結婚式と憂鬱
金が無いので結婚式を挙げるつもりは無かった。
コウイチは社員と名がつけど時給で働いている。月収が安定していない。15〜20万円の間で、平均16万円といった所か。独身だった間、貯金などしたこともなければ考えた事も無いと言った風だ。
一方私は貯金をしていたが、これから子供が生まれて働けなくなった時のために蓄えておきたかったし、自分ばかり資金を出すのも悔しかったので式を挙げようとは考えもしなかった。
ところが義母がいつか挙げる結婚式のために互助会に入っていたのだから使いなさいと勧めてきた。
はっきり言って有り難迷惑だった。
この義母がくせ者なのだ。初めて会ったその日に
「結婚するの?」
と聞く。まだ結婚など考えた事がなかったので、
「あ、まぁ…はい。」
曖昧な返事をした私に
「私のおばあちゃんから貰った形見の指輪をあげるから。貰ってちょうだい。今は質に入れてるからもう少し待ってね。」
形見の指輪を、質に!?結婚の話をいきなり持ち出すのにも驚いたが、そんなに大事な物を質に入れているということに衝撃を受けた。その事実を話す必要はあったのか。
この人の感覚にはついていけないかもと思ったが、この後その予感は的中することになる。
義母は大のギャンブル好きで、パチンコが唯一のストレス発散だと自分で言い切る程にのめり込んでいる。
パチンコに負け金が無くなると度々コウイチにせびるのだと。親に金をせびられたことなどない私はその話しにもショックを受けた。
コウイチも義母の影響かパチンコが好きで、付き合っていた当時家に行くと電気やガスが止まっていた事が何度かある。
あの頃はずっと好きだった人と付き合えた事が嬉しすぎて盲目になっていた。今思えば、ライフラインが断ち切られる程にギャンブルに打ち込む様な男とは付き合うべきでは無かったのだ。
結婚式の話に戻る。
互助会に入っていて割引を利用しても、それなりに人数を呼ばなければ赤字が出る。
私の両親は、今まで私のために積み立てた貯金を結婚資金に使いなさいと百万円の入った口座をくれた。
有り難くて涙が出た。
結婚指輪をこれで買えば良いとも言ってくれた。
だがこの金は出来る限り使いたくはなかった。両親が働いて稼いでくれた金で式を挙げ、指輪を買っても胸を張って付けられない。そう思った。
どれだけ赤字が出るかわからないが、自分の貯金から払うと決めた。
結婚式の準備とはこんなに面倒臭いものかとため息が出るような日々だった。
式場に何度も足を運びBGMを決めたり、ドレスを合わせたり祝辞を人に頼んだり。
さらに妊娠でどんどん太り丸くなっていく顔を鏡で見るたび結婚式なんて挙げたくないという思いが強くなっていった。
"できちゃった婚"なのに親族を呼んで式を挙げるのが恥ずかしかったのだ。妊娠中のホルモン分泌のせいでイライラしたり悲しくなったりして、主人との仲もあまり良いとは言えなくなった。
だが安定期に入ると投げ出したい気持ちはどこへ行ったのやら、結婚式が楽しみになりだした。
一生一度の結婚式、精一杯楽しもう。と前向きになれた。
そして式を一週間後に控えた昼時、義母から電話がかかってきた。
「コウイチに電話しても出ないのよ。悪いんだけど、コウイチに言って一万円くらい都合してもらえない?お金無くてケータイ止まるから困るのよね。こんなことユナちゃんに頼んでごめんね。」
またしてもショックだった。金を貸してくれなんて結婚式前の嫁に頼むことか、と。
義母の留め袖やその他レンタル代は私達が払うんだぞ?私の家族や親族は皆、自分たちがレンタルする分は自分達で払ってくれるのに。
まてよ、義母は貸してくれとは言っていない。都合してくれってことは「くれ」ってこと?私達もお金が無いのに?
頭の中で色々な思考がぐるぐると巡った。
「わかりましたー、伝えておきますねー。」
とだけ言って電話を切った。
家に帰ったコウイチにそれを伝えると
「ふーんわかった」
とそっけない返事が返って来た。
義母にお金を渡すのだろうか。コウイチの口座にお金が残っていないのはわかっている。一体どうするつもりなのか…。義母には申し訳無いが金の事をコウイチにこれ以上話す気になれず、結婚式の日を迎えたのだった。