いや、アンタ婚約者〝候補〟なだけだから
余り上手く書けなかったですが、こんな感じでもう少し練った話を書きたい。
「オレが后にするのは心優しく美しいユリアであって、断じて権力で自分の思うがままに振る舞うアリーヤなどではない!」
壇上で世迷い言を叫んでいるのはこの国の第一王子。
国王陛下と王妃様の間に生まれた、御年22歳の眉目秀麗な絵物語に出てくるような、金の髪に青の目を持った外見の王子様である。
彼の隣に立ち、恥ずかしがりながらも嬉しそうにその言葉を受け入れているのは、王子が言うところの心優しく美しい、下級貴族位も持たないそれどころか生まれてまもなく両親が流行病で死に、準騎士の従卒でしかない祖父に育てられたユリア。
確か年齢は18か9だったはず。
教会で奉仕活動をしていた実績もなければ、町で子供達や老人に人気があるというわけでもない。
思春期から中年の男性からのみ、その容姿で好意を持たれているといった程度だと報告にはあった。
事実下町の子供達から話を聞くと悪い評判しか聞かなかった。
〝おとこをたぶらかすどくふ〟とか〝きんぴんをまきあげるひとりつつもたせ〟と言った言葉のたぐいを5歳にも満たない子供達から聞かされるとは思わなかった。
それだけならまだしも、汚いと蹴られたとか、お手伝いの特別報酬として貰ったハンカチや髪飾りを獲られたと訴える子供達が多かった。
貧民とされている子供達に対する態度はかなり悪いようで、彼女が住んでいる場所でも口には出したくないけれど……といった態度の者が多数存在した。
さて、王子が言うところの優しいとはどういうモノなのだろう。
そして王子の近くで悔しそうにしているのは、コーエン子爵令息にファーノン子爵令息。
どちらも王子のご学友だ。
コーエン子爵令息は父君によく似た赤みの強い金の髪と情が薄い印象を与える薄い青の目を持っているが、父君は豪放磊落な行動派の軍の将軍の一人であり、父君に限って言うならば情が薄いと言うより冷徹ととらえ表現される目である。
ファーノン子爵令息は母君によく似た線の細い面差しと、父方の家系譲りの蜂蜜色の金の髪に黒い目を持ち、幼い頃から成人し25を過ぎた今でも女であればと社交界の男性陣に悔しがらせる容姿をしている。
仕方がない、ファーノン子爵家のあの髪は直系男児にしか出ないのだから。
武門である父を持つコーエン子爵令息は元々王子の護衛も兼ねていたはずなのに、剣術も護衛術も向いていなかったのか一切出来ない有様だ。
またその美しい容姿で代々外交系の三番手四番手を勤めてきたファーノン子爵家の令息とはとても思えないほど、彼は直ぐに手が出て王子の学友であることを笠に着てやりたい放題してきていた。
王子、そして学友の二人に共通するのは勉強が嫌いなこと。
自分より上位者が居ることが我慢ならないこと。
何でも思い道理に出来ると、事実誰がどのように尻ぬぐいをしてきたのかも気がつかないほど、自由奔放に振る舞ってきていた。
国益に接触しないから放置されていたとも言い変えれるのだけど。
今日、この日までは。
国の重鎮や主要貴族が集められ、重大発表をしなければならないパーティーで、国王陛下の挨拶を遮り宣言したバカ王子はフォローの仕様がないほどの失態を犯したのだ。
「ヴィクター、お前は自分が何を宣言したのか理解しているのか?」
「そうですよ貴方は勉強が嫌いでしたから、自分が何を言っているのか正しく理解していないのでしょう?」
「父上、母上、オレは自分が何を言っているのか理解しています。ずっと我慢鳴らなかった!あんな女と比べられることが!!オレは、この国の後継者なのにあの女はずっと見下し続けてきたんだ!!!」
貴族達がため息をついた。
王子を見限ったのだ。
固唾をのんで動向を見守っていたのに、蓋を開けたら無能のやっかみだと判明したからだ。
そう、無能。
きちんと勉強し、理解していたならば出ない言葉が王子から出た。
そして学友であるはずの二人も頷いている。
それはつまり受け入れられて当然としていると言うことだろう。
そんなこと、あり得ないのに。
「当たり前でしょう。私も何度も貴方に勉強するように、アリーヤに教えを請うようにと忠告したでしょう?」
「それにお前はアリーヤの幾人もいる、婚約者候補の一人であって婚約者ではないし、お前はこの国の後継者ではないぞ」
「えっ」
「きちんと勉強していたら判ったはずだ」
「いいえ、勉強をしなくとも貴族としての自覚と、社交をしていたら当然知っていたはずです」
「な、なにを、言って……」
「基本我が国の男に継承権はない」
「継承権は女性が代々持っていて、国王というのは国母の配偶者。夫となるモノに関しての制限はないのですよ」
「確かに政治や軍を動かすのは男だが、国に神の恵みをもたらすのは姫巫女アレクサンドラ様の直系、女系の子孫のみだ」
「アレクサンドラ様の直系の結婚では必ず神の祝福が現れているでしょう?」
「し、知らない!なんだそれは!!」
知るはずが、理解しているはずがないのだ。
今年22になる王子は、成人してから5年も経過しているというのにこの馬鹿は。
自分にとって都合がよいことを言う存在しか寄せ付けないようにし、苦言や忠告をして人間を遠ざけ、または冤罪で処刑しようとしてきた。
血統がよいからこそ、今まで切り捨てられなかっただけなのだ。
それに好き勝手やっているとはいえ、権力や権限は本人が思っているほどあるわけではなかったから、もみ消し等は国王側が行えた。
無能だがそれまでだという認識だったのだ、これまでは。
それが先ほどの宣言で無能ではなく害悪であると立証したも同然で、今まで王子だからとフォローを入れ、被害が広がらないようにしていた官僚や大臣達はがっかりしただろう。
それに後悔もしていると思う。
彼らが被害が出ないように、自分がフォローできる範囲だと尻ぬぐいを続けたからこそ、このような大事な場で第一王子という存在が失態を犯したという自責で。
こう言っては何ですが、我が国の歴代の貴族大臣官僚達国王や王妃が好きすぎて気持ち悪いくらいです。
継承第一位である女性が神殿で時期後継者と認められた時、結婚式と王位継承式の最低三回で神様から祝福されます。
たまに生まれた時に祝福される子供もいますが、それは割愛。
神殿という形式であれば宗派、国を問わず世界中で同時に祝福という奇跡が起きるのですから、それなりに忠誠やら何かが出るのかもしれませんが。
正直私には、若輩だからかよくわかりません。
そもそも我が国アレクシス王国は、元々姫巫女アレクサンドラ姫に与えられた領地であり、姫がお産みになられた三人の姫君の一の姫であられるケーラ姫に隣国の帝国の皇帝が自分の国を持参金として婿養子に入ったことが国の始まりだったりする。
そう、婿養子に入ったというのが重要。
彼とケーラ姫との間に生まれた姫君が次期国王となり、女王として王配を迎えなかった。
その後彼女が産んだ四人の娘の内一人に王としての器があると見込み、神殿で王位継承者であるという宣言をしたとき初めて世界中の神殿で祝福が起こった。
アレクサンドラ姫の女系での国の支配者が続いたことを祝っての祝福であり、このまま姫巫女の血統が国の中枢に有り続ける限り祝福をするというモノだったらしい。
神などいないと嘯くモノが増え、神殿でも正しく神を信仰しているモノが減ってきていたときに正しく神の声を聞き、祝福と断罪を与えたのがアレクサンドラ姫だった。
そしてかの姫巫女ほどではないが、代々の継承者達も神の声を聞くことが出来、断罪することが出来た。
真実か虚偽かの判定も出来る。
だからこそ我が国は女子に対する教育や倫理指導が厳しい。
教会での奉仕活動は序の口、貧民街での炊き出しや食事を餌にして浮浪児を集めての勉強会から始まり、その中で使えそうな人材を見いだし、自分の家で磨き上げるといった事は当たり前だったりする。
勉強会や優秀な人材の見極めは、子育ての予行と人を見る目を養う為の練習でもある。
王侯貴族の、王位継承権を持つ令嬢であっても、この国の継承者達は下を知っているし情報網も自分たちなりに構築していたりする。
だからこそ今日のこの場は整えられたのだ。
第一王子が好意を持った少女と一緒になると言うならば、王族でも貴族でもなく庶民になることを発表する場に。
元々この国の王侯貴族の婚姻は女性の身分にあわせるというように出来ている。
相手の家に婿入りする事が基本となっているのは、ケーラ姫の結婚にあやかっているとも言える。
それが何を間違えたのか〝后〟などと……公式の場で宣言したのだ、確実に彼女には困難が降りかかる。少なくとも王子は王妃様の実子だから直接の罰も困難も与えられないだろうけれど。
さてさて、私自身が手に入れた情報。
国王夫妻の持っている情報。
大臣達や官僚達の持つ情報。
それらをあわせて、すりあわせ、最も被害を少ない状況に出来たのが王子を庶民にしてしまうこと。
そもそも庶民が王侯貴族の男性と知り合う機会などほぼ無いのだ。
女性であれば福祉活動の一環で孤児院や寡婦院などに訪れる機会はあるが、そのときにも決して夫や子供兄や弟などは一緒に行くことはない。
そこで出会った女性に心惹かれ、結婚すると騒ぐモノは必ず出るだろうから。
相手と共に苦労して庶民として生きるというならばまだしも、貴族や王族の妻として迎え入れると言うことをは出来ないのだから。
だからこそ、第一王子が出会った愛する相手が庶民なので王子は庶民となるが皆見守って欲しいという流れが出来るはずだった。
出来なかったが。
それどころか基本的なことすら頭に入っていない残念王子だと知れ渡った。
王子の学友達も、だ。
第二王子も第三王子もきちんと学んでいるのに。
彼らの学友も、知っていたのに。
非常に残念でならない。
庶民にも出来ないですしね、これでは。
恐らく結婚も認められることなく第一王子は軟禁、学友のコーエン子爵令息とファーノン子爵令息も軟禁という名の一族の監視下に置かれるだろう。
さてユリア嬢はといえば、ふるえている。
真っ赤な顔をしている。
蒼白になって気絶ではなく、真っ赤になって打ち震えている。
何か一騒動起きるかもしれない。
そっと目配せをして警備の兵の配置を変化させる。
国王夫妻も彼らから不自然でないように離れた。
彼らはユリア嬢から視線を外さない。
注意深く、用心深く注視する。
少しでもおかしい様子を見せたら、これ以上場の雰囲気を壊す様なことがあれば庶民でしかないが故に遠慮無く排除される。
彼女の顔は今回で知れ渡った。
他の貴族達に取り入ることも不可能だろう……
恋に狂うと人間使い物にならなくなるのだと、元々使い道がなかった第一王子である従兄君が証明してくれた。
私はそうならないように慎重に行動しなければ。
私はアレクシス王国第一王位継承権を持っているのだからこそ。
王配となる相手を見極め、子供達の養育に気をつけなければならない。
今回のような失敗をさせないためにも。
五年くらい頭の中で主張している設定の一つです。
女系、神様の依怙贔屓、故の臣民と領土に対する加護。
この三つに剣と魔法と恋愛ゲームが絡む話が書きたい。
でも上手く表現できないです……