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 ――伸ばして。伸ばした手を……あたしは、ためらわせた。あとちょっと伸ばし、その首を捻れば――勇者を殺せるというのに。あんなに殺したいと思っていた勇者に、好きにしろと言われたのに。


 ……何故、ためらう?





 「――フィーリィ」


 「っ……!」


 「たしかに、俺も人間だ。魔族のように強い心は持っていない」


 「……っ、喋るな……!」


 「――だけど、フィーリィ。俺達はそれでも、生きている。こういう生き方で、自然と折り合いをつけてるんだ。人それぞれ……いろんな性格をしながら」


 「黙れ……!」


 「だから……“人間”という括りでなく、“個人”を見てくれないか? ――フィーリィ」





 伸ばした手を掴まれて、ギュッと握られる。そしてその手は、そのまま勇者の胸へ移動した。……ドクンドクンと伝わる、鼓動。あたしやガルと変わらない――緩やかな、リズム。





 「っ……うぅ……」


 「! フィーリィ」


 「あたしは……! それでも、わからない! 何故……どうして、大切な人を殺され、その殺した者を八つ裂きに殺してはいけないのか!! 何故だ! 答えろ勇者!!」





 規則正しく鼓動する、勇者の“命”。


 何故彼らは――大事な人が殺されて、我慢ができる? 何故我慢をする必要がある? 悔しくないのか? 苦しくないのか? 悲しくないのか? ちっぽけな存在のくせに、何故そこで我慢をする?


 それほど、人間には“心”がないのか? ――答えろ。答えてくれよ、勇者……。





 「――憎しみは、怖い」


 「……怖い?」


 「あぁ。自分のせいで憎しみに囚われ、歯向かったとして……その人はもしかしたら、死んでしまうかもしれない」





 俺は、それが一番怖い――そう呟く勇者の心臓は、少し不規則に振動していた。それが、“怖い”という意味。





 「憎しみのあとに残るのは、絶望だ。それを果たすまでは生きる希望があっても、その後にはなにもない」


 「――なに、も」


 「そう。……なにも」





 それが、人間の考え――いや。“勇者の”、考えなのか。


 そうか……勇者という人間は、“その後”を考えるのか。“今”ではなく、“続き”を――――。





 その答えに衝撃を受けるあたし。


 ……考えてもみなかった。人間は短い命の中、そういう結論に辿り着くのか。短いからこそ“これから”のために、“我慢”をする。そういう……ことなのか。


 あたしも、一応は人間だ。寿命は奴等と変わらない。だけど魔族として育って来たあたしには――考えられない事。そんな導き方が、あっただなんて。


 そうか……これが父上の言っていた、“人間は面白い”という意味か。たしかに――面白い、な。


 ――ガクリと膝をつくあたしに、勇者がそっと近寄った。頬に伸ばされた手を払う事もできないあたしは……ただ静かに、涙を流した。


 そして、ポツリと呟く。





 「それでもやっぱり……憎いよ……殺してやりたい……」


 「……うん」


 「どこに持ってけばいい? ……消えてくれないんだ」





 勇者は、頬を撫でる手を……ゆっくりと頭に持っていく。





 「消さなくていいんだ。胸に刻んで、一生忘れるな。そして沢山刻んだら、殺す以外の方法を探そう」


 「……殺す、以外の……?」


 「そうだ。死んだらそれで終わり、後悔や恐怖に苦しんで、改めさせる事ができない。……どうすれば奴等がコッテリ反省するのか、一緒に考えよう」





 そう言って――勇者は。

 あたしに、手を差し延べた。





 「復讐をするなとは言わない。“命”を奪わない復讐をするんだ」


 「命を……奪わない、復讐」


 「そう。後悔させなきゃ、意味がない」





 勇者はそう言って……少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。あたしはそれを見て、クスリと笑う。


 ……オイオイ。まったく、勇者がそんな悪役みたいなこと言っていいのかよ。あぁ、そうだった。勇者は世界一勇者らしくない人、だったっけ。


 ――あたしは差し延べられた手を掴んで、立ち上がった。うん、父上、あたし決めたよ。“人間”を許すんじゃなくて……まずは、知ろうと思う。そして人間を、じゃなくて――“勇者”を。少しずつになりそうだけど……頑張ってみるよ。


 ごめんねガル。こんな勝手な主人で。……許してくれる?





 ――ガルが言った。

 「フィーリアお姉ちゃんと僕は、一心同体だから。僕も同じ気持ちだよ」……と。





 世界は眩しい。

 きっと、近い未来――また今日みたいな日が来るのだろう。それでもきっと、今みたいに勇者があたしを説得してくれる。あたしは、そんな勇者に賭けてみようと思う。憎しみを無くすことは出来なくても、少しの間……“忘れ”られるように。頑張ってみようと、思う。


 眩しい朝日を身体中に吸収したあたしは――気合いを入れるため、自らの頬をぱちんっと両手で叩く。さぁ、こうしちゃいられない。早く、ガルの両親の元へ行かなくちゃ!!


 あたしはくるりと背を向けて、勇者に言った。





 「ほら、ちんたらしてないで行こう! ガルの両親助けなくちゃ!!」


 「ふ――あぁ、そうだな」





 ――あたし達は、走った。目指すはもちろんあの孤児院。待っててね、今、必ず助けにいくから!!


 あたしは、勇者と一行とともに、森の奥深くにある孤児院へ――急いで向かうのだった。






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