主人と私
それなりに色々あった大恋愛の末の結婚だったんじゃないか、と誰にも言わないが潜かに思っている。
主人コウイチとは、高校卒業後に就職した会社の配属地で知り合った。
初対面では無愛想な表情で、高圧的な態度に少し怯えた。眉が山なりに綺麗に整えられていて、余計に近寄りがたい雰囲気を持っていた。私の三つ年上……ということは当事21歳だったのだが、そうは見えなかった。21歳と言えばまだ大学二年生の歳なのに、チャラついたそぶりは一切ない。見知らぬ土地に配属になったばかりで不安だらけの私をいたわるようなそぶりも微塵もない。普通の人なら
「どう?新しい生活には慣れた?」
なんて話題を探して気さくに話しかけたり、少しでも現場に慣れる様に気を使ってくれる所だろう。しかしコウイチは休憩時間が一緒になってもムッツリとケータイを弄って、私なんて視界の端にも入っていないという風だった。今までの学生生活では出会った事のない人種だった。
コイツが実に自意識過剰な男だった。
「俺だったらこの位できる。」
と常に自信たっぷりで、店長がいかに仕事が出来ないかを学生アルバイト達に言いふらし、まだ右も左もわからなかった新人の私に
「このくらい5分でやってね。」
などと無理難題を押し付けるのだ。
初対面の高圧的な態度からコイツとは仲良くなれないと思っていたが、ここまでくると悪印象を持ち始める。
けれど仕事に慣れてきて客観的に見てみると、一人で二人分の働きはするわ、従業員への指導は的確だわ、確かに自信を持つだけの事はある。
素直に、こんな風に仕事が出来たら…と思う様になっていった。だが、こんな風に自信過剰にはなりたくない。とも思っていた。
それがまさかの展開をみせる。
私がある仕事でミスをしたのをきっかけに急接近することになったのだ。
何度も同じ失敗を繰り返す私を、今までに無い剣幕で怒ったコウイチ。私は自分の不甲斐なさに泣けてしまったのだが、それからコウイチは私が失敗しても何も言わなくなってしまった。これではいつまで経っても成長なんか出来やしない。私は勇気を出して手紙を書いた。手紙といってもラブレターなんかじゃない。
『泣いたのはあなたのせいじゃありません。もっと成長したいから、失敗した時は叱ってほしいです』
といった内容だった。それからアドレスを交換して、仕事のアドバイスをメールで貰うような仲になったのだ。師弟関係を結んだようだった。すると意外な一面が見えて来る。厳しいが面倒見がよく、叱った後のフォローも完璧。話してみればなかなかユーモアもあり、自然と笑顔になる。飴と鞭を使い分けるこの人に、どうか早く認められたい!と思う気持ちが芽生え、がむしゃらに努力する日々だった。
憧れが恋心に変わるのに、そう時間はかからないものだ。
お互い恋人はいたものの、プライベートな話をメールでするようになった頃から、この人を好きだと自覚するようになった。
もともとと上手く行っていなかったコウイチ達が別れた瞬間に、私も自分の恋人と別れた。
お互いそれを待っていたかのように直ぐさま付き合い始めたのだった。
コウイチの家はひどい有様だった。服や漫画が散らかり放題で、カミソリなんかが転がっている。冷蔵庫には食べ物も入っていない。前の彼女との生活ぶりがどうだったのかすぐに想像が付いた。
更にコウイチは髪型も服装も気にしないボサ男だった。眉が整っていたのは元彼女が定期的に手入れしていたらしい。
なんとかしてあげななくっちゃ!と思い立った私は押しかけ女房よろしくコウイチの家に転がりこんだのだった。
だが、付き合いはじめて間もなく私のいない隙に元彼女の影…。ヨリを戻そうと言い寄られていたらしい。結局、ぐらついてぐらついて最終的には元彼女を選んだのだった。私は虚しくも家を出て行く羽目になった。
が、コウイチはかなりずるい奴だった。元彼女との仲が悪くなると私にモーションをかけて来るのだ。私も馬鹿だったと思うがそれに乗ってまた付き合いはじめ……。コウイチが二人の間を行き来していたのを知っていたが、最後は私を選んでくれると信じ込んでいた。だが選んだのは元彼女だった。
何故こんなに揉めたのかと言うと、この男また実に面倒な過去を抱えていた。17歳にして不倫。幸せになれるはずもなく、その相手を未だに引きずっているのだと。
忘れられないなら他の女と付き合うな!と言いたい所だが、今なら分かる。職場での強い印象とは裏腹に、主人は寂しがり屋で一人ではいられない質なのだ。それに振り回された私及び主人の元恋人。
恋愛とはやはり惚れた方が負けだとしか言いようが無い。
そんなこんなで色々あったがどうしても好きだった私は六ヶ月の沈黙を破り再び告白→振られる……→猛アタック→強引にも愛を勝ち取る!という段取りで付き合い始め、私の妊娠を期に夫婦になる決意をしたのだった。
ところが結婚してみると色々と問題があったり問題があったり問題しかなかったりする。
主人はハッキリ言って、「ダメ男」だ。
友人は私の事を「ダメ男好き」と呼ぶ。
どちらも自覚有り。
この不景気のご時世、どの家庭でも金がないと言う悩みは絶えないだろう。
我が家の問題も月並みに金が無い事だった。