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十五


 第二章です。







 ――深い森を抜ける。抜けた途端に見えたのは、真っ青に広がる果てしない海と……ガヤガヤと賑わう街。ここが……オールドビリ、世界最大の港街。まだまだ歩かないと着かない少し高い山の上で突っ立ったまま、あたしはその賑わっている凄さというのを痛感した。


 ……そして何より、ここは母親が住んでいたという街。つまりここは――あたしが生まれた地。言い知れない気持ちに胸が暖かくなり、あたしは自然と真剣な顔になっていた。多分ここに、母や……本当の父の墓もあるのだろう。


 不意に、肩車されているガルが口を開いた。





 「すごいねぇ! 僕、ここに来るのは初めてなんだ! 一回来てみたかったの」


 「あたしも初めてだなぁ。噂にはいっぱい聞いていたんだけど」


 「ねぇ、お父さんは来たことある?」





 ガルはあたしの中にいるギルヴェールさんへと問いかけた。途端光に包まれて現れるギルヴェールさんは、肩車をされているガルを見ながら、微笑んで言った。





 「あぁ、あるよ。ここはな、母さんが昔花屋として働いていた場所なんだぞ?」


 「えっ! そうなんだ!」


 「……それより、ガル。姫様に肩車なんかさせて……」


 「いいよギルヴェールさん。あたしが無理矢理やったんだし」


 「姫様、何回も言ってますが……呼び捨てで構いませんよ」


 「でもなぁ、なんか年上に呼び捨てっていうのも……」





 渋るあたし。だって、ねぇ? そんな呼び捨てだなんて……申し訳なくて呼べないよ。


 しかし、そんなあたし達の後ろ……“年上”という言葉に反応したのか、マリンベールと喧嘩をしていた黄金野郎が、すぐさま言った。





 「そういう割には、僕にたいしてすごく失礼な態度だと思うんだけど?」


 「……お前は論外だろうが、パツキン」


 「? ぱ、ぱつ……なんだいそれは」


 「っえー! ゴボウったら知らないの? うっわー、あんたを本当におっさんだと確信してしまったわ~」





 ……そして、再び言い合いが始まる二人を無視して、苦笑をしつつギルヴェールさんに「徐々に慣れていきます」と返した。そしたら勇者が「短く、ギルさんとかでいいんじゃないか」というので、あたしはそれに頷く。たしかに、ギルさんだったら愛称みたいで固くないし、なにより長くないので言いやすい。どう? と首を傾げて問いかけたら、ギルヴェールさん――ギルさんは、ニッコリ微笑んで嬉しそうに頷いた。よし、これで気兼ねなく呼べる。


 あたしは再び歩き始める勇者達を追いながら、港街オールドビリを見つめた。オールドビリは、あの有名な大海賊の出身地とも言われている……言われているだけで、正確ではないのだけど。ただ、大海賊エーファンの“クレイジーブルーキャット”は、ここから最初始まったというのは確かだ。その証拠に、この街には奴等の海賊旗がデカデカと広場に飾られている、らしい。すべて集めた情報によるものだ。


 少しワクワクするあたしの少し前、先程からジットリとした視線を送ってくる勇者をなるべくスルーしながら……あたしは頭の中で様々な計画を立てた。まずエーファンに会ったらサインをねだろうとか、とにかくいろいろ。だって、ファンだもの。潔く生きる男は人間とか魔族関係なしに、惹かれるものがあるからね。魔族の女の中でも、エーファンとは一度見てみたい人間ベスト一位だったし。……あぁ、楽しみだ。





 「――勇者。オールドビリの入口が見えた。せっかくだし武器の新調や魔法の補助アイテムを購入しておこう。そろそろ私の刀やプリエステル嬢の杖を手直ししておきたい」





 元気になったロックハートが、自分の武器を見つめながらそう言った。ロックハートは、あの日からしばらく寝込んでいたそうだ。無理もない……あんな巨大モンスターの攻撃を食らって、普通に起きている方がおかしかったんだから。それを言うとあたしが普通じゃないみたいに聞こえるけれど、それもまぁ運が良かっただけと言えるだろう。……そう、それを踏まえて、この街に来たからには少し調べたいことがある。


 ……あたしが使った、正体不明の強大な魔法。あれは確か、異世界人だけが扱えるような魔法だったはずだ。異世界人は魔力を必要とせず――あたりにある魔力を使って、魔法を放つ。だからどれだけ使おうが、本人がそう簡単にばてることはない。現に父上もそれだけは使えなかった。


 だが、あたしは使った。それは父上よりも魔力が元からあったし、何より今は父上のぶんの魔力を受け継いでいたから。……それでも簡単に気絶してしまうほど、魔力の消耗は激しかったのだけれど。


 でも問題はそこじゃない。

 何故、あの時あたしは知らずに使っていたのか。そして、いつの間にあの魔法を知っていたのか。……突如舞ったあの花びらは、なんだったのか。あたしはそれを調べるために、母の住んでいた家を探らねばならない。きっと、何かあるはずだと信じて。


 ロックハートの問いに答える勇者をぼんやり見たあたしは、どうやってそれをバレずに実行しようかと策を練った。……しかしそれに気づいたのか、勇者は少し訝しげにしながら、一言だけ言った。





 「ダメだぞ」


 「……!? な、なにが……」


 「エーファンには会わせない。あいつには、俺とマリンベール、あと……」


 「はいはいっ! 勇者、私もついてく~!」


 「わかった。あとはジュエリー、この三人で行く」


 「なんだ、そっちか。……ぇぇええええ!? やだよ、あたしも行く!!」





 せっかくあの大海賊に会えるというのに、そんな機会を逃せるものか! あたしは勇者に講義をするが、勇者は絶対に首を縦には振らなかった。しばらく一緒にいてわかったのだが、勇者、案外強情だ。しかしそれをわかっていようとも、あたしもあたしでそれは引けなかった。


 しばらく、あたしと勇者の問答が広がる。





 「なんであたしがついて行ったらダメなのさ!!」


 「なんででも、だ」


 「嫌だ! あたしだってエーファンに会いたい!!」


 「なぜ?」


 「そ、それは……。こっ、好奇心……?」


 「……絶対連れていかない」


 「いーやーだー!!」


 「ちょっと勇者! いいじゃない、フィーリアちゃんも連れていけば」


 「黙ってろマリンベール。いいか、絶対にフィーリィは連れていかないからな」


 「~!! ドケチ勇者が! 崖から落ちてモンスターにでも食われろ!」


 「俺はそんなドジじゃないし、モンスターにやられるほど弱くもない」


 「まったくもー、勇者……子供みたいなこと言ってないで連れてってあげればいいでしょ? ほんと、あんたってばどんだけフィーリアちゃんが――」


 「!! おい、マリンベール! お前っ……」


 「……あらぁ? この幼馴染の私が、気付かなかったとでも言うのかしら? ねー、ロックハートー」


 「ふふふ。勇者が動揺するとは、予想は本当にあたっていたようだね」


 「なっ、ん……! そういうことでは、なくてだな……つまり俺は……」


 「ねーってば! あたしも行きたい!!」


 「ちょっと小娘! アンタが勇者に付いていこうなんて百万年早いのよ! 勇者のお供はジュエリー様一人で充分なの」


 「うっさいこの哀れ女が!! 勇者何かどうでもいい! あたしはエーファンにだけ会えれば……」


 「……絶対連れていくものか」


 「ええええ!?」





 ……そうこうしているうちに、あたし達はやっとオールドビリの入口前にやってきていた。入口とはいえ見張りがいるわけでもないので、誰でもようこそ! と言わんばかりの感じではあるのだが……。うん、本当に人が多い世界最大の港街なだけはある。人通りが多くて、ここにいるだけで活気がビシビシ伝わってくる。


 ついていくのを諦めたあたしは、これも一つのスキだと思うことにした。勇者達がエーファンに会いに行く間、あたし達は買出しや宿取りを頼まれたので、そのスキに調べに行くことができるだろう。勇者達三人が港へ向かっていく背を恨みがましく見つめて、あたしは気を取り直すように頬を叩いた。


 念の為、ギルさんやガルにはあたしの中にすでに戻ってもらっている。だから心の中で会話が可能になったことで、あたしは気兼ねなく相談をし始めた。もちろん、どうやってここから逃げ出すか……についてだ。





 「では、私とプリエステル嬢は武器屋へ。ついでに補助アイテムも購入しておこう。ベルヴァロスクエッドとお姫様は、宿のほうをお願いできるかな」


 「年上のお姉さんの命令ならば喜んで」


 「ありがとう。では、頼むよ」





 見事な受け答えで黄金野郎の言葉を流したロックハートは、プリエステルとともに港街の中へと入っていってしまった。


 ……つうか、あたしこいつと一緒なのかよ。





 「つうか、僕コイツと一緒なのかよ」





 ……考えていることは同じだったようで。黄金野郎はとても不快そうにあたしを見下ろしたあと、ふんっと言ってから一人歩きだした。お、これは逃げれるんじゃ……。


 ――そう思って身を翻そうと思ったのだが、やはりそううまくはいかず。ぐわしっと首を掴まれてしまったあたしは、気付いたらゆらゆら揺れながら……黄金野郎と街中を奥へと進んでいた。あれ? デジャヴ。悪さをする直前で見つかってしまった猫のごとく、あたしは掴まれたまま無言になる。


 黄金野郎が呟く。





 「ったくキミ、今違う方向へ行こうとしただろ? これだから餓鬼は……方向音痴は勘弁してくれよ。僕はそういう面倒なのが一番嫌いなんだ」


 「……ちっ」


 「ま、餓鬼でよかったことと言えば……掴みやすくて助かったことくらいかな」





 ……なぜだろう、今とても、猫のように威嚇をしたくなった。ううむ、やっぱりこいつはあの専属執事に近いものを感じるな。うん、すごく反抗したくなる感じ。唯一違うと言えば、こいつはあの専属執事のように怖くないとても言うべきか。それは犯行がしやすくて――おっと間違えた、反抗がしやすくて助かる。


 あたしは、いつかコイツに驚くような反抗をしてやろうと心に誓った。






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