発のつもりだったのでしょうが、そんな悪手を初手で選ぶようでは……。策士策に溺れるというか、愚策によって己が身を滅ぼしていますわよ?」
そう一手目からいきなり自爆した阿呆を相手に眉をしかめていると、相手も同じような表情を浮かべていることに気がついた。
「……貴女は、まだ殿下の婚約者のつもりですか」
「つもりもなにも、まだ婚約者ですが?」
自分で“まだ”などと心にもない台詞を言わなければならない辛さは、この胸の奥に感じた鋭い傷みが教えてくれていた。
「何を言っているのやら……。すでに殿下は婚約の解消を、ここで先ほど、王族の名において宣言なさっておいでですよ? それは貴女も聞いていたはずだし、目の前で見てもいたはずです。……もしや、先ほどの宣誓が何を意味しているのか、本当に理解していないのですか? ……それとも、単に理解したくないという事なのでしょうか?」
「いいえ。先ほどの宣誓なら、その内容も意味も理解はできていますわ」
だったら何故、と言いかけた相手の言葉を扇子で遮ってやると、その扇子の陰から小さく刃を送り出す。
「それが何か?」
「何かって。……では、婚約者でなくなった貴女が……」
「おっと、そこです。私、婚約者ですよ? まだ」
何度も、こんな嫌な台詞言わせるんじゃないよ。この三下風情が。
「何を……」
「おやおや……。どうやら、貴方の方こそ分かっていないようですわね? 殿下と私の婚約とは、いわば、我が家と王家との間に結ばれた契約そのもの……。契約者は、当然のように当主である我が父であって、その契約を結んだ相手とは、必然として王家の代表である殿下のお父上……。現在の国王様ということになります。そんな両家の間には、互いの正式な署名入りの文章も交わされていますし、その契約の力によって私と殿下は婚約を結ばれされている事になっている訳です……」
ここまでは分かりますね? そう視線で確かめてみたが特に問題なさそうだったので話を続けていく。
「つまり、ですね。私が何が言いたいのかというと、我々二人の婚約は自分達で締結したものではない、ということです。なぜなら、両家の当主のお二人の間に……。家同士の間で結ばれた約束事という事になるから、ということです」
そんな私のくどいまでに噛み砕いてみせた説明で何を言いたがっているのかをようやく理解したのだろう。優男は早々に顔をひきつらせてしまっていた。
「……どうやら自分達が初手から悪手を指してしまって、とっくの昔に詰んでいたこと。今更ながらに理解したようですが」
もう、全ては、遅い。
「まあ、今は別の話中なので本題に戻しておきますが、我が父と国王様の両方か。あるいは契約を頼まれた側の当主が了承しない限り……。この契約は一方的に破棄できるという性質の物ではないのですよ」
この契約の破棄には我が家の当主ある父と国王様の双方の承諾が必要になるのだから。
「国王様は、先ほど殿下が宣誓された婚約破棄の件、了承されているのですか?」
「……そ、それは……。後ほど報告を、と……」
「我が家の方にも、当然、根回しはお済みなのですね?」
「……」
「まだ何もしていない、と? ……では、無理ですわね」
契約を破棄するために話を通そうとしても、我が父や国王様が私を捨てて下級貴族の娘を代わりに娶りたい等という馬鹿な話を許すはずもないのだから。……考えるまでもなく、余程のことがない限り婚約破棄など出来るはずもなく……。
「誠意をもって話をすれば……」
「頑張っても無理ですわよ? 貴族の家同士の間で結ばれた婚約とは、それくらい重い代物なのですから。……下手をすると自分達の生まれる前から交わされている類の物である場合が多い事から、なかなかその契約の有り難みや重要性、重さなどが分かり難い物であるかもしれませんが、我々を縛っている数々の契約という名の鎖とは、それくらい面倒で重みのある代物であるのだということは、最低限でも覚えておくべきなのでしょう」
そして、私の扇子の裏からの視線はハイドラ様へと伸びる。
「……さて。もうお分かりになって頂けたと思いますが……。ハイドラ様? 我々の……。両家の間で交わされた婚約の契約は、未だ正式には破棄されておりません。つまり、貴方の婚約者は、今現在においても。そして、このままの状態では、未来においてでさえも、この私のままだ、ということです」
だからこそ、私はこのような正式な場においては、自分はハイドラ様の婚約者であると名乗り続けなければならないのだし、それを自分から否定出来ないし、それをしなければ逆に罰せられる立場にあるという、そう名乗る理由そのものでもあったのだから。
「くわえて説明しておくと、殿下自身が何処で何を仰っしゃたとしても、どこで何を宣言して見せたとしても、この契約をご自分でどうにかすることは出来ないのです。……何故なら、貴方はまだ何の力も権限ない、ただの王子の身分でしかない人物だからです。そのため、この契約をどうこうできる権限など最初からもっておらず、それを出来るのは王家では国王様だけ、だからです」
結局のところ、先ほどの婚約破棄の宣誓も意味がなかったし、新しい婚約者についての宣誓の方も既に正式に契約が交わされている婚約者がいる状態では意味がなかった。つまり、どちらも有効な物ではなかったのだから、結果だけを見れば愚かな行為ではあったにせよ、それがさほど問題になるような類の物ではなかったのだと……。それを当人がよく分かっていなかっただけなのだと。
そう周囲にアピールする意図もあって、ここではハイドラ様に愚かなピエロになってもらうしかなかった。
「ご理解頂けたなら、自分がどれだけ危ない橋を渡るような危険な行為をしていたのかも、ご理解できましたわね?」
ハイドラ様は、本来は国王様にしか許されていないし、王位にある者にしか出来ない事になっている王族の婚約契約の破棄や締結を勝手に大勢の人達の前で宣言して見せたりした。
それは未だ王子でしかないハイドラ様の我儘というには余りに内容が酷すぎていたし、与えられている限定的な権限を大きく逸脱してしまってもいたのだ。それこそ、下手をすると廃嫡されかねない愚行となりかねないほどの……。
「……つまり、我が身の立場が危ない、ということか」
「我が父が『約束が違う。どういうことだ』と王家に抗議をしたならば、ですが」
今回のハイドラ様の行為に対して我が家が文句をつけるような真似をすれば、王家はその立場上、馬鹿な真似をしてしまったハイドラ様を処分せざる得なくなる。つまり、殿下の命運は我が家が握ってしまっている事になる訳であって……。
この時点で、すでにハイドラ様は色々と詰んでいると言えなくもない。
「し、しかし、先ほど貴女も御自身で仰ていった事だが、今回の騒動は、結果だけを見たなら、殿下のされた事に、それほど問題はなかったのでしょう? 今の立場では出来ないことを、将来はこういうことをやりたいと、単に希望を表明し、意思表明をしただけ。そう考えたなら、先ほどの行動にも、それほどの問題はなかったはず!」
そう全力でハイドラ様を庇おうとする優男だったが、果たして本当に庇いたかったの何だったのか……。その必死過ぎる顔に、ニッコリと笑いかけて、とどめを刺す。
「そうですわね。ですが、ここでやらかしてしまった事の内容を考えますと……。その内容に問題があろうとなかろうと、どのみち同じ結果になるような気もしますが。……御自身の行動に問題があったのを分かって頂けた以上、そのやらかしてしまった内容に対して責任を追求される事になるという結末についても、理解して、受け入れて頂かないといけませんわ」
そして、それはハイドラ様だけでなく、お前にも言えることだ。
さっき、あんな最低な発言をしてしまった以上は、そのことに対して責任が発生してしまっているということを、ちゃんと理解しておいて頂けないと困ってしまう訳で……。
「ちなみに、先ほど貴方から受けた“性的揶揄を含んだ暴言”の件につきましては、後ほど、きっちりと、我が家の当主より、正式に、そちらの家の方に“ご挨拶”させて頂いて、お話をさせて頂こうと思っておりますので……」
まあ、どうなるかは知らないが、覚悟だけは決めておけ、と。
そう暗に含めた言葉でがっくりと膝から崩れ落ちた辺り、ちゃんと私の言いたかった事が伝わったらしいと理解していたのだが……。
「予想以上にっていうか、聞きしに勝る恐ろしさだよね。君って」
そう「次は僕の出番かな」とばかりにのっそりと前に出てきたのは、馬鹿男三号ことトレニア・ウィクサーで。そんな彼のデタラメな言葉遣いなどの基本的な部分がなっていないのは、稀代の魔道具製作者、いわゆる魔道具職人として余りに有能かつ有名な人物であって、その仕事柄、あまり人前に出たり、人々の輪の中に入って話したりといった社交性を育む機会が少なかったからなのだとか……?
まあ、それがマナーがなっていない事への免罪符には本来はならないはずなのだけど、それでも特級レベルの魔道具を個人で製作できるレベルの職人ともなると、色々と性格などに問題があったとしても、国としては何がなんでも囲い込んで置かなければならない特別な逸材として扱われてしまう訳であって。
こんな風に王族や上位貴族相手にタメ口で話しかけたりするようなマナーダメダメな馬鹿だったとしても、あえてその部分に目をつむってもらえているのだろう事が察せられる辺り、相当に優秀な職人なんだろうな程度のことは門外漢である私にも推測する事が出来ていた。
「……そんなに私は恐ろしいですか?」
「怖いね。本音も素顔も感情も、みんな扇子の陰にってね。その薄気味悪い微笑みの裏で、果たして何を企んでいるのやら……。君って、絶対に他人には素顔を見せないタイプでしょ? そんな君が裏で何を考えているのか、何を企んで、どんな事を狙っているのか……。それが何一つ分からないなんて、薄気味悪いし、怖くて仕方ないよ」
きっと殿下も、同じだったんじゃない?
そんな挑発のジャブを軽く微笑みを浮かべた鉄面皮で弾き返して見せると、チェッと小さな舌打ちが聞こえてきていた。
「フンッ。そんなだから可愛くないって言われるんだよ!」
「そうですか? 私の顔は、そんなに醜いのでしょうか。……自分では結構綺麗な顔をしている方なのではないかと、密かに自負していたのですが」
そんな私の反応に、思わずう~んとうなり始める。
「まあ、綺麗っちゃ、綺麗だとは思うんだけど。……でも、何っていうか、ちょっと化粧が濃いんじゃないかな? まあ、今は時間的にも夜会向けの派手目のメイクなんだろうから、ある程度は仕方ないにせよ……」
「あら? 私は、薄めのメイクの方が似合う女なのでしょうか」
「う~ん。それはどうかなぁ……。でも地顔にそこまで自信があるのなら、あえて薄めにした方が白い素肌が映えて、もっと綺麗に見えるかもね」
アレって、なんって言うんだっけ? ナチュラルメイクってヤツだった?
そんな言葉を自分の背後に向けて話す先には、こちらを無表情のままにじっと見つめているピンク色の髪の令嬢が一人居て。
彼女も、もうちょっとで私に秘密を暴露されそうになったという事もあってか、こちらの余計な気を引かないように静かにしていることを選んだらしい。
「……ところで」
「ん?」
「貴方は、そんなつまらない雑談をするために出てきたのですか?」
「ううん。殿下とクレマチスは焦って仕掛けたせいか、初手から盛大に自爆してくれたからね。同じ轍を踏まないようにって、こっちはいきなり本題を切り出したりせずに、軽ぅく牽制のジャブから入ってみようかな~って……」
ん~。それにしても本当に隙がない。ちょっと見通しが甘かったかな……。
そう苦笑混じりにうそぶいてみせるトレニアの狙いが分からなかったせいか、こっちもいまだ『見』のまま、何も仕掛ける事が出来ずにいたのだけれど。
「……貴方は確か、優秀な魔道具職人だそうですね」
「うん。そーだよ」
「だったら、貴方は、貴方にしか出来ない『芸』で私を楽しませてくれるのでしょうか」
「芸、ときたか……。ま、否定はしないけどさ」
そう安い挑発の台詞にカチンときたらしき様子を隠しもしないで懐から取り出したのは、幾つかの丸い形をした、そこそこの大きさのある透明な水晶の球体であって。反対の手には、同じく手の平サイズの水晶の板のような物を持っているようだった。
「これ、僕の発明品なんだけどさ。とーぜん、優秀な君なら、知ってるんだよね?」
「ええ。記録球と呼ばれている魔道具ですわね。確か、私達の学院にも、許可無く侵入を禁じられているような危険な区画や、重要な扱いとなっている区画のみに設置してあるという触れ込みではありましたが、実際にはあっちこっちに置かれていて、一定範囲内に人が近寄ると、その姿を自動的に撮影しているんだとか……」
「せぇかぁ~い。ちなみに、こっちのは撮影した映像を再生する道具ね。再生板ってヤツ。いわゆる監視装置って呼ばれるヤツさ」
それがどうかしたのかと視線で尋ねた私に、トレニアはニタリと嫌な笑みを浮かべていた。
「さぁて。問題でぇす。……これって、何処に設置してあったと思う?」
「さて。何処でしょうか」
「答え。君の部屋」
その予想外の言葉にザワッと周囲が沸き立つのを感じながら。それでも私は、顔には笑みを浮かべていた。
「……あれ? 驚かないんだ?」
「驚くはずがありませんわ。……だって、そんなこと、不可能ですもの」
うちの家に限らず、上記貴族の大半は同じであると思うのだが、学院に連れて来ている使用人達の多くは、裏で護衛や間諜なども兼任していたりしている。そんな特別で一流の教育を受けているような腕利きの使用人達が、あんな怪しげな球体を部屋に仕込まれて、それに気が付かないはずがない。よって、今の発言はフェイク。ハッタリだ、という結論になる。
そう根拠となる推測を答えた私に、トレニアは苦笑を返してきていた。
「あー、もー。ほんっと、君って、やりづらい人だなぁ……」
「余計な演出や冗談、ハッタリの類は結構です。さっさと、その球体が撮影した絵とやらを再生して見せてくださいな」
「いきなりそんなの出してもギャラリーもつまんないだろうと思ってさ。だいたい、君は、コレが何処に設置してたヤツなのか、分かって言ってるの?」
彼が、こんな馬鹿な真似を意味もなくするはずがない。つまり、これは必要な通過儀礼だった可能性が高い。……では、その目的とは何か? 恐らくは、次の発言の衝撃を和らげるため……? 上級貴族の令嬢の部屋。しかも、あの恐ろしいと評判のゴールド辺境伯家の令嬢の部屋に記録球を設置した? こんな自殺行為同然の台詞のインパクトでもって、次に口にされる台詞の衝撃を和らげなければならないような。そんな特別な相手の部屋に設置したということなのか……? それならば、何処に設置したというのか……?
恐らくは、そのことを、これから自白しようとしているはずで……。そして、そんな奇妙な真似が必要になるだろう、特別な配慮なり何なりが必要な相手ともなると……。
「……なるほど。サフィニアさんの部屋に仕掛けたんですね?」
いきなり彼女の部屋に監視装置を設置した等と言ったら周囲の男達から袋叩きにされかねなかったから。だから、私の部屋に仕掛けた等というハッタリを間を噛ませて、インパクトを和らげようとしたという所か。そんな私の指摘に、トレニアは何故だか「してやったり」といった風にニタリと笑って見せていた。
「おや、外れましたか」
「ううん。正解だよ。でも……。なぜ、君が、コレが彼女の部屋に置かれていた物だとすぐに答えに行き着くことが出来たのかって部分には、あえて今は、触れないで置いておいてあげるけどね!」
そう、いかにも「身に覚えがあるから答えがそんなにすぐに分かったんでしょ」とでも言いたげに前置きしてみせるあたり、なかなか嫌らしいやり口とも言えるのかもしれない。
「一応、僕自身と彼女の名誉、あと彼女のルームメイトの子達が不安に思わない様に、まず最初にはっきりとさせておくけれど……。コレを部屋に設置したのは、彼女自身からの頼みがあったからだよ。最近、よく物がなくなるから、ちょっと調べてみて欲しいって頼まれていてね。しかも、コレを仕掛けていた期間は、サフィニアを含めたルームメイトの子達も、全員が寮の部屋を空ける予定になっていた先月末の週末。たったの二日間のみ、だ。……誓って、その間だけしか設置してないし、それ以外の期間には何もしてはいない。そこだけは僕の名誉にかけて誓っておくから、皆も安心して欲しい」
何が安心して欲しいなのかさっぱり分からないが、とりあえず自分の留守中に部屋に不審者が入ってきていないかを調べて欲しいと頼んで、週末に示し合わせて女子寮を空けていたらしい、というのはなんとなく分かったのだが……。
「それでは、肝心の映像とやらの方を、早速見せてもらっても?」
「ああ、いいよ。勿論、良いともさ。だいたい、コレを見てもらうために皆んなにも集まってもらったような物なんだしね」
そう、実に楽しそうに笑いながら、手元の板に球をはめこんで。
「さあて、ご覧あれ。これが彼女の留守中に部屋へ侵入した不届き者の姿だ!」
手元の板に魔力を流すと、板全体にぽうっと光が宿って。
その板にはめ込まれていた球体の上部に浮かび上がるようにして、その球体が撮影したという不審者の姿とやらが投影されていた。
「こ、これは……!」
「……おや。後ろ姿だけですけど……」
そこには学院の制服姿の女の後ろ姿らしき物が写っていて。その何処かやたらと見覚えのある背格好に髪の色、髪型といった特徴を持った女は、何処かの部屋のクローゼットらしき棚を両手で開いていて。そこで、今から何かを物色しようとしているような、そんな姿が写っていて。……そんな姿の、後ろ姿が、やけに綺麗に写っているのが見えていた。
「……所で、君。さっき、僕が言った台詞、覚えてる?」
彼は、さっき言っていた。
私には犯行に至る動機も理由もたっぷりある、と。そして、自分にとっては、最も疑わしい容疑者に見えている、とも。
やってない、覚えはない。そう言い逃れするというのなら、今は、それでも構わないだろう。だけど、何時かは必ず真実が明らかになる。何故なら、いずれはちゃんとした証拠が上がって来て、言い逃れなんて出来なくなる運命にあるのだから、と。
そう、彼は先ほど自信満々に言っていたはずだった。
──なるほど。これが彼にとっての『奥の手』か。
そこに写っている女の背や髪や体形は、言うまでもないだろうが私の物に酷く似ている様に見えていた。
「……さて。マリーさん。何が言い訳でもしてみる?」
そう「これが貴女が犯人である証拠だ」と言い放たれた訳だが……。
……さて、それはどうなんだろう。う~ん。見た感じは確かに、そう見えなくもないかな。でも、言うまでもない事なんだけど、記憶の何処を探してみても先月末のお休みの日に、こんな間抜けな姿を撮影された覚えなんて、ある訳がなかった。
……となると、これは言うまでもなく捏造された証拠であるということになって。……だからこそ、そこに隠しきれない“不自然さ”とでもいうべき物が見え隠れしてしまっていたのかもしれない。
「これって、随分と遠くから撮ってますけど、近くに仕込んだ球はないんですの?」
他のもあるのなら、それも併せて見せて欲しい。
そう頼んだ私の言葉に、勿論他のもあるよと元気よく答えながら、次々に球を入替えて見せてくれるのだが……。
「これだけ仕掛けていて、真正面からの撮影は一個もなし、ですか」
「流石にクローゼットの中には置かして貰えなかったからね」
隠し撮りである以上は、部屋の見えにくい位置などに仕込むしかなかったから、と。
その説明の不自然さに今ひとつ納得がいかなかったが、それでも脳裏に撮影された複数の絵を思い浮かべて、その部屋のレイアウトや撮影位置などの相対関係図を脳内で思い浮かべてみていたのだけれど……。
「……この絵。何処か……。いえ、何か……。そう、不自然な構図、なのですね」
そうポツリと呟いた私の声にピクリ、と予想以上に強い反応を見せた人物が居たことで、ますますその直感に近い感覚に確信を深めることができていたのだった。