これから
あれからコウイチは、余りにも疲れがひどい時以外は、約束通り一日30分毎日勉強するようになった。
家事は帰りが遅いのでたいがい私が済ませていることが多いが、休みの日は宣言通り夕飯を作ってくれるようになった。
初めて作ってくれたのは鯖の煮付けだった。驚いた事に生姜の薄切りを入れると知っていた。家庭料理が出来ないと言ったのは嘘だったのか。と思ったら、次の休みに作ってくれた料理はカレイの煮付けだった。単に煮付けしか作れないのかもしれないが、ちゃんと美味しく出来ていた。私は他人の作ってくれるご飯を食べる事が少ない。仕事から帰ってご飯が用意してあるって素晴らしい。それだけで有り難くて涙目になれる。
「コウイチ様ありがとうございます、頂きます」
思わずコウイチに両手を合わせて拝んでしまった。
次に面接を受けた医院では、院長婦人と看護婦の主任らしきひとが対応してくれた。挨拶を済ませた後いきなり
「では自己紹介をしてください」
なんて言われて面喰らってしまった。高校で面接の練習をして以来、そんな事を要求された事がなかったからだ。思いっきり動揺してしまい、的外れな事を言ってしまった。結局その医院には不採用と告げられた。将来職に困る事がなくて時間帯に融通がきくと言うキャッチフレーズで主婦人気の職業、医療事務。そんな魅力に乗っかって安易に資格を取った私だが、そんなんじゃ医療現場で働く資格は無い!と告げられた気がして自身が無くなった。もう、ずっと飲食店でしか受け入れてもらえないんだろうか……。
コウイチは研修の後、面接がいつになるのかと心待ちにしていた。だがいつまで待っても本社からはなんの連絡もない。いい加減な会社だ。それともコウイチのレポートに問題があったのか?正社員になれないならなれないときっぱり告げてくれれば良いものなのに。
それからコウイチはまた転職したいと言う様になった。
「今年も準社員の契約更新だった……」
コウイチはがっくり肩を落としている。
「店長はそれについて何も言わないの?」
「何にも。おかしいよね。もう、今年なれなかったら本当に辞める。そしてユナの地元に移住する」
そう言ったので、辞めるなら今回は行き当たりばったりにならないように事前に綿密に計画を立てようと私は提案した。コウイチもそれに賛成し、勉強に使っているノートの最後のページに具体的なスケジュールを書く事にした。
「12月に、店長に辞めてやる宣言……」
「じゃあ1月から住む所探し……」
「2月中旬に面接ラッシュで、とにかく受かった所で仕事を決める……」
ノートを二人で覗き合って、かなり乗り気になって計画を立てた。将来への明るい希望が生まれた気がして、二人とも前向きになった。引越し資金を貯めるために、コウイチは小遣いはタバコ代だけで良いと言った。私も食費や光熱費を削る努力をすると約束した。
今までどうして二人で力を合わせようとしなかったのかと後悔した。コウイチだって、家計の話に関われば責任が生まれると早くに気付くべきだった。本当に、生まれかわったように人が変わってくれて嬉しい限りだ。
三月中旬、自信喪失した私は、時給は安いが、大きな病院の受け付け事務の面接を受けた。もう受け入れてくれるならどこでも良い!という体当たりな気持ちで向かった。「どうせ落ちるんだろうな……」と覚悟していたので、言いたい事は我慢せず自分の要望をいくつも述べた。意外にも手応えがあり、数日後には採用の練習を貰った。その日コウイチは休みで、ゆうとと三人で夕飯を食べている時に電話がかかってきた。話して居る様子をコウイチはニヤニヤ見ていて、電話を切った瞬間に二人で顔を合わせ
「ヤッター!!!」
と両手を上げてハイタッチを交わした。職無しにならずにすんだ安堵と、受かった喜びで天にも昇りそうだった。その夜は祝賀会と称して、二人でモルツを一本ずつ、私は缶チューハイを後数本飲んで祝った。この間の事があったので飲み過ぎ無いように細心の注意をはらったのは言うまでもない。
全て上手く行っている。
コウイチもパチンコには一ヶ月以上行っていない。
やっと本当の安定した生活が始まったのかもしれない。
これまで事ある毎に、コウイチをダメ男ダメ男と罵ってきたが、私は「自分に見合った人と人間関係を築く」と考えている。友達も恋人も、自分の力で引き寄せるものだ。もしも自分に合わない相手なら、別れたり縁を切ったりするだろう。他人は鏡と言うが、私自身が鏡だとして、それと同等の人がコウイチだと考えてみれば確かにそうなのかもしれない。色々あったが、結局別れる事なく一緒に暮らす事が出来ている。これからも一生一緒だろう。義母の事も散々けなしたが、義母がもしコウイチを説得して高校を中退させなかったら、私とコウイチは出会わなかった。義母がコウイチをしっかり育てていたら、私はコウイチを好きにならなかったかも知れない。義母の事は今でも好きになれないが、結婚生活はまだ先が長い。もしかしたら実の母と同じような関係を築く日が来るかも知れない。期待は薄いが。
正直、コウイチが本当に一生パチンコに行かないとは思っていない。事前に食い止めるよう細心の注意は払うが、私が完璧な人間じゃないように、コウイチも完璧にはなれない。間違いもあるし失敗もする。喧嘩だってするだろう。
ただ、私が支えて欲しいと思うようにコウイチの事も支えていきたい。お互い様と思って、良い関係を築いていきたい。
今年の四月一日で、私達は二度目の籍記念日を迎える。もう二年。だけどまだ二年。こんな短い間に別れる事にならなくてよかった。瀬戸際が何度あった事か。
だけどこれから先もこんな調子で、私達は別れる事はないだろう。
それは多分、コウイチは私に見合った人で、私がコウイチに見合った人だから。
……前言撤回。
三月のケータイの請求金額、36,752円ってどうゆう事……?
またやられた!!!
ダメ男め!!!
まだまだ私は悩まされ続けそうだ……。
終わり
これでネタ切れ!
少々最後に詰め込み過ぎな気もしますがこれにて完結させて頂きます。
文章力の向上とストレス発散のために書いた、自己満足な作品だったのに、アクセス数が伸びたのが意外でもあり嬉しくもありました。
もしも最初から最後まで読んでくれた方がいるなら、本当に有難うございます!!
もしかしたらまた問題が起きて、ネタが溜まったら『ダメ男と金の問題パート2』なんて物が現れるかも(笑)
それでは失礼します(^O^)/




