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ついに彼女は羽化を迎える  作者: 枕木きのこ
二 地盤に水が染み入り、
15/31

6

 やがて倉持智也、中西博美、浅羽幸弘と、彼女を囲むことになった。倉持と浅羽は中学時代からの同級らしく、帰路をともにするのだろう。浅羽が意外にも長らく話し込んでいたが、これと言って思うところはなさそうだ。中西は、勝負する相手の部活終わりでも待つつもりなのかもしれない。

「せっかくだから一緒に帰ろうよ」

 会話に一区切りついたころ、木村雪乃がこちらに顔を向けた。

「うん、ぜひ」

「駅までになっちゃうけど」

 それが少し寂しげに思え、

「じゃあ俺らもご一緒してもいい?」

 浅羽が胸の辺りに手を添え進言したのを、

「駄目駄目、二人で帰るんだよ」却下する。「でしょ?」

 占有したいと思ったわけでもなかろうに、口を突いていて、驚いた。

「うん。そうだと嬉しいな」

「なんだよお前ら、出来てるのかよ」浅羽は楽しそうに口を尖らせ、「そりゃもう、邪魔しないよ。どうぞどうぞお二人で」

「博美は?」一方で倉持が中西に言葉を投げる。「一緒に帰るか?」

「私はこれがあれだから」

 親指を突きたて、それから両手でグリップを握るような不格好なポーズを見せる。彼氏は野球部か、聞いたことはなかった。

 午後十二時半、ついに散会となる。

 浅羽たちが先に教室を出て行き、中西を教室に残したまま、木村雪乃と並んで歩く。どうしてご指名を受けたのか、余り詮索するつもりはなかったが、心当たりも同様に、存在しない。しかし、そうしてくれるなら、これがひとまず最後の帰路になるわけだし、文句も当然生まれない。

 校舎を抜け、国道沿いを歩いていると、

「ありがと」泣いたせいですっかり鼻声になったまま、「付き合ってくれて」

「いや。全然。むしろいいの? って思ったよ」

 その言葉がいかように響いたのか、彼女は黙って、俯いた。膝の少し上で揺れるスカートが、段々、作る波を小さくしていく。

 立ち止まってしまった彼女を振り返ると、顔を傾け、斜め下を見て、眉根を寄せ、口を結んでいる。

「どうしたの?」

 少々あからさま過ぎる感も否めないが、確かに気になる所作ではあった。

「ううん」

 スカートのように、小さく顔を揺り動かし、再び歩みを再開し、隣までやってくる。

「ううんってことは、ないでしょ」

「なんでもないよ」

「何、言ってみなよ」

 こういうなんでもない会話ひとつでさえ、もう二度と交わされることはない。

 木村雪乃は歩みを強行するつもりはないらしい。

「最後なのに、こんなことを言ったら頭可笑しいと思われちゃうかも」

 そしてそんなことを言って、笑いもせず、こちらを向いた。涙の残りで、少し潤んだ瞳が、視界に入る。

「何?」

 なるべく意識せず、聞いたつもりだった。

「どう言えばいいかな」

 考えてみたがどう答えればいいかわからず、

「思いつくように言えばいいよ」

「うーん」顎を摘むように擦る。「笑ってもいいけど、ちゃんと聞いてね」

「うん」

「私ね、今日の夜、殺されるんだ」

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