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奨学金と賞与

 金に余裕ができたので、ずっと放置していた奨学金の支払いを始めた。

 というのも、昨年突然支役所の子育て支援課と言う所からコウイチが呼び出しを喰らった。帰ってきた時には大量の振込み用紙を手に持っていて目眩がしそうだった。総額40万円。なんでこの歳まで奨学金なんかを大事に抱えているんだ。怒りが湧くどころかもはや呆れた。

 コウイチは高校を二年生の時に中退している。全くもって奨学金がもったいない。当時荒れていたコウイチが、単位が足りず留年が決定した事を三者面談で告げられた義母は、「学校を止めて働けばいい」と簡単に言ってのけたそうだ。高校生と言えば多感なお年頃。「学校に行って良い事あるの?

勉強する意味って何?」などと考えた事が私にもある。今なら解るのだが、高卒の資格などなんの役にも立たないようだが、これは最低限の資格なのだ。中卒と高卒では印象が全く変わるだろう。もしもゆうとが「高校辞める」なんて言ったら私は毎日引きずってでも連れて行く。納得する理由が無い限り、必死で食い止める。親なら我が子の将来を懸念するものじゃないのか。奔放主義と言えばそれまでだが、義母は自由と無責任を履き違えている気がする。

 さんざん義母の悪口を書いてきたが、誕生日以降は特に問題は起こっていない。いや金を貸してくれと言われ一度貸した。だがその金は返って来たので問題として数えないでおく。コウイチに貸してくれと言う連絡はちょくちょくあるらしいが、最近はきっぱり断っているようだ。


 あんなに暑かった九月からたった三ヶ月しか経っていないのにすっかり真冬になった十二月。私はそろそろ本命の医療事務の就職を探さなければな、と考え始めていた。十二月と言えば、コウイチはボーナスが出るのを楽しみにしているようだった。店長が上層部に提出する書類をこっそり見たらしいのだが、準社員としては最高の評価をしていてくれたらしい。

口下手だけどやる時はやるじゃん店長よ!(こんな事店長には口が裂けても言えないが)。

 コウイチと店長の仲は昔、険悪そのものだった。コウイチは店長を見下して悪口ばっかり言っていたし、それを感じてか店長はコウイチの事を話す時は

「確かに仕事『は』出来る『けど』、『でも』あいつは〇〇『だから』」

と言うように、認めていないのが見え見えだった。しかし私と付き合い出した頃からコウイチは働き方が目に見えて変わり、店長の言う事もちゃんと聞くようになった。関係も修復され、もとより仕事は出来たので、今ではコウイチの事を一番かってくれているのは店長だ。

ボーナスの話から少し逸れてしまった。ボーナスが支給される日、私は休みだったので朝から銀行のATMに通帳記入をするために向かった。普通事前に賞与明細を貰うものだが店長とコウイチの勤務が被らなかったので、明細を貰えずいくら入ったのかわからなかったのだ。

ATMの機械から返ってきた通帳に記入された金額をみて愕然とした。

ショウヨフリコミ   30,000

三万円……。あるだけマシと言えばそうかもしれない。だが、賞与とは会社の評価だと考えている私からすると、コウイチの評価の低さに涙が出た。ぐしぐし泣きながら、コウイチに電話をかけた。

「ボーナス、三万円だったよ……」

「マジで!?」

「私、悔しい……コウイチこんなに頑張ってるのに」

 会社の経営状況が悪い事は知っている。不景気の影響でボーナスが出ない所もあるのだから仕方がないと言う人もいるかもしれないが、コウイチは正社員になることを前提で働いている。他の店舗の準社員が正社員に昇格される話を何度か聞いた事があったが、今までそんな話が回って来る事はなかった。会社に都合良く使われているとしか思えなくなってしまう。

 これが学歴社会の厳しさか……。どんなに人件費を削るために休憩時間を潰して働いても、本来準社員がしなくて良いような店長職を覚えても、所詮コウイチは中卒者。会社からすると居ても居なくても良いような存在なのか。もし経営状況が悪い事が原因なら、「経営不振のため今回は準社員のボーナスはカットします」と一言添えてくれればいいのに無言で三万円が振り込まれた事で「お前の価値はこの位だ」と宣告されたような気分になった。これでは無いほうがマシだったとコウイチと二人で不満を言い合った。

 ボーナスの内の一万円をパチンコに行ってらっしゃいとコウイチに渡した。本当は私の同窓会があって服やら参加費やら出費がかかる予定だったのだが、欠席することにした。行きたい気持ちはあったのだが、自分だけ遊ぶのはコウイチに申し訳なくて楽しめない気がしたからだ。しかしパチンコに行ったコウイチが、帰った時に無一文になっていた時にはやっぱり同窓会に行けばよかったと心から思った。


ボーナスの件があってからコウイチは転職したいと呟くようになった。私としては大歓迎なのだが、コウイチは会社を辞めたい辞めたいと言いながら実行する事は無かった。

それがある日

「俺、本当に辞めたいと思った」

と帰るなり落ち込んだ様子だったので話を聞くと会社にも店長にも不満が溜まっているらしく、ずっと愚痴をこぼしていた。けれど

「私は止めないよ」

そう言うと、うーんと黙ってしまった。優柔不断な奴めと少しがっかりし。


年末年始は実家に帰った。久々に会う家族は、代わる代わるゆうとを抱っこしたりあやしてくれたりと相変わらず有り難い限りだった。ゆうとも遊んで貰えるのが嬉しかったようで、人見知りも克服しすっかり皆に懐いていた。


 里帰りをしている間、コウイチから電話が二度あった。


どちらも我が家を震撼させる内用だった。


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