あなたのために出来る事
暗くても、サクッと読めるものを目指したはずのお話です。
あなたのために出来る事。
一人だった。
何もない空間に、ただ一人だった。
父や母と呼べる人はいなかった。
気が付いたら、一人で広い街を彷徨っていた。
纏っているのは服とは呼べないようなボロ切れ。
食べる事もままならない日々を、ずっと一人で過ごしていた。
サァー・・・・・
雨が降る音が聞こえる。
橋の下の寝床で寒さに震えて、一人が淋しくて泣いてしまう時もあった。
ふと、雨に打たれたくなった。
雨が私の存在を消してくれると思ったから、誰もいない夜の街をふらふらと歩き出した。
冬の雨は身を切るような冷たさでボロしか纏っていない私の肌を刺す。
あぁ・・・このまま雨に打たれたら、世界は私を殺してくれるかな?
生きている事がどうでも良くなった。
私の側には誰もいてくれない。側に居させてくれない。
ならば、この身などなくなって構わない。
死んでしまえば、淋しいなどと思わなくってすむだろうし・・・
迷い込んだ袋小路で割れた瓶を拾い、手首に当てた途端、ごとりと重いものが飛んで来た。
切り口から、鮮やかな赤を流している腕。
人の・・・男の腕。
「・・・・ギャーっ!」
「男のくせに、五月蝿いわよ?この私の手にかかって逝くのだから、感謝なさいな」
ザクッ!
白刃は男の胸の中心を抉り、新たな血の流れを作り出し、ゆっくりと流れる。
男が息絶えたのを確認して振り返ったのは、白い影の女。
手にした剣を鞘に戻しながら、ゆっくりとした足取りで私の方に歩いて来る。
殺人現場を見られたから、私は殺されてしまうのだろうか?
それなら、それで良い。どうせ死のうと思っていたのだ。それに、この人の手にかかるなら悪くない。
うん・・・悪くないかな。
「あら、あら・・・見ちゃったのね?どうしようかしら・・・」
まったく困ってないような声で、私の全身を見て、頬に手をあてる。
細く白い指が、蒼銀の髪から流れ落ちた雫を拭う。
「お前・・・私と来る?それとも、ここで死ぬ?」
どう考えても、子供に聞くような台詞じゃないと思う。返り血なのか、マントを赤く染め、
私に笑いかけながら言う女はとても綺麗だ。
殺してくれるなら、殺してほしい。生きているのはもう疲れた。
「死にそうな顔ね?でも、イイ目を持っているわね・・・良いわ、いらっしゃい。私が拾ってあげてよ?」
私をマントの中に入れて、ふわりと抱き上げてくれた。
相当汚れていると言うのに、気にした様子もなく私を抱いて歩き出す。
その温もりが優しさなのか分からないが、涙を誘う。
「ふぇ・・・ぇっ・・・」
「あらあら・・・困った子ねぇ。大丈夫よ、お前に刃を向けたりしないから」
「ちがっ・・・今まで、誰も側にいてくれなかった・・・いてほしかったのに・・・」
嗚咽まじりの私の言葉を辛抱強く聞いてくれる女は、微笑を浮かべて先を促す。
「さみしっ・・かったの・・・・ひと、りで・・・っく・・」
「そう・・・もう大丈夫よ?お前は私が拾ったのだから」
側にいても良いと、側にいてくれると言う女にしがみついて泣いた。
・・・今思えば、完璧に刷り込み現象だろう。
でも、私はあの人のおかげで救われた。
女神のような美貌の主のおかげで、私はもう淋しい思いをしない。
この身が滅びようとも、あなたの盾となって守ります。
だから、そんなに泣きそうな顔をなさらないで下さい。
私は、あなたに拾われてとても幸せだったのですから。
今、あなたのために盾となって死ねる事がとても嬉しいのですから。
だから・・・
「セラ様・・・・い、きて・・・く・・・・」
泣かないで下さい。
end
前に運営してたHPで仲間内で公開していたSSです。
ストーリー掲示板と言うのに参加してまして、そのキャラでなんか書いてみようと盛り上がったので、その時書いたものです。
ファンタジー世界のどこかの国のどこかの戦場であった、ある主従のお話。
暗くてもサクッと読めるものを目指しましたが、いかがでしたでしょうか?