転職か否や
二日投稿してなかったんですが、その間も目を通して下さった方がいたことに感謝(^^)
実話なのでそろそろネタが出尽くす頃ですが……(笑)
今後ともよろしくお願いしますっ!
コウイチの電話はこうだった。
まず一件目から。
「俺、仕事辞める」
仕事を辞めるのには反対はない。だが新しい仕事など勿論決まっているわけでは無いので、事によってはコウイチは無職になる。そうなれば家系は火の車どころでは済まない。
「わかった、でも店長には話したの?」
「まだ。今日店長休みだったし。」
まだ話していないのなら、新しい仕事のめどがたってからでも遅くはない。今は十二月。コウイチの準社員の雇用更新は三月なので、急いで転職の準備を進めれば何とかなるだろう。いや、コウイチが辞めるとなれば一番負担が掛かるのは店長だ。やはり先に店長に話をして、それから準備に取り掛かった方がいいかもしれない。
「じゃあ、ちゃんと話さないとね。」
「うん。明日にでも言うわ。それと、もし転職するなら、ユナの実家に近い所に移住したいと思ってる」
「本当に!?」
コウイチいわく、私の家族がゆうとを溺愛してくれているのは有り難いが、わざわざ車で二時間以上かけて遊びに来させるのは申し訳ないとのこと。私もそれは思っていたが、気にしなくて良いと言う両親に甘えていた。コウイチは、
「ユナも両親が近い方が安心だし頼れると思うし」
とも続けた。たしかにその通りだ。慣れ親しんだ地元の方が私としても不自由なく生活出来る。田舎なので物価も安い。
「ユナはそれでも良い?」
「私は大丈夫!でも……お義母さんは?」
これが一番気掛かりだ。
「母ちゃんは何とかなるよ」
コウイチは簡単に言ったが、母子家庭の一人息子のコウイチがそう安々と地元を離れ私の生まれ故郷に移り住めるものかと心配になった。
「ユナがこっちに帰ったらまた話そう」
これでこの日の電話は終わった。
不安はあるが、コウイチが仕事を変える事には賛成なのだ。今の職場は本社から遠い所にあるので、中々重役が現場に顔を出す事がない。どれだけ仕事が出来ても、いかに店長職などを覚える努力をしても、報われないコウイチをずっと側で見てきた私は悔しい思いでいっぱいだった。むしろもっと早く見切りを付けて欲しい位だった。他の職場で正社員を目指すと言うのなら、私はコウイチを応援する。大変な事も増えるだろうが地元に帰る事になるかも知れないと考えると前向きになれたのだった。
そして年が明ける数日前、もう一件の震撼が襲う。
その日コウイチは前の職場の人に誘われて飲み会に参加した。
『ちょっくらいってきまーす!』
職場の飲み会も面倒くさがるコウイチにしては珍しくテンションの高いメールが入ったので私も嬉しくなった。コウイチには友達がいないので誘われる事が滅多にないのだ。電話があったのは翌日だった。
「ごめんなさい。全員の飲み代俺がおごった。でもこれは恩返しだから。昔俺が働いてた頃は全部おごって貰ってたし」
絶句。
「嘘…それいくら?」
精一杯に頭を回転させて出た言葉だった。
「四万円。ID使った。」
IDとはお財布ケータイ機能の事で色々あって封印させていたのに(ケータイ代と保育園参照)性懲りもなくまた使いやがったのだ。しかしそんな理由では怒るに怒れない。呆れはしたがなるべく冷静に
「分かった。でも一度に払えるかわからないから分割してもらえるようにケータイ会社に頼んでね」
と頼んだ。
「うん。本当にごめんね」
コウイチは見えっ張りだ。以前付き合う前に、今の職場の社員のコウイチと同い年の男性、コウイチ、アルバイトの女の子、私の四人で飲みに行った事があるのだが
「女の子に払わせられません」
などと言って私達には払わせなかった。しかし、もう一人いた男性には
「お前払えよ」
と言って自分は払なかった極悪非道な奴でもある。金がないくせに見栄を張るんじゃない!ましてや所帯持ちになってまで……。相当飲まされたと聞いたので、きっと正しい判断が出来なかったのだと思う事にしてこの場は納めた。にしても、コウイチがこのままでは貯金なんて出来やしない。本当に次から次へと金の問題で私を悩ませるダメ男だ。
とは言っても隠れて借金を作る訳でもなし、家事も育児も手伝ってくれるコウイチに私は満足していた。友達の中には旦那の問題で離婚したり、苦しい思いをさせられている人も要る。私は恵まれていると思うようにさえなった。
年も明け私も実家から帰りいつも通りの生活が始まった一月、コウイチのアホが奨学金を四万円支払うという暴挙に出た。私が仕事だったので休みだったコウイチに朝から銀行に行くよう頼んだのだが、支払い用紙を二枚準備したつもりが見当たらなくなったので、もう二枚新しく出した。しかしそれはテーブルの上にあったのを私が見つけられなかっただけだったらしい。合計四枚の支払い用紙を握り銀行に行ったとコウイチは言った。テーブルの上には二万円しか置いて居なかったのにご丁寧に口座から引き落としたのだそうだ。
毎月二万円払っていることはコウイチも知っていたので心配などしていなかった。やはり私が払うべきだったと後悔した。まぁいつかは払う金だったと思う事にしたがコウイチのケータイ代と支払いがかさんで一月の生活が苦しくなった事は想像が付くだろう。
仕事が終わった私を迎えに来たコウイチからその話を聞いたのだが
「ゴメン、これ」
と五千円を手渡してきた。
「なに?」
「パチンコに行きたくて下ろした。けど行かなかった」
やるじゃないかコウイチ!!怒る場面かとも思ったが、笑顔が出てしまった。
「我慢できたね。偉かったね」
「うん」
なんだ、私はお母さんか。
しかし確実にコウイチが成長したことが嬉しくて文句は言わずにおいた。
私はというと、生まれて初めて職業安定所[ハローワーク]に足を踏み入れた。思っていたよりも医療事務の求人は少ない。受け付け事務や雑務の募集だけで時給が低い所がほとんどだ。レセプト算定(受診内容を点数化し、医療費を求める仕事)をさせて貰えれば時給は二百円ほど変わってくる。勿論私はレセプト算定の仕事をしたい。職安初日は、取りあえずパソコン上の求人に目を通し、気になる要件のみををプリントアウトして帰った。
そうこうしている内に一月も下旬に入った。コウイチの転職の話は一向に進んでおらず、
「店長に話した?」
と私が聞かなければ話題には出なくなってしまった。
「今日忙しかった」「店長機嫌悪くてさ」「事務仕事してたから話しづらかった」
ネタが出尽くす程に毎回違った言い訳をするコウイチに苛立ちはじめた。辞める発言など無かったかのようだ。
本当に転職なんてする気あるんですか?
私は仕事探してるんだけど!
静かにいらいらをつのらせ始めた一月末だった。